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第7章

7-14バトルウェア

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 アラートはフラッパーズ本部だけでなく、お社全体に鳴り響いていた。
 大介の指示により、水無月スタッフが出動準備を急ぐ。
 「まだ全然準備が出来ていないというのに…くそっ!」
 一人悪態をく。
 同様に地下深くフラッパーズ本部でも、いずみが怒りまくっていた。
 「なんでよっ! 血を抜いたばっかりでフラフラなのにぃ! BB弾だってまだ半分も出来てないのにっ!」
 こちらの事情を考えてくれる敵などいないことは重々承知しているが、あまりにタイミングが悪すぎた。
 「とりあえずフラッパーズ分はセットしてあります。ただ600発入りの専用マガジンは各1本、市販マガジンの68発入りはYOU弾のみで各自3本ずつとなります。私は本部で後方支援を行います」
 ルイーナはそう言って、FN-P90M(Mは水無月のM)とマガジンが入ったバックパックを手渡した。
 FN-P90の市販モデルガンを改造したガスガンは、17丁が完成していた。
 つまりルイーナ以外のフラッパーズが使用する分を除くと、水無月スタッフに回せるのは12丁しかない。
 BB弾はさらに深刻で、いずみ弾はフラッパーズのみ。
 湧弾にしても600発入る専用マガジンは各自1本、市販マガジンは3本ずつだ。
 「出現場所は銀座7丁目の中央通りから昭和通りにかけて。個体数は約1000。スタッフは外周から徐々に包囲を狭めて行く。この後の指示は各隊の隊長に任せる。みんな無茶な行動は避け、無事に帰還することを目指してくれ」
 そう言って、大介はフラッパーズ本部に降りた。

 「対クリーチャー用武器を用いての初陣だ。今までとは勝手が違うと思うが頑張ってくれ」
 大介は出撃前の4人に檄を飛ばす。
 「武器って言っても見かけだけで、やっつけられる訳じゃないじゃん」
 何かとチャチャを入れないと気が済まないいずみ。
 大介にギロリと睨まれ、慌てて口を塞ぐ。
 「相手を無効化できるという意味じゃ立派な武器だと思うよ」
 湧が諭すように囁く。
 「あ、そうか、そう考えればいいのかぁ~」
 と、素直に納得するいずみを、大介は拳を握りしめ冷たい眼差しで威嚇した。

 「全員戦闘モードにチェンジ! バトルウェアを着用してください」
 ルイーナが司令室奥を指差して促す。
 そこはフィティングルームのような小さな部屋で、奥にはスウェットのようなものがハンガーにかかっていた。
 カーテンが6色あるということは、それぞれ専用の装備が置いておるのだろう。
 いずみは赤いカーテンを開けて中に入る。
 下着は着用しない事と注意書きがあるので、ボディラインが気になるが、とりあえず全身を覆うタイツのような、スウェットに着替えてみた。
 急所や膝、肘などはパッドが内蔵されているので、思ったほどラインは出ないようだ。
 ただ、胸のパッドが若干きついと思ったので、ルイーナにクレームを入れると…
 「きちんとサイドをフィットさせれば、ぴったりなはずです」
 と言われ、仕方なく直した。悔しいが…確かにぴったりだった。
 他には腰に装備品をつける革ベルト、バックパックを装備した時に背中を保護する役割を兼ねたホルスター、そして腰までを保護するハーフコートだ。
 最後に、顔の部分に丸いスクリーンが縫いとめられているマスクだが…
 「これもつけるの? 息苦しくない?」
 「これは一番重要な装備です。この前の銀座事件の時、意識を失ったいずみは、思念力を喪失したために素顔を晒してしまいました」
 「あ…、あれね。でも他にやりようはないの?」
 いずみは食いさがる。
 「あの時は地下道で、しかも停電のため照明も防犯カメラも停止していた上に、YOUがそばにいたから誰にも気づかれなかったんです。運が良かっただけです。今後また同じことが起こったら確実に正体がバレてしまいますよっ!」
 ルイーナは反論する隙を与えずにまくしかけた。
 「わ。わかったわかった。かぶります。かぶります」
 「このスクリーンは思念力で透明度を維持します」
 「へ? 維持?」
 マスクをかぶったいずみは、スクリーンが透明になっていることに気づく。
 「あれ? さっきは真っ黒だったのに… それに息苦しくない…」
 驚きのあまり、つい素で感心してしまう。
 「ふふふっ! わかりましたか? つまり意識を失って、思念力を検知できないと透明度が0になるんです」
 「すっごぉ~い! すごいぃ~! ルイーナ天才ぃ!」
 「だからと言って、無茶してまた気絶しないでくださいね」
 ドヤ顔をしつつも、しっかり釘を刺すことも忘れていなかった。
 「ところでさ、何でみんな全身真っ黒なの?」
 いずみは自分の太もも辺りの布を摘みながらルイーナに尋ねた。
 「これはデフォルトカラーです。思念力を高めるとそれぞれのカラーに変化します」
 「…へぇ…」
 (何でそんな面倒なことを…)
 とも思ったが、夜間に行動する時は便利かも…と思い、聞くのをやめた。
 「いずみ、モタモタするな。出動するぞ!」
 これまた全身真っ黒の大介に注意される。
 しかし…、
 「だ、大ちゃん…、うぷぷ…なんか、かわいい~」
 大介は全く動かずに、透明なスクリーン越しにいずみを睨みつけた。
 「ゲートの出口は、銀座7丁目のライオンビル屋上だ。地上の様子を確認後、対応に入る」
 『了解!』
 「フラッパーズ出動!」
 『おーっ!』
 大介の出撃命令に4人が呼応すると、バトルウェアがそれぞれの色に輝いた。
 すなわち、いずみは燃え上がるような赤に、湧は艶やかで深みある黒に、大介は原色の眩い黄色に、坂戸はみずみずしい森林のような緑に、そして初美は南国の海のような清涼感溢れる青に包まれた。
 「うわぁ~~かっこいい!」
 速攻で叫んだいずみ以外も、それぞれ驚きの表情で自分のバトルウェアに見入った。
 腰に巻いたベルトと膝下のブーツは黒いままだが、アクセントとなり引き締まったプロポーションに見せる。
 ハーフコートは全員純白に変化している。
 「マスクはフラッパーズ以外には戦隊モノのような顔に見えますので、安心してください」
 そう言って、モニターにコスチュームを映し出す。そこには特撮ヒーロー戦隊のようなマスクをかぶったフラッパーズスーツが映し出されていた。
 「へぇ~、でも確かにセンスいいかも…」
 「行くぞ! みんな!!」
 大介が叫び、ゲートをくぐった。

 ゲートの出口は障害物との衝突を避けるため、床から50cmほど高い、空中に設定されている。
 軽やかに飛び出したいずみは、地上を見下ろしている大介に近づいた。
 「げっ! 何これ、一面真っ白じゃない…」
 地上はクリーチャーに襲われた人々の残滓…塩の粉で埋めつくされ、車道・歩道の区別がはっきりしない状態だ。
 「クリーチャーが見当たらない。1000匹もいたなら、そんなにすぐ消滅するはずがないと思うが…」
 大介がルイーナに状況を報告する。
 少し間をおいて、返答があった。
 “クリーチャーは昭和通りに集合中です。すぐに向かってください。…ただ、密度が…”
 「? とにかく現場に向かう」
 5人はビルの屋上を飛び移り、間も無く昭和通りに面したビルに着いた。
 『え?』
 5人は驚きのあまり絶句する。
 「何? これ…」
 いずみが呟くが、それに答えられるものはいなかった。
 地上25mほどのビルから見下ろした所にあるもの、それは…
 「がまがえる?」
 としか言い表せない?だった。
 “うぇ~~~っ”
 マスクに内蔵されているカメラの映像を見たのだろう、ルイーナが奇妙な声をあげた。
 あまりの気味悪さに6人とも言葉を失う。
 それは高さ10m、横幅は30m、長さは50mほどだ。
 半透明で所々緑や黄色、紫などのシミのような色が見える。
 カエルと言うほどしっかりした形状ではなく、カエルとナメクジの中間的なイメージだ。
 それが昭和通りの真ん中に居座っていた。
 「大ちゃん! あ、イエロー! あれの下を車が通ってるよ。あ、ぶつかった」
 いずみが指差して説明してる最中、その車はがまがえるの下から飛び出し、曲がりながら左手のビルに突っ込んだ。
 さらに数台が続いて飛び出し、コントロールを失ったようにメチャクチャに走りガードレールや他の車に激突した。
 そして、
 「車内から塩の粉が! あれって…」
 「がまがえるの中を通って、人だけが襲われたんだろう」
 湧が答えた。
 「でも、なんで? あのがまがえるは一般人に見えないってこと?」
 「わからない。でも…ん?」
 湧が東銀座交差点の地下道から上がってくる車を指差した。
 「どうしたの?」
 「地下道から出てくる車の後ろ」
 「え?」
 言われるまま、車の後ろを凝視してみる。
 直線距離で100m以上あるので、かなり見えにくいがそれは確かにいた。
 「クリーチャー!?」
 「そう、多分後ろから煽られてるんだと思う。だから停まれずにがまがえるに突っ込んでくるんだ」
 「げっ! えげつない」
 「昭和通りを封鎖してくれ! 大至急だ!」
 大介はルイーナに指示する。
 ルイーナ経由で水無月スタッフに伝達されるので、すぐに封鎖されるだろう。
 が、5分経っても日本橋方向からの車は途絶えない。
 「本当に封鎖してるのか?」
 “下り線は新京橋から連続地下道なので、封鎖にはもう少し時間がかかるようです”
 「しまった。そうだった。なんとかならないのか?」
 その間にもクリーチャーに煽られて、次々とがまがえるの中に飛び込んでくる。
 「がまがえるを狙撃した方がいいんじゃない?」
 「そうだな。ルイーナ、スタッフに攻撃命令を出してくれ、特に下部を中心に!」
 “了解しました”
 いずみの進言で大介が射撃を指示すると、数秒で地上のスタッフが一斉に攻撃を開始した。
 とはいえ、射撃とは言ってもリッチを召喚してエネルギーを与えるので、その部分が消滅するには若干のタイムラグがある。
 まるで手榴弾を投げて、爆発させるようなもどかしさがあった。
 「なんか手際悪くない?」
 いずみは辛辣な評価をする。
 「そうは言ってもなぁ。あれでも全員射撃のエキスパートだぞ」
 大介はいずみを睨みつけた。
 「私たちが叩いた方が良くない?」
 「大介さん。車を煽ってるクリーチャーががまがえると融合してますよ」
 いずみに続いて湧が叫んだ。
 「よし、俺たちも攻撃するぞ。全員散開して全方位から撃ち込め!」
 『了解』
 いずみと湧はがまがえるの上を飛び越えて、反対側に飛び降りた。
 坂戸と初美も左右に飛び降りた。
 『準備完了!』
 「攻撃開始!」
 がまがえるの下半身と言える腹の部分に一斉に着弾し、リッチが山のように湧き上がる。
 そして、がまがえるの表面に取り付くと、光を発してその一部を引き剥がすように消滅してゆく。
 「おおっ! いけるんじゃない?」
 いずみが嬉々として叫ぶ。
 「いや、後ろからクリーチャーがどんどん融合している。これじゃきりがない」
 「あう~」
 「がまがえる全身に射撃! 本体を分断するように射撃するんだ!」
 大介の指示が飛び、5人が縦断するようにリッチを出現させる。
 がまがえるは意志があるような動きは一切見せない。
 まとわりついたリッチに一切の関心が無いようにされるがままだ。
 「あと少しでバラバラよっ!」
 いずみが叫んだ時だった。
 突然がまがえるが発光し、
 “巨大なエネルギーが発生! みんな早くその場から離れてっ!”
 5人の耳には、ルイーナの絶叫は最後まで聞こえなかった。
 <ズズズズズズズズズズズッ~~~~>
 もはや音ではなく、激しい衝撃しか感じられない。
 近隣のビルはもちろん、あらゆるものが吹き飛ばされた。

 昭和通りの銀座7丁目付近は、一瞬にして無に帰した。
    <続く>
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