27 / 32
EX06
短絡線03
しおりを挟む
MooSooL/T_extra
妄想T/L_extra006-03
このストーリーは作者が勝手に妄想した路線や電車、バスなどを題材にした“妄想小説”です。
作品内に登場する各鉄道事業者や路線名、列車名などは全て“妄想”です。どんなに現実世界に似ていても一切の関係はありません。全て“妄想”です。
決して各事業者や関係者へのお問い合わせは行わないでください。
それによりトラブルが発生したとしても当方は一切の責務を負いません。
あくまで“妄想”であることをご理解いただきお読み下さい。
■03
奈美さんに教えてもらった東急大井町線の延伸計画は、その後多少の修正がなされたものの、ほぼそのまま決定された。
その中で一番驚いたのは!
「武蔵野貨物線への連絡線が残ってる!」
だった。
「当たり前でしょ。JRとの接続は昔から色々模索してたって。しかも今までとは違って無理のない計画なのよ? 実現しない手はないでしょ」
まるで我が事のように喜んでいる奈美さんに少々違和感を覚えた。
(なんで?)
まあ、ここで口を挟めばまた色々言われるから、もう少し様子を見てみようと思った…けどね。
基本的に東急車の搬入は長津田駅の連絡線を使って授受される。
ただ、東急車のほとんどが京急線の金沢八景至近のJRの総合車両製作所で製造される。
ここは元々東急車輌製造だった場所で、東急線に搬入するためには必ず京急線やJR線を甲種輸送で運ぶ必要がある。
同じ神奈川県なので、甲種輸送と言ってもあまり苦労しないと思われがちだが、それがなかなか大変なのだ。
まず京急線は東急とは軌間が異なる。1067mmの東急車に1435mmの仮台車を履かせても、JRとの引き継ぎ駅の逗子では仮台車から本台車に履き替えるスペースなどない。
そのため京急線の金沢八景~逗子間は3線軌道(レールが3本ある)になっているが、車体の中心線が偏っているためにそのままでは駅のプラットホームに車体が接触してしまう。
駅ごとにプラットホームの外側に車体が避けるようにレールが敷かれている。
が、今度は複線の内側に避けた場合、対向列車との間隔が狭まるために結局は営業時間内の輸送はできないのだ。
次にルートだが、逗子から横須賀線~根岸線~桜木町から東海道貨物線に入る。新鶴見信号所から武蔵野貨物線、府中本町からは南武線を通り立川から中央線、八王子で分割して(長津田駅の連絡線は最大6両編成までしか授受できないため)2日かけて長津田に送られるのだ。
途中、武蔵野貨物線を通るが現在は接続していないため八王子まで行き、さらに8両以上は分割しなければならない。
これが途中の“武蔵野貨物線”からダイレクトに搬入できるようになれば、効率もコストも激減する。
実際に作られる連絡線は渋谷方のみだが、これは長津田方への連絡線は急行線が急勾配で宮前平駅上空に駆け上がるため、接続できないからだ。
一度梶が谷駅の2番線まで進み、田園都市線の下り本線に転線することとなる。
現状では2番線は優等列車の通過を退避するために使われているが、急行線が完成すれば退避自体が不要になるため障害にはならない。
さらに連絡線は田園都市線や武蔵野貨物線への合流に際して、時間調整するためのダンパー線が計画されているため、日中でも使用可能となる。
「…へぇ、すごい。俺が考えてた以上に合理的な計画ですね」
「でしょ。だから言ったじゃない。昔から模索してたって」
「でも、東急線の計画なのにどうしてそこまで嬉しそうなんですか? 奈美さん?」
「うん。計画図をよく見て?」
そう言われて、俺は計画図に目を落とした。
「? あれ? 連絡線の向きが…」
「そう! よく気づいたわね。連絡線は梶が谷信号所方面に変わってるのよ」
確かにJR線へのアプローチが梶が谷信号所に向かっていた。
さらに急行線は梶が谷と宮崎台の間で上下線の間にもう一本線路が加えられていた。
「これは? なんか梶が谷駅に繋がってるけど?」
「むふふ。そこなのよ。私が嬉しかったのは」
「え? どういうことですか?」
「ここって、最初あなたが連絡線の可能性が! って言ってたところよ?」
「あ、本当だ。でもどうして?」
「既存線の地下に急行線を建設するけど、連絡線として使用するには溝の口まで行ってしまうと折り返しができないのよ。武蔵野貨物線から宮前平方面に繋ごうとしても、傾斜地が多くて急行線にも既存線にも接続できないから梶が谷方向に繋いだの」
「それがこの引き込みトンネルに?」
「スペース的に適切だし、上下線の間にあるから送り込みしやすいからね」
引き込み線が上下線の外側にある場合、折り返しには必ず上下どちらかの本線を跨がなくてはならない。
その場合、対向列車のダイヤにも影響が出る。
しかし、間にあれば進行方向の列車だけで済むのだ。
「それに連絡線は武蔵野貨物線へのアプローチ線手前まで単独で建設されるから、本線上のダイヤには無関係に通行できるのよ」
「おおっ! それはすごい。…あれ? そういうシステムどこかで似たようなものを見たような気がするけど?」
「うん。西武の所沢と武蔵野線の新秋津までが全部地下ではないけど、完全別線よね?」
「あ、そうか。それと同じような利便性があるんですね」
「変わるわよ。田園都市線」
「え? まさか…、そんな大げさなぁ」
「本数は少なくてもJRに直通できるインフラが整えば、運行形態に大きな可能性が生まれるわ」
奈美さんは本当に嬉しそうに語った。
まだ草案段階ではあるが、大井町線との複々線建設は決定した。その付帯設備としての連絡線建設は、少ない費用で効果が計り知れないと期待されてるらしい。
早く決定された計画書が欲しいが、それにはまだ少し時間がかかるだろう。
なぜならこの延伸複々線化は、工期が15年前後に及ぶ大工事となることが予想されている。
地質調査も詳細に行わなければ、完成後以前の東横線の日吉駅付近の陥没事故を再発してしまう。
そんな事は是が非でも回避しなければ、企業としての信用が地に落ちてしまうからだ。
「まあ、建設には莫大な費用がかかるし、そのためには綿密な計画が不可欠だしね。決定したらすぐに教えてもらえるわよ」
「そうですね。その日を首を長くして待ってましょう。とはいうものの、次号の初校の校正が溜まってました」
「ふふふ、まずは自分の仕事を処理しなきゃね」
そう言って奈美さんは自分のすっかりデスクと化したミーティングデスクに向かった。
田園都市線の未来に夢を抱きつつ、俺は初校の校正を始めた。
<続く>
妄想T/L_extra006-03
このストーリーは作者が勝手に妄想した路線や電車、バスなどを題材にした“妄想小説”です。
作品内に登場する各鉄道事業者や路線名、列車名などは全て“妄想”です。どんなに現実世界に似ていても一切の関係はありません。全て“妄想”です。
決して各事業者や関係者へのお問い合わせは行わないでください。
それによりトラブルが発生したとしても当方は一切の責務を負いません。
あくまで“妄想”であることをご理解いただきお読み下さい。
■03
奈美さんに教えてもらった東急大井町線の延伸計画は、その後多少の修正がなされたものの、ほぼそのまま決定された。
その中で一番驚いたのは!
「武蔵野貨物線への連絡線が残ってる!」
だった。
「当たり前でしょ。JRとの接続は昔から色々模索してたって。しかも今までとは違って無理のない計画なのよ? 実現しない手はないでしょ」
まるで我が事のように喜んでいる奈美さんに少々違和感を覚えた。
(なんで?)
まあ、ここで口を挟めばまた色々言われるから、もう少し様子を見てみようと思った…けどね。
基本的に東急車の搬入は長津田駅の連絡線を使って授受される。
ただ、東急車のほとんどが京急線の金沢八景至近のJRの総合車両製作所で製造される。
ここは元々東急車輌製造だった場所で、東急線に搬入するためには必ず京急線やJR線を甲種輸送で運ぶ必要がある。
同じ神奈川県なので、甲種輸送と言ってもあまり苦労しないと思われがちだが、それがなかなか大変なのだ。
まず京急線は東急とは軌間が異なる。1067mmの東急車に1435mmの仮台車を履かせても、JRとの引き継ぎ駅の逗子では仮台車から本台車に履き替えるスペースなどない。
そのため京急線の金沢八景~逗子間は3線軌道(レールが3本ある)になっているが、車体の中心線が偏っているためにそのままでは駅のプラットホームに車体が接触してしまう。
駅ごとにプラットホームの外側に車体が避けるようにレールが敷かれている。
が、今度は複線の内側に避けた場合、対向列車との間隔が狭まるために結局は営業時間内の輸送はできないのだ。
次にルートだが、逗子から横須賀線~根岸線~桜木町から東海道貨物線に入る。新鶴見信号所から武蔵野貨物線、府中本町からは南武線を通り立川から中央線、八王子で分割して(長津田駅の連絡線は最大6両編成までしか授受できないため)2日かけて長津田に送られるのだ。
途中、武蔵野貨物線を通るが現在は接続していないため八王子まで行き、さらに8両以上は分割しなければならない。
これが途中の“武蔵野貨物線”からダイレクトに搬入できるようになれば、効率もコストも激減する。
実際に作られる連絡線は渋谷方のみだが、これは長津田方への連絡線は急行線が急勾配で宮前平駅上空に駆け上がるため、接続できないからだ。
一度梶が谷駅の2番線まで進み、田園都市線の下り本線に転線することとなる。
現状では2番線は優等列車の通過を退避するために使われているが、急行線が完成すれば退避自体が不要になるため障害にはならない。
さらに連絡線は田園都市線や武蔵野貨物線への合流に際して、時間調整するためのダンパー線が計画されているため、日中でも使用可能となる。
「…へぇ、すごい。俺が考えてた以上に合理的な計画ですね」
「でしょ。だから言ったじゃない。昔から模索してたって」
「でも、東急線の計画なのにどうしてそこまで嬉しそうなんですか? 奈美さん?」
「うん。計画図をよく見て?」
そう言われて、俺は計画図に目を落とした。
「? あれ? 連絡線の向きが…」
「そう! よく気づいたわね。連絡線は梶が谷信号所方面に変わってるのよ」
確かにJR線へのアプローチが梶が谷信号所に向かっていた。
さらに急行線は梶が谷と宮崎台の間で上下線の間にもう一本線路が加えられていた。
「これは? なんか梶が谷駅に繋がってるけど?」
「むふふ。そこなのよ。私が嬉しかったのは」
「え? どういうことですか?」
「ここって、最初あなたが連絡線の可能性が! って言ってたところよ?」
「あ、本当だ。でもどうして?」
「既存線の地下に急行線を建設するけど、連絡線として使用するには溝の口まで行ってしまうと折り返しができないのよ。武蔵野貨物線から宮前平方面に繋ごうとしても、傾斜地が多くて急行線にも既存線にも接続できないから梶が谷方向に繋いだの」
「それがこの引き込みトンネルに?」
「スペース的に適切だし、上下線の間にあるから送り込みしやすいからね」
引き込み線が上下線の外側にある場合、折り返しには必ず上下どちらかの本線を跨がなくてはならない。
その場合、対向列車のダイヤにも影響が出る。
しかし、間にあれば進行方向の列車だけで済むのだ。
「それに連絡線は武蔵野貨物線へのアプローチ線手前まで単独で建設されるから、本線上のダイヤには無関係に通行できるのよ」
「おおっ! それはすごい。…あれ? そういうシステムどこかで似たようなものを見たような気がするけど?」
「うん。西武の所沢と武蔵野線の新秋津までが全部地下ではないけど、完全別線よね?」
「あ、そうか。それと同じような利便性があるんですね」
「変わるわよ。田園都市線」
「え? まさか…、そんな大げさなぁ」
「本数は少なくてもJRに直通できるインフラが整えば、運行形態に大きな可能性が生まれるわ」
奈美さんは本当に嬉しそうに語った。
まだ草案段階ではあるが、大井町線との複々線建設は決定した。その付帯設備としての連絡線建設は、少ない費用で効果が計り知れないと期待されてるらしい。
早く決定された計画書が欲しいが、それにはまだ少し時間がかかるだろう。
なぜならこの延伸複々線化は、工期が15年前後に及ぶ大工事となることが予想されている。
地質調査も詳細に行わなければ、完成後以前の東横線の日吉駅付近の陥没事故を再発してしまう。
そんな事は是が非でも回避しなければ、企業としての信用が地に落ちてしまうからだ。
「まあ、建設には莫大な費用がかかるし、そのためには綿密な計画が不可欠だしね。決定したらすぐに教えてもらえるわよ」
「そうですね。その日を首を長くして待ってましょう。とはいうものの、次号の初校の校正が溜まってました」
「ふふふ、まずは自分の仕事を処理しなきゃね」
そう言って奈美さんは自分のすっかりデスクと化したミーティングデスクに向かった。
田園都市線の未来に夢を抱きつつ、俺は初校の校正を始めた。
<続く>
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
八十年目の恋〜タイと日本の大福餅〜
十夢矢夢君(とむやむくん)
恋愛
太平洋戦争末期、一人の日本の陸軍軍医と駐屯地で出会ったタイ人女性が、ひょんなことから日本の和菓子『大福餅』を通して織りなす愛と友情の物語。彼らが生きた時代から八十余年を経て、その絆は今、新たな形で再び紡がれる――物語の舞台は第二次世界大戦の最中と現在のタイ王国。「二つの国を繋ぐ絆」と「新たな人生への挑戦」過去と現在が交錯する中で描かれる心温まる実話を基にしたヒューマンストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる