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第十二話
12-賽終電車
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最近デッドは困惑気味だった。
リッチに命じられ、“エゴ魂”がヘブンズガルド(霊界)に入り込まないよう、このミッドガルド(人間界もしくは物質世界)から、次元の狭間という時の流れも時空も全く異なる場所に追放すること自体には、何も異論がない。
しかし…、
こう毎日毎日、異なったエゴ魂に出くわすと、このミッドガルドにはまともな魂はもう残っていないのでは? と考えてしまう。
「ミッドガルドごと次元の狭間に放り込んでもいいんじゃないでするかねぇ」
などと、つい物騒なことを口ずさむ。
それだけこの世界はエゴ魂で溢れているのだ。
そして今日も一日エゴ魂を次元の狭間に送りまくったデッドは、今憑依している少女の家に帰るところだった。
その男は別に誰かを困らせてやろうと思ったわけではない。 …多分。
が、結果的に多くの人々に迷惑をかける行いだとは思いやれなかった。
その程度の常識しか持ち合わせていないことが、男の運命を大きく変えたのだ。
『お客様、終点です。降車願います』
深酒して、終電間際の電車に飛び乗ったところまでは記憶にあった。
けれど、終点で係員に起こされるまでは爆睡していた。
『お客様? 降車していただけますか?』
再度係員が声をかけてきた。
(人がせっかく気持ち良く寝てるのに…)
男の頭の中はそれだけだった。
『お客様?』
そう言って反応の鈍い男にしびれを切らした係員が男の肩を揺すった。
「降りるよ、ちょっとくらい待てないのか?」
ムカつきながらも男はかろうじて文句を言う。
『お客様が降りていただかないと、この後の電車が駅に入れないのです。すぐに降りていただけますか?』
係員は根気強く、男に降車を促した。
しかし…、
「うるせーよ。降りないとは言ってないだろっ!」
と男はつい怒鳴り返していた。
その時、次の電車に乗り換えるためにホームに降りていた客の一人が係員に向かって文句を言った。
『そんな奴、車庫まで乗せてきゃいいだろっ! 早く発車させて次の電車を到着させろよっ!』
『そうだそうだ。俺はこの先の駅で乗り換えなきゃいけないんだ。終電に乗れなかったらその酔っ払いが責任取るのか?』
係員より、男に対する非難が多かった。
それが余計に男を激怒させた。
「なんだとこのやろう。喧嘩売ってんのかっ!」
『喧嘩売ってるのはてめえだろ。みんなが迷惑してんだよっ!』
『駅員に迷惑かけてんじゃねえよっ! クソ酔っ払いがっ!』
とうとう言い争いになる。
「ふざけやがって! 俺は客だぞ!」
『俺たちも客だけどな。他人に迷惑かけてる時点でただのテロリストだよ』
『終電乗り換えを妨害する“終電テロ”な(笑)』
男は青筋立ててついに立ち上がった。
その時、いつの間にか車外にいた係員が何を思ったか“発車の合図”を出した。
男がドアに近づくと、ドアが閉まり始めた。
さすがに閉じ込められるのはマズイと感じたのか、慌てて駆け降りようとする。
が、
男の顔がドアに挟まれ車外に出られなくなる。
「おいっ! 降りられないだろう! ドア開けろっ!」
叫ぶが、目の前の係員は男を無視した。
「おい! ふざけんなよっ! 開けろっ!」
しかし、係員にも先ほど罵声を上げていた客にも、男の声は届いていないらしい。
「いてて、挟まってんだよ。開けろよっ!」
万力で絞められるような痛みに耐えられず、男は自分の手でドアを押し広げようをしたが、
“ずるっ”
男の手は虚しくドアの内側をなぞるように、思いっきり左右に広がった。
「え?」
顔が挟まっていて、左右に向くこともできないが、明らかに男の手に異常があった。
目だけで下を見ると、男の手のひらから先がホームと電車の間に落ちていった。
「お、俺の…て?」
そして、その手を追うように男の視界はホームドアの内側に向かっていった。
ホームドアに額がぶつかり視界が一転する。
わずかな衝撃を受けて落下する視界は真上を向いていた。
「な、なんだこりゃ?」
男は見た。
鋭く研ぎ澄まされた刃がドアの合わせ目に煌めき、その向こう側に顔の前面がスパッと切り取られた男の身体が立っていた。
そして、その身体を乗せたまま電車が動き出す。
激痛が男を襲い、気が遠く… …ならなかった。
激痛は続くものの、意識が途切れることがない。
死にそうな痛みなのに、一向に逃れることができない。
“それがこれから永遠にお前が受ける痛みなのでするよ”
ふと気づけば、ホーム上から男を見下ろす少女がいた。
「なんだてめえはっ! ●×△*~」
男は言葉が発せなくなってきた。
“私はデッド・エンドでするの。お前のような自己中心的な腐りきった魂の持ち主を、死より恐ろしい世界に追放するのがお役目なのでするよ”
(ふざけんなっ! 俺がいつ自己中心的な行いをしたってんだ。俺はなみんなの面倒を見てやることはあっても、迷惑かけたことなんか一度もないんだ)
散々なことをしておきながら、自己弁護する男。
“お前の意見など聞く必要はないでする。お前の存在がこの世界、さらに死後の世界に悪影響を及ぼすので追放するだけでする。とはいえ、そこに行くまではここで永遠の痛みを味わいやがれでする”
(うぎゃやあああああああああ!)
その時、次の最終電車がやってきて、乗客たちが男の顔を踏みつけていった。
乗降客には男の顔もデッドの姿も見えないようだ。
それでも乗客が男の顔を踏むたび、男には耐え難い苦痛を与えていた。
(わ、悪かった。俺が悪かった。ちょっと飲みすぎていい気になってたんだ。反省するから許してくれっ!)
“何言ってやがるですか。反省なんてしなくてもいいでする。それにさっきのことだけじゃないでするよ。今までの行いのほとんどが自己中心的な迷惑行為で、お前の存在自体が全ての世界で迷惑してると言ってるんでするよっ!”
(そ、そんな。そんなこと言わないで、助けてくれっ!)
男はなおも執拗に謝罪を口にする。
“だから…、反省してチャラにできるレベルはとうに過ぎているんでするの。永遠にその激痛を味わうがいいでする…ね♡”
最後にデッドが可愛くウインクしてみせる。
(こ、このクソビッチ。この俺が下手に出てればいい気になりやがって! てめえ何様のつもりだっ!)
“自己紹介は最初に済ませたでするの。もう忘れたでするか? 仕方ないですね、もう一度だけ教えてやりやがりまする。デッド・エンド…死を司る神様でするよ”
(か、神様? お前のような奴が神のはずないだろっ! このペテン師がっ!)
“本当に自分の思い通りにならないとすぐキレるでするね。もうこれ以上、話したくないからサヨナラでする。 ちなみに神様は神様でも死を司るって言ったぞ。つまり死神だってんだよ…でする”
(し、死神…)
今度こそ男は絶望したらしく大人しくなった。
最後にデッドは思いっきり男の顔の真ん中を踏みつけて、最終電車に乗り込んだ。
ホームにはデッドにしか聞こえない男の絶叫が響き渡った。
<デッド(死神)ちゃんが怒ってるー第12話 終わり>
リッチに命じられ、“エゴ魂”がヘブンズガルド(霊界)に入り込まないよう、このミッドガルド(人間界もしくは物質世界)から、次元の狭間という時の流れも時空も全く異なる場所に追放すること自体には、何も異論がない。
しかし…、
こう毎日毎日、異なったエゴ魂に出くわすと、このミッドガルドにはまともな魂はもう残っていないのでは? と考えてしまう。
「ミッドガルドごと次元の狭間に放り込んでもいいんじゃないでするかねぇ」
などと、つい物騒なことを口ずさむ。
それだけこの世界はエゴ魂で溢れているのだ。
そして今日も一日エゴ魂を次元の狭間に送りまくったデッドは、今憑依している少女の家に帰るところだった。
その男は別に誰かを困らせてやろうと思ったわけではない。 …多分。
が、結果的に多くの人々に迷惑をかける行いだとは思いやれなかった。
その程度の常識しか持ち合わせていないことが、男の運命を大きく変えたのだ。
『お客様、終点です。降車願います』
深酒して、終電間際の電車に飛び乗ったところまでは記憶にあった。
けれど、終点で係員に起こされるまでは爆睡していた。
『お客様? 降車していただけますか?』
再度係員が声をかけてきた。
(人がせっかく気持ち良く寝てるのに…)
男の頭の中はそれだけだった。
『お客様?』
そう言って反応の鈍い男にしびれを切らした係員が男の肩を揺すった。
「降りるよ、ちょっとくらい待てないのか?」
ムカつきながらも男はかろうじて文句を言う。
『お客様が降りていただかないと、この後の電車が駅に入れないのです。すぐに降りていただけますか?』
係員は根気強く、男に降車を促した。
しかし…、
「うるせーよ。降りないとは言ってないだろっ!」
と男はつい怒鳴り返していた。
その時、次の電車に乗り換えるためにホームに降りていた客の一人が係員に向かって文句を言った。
『そんな奴、車庫まで乗せてきゃいいだろっ! 早く発車させて次の電車を到着させろよっ!』
『そうだそうだ。俺はこの先の駅で乗り換えなきゃいけないんだ。終電に乗れなかったらその酔っ払いが責任取るのか?』
係員より、男に対する非難が多かった。
それが余計に男を激怒させた。
「なんだとこのやろう。喧嘩売ってんのかっ!」
『喧嘩売ってるのはてめえだろ。みんなが迷惑してんだよっ!』
『駅員に迷惑かけてんじゃねえよっ! クソ酔っ払いがっ!』
とうとう言い争いになる。
「ふざけやがって! 俺は客だぞ!」
『俺たちも客だけどな。他人に迷惑かけてる時点でただのテロリストだよ』
『終電乗り換えを妨害する“終電テロ”な(笑)』
男は青筋立ててついに立ち上がった。
その時、いつの間にか車外にいた係員が何を思ったか“発車の合図”を出した。
男がドアに近づくと、ドアが閉まり始めた。
さすがに閉じ込められるのはマズイと感じたのか、慌てて駆け降りようとする。
が、
男の顔がドアに挟まれ車外に出られなくなる。
「おいっ! 降りられないだろう! ドア開けろっ!」
叫ぶが、目の前の係員は男を無視した。
「おい! ふざけんなよっ! 開けろっ!」
しかし、係員にも先ほど罵声を上げていた客にも、男の声は届いていないらしい。
「いてて、挟まってんだよ。開けろよっ!」
万力で絞められるような痛みに耐えられず、男は自分の手でドアを押し広げようをしたが、
“ずるっ”
男の手は虚しくドアの内側をなぞるように、思いっきり左右に広がった。
「え?」
顔が挟まっていて、左右に向くこともできないが、明らかに男の手に異常があった。
目だけで下を見ると、男の手のひらから先がホームと電車の間に落ちていった。
「お、俺の…て?」
そして、その手を追うように男の視界はホームドアの内側に向かっていった。
ホームドアに額がぶつかり視界が一転する。
わずかな衝撃を受けて落下する視界は真上を向いていた。
「な、なんだこりゃ?」
男は見た。
鋭く研ぎ澄まされた刃がドアの合わせ目に煌めき、その向こう側に顔の前面がスパッと切り取られた男の身体が立っていた。
そして、その身体を乗せたまま電車が動き出す。
激痛が男を襲い、気が遠く… …ならなかった。
激痛は続くものの、意識が途切れることがない。
死にそうな痛みなのに、一向に逃れることができない。
“それがこれから永遠にお前が受ける痛みなのでするよ”
ふと気づけば、ホーム上から男を見下ろす少女がいた。
「なんだてめえはっ! ●×△*~」
男は言葉が発せなくなってきた。
“私はデッド・エンドでするの。お前のような自己中心的な腐りきった魂の持ち主を、死より恐ろしい世界に追放するのがお役目なのでするよ”
(ふざけんなっ! 俺がいつ自己中心的な行いをしたってんだ。俺はなみんなの面倒を見てやることはあっても、迷惑かけたことなんか一度もないんだ)
散々なことをしておきながら、自己弁護する男。
“お前の意見など聞く必要はないでする。お前の存在がこの世界、さらに死後の世界に悪影響を及ぼすので追放するだけでする。とはいえ、そこに行くまではここで永遠の痛みを味わいやがれでする”
(うぎゃやあああああああああ!)
その時、次の最終電車がやってきて、乗客たちが男の顔を踏みつけていった。
乗降客には男の顔もデッドの姿も見えないようだ。
それでも乗客が男の顔を踏むたび、男には耐え難い苦痛を与えていた。
(わ、悪かった。俺が悪かった。ちょっと飲みすぎていい気になってたんだ。反省するから許してくれっ!)
“何言ってやがるですか。反省なんてしなくてもいいでする。それにさっきのことだけじゃないでするよ。今までの行いのほとんどが自己中心的な迷惑行為で、お前の存在自体が全ての世界で迷惑してると言ってるんでするよっ!”
(そ、そんな。そんなこと言わないで、助けてくれっ!)
男はなおも執拗に謝罪を口にする。
“だから…、反省してチャラにできるレベルはとうに過ぎているんでするの。永遠にその激痛を味わうがいいでする…ね♡”
最後にデッドが可愛くウインクしてみせる。
(こ、このクソビッチ。この俺が下手に出てればいい気になりやがって! てめえ何様のつもりだっ!)
“自己紹介は最初に済ませたでするの。もう忘れたでするか? 仕方ないですね、もう一度だけ教えてやりやがりまする。デッド・エンド…死を司る神様でするよ”
(か、神様? お前のような奴が神のはずないだろっ! このペテン師がっ!)
“本当に自分の思い通りにならないとすぐキレるでするね。もうこれ以上、話したくないからサヨナラでする。 ちなみに神様は神様でも死を司るって言ったぞ。つまり死神だってんだよ…でする”
(し、死神…)
今度こそ男は絶望したらしく大人しくなった。
最後にデッドは思いっきり男の顔の真ん中を踏みつけて、最終電車に乗り込んだ。
ホームにはデッドにしか聞こえない男の絶叫が響き渡った。
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