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第6章
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「ねぇ~、レッドって何やったらいいのぉ? 分かんないよぉ~」
いずみが珍しく湧に泣きついてきた。
その芝居がかったセリフを聞き流しながらも、湧は真顔で応えてくれた。
「レッドって、いわゆるイメージリーダーだと思うんだ。
つまり…え~と、いわゆる切り込み隊長? っていうか…
そうだなぁ~、いわゆる鉄砲玉? なのかな?…」
しかし、おおよそ見当違いな回答だった。
「ぉぃ、鉄砲玉って、違うと思う。てか、それじゃあ使い捨てみたいな役じゃん!」
目を潤ませて、湧に訴えるようにほざいた。
「…いずみ…いい加減にしてくれ~」
「けち」
わかっていて湧に甘えているだけだった。
「だけど、いずみも分かってると思うけど、3次元に戻ったらそんな風に泣き言を言ってるヒマはないぞ」
「わかってるわよ!」
今度は真顔で返答した。
元々いずみは極めて真面目な性格…いや優しいというべき性格なのだ。
湧もそれは充分に理解していた。
その後10日かけて、最後の仕上げとばかりに6人でのチームプレイを特訓し、なんとか全員の息が合ってきた。
「明日、3次元に戻ります。しかし、戻る時刻は私たちが6次元に旅立った時刻です。くれぐれもそこを理解しておいてください」
ルイーナは締めくくるように告げ、出発までの12時間を自由時間とした。
「ねぇ湧。少し話がしたいんだけど…この後、いい?」
極めて真顔で問いかけるいずみに圧倒され、即座に湧は頷いた。
「話というのは…」
いずみがプライベートに使ってる部屋に入るなり、呟くように話し出す。
「…あなたのお父さんのことなの…」
「やっぱり…。そんな気がしてたんだ…」
「3次元に戻ったら…って、自分で言っておいてなんだけど…、湧はお父さんに会いたくないんじゃないかって…思えて…」
「え? 俺の父親をどうやって捕まえるか? じゃないの?」
湧は意外そうな顔で聞き返す。
「なんでよ? 湧の気持ちを考えたら、ここは“本当は会いたくないけど…”とかになるんじゃないの?」
湧の返答にいずみは心底驚いた。
幼い頃に虐待…たとえ間接的にではあっても、殺されそうになったのだ。
いくら強がっていても、トラウマになっていると考えるのが普通だった。
「ありがとう、いずみ。でも本当に大丈夫なんだ。父親とは言ってるけど、実際に会ったことはことはほとんどないし、まして物心ついてからは全く会っていないから顔すら覚えていない。写真も母さんが持っていた古ぼけたものだけだったから、家族と思ったことは一度もないんだ」
湧は淡々と語った。
「!」
湧が平然と語るのを見て、いずみは胸に剣を突き刺されたほどの痛みを感じた。
いずみは祖父・祖母はもちろん、両親も健在だし、いとこのさくらも居たし、大砲塚神社の禰宜や道場の門下生も多数いるので、家庭はいつも賑やかだった。
しかし、湧はずっと母親と二人きりだったのだ。その母親も父親に何らかの精神的影響を与えられて、湧を殺そうとしたのだ。
湧にとっては、世の中全てに裏切られたも等しい経験をさせられてきたのだ。
強い憎悪を抱いていてもやむをえない。
「…なんだか…寂しいわ…」
「?」
湧にはいずみの呟きが聞き取れなかった。
仮眠後5人は緊張の面持ちで、3次元への亜空間ゲートの前に集合した。
「ねえルイーナ。今回はプロテインは飲まなくていいの?」
緊張の原因はまた嘔吐物まみれになるんじゃないか? と不安だった。
「大丈夫です。今はイメージ力で身体の保護ができるようになっているんですよ」
ルイーナが微笑みながら答えた。
「本当に? なんだか不安なんだよね」
「ところで、3次元のどこに戻るんだ? 元の場所だと爆発に巻き込まれるんじゃないのか?」
いずみの感想はスルーして大介が続けて質問した。
「お社です。朝の10時までは、お社には誰も入れないように宗主にお願いしてあります」
「え? いつの間に?」
「今回の作戦では、皆さんに6次元で特訓してもらうことも予定していたんです」
「あの先行き不明の…ほとんど行き当たりばったりの作戦で? そこまで考えていたの?」
いずみは感心するように唸った。
「ソウルコンバーターが機能しなかった場合は、違う方法を準備していたんですが…」
「? が? 何?」
「実はクリーチャーを操っていたと思われる奴に壊されていました…」
ニコッ! っとして舌を出すルイーナ。
「… … え? ええっー!? じゃあ本当にピンチだったんじゃないっ!」
「そういうことになりますね…」
「なりますね…って、ルイーナっ!」
がるる…と吠えながらルイーナに掴みかかろうとするが、湧に遮られた。
「いずみっ! まあ落ち着けよ」
「だ、だって、ルイーナが6次元の人じゃなかったら、本当に死んでたんだよ。私たちっ!」
「それだけ俺たちの活動は危険を孕んでいるんだ。今更だろう」
大介もいずみをなだめた。
いずみは納得できずブーたれた。
「それでは3次元に戻りますが、今回、主観的時間的経過はほんの瞬間です。そこを意識しておいてください」
「はい」
いずみ以外は素直に返事を返す。
「いずみぃ」
湧に促されて、いずみも不承不承返事を返した。
「では手を繋いで輪になってください。亜空間ゲートの方を移動して、上からくぐるように降ろします」
「了解」
ルイーナは右手を亜空間ゲートに向けて、次に天井に向けた。
すると、亜空間ゲートを設定している大きな輪が天井に移動し、ルイーナが隣の大介と手を繋いだ途端に輪が6人を囲むように降りてきた。
一瞬、世界が真っ白に輝いた。
眩しさに目を瞑る。
瞼を通して強烈な光がフラッシュしたが、すぐに収まる。
いずみが恐る恐る目を開けると、そこは既に見慣れたお社の舞台場だった。
「すごい…、行くときと違って、全然気持ち悪くなかった。こんなことができるなら行く時もこうやってヨォ!」
「いずみぃ、向こうでも説明しましたが、特訓前だとあのプロテインを飲んでも、あれが限度なんですよ。そもそも普通の人間なら、亜空間ゲートに入った時点で身体が崩壊するって話しましたよね? 聞いてました?」
「あ~、そか。じゃあこれからは今みたいに亜空間ゲートを使えるってこと?」
「まだ無理です。亜空間ゲートを制御するにはさらなる特訓が必要です」
「え~まだ特訓するの?」
「いずみ、俺たちは一生修行だと幼い頃から言われてきただろう。それと同じだ」
大介が呆れつつ、いずみの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「さ、これからが本番だ。気合いを入れて行くぞ!」
「了解!」
「了~か~い」
6人の新しい任務が始まった。
<続く>
いずみが珍しく湧に泣きついてきた。
その芝居がかったセリフを聞き流しながらも、湧は真顔で応えてくれた。
「レッドって、いわゆるイメージリーダーだと思うんだ。
つまり…え~と、いわゆる切り込み隊長? っていうか…
そうだなぁ~、いわゆる鉄砲玉? なのかな?…」
しかし、おおよそ見当違いな回答だった。
「ぉぃ、鉄砲玉って、違うと思う。てか、それじゃあ使い捨てみたいな役じゃん!」
目を潤ませて、湧に訴えるようにほざいた。
「…いずみ…いい加減にしてくれ~」
「けち」
わかっていて湧に甘えているだけだった。
「だけど、いずみも分かってると思うけど、3次元に戻ったらそんな風に泣き言を言ってるヒマはないぞ」
「わかってるわよ!」
今度は真顔で返答した。
元々いずみは極めて真面目な性格…いや優しいというべき性格なのだ。
湧もそれは充分に理解していた。
その後10日かけて、最後の仕上げとばかりに6人でのチームプレイを特訓し、なんとか全員の息が合ってきた。
「明日、3次元に戻ります。しかし、戻る時刻は私たちが6次元に旅立った時刻です。くれぐれもそこを理解しておいてください」
ルイーナは締めくくるように告げ、出発までの12時間を自由時間とした。
「ねぇ湧。少し話がしたいんだけど…この後、いい?」
極めて真顔で問いかけるいずみに圧倒され、即座に湧は頷いた。
「話というのは…」
いずみがプライベートに使ってる部屋に入るなり、呟くように話し出す。
「…あなたのお父さんのことなの…」
「やっぱり…。そんな気がしてたんだ…」
「3次元に戻ったら…って、自分で言っておいてなんだけど…、湧はお父さんに会いたくないんじゃないかって…思えて…」
「え? 俺の父親をどうやって捕まえるか? じゃないの?」
湧は意外そうな顔で聞き返す。
「なんでよ? 湧の気持ちを考えたら、ここは“本当は会いたくないけど…”とかになるんじゃないの?」
湧の返答にいずみは心底驚いた。
幼い頃に虐待…たとえ間接的にではあっても、殺されそうになったのだ。
いくら強がっていても、トラウマになっていると考えるのが普通だった。
「ありがとう、いずみ。でも本当に大丈夫なんだ。父親とは言ってるけど、実際に会ったことはことはほとんどないし、まして物心ついてからは全く会っていないから顔すら覚えていない。写真も母さんが持っていた古ぼけたものだけだったから、家族と思ったことは一度もないんだ」
湧は淡々と語った。
「!」
湧が平然と語るのを見て、いずみは胸に剣を突き刺されたほどの痛みを感じた。
いずみは祖父・祖母はもちろん、両親も健在だし、いとこのさくらも居たし、大砲塚神社の禰宜や道場の門下生も多数いるので、家庭はいつも賑やかだった。
しかし、湧はずっと母親と二人きりだったのだ。その母親も父親に何らかの精神的影響を与えられて、湧を殺そうとしたのだ。
湧にとっては、世の中全てに裏切られたも等しい経験をさせられてきたのだ。
強い憎悪を抱いていてもやむをえない。
「…なんだか…寂しいわ…」
「?」
湧にはいずみの呟きが聞き取れなかった。
仮眠後5人は緊張の面持ちで、3次元への亜空間ゲートの前に集合した。
「ねえルイーナ。今回はプロテインは飲まなくていいの?」
緊張の原因はまた嘔吐物まみれになるんじゃないか? と不安だった。
「大丈夫です。今はイメージ力で身体の保護ができるようになっているんですよ」
ルイーナが微笑みながら答えた。
「本当に? なんだか不安なんだよね」
「ところで、3次元のどこに戻るんだ? 元の場所だと爆発に巻き込まれるんじゃないのか?」
いずみの感想はスルーして大介が続けて質問した。
「お社です。朝の10時までは、お社には誰も入れないように宗主にお願いしてあります」
「え? いつの間に?」
「今回の作戦では、皆さんに6次元で特訓してもらうことも予定していたんです」
「あの先行き不明の…ほとんど行き当たりばったりの作戦で? そこまで考えていたの?」
いずみは感心するように唸った。
「ソウルコンバーターが機能しなかった場合は、違う方法を準備していたんですが…」
「? が? 何?」
「実はクリーチャーを操っていたと思われる奴に壊されていました…」
ニコッ! っとして舌を出すルイーナ。
「… … え? ええっー!? じゃあ本当にピンチだったんじゃないっ!」
「そういうことになりますね…」
「なりますね…って、ルイーナっ!」
がるる…と吠えながらルイーナに掴みかかろうとするが、湧に遮られた。
「いずみっ! まあ落ち着けよ」
「だ、だって、ルイーナが6次元の人じゃなかったら、本当に死んでたんだよ。私たちっ!」
「それだけ俺たちの活動は危険を孕んでいるんだ。今更だろう」
大介もいずみをなだめた。
いずみは納得できずブーたれた。
「それでは3次元に戻りますが、今回、主観的時間的経過はほんの瞬間です。そこを意識しておいてください」
「はい」
いずみ以外は素直に返事を返す。
「いずみぃ」
湧に促されて、いずみも不承不承返事を返した。
「では手を繋いで輪になってください。亜空間ゲートの方を移動して、上からくぐるように降ろします」
「了解」
ルイーナは右手を亜空間ゲートに向けて、次に天井に向けた。
すると、亜空間ゲートを設定している大きな輪が天井に移動し、ルイーナが隣の大介と手を繋いだ途端に輪が6人を囲むように降りてきた。
一瞬、世界が真っ白に輝いた。
眩しさに目を瞑る。
瞼を通して強烈な光がフラッシュしたが、すぐに収まる。
いずみが恐る恐る目を開けると、そこは既に見慣れたお社の舞台場だった。
「すごい…、行くときと違って、全然気持ち悪くなかった。こんなことができるなら行く時もこうやってヨォ!」
「いずみぃ、向こうでも説明しましたが、特訓前だとあのプロテインを飲んでも、あれが限度なんですよ。そもそも普通の人間なら、亜空間ゲートに入った時点で身体が崩壊するって話しましたよね? 聞いてました?」
「あ~、そか。じゃあこれからは今みたいに亜空間ゲートを使えるってこと?」
「まだ無理です。亜空間ゲートを制御するにはさらなる特訓が必要です」
「え~まだ特訓するの?」
「いずみ、俺たちは一生修行だと幼い頃から言われてきただろう。それと同じだ」
大介が呆れつつ、いずみの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「さ、これからが本番だ。気合いを入れて行くぞ!」
「了解!」
「了~か~い」
6人の新しい任務が始まった。
<続く>
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