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第8章
8-09微妙なずれ
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「ええっー!? それ話していいの? ルイーナっ!」
あまりに簡単に素性を語ったルイーナに、いずみは心底驚いた。
「構いません。今後は博士の全面的協力が必要です。こちらの情報もできる限り共有してもらう方がいいでしょう」
ルイーナはあっさりと心情を晒す。
「で、でも…」
「いずみの言いたいことは充分理解してます。今まで敵とみなしてきたアルフに、こちらの手の内を晒すことになりますから」
なぜか不動の決心をこの短時間にしたらしいルイーナの顔は、ある意味清々しさすら感じさせた。
「ルイーナ?」
「私だって考えなしにこんなこと言ってるわけじゃありません。いずみの反応を見て対応策を講じようと思ってました」
はにかんだように笑みを浮かべて告げるルイーナ。
「そうは言っても、私はアルフのイメージを具体的に理解できるわけじゃないし…」
「それは言葉で語ろうとするからです」
二人の様子を黙って聞いていた博士が口を挟んだ。
「え? え~、じゃあどうやって説明したらいいの?」
「私も今までアルフの思考を理解しようと試行錯誤しました。そのためソウルコンバーターの開発に関しても、具体的に設計段階に入るまでは暗中模索でした」
「博士…、私にも苦労してそれをやれと?」
いずみは白い目で博士を睨んだ。
「わはは、まさか。そんな時間はないですよね」
「はい…。クリーチャーも頻繁に襲撃してきますので…、? あれ? でも博士の身柄を確保しているので、… …、・ ・ ・ 博士? クリーチャーでの襲撃は博士が行っていたんですよね?」
「クリーチャー? それはなんですか?」
「ええっー!? 博士がクリーチャーを使ってエネルギーを回収…、人を襲っていたんじゃないんですか?」
博士の返答にいずみは叫び出してしまった。
「? 何か、もしくは誰かが私を装って、悪さを行っているようですね?」
「へ?」
「ち、ちょっと待ってください。博士が人々を襲って、エネルギーに変換してたんじゃないんですか?」
「いいえ? 私はソウルコンバーターでしかエネルギー生成をしてませんよ? 人間をエネルギーに変換というのはどういうことですか?」
さすがにルイーナも、大変な思い違いをしている可能性に気づいた。
ここは、博士の情報と自分たちの情報を擦り合わせする必要を感じたのだ。
ルイーナは大介とアイコンタウトで、状況を精査することにした。
「数年前から、そのリッチという怪異が現れ、人を襲うようになった。しかもそのほとんどはソウルコンバーターを中心に…、というわけですね?」
「そうです。リッチは霊的能力の低いものには見えませんが、リッチの長大な鎌は無差別に一般人を切り裂き、後には塩だけが残りました」
「塩?」
「あ? あれ? 博士はそのあたりの事情はご存知ないのですか?」
ルイーナの質問に本当に困惑している様子の博士。
いずみはそれが演技だとはどうしても思えなかった。
(なんなの? この違和感…)
その違和感は、ルイーナも大介も感じていた。
(湧に聞いていたお父様とは、全く印象が違うじゃない。とても湧が言っていた冷酷非情な人には思えないわ)
「博士、申し訳ありませんが事情聴取は一旦中断させていただきます。別室をご用意いたしますので、しばらくそちらでお待ちいただけますか?」
「…わかりました。私としても、もう一度状況を整理してみたいと思います」
博士自身も釈然としないところが多かったらしく、複雑な表情で退室していった。
「何かがおかしい」
最初に口を開いたのは大介だった。
「あいつは元々頭がおかしいんだ。今更何を…」
湧が憎々しげに言うのを見て、いずみは少し悲しくなった。
「いや、おかしいというのは博士のことじゃない」
「そうですね。何がが少しずつ、しっくりこない…というか…微妙にずれているというか…」
大介に続いてルイーナも印象を語る。
「あ、そうそう。湧って子供の頃に病気とかした? 入院するほどの…」
いずみが不自然さを感じさせないように聞くが、話題を強引に変えたためにかえって不自然に聞こえる。
「いや、怪我も病気も全くしなかった」
湧も一瞬眉の端を上げたが、極普通に返答する。
「へ、へえぇ~。昔から身体は丈夫だったんだ」
慌てて取りなすが、ルイーナも大介も頭を抱えてしまった。
「いずみ。何か言いたいことがあるなら回りくどく聞く必要はないぞ」
湧は呆れたように、しかし真剣な眼差しでいずみを見つめた。
「あ…、う…、… …。じゃあ、聞くね?」
「おう」
「如月博士が、…湧は子供の頃、病弱で度々入退院を繰り返してたって…。今まで湧がそんなこと言ったことなかったから、おかしいな? って思ったの」
「俺が? いずみはその話を信じたのか?」
「だって、子供の頃の話をするとお母さんのこととか…。そんなの聞けるわけないじゃん!」
いずみは苦しそうに一気に吐き出した。
「あ。そうか、ごめん。だけど…、いずみだってアルファブラッド保有者なんだから、怪我や病気はしたことないだろ?」
「え? そうなの? 私は麻疹や水疱瘡はかかったことあるよ?」
「なんだって?」
今度は湧の方が驚いた。
「あれ? ちょっと待て。おかしい。俺も…」
「?」
いずみは湧の言葉の続きを待った。
しかし、それきり湧は口を開くことはなかった。
<続く>
あまりに簡単に素性を語ったルイーナに、いずみは心底驚いた。
「構いません。今後は博士の全面的協力が必要です。こちらの情報もできる限り共有してもらう方がいいでしょう」
ルイーナはあっさりと心情を晒す。
「で、でも…」
「いずみの言いたいことは充分理解してます。今まで敵とみなしてきたアルフに、こちらの手の内を晒すことになりますから」
なぜか不動の決心をこの短時間にしたらしいルイーナの顔は、ある意味清々しさすら感じさせた。
「ルイーナ?」
「私だって考えなしにこんなこと言ってるわけじゃありません。いずみの反応を見て対応策を講じようと思ってました」
はにかんだように笑みを浮かべて告げるルイーナ。
「そうは言っても、私はアルフのイメージを具体的に理解できるわけじゃないし…」
「それは言葉で語ろうとするからです」
二人の様子を黙って聞いていた博士が口を挟んだ。
「え? え~、じゃあどうやって説明したらいいの?」
「私も今までアルフの思考を理解しようと試行錯誤しました。そのためソウルコンバーターの開発に関しても、具体的に設計段階に入るまでは暗中模索でした」
「博士…、私にも苦労してそれをやれと?」
いずみは白い目で博士を睨んだ。
「わはは、まさか。そんな時間はないですよね」
「はい…。クリーチャーも頻繁に襲撃してきますので…、? あれ? でも博士の身柄を確保しているので、… …、・ ・ ・ 博士? クリーチャーでの襲撃は博士が行っていたんですよね?」
「クリーチャー? それはなんですか?」
「ええっー!? 博士がクリーチャーを使ってエネルギーを回収…、人を襲っていたんじゃないんですか?」
博士の返答にいずみは叫び出してしまった。
「? 何か、もしくは誰かが私を装って、悪さを行っているようですね?」
「へ?」
「ち、ちょっと待ってください。博士が人々を襲って、エネルギーに変換してたんじゃないんですか?」
「いいえ? 私はソウルコンバーターでしかエネルギー生成をしてませんよ? 人間をエネルギーに変換というのはどういうことですか?」
さすがにルイーナも、大変な思い違いをしている可能性に気づいた。
ここは、博士の情報と自分たちの情報を擦り合わせする必要を感じたのだ。
ルイーナは大介とアイコンタウトで、状況を精査することにした。
「数年前から、そのリッチという怪異が現れ、人を襲うようになった。しかもそのほとんどはソウルコンバーターを中心に…、というわけですね?」
「そうです。リッチは霊的能力の低いものには見えませんが、リッチの長大な鎌は無差別に一般人を切り裂き、後には塩だけが残りました」
「塩?」
「あ? あれ? 博士はそのあたりの事情はご存知ないのですか?」
ルイーナの質問に本当に困惑している様子の博士。
いずみはそれが演技だとはどうしても思えなかった。
(なんなの? この違和感…)
その違和感は、ルイーナも大介も感じていた。
(湧に聞いていたお父様とは、全く印象が違うじゃない。とても湧が言っていた冷酷非情な人には思えないわ)
「博士、申し訳ありませんが事情聴取は一旦中断させていただきます。別室をご用意いたしますので、しばらくそちらでお待ちいただけますか?」
「…わかりました。私としても、もう一度状況を整理してみたいと思います」
博士自身も釈然としないところが多かったらしく、複雑な表情で退室していった。
「何かがおかしい」
最初に口を開いたのは大介だった。
「あいつは元々頭がおかしいんだ。今更何を…」
湧が憎々しげに言うのを見て、いずみは少し悲しくなった。
「いや、おかしいというのは博士のことじゃない」
「そうですね。何がが少しずつ、しっくりこない…というか…微妙にずれているというか…」
大介に続いてルイーナも印象を語る。
「あ、そうそう。湧って子供の頃に病気とかした? 入院するほどの…」
いずみが不自然さを感じさせないように聞くが、話題を強引に変えたためにかえって不自然に聞こえる。
「いや、怪我も病気も全くしなかった」
湧も一瞬眉の端を上げたが、極普通に返答する。
「へ、へえぇ~。昔から身体は丈夫だったんだ」
慌てて取りなすが、ルイーナも大介も頭を抱えてしまった。
「いずみ。何か言いたいことがあるなら回りくどく聞く必要はないぞ」
湧は呆れたように、しかし真剣な眼差しでいずみを見つめた。
「あ…、う…、… …。じゃあ、聞くね?」
「おう」
「如月博士が、…湧は子供の頃、病弱で度々入退院を繰り返してたって…。今まで湧がそんなこと言ったことなかったから、おかしいな? って思ったの」
「俺が? いずみはその話を信じたのか?」
「だって、子供の頃の話をするとお母さんのこととか…。そんなの聞けるわけないじゃん!」
いずみは苦しそうに一気に吐き出した。
「あ。そうか、ごめん。だけど…、いずみだってアルファブラッド保有者なんだから、怪我や病気はしたことないだろ?」
「え? そうなの? 私は麻疹や水疱瘡はかかったことあるよ?」
「なんだって?」
今度は湧の方が驚いた。
「あれ? ちょっと待て。おかしい。俺も…」
「?」
いずみは湧の言葉の続きを待った。
しかし、それきり湧は口を開くことはなかった。
<続く>
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