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等々力ライナー04

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 大井町線がバイパス新線に移行して3か月が過ぎた。
 開通当初は奈美さんの指摘通り、田園調布~新田園調布駅間の地下連絡通路が大混乱を招いた。
 相互に行き交う乗り換え客が通行区分を無視して走るため、正面衝突を起こしたり、ゆっくり歩いている人を追い抜きざまにカバンをぶつけて転倒させるなど、マナーもモラルもない無法地帯となりつつあった。
 その後、奥沢駅での乗り換えの方が安全な上、早いことに気づいた旅客は奥沢駅に殺到する。
 ただ、上下層のホームへの移動が必要なため、エスカレーターが大混雑。
 体力に自信がない利用者はエレベーターでの移動が必須となり、混雑のためにこちらも多少の時間がかかった。
 それでも駅間での徐行運転がほとんどなくなったため、所要時間通りの運行が実現した。
 しかも新田園調布駅での緩急接続と上野毛での急行待避の甲斐あって、時間当たりの輸送力は1.3倍まで上がった。
 「奈美さんの予想通りになりましたね」
 「何が?」
 もう既に奈美さんの心はライトレールに完全移行していた。
 「いえ、なんでも…。しかし、バイパス線に移行して本当に3か月で開通するんですね…」
 「そりゃ事前準備に力入れてたもん、どこかの新線と違って…」
 …まだ根に持っていた…。

 そして、今日はいよいよライトレールの試乗会だ。
 バイパス新線と違い、今回は全線乗車できる。
 「やっぱり試乗っていうくらいだから、工事が完了していなくても全線乗りたいよね」
 う~、相当根が深そうです…。
 「確かに自由が丘駅や二子玉川駅は楽しみです。全てが刷新されてますからね」
 「それだけ? 私はやっぱりLRV(ライトレールビーグル)かな? 先週、長津田で見せてもらったばかりだけど…乗るのは初めてだからね」
 奈美さんの興味は、初めて本格的に開発されたライトレールビーグル“東急100形”に移っていたのだ。
 今までの国内製LRVは、いわば路面電車の域を出ておらず、海外並みの低床を実現することだけにこだわったり、乗車定員を増やすために多連結にしたりと、居住性重視で本格的に走行性能全般を追究したものはなかった。
 編成全長50m。4両編成。となっているが、台車部分に専用の車体があり、細かく言えば7車体となる。
 走行性能を確保するために車輪径は500mm。台車と車体間のバネは普通鉄道のような空気バネを採用。
 しかし1067mmの狭軌であるため、台車内に収めることはできない。
 台車側面に大きく張り出して、空気バネの受け皿は車体側に入り込んでいる。
 通常は空気バネの上に車体が乗るため、床面高さはこの受け皿の高さに影響される。
 東急100形はこのバネ部分を台車用の車体に組み込んだために、床面高さを600mmに抑えることができた。
 もっともその車内に出っ張った部分は、ロングシートにせざるを得なかった。
 車体幅は2.6m。今までの9000系や6000系より20㎝狭いが、LRVとしては幅広になる。
 車体幅が狭いため、他の部分は1+2のクロスシートで、ドア付近は二人掛けのロングシートとして通路幅を多く確保している。
 全線が専用軌道のため、営業運転最高速度は80km/h、通常は60km/hとなり、LRTとしては高速運転だ。

 今日は二子玉川から乗車し、自由が丘駅までの往復を試乗できる。
 「二子玉川駅のガレリアって大屋根のおかげで広々してたんですが、どういう風になったんでしょうね」
 「あの大屋根は消防法改正で再度設置ができなかったそうよ?」
 「え? じゃあ雨ざらしなんですか?」
 「まさか。でも大阪駅のような斜めの大屋根に変わったらしいから、雰囲気はだいぶ変わったと思うわ」
 「そういえば、バイパス線やライトレールの取材をしておきながら、二子玉川まで来ることはなかったですね」
 「そうなの? 私は長津田とか鷺沼に来てたから、大屋根は何度か見たけどね」
 「そうなんですか? どんな風に変わったんでしょうか?」
 「それは自分の目で見れば? どうせ今日見られるんだから(笑)」
 「あ、そうか。そうですね」
 そんな話をしていたら、大井町線の急行が明かり区間に出た。
 「あれ? 随分ガッチリした高架線ですね。上にライトレールの線路が通っているんですよね?」
 「工事期間も仮の軌道を支える必要があるから、かなりガッシリ作ったみたいね」
 上野毛を過ぎたところから既存の線路に戻るとはいうものの、その上空に新たにライトレールの軌道を設けたから、かなり大仰な線路に変わっていた。
 「日照権の問題もあったらしいけど、駅を設置するという条件で合意を得たそうよ」
 「ああ、だから予定になかった公文書館前駅っていうのができたんですね」
 「ただし地上4階。エスカレーターやエレベーターなしじゃ絶対に乗り降りしない駅ね」
 「あはは、さすがに…辛いですよね」
 ライズショッピングセンターが近づいてきて、ライトレールの軌道は左に分かれて行った。
 かなり高い高架橋だが、S字を描くように2つのビルの間に入って行く。

 「二子玉川駅は一度完全に改札外にでなくちゃいけないんですね」
 「ホームから直接乗り換えられる通路も計画したらしいけど、花火大会などの時に混乱するから敢えて分けたんだってさ」
 「確かにあの時はすごいですからね。一度来て懲りました…、おおーっ! 大屋根がっ!」
 大井町線急行が二子玉川駅に到着する直前、少しだけ左側にガレリアが見えた。
 前の平らな屋根より、斜めになった分迫力が増していた。
 その下に東急等々力線“等々力スローライン”二子玉川(ライズショッピングセンター)駅が望めた。
 「随分長い駅名になりましたね」
 「仕方ないでしょ。既存の二子玉川駅とは区別したいんじゃないかな? 乗り換え駅って言っても自由が丘みたいに直下というわけじゃないから…」
 「なるほど…。なら三軒茶屋もいっそのこと三軒茶屋(キャロットタワー前)駅とかに…」
 「言いたいことはわかるけどね…、その辺にしとこうね…」
 「…はは、はい(汗)」
 「あ、エレベーターで行くからね。そっちじゃないわよ」
 「え?」
 改札口に向かうエスカレーターと階段に向かっていた俺は呼び止められて、田園都市線下りホーム側に戻って行った。
 奈美さんに促されて、エレベーターに乗る。
 「あれ? 上?」
 「ここのエレベーター使ったことないの?」
 「ええ、大抵はエスカレーターで降りますけど…、こんなところがあったんですね」
 二子玉川駅は現在の改札口に移行した時、長い階段の両側にエスカレータが設置された。
 しかし、バリアフリー対策でエレベーターを設置する時、スペースがないため階段の上を跨ぐような通路が作られた。
 エレベーターは改札口のすぐ横に設置できたものの、直接ホームには行かれず、一度ホームより上にあるコンコースに出る。
 細長いコンコースを通り、ホームの端に設置されたコンコース~ホームを結ぶエレベーターに再度乗り込み、ホーム階に降りるのである。
 「ここのコンコースからならガレリアがかろうじて見えるのよ。ガラスがキレイな時はここで車両の写真を撮ることもできるわ」
 そう言って、奈美さんは手を伸ばして高窓からガレリアの風景を抑えた。
 「ホーム上部なら窓がないから写真を撮りやすいんだけど…角度がねぇ」
 「ライトレールばかりに興味がいってましたけど、既存の二子玉川駅も面白いですねぇ」
 「ここの駅も計画が二転三転されて、改良(?)と増築の繰り返しだからねぇ。色々不便なところもあるけど、駅としては面白いわ」
 「今度じっくり見学に来てみますよ」
 「そうね。駅ごとの特徴を見て回るのも面白いわよ。でも今日はライトレールの方だけにしときましょ。さ、いくわよ」
 …そういうや否や、奈美さんは改札口に向かうエレベーターに走って行った。
 自分でこのコンコースに誘っておいて…まったく…。

 改札口を出て、右に進むとタウンフロントとリバーフロントという二つの高層ビルの間に広い空間がある。
 ここがガレリアと呼ばれている大屋根の下で、“等々力スローライン”はここの2階からスタートする。
 大屋根が斜めに架けられているために、前ほど広々とした印象ではないが、ホーム上部が吹き抜けなのは気分がいい。
 特にフルスクリーンのホームドアで閉塞感が高いから、効果は抜群だ。
 「へえ、フルスクリーンだから新交通システムの駅のように、狭く感じると思っていたけどこれはなかなかいいですね」
 「乗車ホームと降車ホームが完全に分離してるから、動線がシンプルなのよ。券売機を挟んで入口と出口も分かれてるから、旅客の滞留も少ないしね」
 「なんだか遊園地の乗り物みたいですね」
 「ああ! そうか! それだぁ!」
 奈美さんは“やっと納得した”と言わんばかりに笑顔で応えた。
 まるで遊園地のアトラクションに乗るような、そんなワクワクさせる何かを“等々力スローライン”は期待させてくれた。
    <続く>
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