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ゴーレムマスターvs自称義賊vs多頭亜竜(前編)

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 城塞都市ツィタデルブルクから延びた街道から北東に進み、途中分岐した脇道に逸れて暫く先、周囲を四つの鉱山に囲まれた盆地がある。
 堆積岩の中に透明度の高い石英脈が走った四つの鉱山では、それぞれに違った色の水晶が採れることで有名である。
 これはこの地方を治める辺境伯の重要な資金源であったが、統一戦争の際の和平の取引材料として、その中の山一つ、紫水晶アメジストの採掘権が大空龍教団に譲渡されてた。

 そして盆地にある村・ゴルペンドルフには、その四つの山全てのための鉱山労働者が住んでいる。
 そればかりか水晶を加工する職人、彼らの家族、更には宝石業者も滞在する村も幾つか隣接しているので、その集合体「郷」というべきか。
 さてツィタデルブルクからこの村に到着したパイリン一行、前回得た賞金のおかげで、彼女たちにしては珍しく、出入りの宝石商向けのちょっと良い宿屋に滞在中である。

 「ねえ師匠、そもそも水晶って『宝石』なの?」ゴーレムの動力伝達物質とされる宝石について学ぶにあたり、まずは弟子であるアントンからの素朴な質問。
 「う~ん、厳密には『鉱物』だな、宝石と呼ぶには硬度が足りないし。まあ透明度の高い高価なのや、珍しい種類だと宝石扱いな場合もあるけどな。しかしゴーレム用としては、かなりの優れモノなのだ」
 パイリンが言うには、ゴーレムの『心臓ヘルツ』に使われる宝石は、殆どの場合装飾品としても高価な物ほど高性能な傾向にあるのだが、例外の一つが水晶だという。
 水晶は所謂「パワーストーン」と呼ばれるもので、ゴーレム用とはまた別に、魔法やまじない、お守りに使うアイテムとして、大昔から多用されてきた。

 「水晶はゴーレム用として費用対効果に優れているけど、その一方で透明度が高く、綺麗な色で高価な物ほど高性能だったりするがな」
 「ナンで見た目キレイなのが高性能デスか?」二人の話に興味を持ったのか、エンジェラも会話に割って入った。
 「それは……やっぱりよくわかってないんだよ!」
 「な、なんだってー!」例によってハモって驚愕の二人。
 「宝石を通じて異世界から来る、エネルギー体の『何か』が綺麗な色で透明度の高い水晶が好き、ってことらしい。そして例によって、何で好きなのかはサッパリわかってません!」
 「あいかわらず、原理がよくわかってないのに実用化しちゃってるんですね、ゴーレムの技術って」
 「だって『何か』の奴ら、言葉通じないんだもん。ただ相手してると、なんとなく気持ちがわかるんだよな」
  それは竜使いが竜と言葉が通じてなくても、気持ちが通じて自在に操れるのと同じなのだろうか?

 「まあそれは置いといて、水晶ならこないだの賞金全部使ったら、持ちきれない程買えちまうわけだ」
 「賭けの儲け除いた賞金だけでも五百万でしたからねえ。これだけの大金抱えたこの数日、心配で心配で」彼女たちが優勝したことを聞いた犯罪者たちが、いつ襲ってきてもおかしくは無かったわけだし。
 「まあそうなったら返り討ちにして、そいつらも賞金首として突き出したけどな~。」フフッと不気味に微笑むパイリン師匠、マジで鬼。
 
 「だけどやっぱ嵩張るし面倒だよな、今みたいにヘルツマンに担がせていても」
 そう言って脇を歩く全身鎧の男・その実体は簡易ゴーレムであるヘルツマンに目をやるパイリン。
 そのヘルツマン、今現在背中にごっつい金庫を背負っている。例のツィタデルブルクのガラクタ置き場にあった古い物だが、こんな目立つ物背負っていて襲われなかったのは奇跡である。
 いや、普通人間が背負えないような重量物を、軽々と担いで歩いているヘルツマンがとんでもない強力の用心棒に見えたことで、かえって襲われなかったのかもしれない。

 「さっさと買い物すませて、金は手元には必要最小限だけ置残すことにしよう」
 「さてはお洋服とかお食事とかで、パ~ッといくのデスね!」キャ~ッ!と勝手に一人盛り上がるエンジェラ。
 「おめーに奢るための金じゃね~ッ!だいたいこの前のかけはぎとかモツ焼きの儲けとか、全部くれてやったじゃん」
 流石に前回は儲けが大きく気分が良かったパイリン師匠、珍しく弟子たちからの搾取無しで、丸ごと譲ってあげたのである。

 「なので今回、水晶買い付ける分を除いて、さっさと銀行に預けま~す」
 「『銀行』ってナニ?」馬鹿弟子とお馬鹿ちゃんエルフ、同時に首をかしげるの図。
 「おめ~らの無知さ加減には父ちゃん情けなくて涙が出らあ!今回この村に来たのも、その銀行ができたって聞いたのが理由の一つだっつうの!」
 だれが父ちゃんだよ、と突っ込む間もなく、彼女たちが角を曲がったところでその「銀行」の建物があった。

 *

 辺境自治区の金融業界が急速に発展したのは、統一戦争後の鉄道の発展と並行してのものだった。それまでは都市単位であった金融のネットワークが、自治領の壁を越えて繋がったのである。
 現金の輸送が鉄道で行われるのは当然だが、もう一つ、ある銀行で預金したものを、遠く離れた銀行から引き出せるようになったのは、実は水晶と魔法のネットワークのおかげなのである。
 
 水晶魔法の専門家・占術ヴァーザーゲンマスターのギルドが銀行業務を開始、ゴーレムのエネルギー伝達とは違うラインで水晶を介し、預金情報を銀行間でやりとりするようになったのだ。
 信用第一で厳格に運営される彼らの銀行業務は評判となり、今や大きな商取引には欠かせないと言われ、また旅の商人達が強盗対策に預けるようになって、ますます栄えていた。

 *

 銀行は近隣の岩山から切り出された石材で作られた立派な物である。これに寄り添った、やはり石造りの小さな建物は、ここの保安官事務所のようだ。どうやら強盗対策として、銀行側が事務所を建築して保安官を呼び寄せたらしい。
 「銀行に寄る前に、ここの事務所にも挨拶しとこうかな~」とパイリン。

 「たのも~!そして賞金首の情報よこさないと、お前の家、燃やす!」
 何ゆえ毎回毎回放火を仄めかして脅迫するのかこの人は、とアントンが呆れて見ていると
 「ナニを言うちょるのかねチミ~!タイホするよ、タイホ!」

 事務所の奥からのっそり出て来たその男、頭の中央だけ縦にそり残された髪、脂ぎった顔の中央に集まった、睨みを利かせた小さな目、顔の下半分は鉱山の砂塵除けのマスク、ぶっとい首、襟元と胸元を守るごっついプロテクター、
 でもそんな物は無用なんじゃないかと思わせる、分厚く弾も刀も通りそうにない全身筋肉の塊。装飾の付いた皮のブーツ、背にはやはり砂塵除けのケープ、それらに付いた辺境区保安官を示す徽章やら刺繍やら・・・
 ?、アレ~?また若干違う、けどやっぱ似ている!

 ……我々は知っている、勿論!この男を……いや、この男の声を!!姿を!!その名前を!!
 「ゲアリック!」前回に引き続き綺麗にハモる三人。もはやお約束かよ!伝統芸の域かよ!ベタネタかよ!
 「ナニかねチミたち、本官を知っとるのかネ?」なんだか田舎の駐在さんみたいなしゃべり方のゲアリック(仮)さんである。

 「エッちゃん驚嘆!またまた『綺麗な』ゲアリックさん、今回は保安官さん役デスか?さてはシリーズ皆勤賞狙ってマスね!カードにスタンプ押してあげないと」よくわからないボケをかますエンジェラ。
 「いや見た目はそっくりでも毎回毎回別の人だから、あとカードとかスタンプってナニ?」と速やかにツッコむアントン。

 「いいモノの方のゲアリックだったら、ツィタデルブルクの騎士長と近い親戚の人なんじゃね?」とパイリンは推理。
 「ありゃ、お前さんがた騎士団のウドーちゃんを知っとるのかね?あいつは本官の甥ッ子なんだわ」うむ、どうやら正解らしい。
 「今回はゲアリックおじさん?見た目甥御さんと歳の差が全然感じられないんですけど?」
 アントンはそう言うが、例によってマスクで顔の下半分隠しているので素顔がわからないし、体格もマッチョだし、本当に区別がつかない。

 「んで、ナニ用かねチミたちは?」
 「だから賞金首情報よこさないと、おっさんを心の中で激しく性的暴行!特におシリとかすごいことに!」なんかパイリンの脅迫スタイルが新しくなってるぞ。そしてそれは脅迫として効果あるのか?

 「あ~、もしかしてチミたち賞金稼ぎ?わかりにくい、実にわかりにくい。この前届いた新しい手配書出すからちょっと待ちなさい」珍奇な脅迫に対してはツッコミもなく、デスクの引き出しをゴソゴソやるゲアリック保安官。
 いきなり引き出しに隠していた拳銃を取り出し突きつけるとかもなく、普通にその手配書を手渡してくれた。なんかいかつい見た目に反し、普通に親切な人であるようだ。

 「ホレ、この辺りで一番賞金額の高いのはこのお兄ちゃんだわな」
 ゲアリック保安官の差し出した手配書の一番上のそれには、見た目けっこうハンサム、けどちょっと笑顔の怪しい若い男の似顔絵に、「連続窃盗犯・自称義賊 ギュンター・ゲッツ・ゴットハルト・グスタフ・ガイガー」とある。
 
 「なんちゅうガギグゲゴな名前だ、長いし」パイリンのわかるようなわからんような感想。「しかも義賊?なんだそりゃ」
「銀行や成金の宝石商から金品を奪って、貧しい鉱山労働者に分け与えるのが趣味のドロボーなんだわ。まあ変なヤツだがやたら逃げ足が速いし、人を殺したり傷付けたりはしないし、あと貧乏人には人気があってなあ」
 「よし殺そう、そして賞金首に替えよう」何ら考慮せず即断するパイリン師匠、マジで鬼。
「情け無用ですかあんたは!」いつものようにアントンもツッコまざるを得ない。

 しかし「いやこのお兄ちゃん、生きたまま捕まえないと全額でないヨ?被害総額はともかく、凶悪犯じゃないんだから。」と保安官からの注意。
 「チッ、めんどくせえ」パイリン師匠、自分もまた生きて捕らえないと賞金にならない立場であることはおいといてブツクサ言っている。「せめて暴行を加えたい、性的に」
 「久々に聞くけど性的ってナニ?」
 とアントンが尋ねたところで、パイリンが答える声の代わりに響く爆音!濛々たる白煙、突然保安官事務所の奥の方、無人の留置場の壁が片方吹き飛んだ!

 「何事かね~ッ!」「おわあ、保安官事務所で爆発、これで二回目!」
 今回はやたら以前と同じようなことがおこるなあ、とパイリンが思ったところで、今度は壁に空いた穴の向こうから、白煙をかきわけ人影が現れた。
 「ハーッハッハッハッ、正義と愛と友情と、あとちょっぴり哀愁の義賊、ギュンター・ガイガー、参上!」

 なんだかよくわからないが妙に爽やかな名乗り(ミドルネーム省略)で、くだんの集金首、義賊ガイガーその人がエントリー!
 「またアレな人が出た~ッ!」率直すぎる程のアントンの感想に、他の(やはりアレな)三人は一斉にうんうん、と同意してうなずいた。



 石造りの壁が爆破されたことで舞い上がる砂埃と白煙の中、名乗りを上げ笑い続ける自称義賊、ギュンター・(中略)・ガイガー。
 「ハーッハッハッハッ、ハッハッハッ、ゲホッ、ゲホゲホゲホ」煙でむせてるじゃねえか!「……え~っと、次の台詞は」考えてる場合かよ!
 などと登場人物以前に地の文からのツッコミが入るレベル、しかも古い喜劇じみたベタベタさ、まさしくアントンが感じたとおりの「アレな人」のようである。

 「え~、怪盗ギュンター・ガイガー、新しくできたと聞く『銀行』なる所に現金強奪に参上!おとなしく金を出したまえよ君タチ、ンッン~」
 「イヤここ保安官事務所だし、銀行は反対側の壁の方だし」いつものボケ役をすっかり持って行かれて、冷めた声でツッコむパイリン。
 そこで双方、五秒間の沈黙………………会話再開、

 「ウソ言っちゃ行けないネ!二つの建物の間の隙間から、右側の壁を爆破すれば金庫のある部屋だと調べはついているんだヨ!」
 「いやそれ表から見た場合の話だろ、お前裏から入ってきたじゃん」一層冷めたというかうんざりした感じの声で教えてやるパイリン。
 「いっけね~ッ!間違えたァ、アハァ」底抜けに明るくおどけて、頭を自分の拳でコツン、とやるガイガー……こいつちょっとぶん殴ってもいいですかね、助走付きの全力で。

 「こやつ、もしかしなくてもバカなのでわ?」ここまで黙って見ていたが流石に呆れて呟いたゲアリック保安官、いやその思いは皆も同じだ。
 「この国でそこそこ顔が良い奴って、その代わりにオール馬鹿ちゃん総進撃なの?うちのエッちゃんみたいに」そういえばギュンターもまた森精系エルフォイドの血が濃い端正な見た目である……見た目だけは!

 「この短期間に世にも珍しい、頭悪い系エルフに二人も遭遇するとは何たるミラクル、魔女のバアさんに呪われたか?」誰だよ魔女のバアさんって。
 「師匠、エッちゃんさんには、お笑い関係になると急に頭がよく回る特殊能力があるんだよ!」アントンの言葉はフォローになってるんだかなってないんだか。
 「バカっってゆ~方がバカなんだよウェ~ン」最後のはもちろんエンジェラさん。
 
 「やるじゃないか君タチ!なンて巧妙なワナだ!ひとまず退散するヨ!さらばだブライトインテリクトくん!また合おう」いやそれもまた誰なんだよ?
 「ワナじゃなくててめーが間違えただけだし」やたらポジティブなボケ方なのは、実際エンジェラと共通、本当にキャラが被っている。
 「そもそもてめーは、既に留置場の中にいる……ヘルツマン!」「GOOOOOMゴオオオオオム
 
 怪盗ガイガーが逃げようと向かった壁の穴から、鎧の大男がエントリー!反対側が鉄格子なので逃げようのないガイガー、そしてそのままの勢いで、ヘルツマンが彼に体当たり、抱きしめるように拘束した。
 「むギュ~ッ!なンだいこの大きい硬い人は!ロボ?ロボなの?」世界観をブチ壊すような単語を使うんじゃねえ、いやまあゴーレムってのはある意味ロボットと言えるから、正解と言えば正解ではあるが。
 「そのまま取り押さえとけよ、ヘルツマン。いやしかし早くも賞金ゲット、銀行より先にここに寄って正解だったなあ」まさかの高額賞金首捕縛に機嫌が良くなるパイリン師匠、ツイてますな。

 「逃げ足が早さが取り柄の筈なのに、逃げる間もなく捕まるとは本官もビックリだよ~」てきぱきと賞金支払いのための手続き用書類を出しながら、保安官もそう言った。うん、いったい何のために出て来たのか?こやつは。
 「よーしせっかく悪党を捕まえたので、楽しく虐待しちゃうぞ、性的に」ヘルツマンに抱き締められたままのガイガーに近づいた、パイリンから最低な発言、しかしとても爽やかな笑顔で。

 「わぁ、何をされちゃうのかナ?」ちょっと声におびえが混じるガイガー。
 「趣味ですが何か?君のおシリにいろいろブチ込んでみたい、そんな好奇心!」どんな好奇心だそれは。そして事務所のデスクの上にあった置物を取り上げると
 「このとんがった形の黒水晶にて仕る」
 「腐ってる!腐ってるよこのお嬢さン!」後ろの貞操がピンチで危ないガイガー、そしてそれを見ていたアントン、初めてパイリンと遭遇した時の事を思い出して戦慄する。

 「そんンなことしたら、そンなことしたら、ボクまで腐ってしまって……腐ってしまって……溶けるヨ」この一言の後、彼はピクリとも動かなくなり、刹那……ドロリ、彼の顔が、体が、いきなり真っ白に変わって、次いで崩れ始めた!
 動きを止めたギュンターを見て、何事か?と思って近寄っていたパイリンたち、流石にこれには心臓が止まりそうな程にビックリした!
 「ギャ~ス!溶解に~んげん♪」パイリン師匠、何故後半に歌うような節が?
 「オバキャ~!」ちなみにこれは単語「オバケ」と悲鳴「キャ~!」が繋がったエンジェラの叫び。いやまて、君は死霊を使役する死霊ゴーストマスターじゃなかったか?

 今やドロドロのスライムというか、いや今度は宙に浮き始めたので濃い煙のようなというべきか、不定型な白い謎物体と化した怪盗ギュンターは、ヘルツマンの拘束をスルリと抜けて、壁の穴から逃げ出した!
 「なん~だありゃ!あいつ人間なのか?」いや人間なワケはないだろう、人間がそんな風に変化する特殊能力とか、そんな技を使う使い手がこの世界に存在するだなんて、聞いたこともない。

 「アレ、なんかどっかで見たナニかに似ているような……」謎物体を追いかけるため、真っ先に外に飛び出し走るアントンは呟いた。
 「なにお前、あんなオバケ、前に見たことあんの?」ヘルツマンを引き連れ、パイリンとエンジェラが追いついてきた。
 「いや前ってゆ~か、つい最近ってゆ~か、このところしょっちゅう見ているような……」ん?お前は何を言ってるんだ?とパイリンもエンジェラも思ったが……

 そんな三人と一体の前に、フワフワと漂い出でる二つの白い物体、エンジェラに憑いている死霊、ビーちゃんことビートゥナ、そしてボーちゃんことボスフォー!どちらも小さなお手々で、「これこれ」と言いたげに、お互いをちょいちょい挿す仕草をしている。
 「これだーッ!オバケ!ってゆ~かエクトプラズム!あれエクトプラズムが化けてたんだよ!」
 「えーッ!ならあのギュン太くん、ビーちゃんボーちゃんのお仲間デスか?」
 「何だよ『ギュン太くん』って!いやしかしあいつ普通の人間のはずだろ、実は死んでいた、ってことなのか?」

 「ハーッハッハッハ、遅い遅い、ボクは既に銀行強盗を終えてランナウェイ中なのサ!」三人と一体が走る道の先、坂の上に現れたのは……もう一人の怪盗ガイガー!
 「またしてもやギュン太くん?さてはあなたもゲアリックさんとこみたいにそっくりさん一族なのデスか?!」
 「ギュン太くん?……」しばし熟慮のガイガー、「……いいネ!」この呼ばれ方、気に入っちゃったみたいだぞ!

 「君も死霊ゴーストマスターかい?同族な上、同じ職業のよしみで教えてあげよう、カワイイお嬢さン!」
 そう言って一旦言葉を打ち切り、わざわざカッコいいポーズをビシィ!と決めてから、再び語り始めるギュンター・ガイガー。
 「実はボクが本物で、君タチに捕まっていたのは、エクトプラズムで作った『ドッペルゲンガー』なのサ!」
 「わぁい、カワイイって言われたデスよ~、エッちゃん歓喜~!」前半で喜んでしまって、後半の肝心の部分を全く聞いてないエンジェラさん。

 「これは君に憑いてる死霊くんたちの同類サ!ただしこっちの三体はゲッツ、ゴットハルト、グスタフ……ボクの亡くなったお爺さンとお父さンとお兄さンの霊で、死後も協力してもらってるンだけどネ!」
 そう言う怪盗ガイガーの周囲に漂う白い煙条のものが二つ、そこにパイリン一行が追ってきた一つが合流し、彼の空けた口の中にスルスルと吸い込まれて消えてしまった!

 「こいつも死霊ゴーストマスターだと!……うむ、『イケメン森精系エルフォイド=お馬鹿ちゃん=死霊ゴーストマスター』の新公式が今ここに証明!学会に発表せねば!」
 「師匠、言ってる意味がわかるような、イヤわかったら森精系エルフォイドの皆さんにシツレイなのでわからないことにしますが、あのお兄さんも死霊ゴーストマスターですと?」
 「え~っ?エッっちゃんはあんな面白技つかえませんケド~?」

 「そりゃおめーが能無しなだけだろ!いつも死霊が勝手に動いてるだけだし」
 「ならばゆるしがたいデス!ただでさえエッちゃんと天然ボケキャラが被っているのに、人種や職業まで被ってて、そっちは便利なワザ持ちで有能アピールデスか!」急に激おこなエンジェラさん。
 「エッちゃんさんは天然ボケって自覚あったの?」とアントン。『自覚してたら天然じゃなくね?ってゆ~か、被ってるのはボケ役というかお馬鹿ちゃんキャラだし』とは流石にシツレイなので言わなかったが。

 「なるほど、今までもあの分身みたいなので揺動したスキに、本人が仕事を済ませて逃げ延びてたのか」実際、このパイリンの分析は正解なのだ。
 今回は保安官事務所と銀行、両方の壁を同時に爆破、ドッペルゲンガーの一体が事務所でわざと捕らえられ、銀行でも一体が正面から乗り込んで注意をひき、もう一体が煙状になって金庫室に侵入し中から鍵を開け、本人が金貨の袋を抱えて逃走していたのである。

 「やるな、お馬鹿キャラは演技だったか!」
 「ハーッハッハッハッ、演技ってなンのことだい?」相変わらずの馬鹿明るい口調のガイガー、どうやら元々こんなキャラのようだ。
 「しかしそっちも対応が早いね、混乱からすぐに立ち直ったし。さすがは賞金稼ぎにして賞金首、一千万コーカの『白零ハクレイ』さン!」
 「またマイナーな方の呼び方を……以後"パイリン"と呼ぶことを強制!ってゆ~か、お前俺のこと知ってんの?」

 「そりゃ高額賞金首なわけだし、おウワサはかねがね。そこで提案だけど、今回は賞金稼ぎではなく、賞金首の方として、一口乗ってもらいたいことがあるンだよネ」
 「……それって、儲かるのか?」
 「ボクにかかってる賞金よりは絶対に儲かると補償しちゃうネ」そいう言ってガイガーは、坂の上から村を囲む鉱山の一つを指さした。
 「狙うは水晶、それも超、超々でっかい紫水晶アメジストがドッサリさ!」

 「よし手を組もう」光の速さの即断に、思わずズッコケるアントンとエンジェラ、死霊たちとヘルツマンまでもズッコケらしき動きをしてみせる。つきあい良いな、お前ら。
 「師匠、こんな胡散臭い話、信じちゃっていいの?」
 「そうデス!こんなキャラが被ってる人はただちにデストロイでス!」いやお前の私情はどうでもいいから。
 「追い詰められている状況でもないのに、あんな美味しそうな取引を持ち出してきたあたり、奴の言葉には嘘が感じられない。」仲間二人にそう囁くパイリン。

 「そしてもちろんその紫水晶アメジストとやらを手に入れたら、直後にあいつも捕まえて換金しますが何か?」
 「あいかわらずあんた鬼ですか!」そんな会話はもちろん聞こえていないガイガー、
 「ハーッハッハッハッ、賢明なご判断に感謝するよパイリンさン!では今夜にでも、お泊まりの宿にお邪魔させてもらって、この話はのちホドに!」
 そして遅れてドタドタと走って来たゲアリック保安官を視界に捕らえた彼は、素早く坂の向こう側に姿を消し、去っていたのだった。
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