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EX06

短絡線02

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このストーリーは作者が勝手に妄想した路線や電車、バスなどを題材にした“妄想小説”です。
作品内に登場する各鉄道事業者や路線名、列車名などは全て“妄想”です。どんなに現実世界に似ていても一切の関係はありません。全て“妄想”です。
決して各事業者や関係者へのお問い合わせは行わないでください。
それによりトラブルが発生したとしても当方は一切の責務を負いません。
あくまで“妄想”であることをご理解いただきお読み下さい。

■02
 特集記事は廃線をメインに、その活用方法を紹介する形で短絡線のリストアップを行った。
 調べてみると昔は貨車の授受の為にそれこそ無数に“連絡線”が存在していた。
 ところが!
 その当時は物資の輸送が目的で、現代のような他社線直通列車は稀なことがわかった。
 具体的には戦後のGHQ人員輸送が最たるものだ。
 つまり各地の駐留地から駐留地に移動するための直通列車だった。
 しかし今では想像できない直通列車も存在していた。
 それは奈美さんの御用達ともいうべき、東武東上線の臨時列車だ。
 池袋駅から川越駅まで走り、当時非電化区間の川越線を機関車牽引で大宮まで抜け、野田線に入る。
 そして終点の船橋まで東武線を走り、世間を驚かせた。
 他にもとんでもない直通運転が、様々な私鉄・国鉄間で臨時列車として運行された。

 た。

 う~む。
 全く特集記事がまとまらない。
 「またサボってる。無茶な企画ばかり提案するからよ」
 「へ? 奈美さん?」
 いつの間にか背後に奈美さんが立っていた。
 「むちゃな企画…って、短絡線が? ですか?」
 「だって主だった短絡線の企画はもうどこでも出尽くしてるじゃない」
 確かに他社の企画でも短絡線は定期的に特集が組まれていて、もう出尽くした感はある。
 しかし!
 「新しい路線計画は行われていて、そのネットワークを利用すれば思いもしない直通運転ができるかもしれないじゃないですか? そこをズバっとつつきたいんです!」
 「本音出たわね。スクープ記者みたいな世間を驚かせる企画をでっち上げて注目される!」
 「そんなこと考えて…、あ、そうか。そういう手があったんですね」
 「…気づいてなかったのね…、ははは…」
 奈美さんは呆れつつ笑った。
 「で、苦悩状態の君には申し訳ないけど… これあげる」
 そう言って奈美さんは何かの資料のコピーを机に置いた。
 「へ?」
 表紙は東急大井町線鷺沼延伸計画素案とある。
 「これは? え? ええっ!」
 なんと20年越しの計画だった大井町線の延伸計画書だった。
 「奈美さん! これって!」
 「うん。本当はまだ社外秘なんだけどね」
 と、言いつつ奈美さんだって社外の人間じゃん! と言うツッコミは置いといて。
 「どうやって入手したんですか? しかも俺にコピー渡して… いいんですか?」
 「あ~、なんていうか…、東急の企画案として東武の広報や運行課に素案が打診されて、意見をもらいたいということらしいの」
 「で、奈美さんは俺にその極秘資料を提供してもいいんですか?」
 「あ、もちろん東急側には許可もらってるわよ? 多くの意見が欲しいけど、マスコミのようなスクープにしなければ構わないってことだったの」
 確かに決定事項のような報道は避けるべき段階で、で。
 「え? ええっ! これって!」
 「そういうこと。私が君の梶が谷駅南方の留置線のことを話したら、東急の広報部の人も面白いって言ってくれたの」
 「へえ、それで、この計画案のこれ?」
 「そういうこと」
 なんというか。大井町線延伸で一番のネックになっていた線路用地取得の解決案が、地下線建設及び二重高架線の採用だった。
 複々線は大井町線延伸部分として検討されはしたが、大井町線というよりは田園都市線の急行線増線としての性格が強くなった。
 田園都市線優等列車は溝の口駅先から地下線に入り、宮崎台駅と宮前平駅間から明かり区間となり、一気に高架線に登って行く。
 各駅停車は既存の施設を最大限有効活用するように、極力線路配置を変更しない方法を提案している。
 ただし、宮前平駅は前後の地形の起伏が激しく、すぐ横を通る尻手黒川道路を跨ぐ下路アーチ鉄橋は活用できないため、全てPCコンクリート橋に架け替えなければならない。
 さらに鷺沼駅へのアプローチのため、現在大井町線の鷺沼車庫は廃止・撤去。
 既存線は上り線が大きく北側に膨らみ、35パーミルの急坂を駆け下りてくる。
 急行線は2階建構造の上部を通過するためにここまでの勾配はきつくないが、宮前平駅を通り過ぎた辺りから一気に地下線に突入するから、まるで遊園地のコースター並みの景観となりそうだ。
 一時的に廃止された大井町線の鷺沼車庫は、完成後にその地下に展開されるが、敷地確保のために鷺沼駅直下まで広げられる。
 さて、溝の口から宮前平間の地下線は、地形の起伏が激しいために部分的に大深度地下線となるが、全体的勾配が緩くなるために消費電力や騒音が緩和される。
 所要時間も現在の優等列車と比べて約45秒の短縮となる見込みだ。
 「45秒も? あの区間は時速110キロでかっ飛ばしてますよ? それがさらに短縮って」
 「確かに最高速度は速いけど、梶が谷付近や鷺沼辺りは先行列車や線形で制限がかかるから意外にロスが多いのよ」
 「ああ、確かに梶が谷通過時は速くても時速75キロ以下ですよね」
 溝の口を発車した優等列車は、梶が谷手前のトンネルまで急勾配を駆け上がり、2つのポイントを通ってカーブのホームを抜けてゆく。
 鷺沼手前の勾配も宮前平の鉄橋辺りが最下地点となるため、充分な加速を行えずに急勾配を登って行くことになるからだ。
 「新線建設の効果は大きそうですね。… しかし …。」
 計画図には宮崎台南方に“武蔵野南線(貨物線)”と表記され、田園都市線の地下線から点線が伸びていた。
 「これは?」
 「うん! あなたが言ってた、武蔵野線への短絡線 みたいね。あなたと同じような考え方する人がいたみたいね」

 奈美さんはスンゴクわざとらしい感想を宣った。
 「まさかと思いますが…、これ、奈美さんの仕業…ですよね?」
 「あはっ、バレたか」
 「当たり前ですよっ! 田園都市線の複々線化には全く関係ないじゃないですか。それなのに同時に武蔵野線と接続するなんて、こんなこと誰も思いつかないですってっ!」
 「あ、そうでもないのよ? 以前から長津田の連絡線以外で、JRに直通できる方法を模索してたんだって」
 「え?」
 「前にThe Royal Expressが北海道を走ったでしょ? あれは特別な例だけど、臨時列車として東急沿線からクルーズトレインが走らせられないか検討してたんだって」
 「クルーズトレインですか? でも東急のターミナルはほとんど直通運行してるから、クルーズトレインに乗客を乗せるのは難しくないですか?」
 「え? あなたがそれを言う? 短絡線の特集素案の時に、小田急線経由で御殿場まで直通させたら? とか言ってたのに?」
 「あ、あれは例えばの話ですよ。まあ東横線の渋谷駅なら退避できるかな? と思ったんですけどね」
 東急は幹線となる東横線は、渋谷で地下鉄副都心線と横浜では横浜高速みなとみらい線と相互乗り入れし、田園都市線は渋谷で地下鉄半蔵門線と相互乗り入れしている。
 さらに目黒線も目黒で地下鉄南北線/三田線との直通運転している。
 そうなると本来の意味でのターミナル駅は、大井町線の大井町、池上線の五反田、池上線と多摩川線の蒲田だけだ。
 この中でクルーズトレインの起点にできるのは大井町線の大井町駅しかない。
 東急の座席指定車“Qシート”の運用が大井町線で始まったのは、そういう背景があるのだった。
 やがて“Qシート”が知名度を上げたこともあり、東横線でもサービスが開始されたが、それは渋谷始発の特急限定となった。
 「だとすると、やはりクルーズトレインは渋谷始発なんでしょうね?」
 「大井町だと訴求力に欠けるかもね。ま、それも大井町線の鷺沼までの延伸が完成してからよね」
 「あ、でもそれだと田園都市線の渋谷駅始発ってことですか?」
 「だ・か・ら、まずは大井町線の延伸工事が完了しないことには、なんとも言えないでしょ!」
 奈美さんは困った顔で編集長の方に歩いて行った。
 「?」
 編集長が睨んでいたのに俺も今更ながら気付いた。
 …そうか…。
 奈美さんが気遣ってくれたのは、これで梶が谷駅南方の引き込み線が活用されることがなくなったからなのだ。
 だから…。
 
 さ、さっさと特集記事纏めなきゃ。

 俺はパソコンのキーを叩き始めた。
    <続く>
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