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EX06

短絡線01

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このストーリーは作者が勝手に妄想した路線や電車、バスなどを題材にした“妄想小説”です。
作品内に登場する各鉄道事業者や路線名、列車名などは全て“妄想”です。どんなに現実世界に似ていても一切の関係はありません。全て“妄想”です。
決して各事業者や関係者へのお問い合わせは行わないでください。
それによりトラブルが発生したとしても当方は一切の責務を負いません。
あくまで“妄想”であることをご理解いただきお読み下さい。

■01
 近年全くの新規路線開業は極めて少なくなっている。
 その理由は数々あるが、よく言われるのは高齢・少子化によるラッシュ時の混雑率の低下だろうか?
 現存する路線でも、通勤通学時間帯の混雑に充分対応できていると“学識経験者”の調査結果でも報告されているという。
 もっとも、その学識経験者のどれほどの人が、毎日ラッシュの車両に乗っているのかは定かではないが…。
 さらに新幹線網の新規開業に伴う並行在来線の廃止。
 しかし、地元住民の貴重な交通手段が失われてしまうために、その救済措置として国や自治体などによる助成金支給による第三セクター化が通例となっている。
 ところが、元々は通過旅客による運賃収入が大きな比重を占めている路線が分割されても、健全運営できるはずもなく、といって沿線住民だけの通勤通学収入では到底まかないきれない。
 第三セクター鉄道のほとんどは、生き残るために観光目的で多くの旅客が訪れるように、地元住民と協力して観光地の整備やイベントなどで盛り上げようと努力している。
 ただ旧来の線路を存続するために、新会社として新たな鉄道を運営するが決して“新規路線開業”ではない。
 翻って大都市近郊では“新規路線開業”が増えている。
 最近の傾向は既存路線を有機的に結びつけ、利用者が乗り換えなくとも色々な所へ行かれるような開業が多くなっている。
 そのパイオニア的路線はJR東日本の“湘南新宿ライン”だろう。
 開業にあたってはほとんど新規線路を建設せず、最大の効果を上げている。
 ポイントの増設や駅の改良延長工事、標識などの差し替えという程度だ。
 開業のための経費のほとんどはダイヤの作成や !ぽふっ!

 て! …。

 「また回りくどい書き方してる! それじゃあ読者が本題に入る前に飽きるわよっ!」
 「え? 奈美さん? なんでここに?」
 タイピングに夢中で、すぐ後ろに奈美さんが立っていたのに気付かなかった。
 手にはオレンジ色のメガホンを持っている。あれで俺の頭を叩いたらしい。いつものハリセンよりは痛くないが驚かされたのには変わりない。
 ちなみに奈美さんは、最近航空機の撮影の仕事を受けるようになったらしく、まさに忙しく日本中を飛び回っている。だから鉄道ライフの編集部に顔を出すことが少なくなっていた。
 「そんなこといいから、まずは“どど~~ん”とぶち上げてから、特集のテーマを説明しなさいよ」
 「どど~~んって、地味なテーマだからそんなに強力なコピー浮かびませんよぉ!」
 ポフポフポフ!
 「何言ってるの。地味だからこそテーマを印象付けるのよ!」
 「はぁ」
 奈美さんは我が鉄道ライフの専属カメラマン。だったが、社長と付き合いのある旅客機の雑誌のデスクからヘルプがあり、今では掛け持ちになっている。しかも行った先で地方鉄道の取材ができると社長が宣い、コラム風のコーナーまで担当することになった。
 まさに売れっ子カメラウーマン&ライターだ。

 「それで今回のテーマは、短絡線なんでしょ? 相互乗り入れのルートにも使われるけど、開業したら珍しくなくなるわよね?」
 「まあ、そうなりますが、短絡線を有効利用しようとする動きが活発で、思わぬルートが実現するじゃないですか?」
 「ルートの構築はプロに任せて、現在ほとんど使われていない短絡線や旅客以外の路線も面白いわよ?」
 なぜか奈美さんが喰いついてきた。
 「何よ、その意外そうな表情は?」
 「い、いやぁ。奈美さんには当たり前すぎて、今更特集組む価値を感じてもらえないと思っていたもんで…」
 「そんなことないわよ? 短絡線は重要よ。2020年に高崎線の熊谷貨物ターミナルと秩父鉄道の三か尻間にあった貨物線が廃止されて、長年東武の新型車両などの甲種輸送で使用されていたけど、不可能になったので栗橋の連絡線を使うようになったのよ」
 「ああ、そういえば。でも逆にJR線から直接車両授受できるようになってよかったのでは?」
 南栗橋駅は東武最大の車両基地たる南栗橋車両管区がある。栗橋駅は隣なので車両回送も一駅間で済むので効率が良くなったように感じるが、車両自体の授受はJR線側は直通用の側線があり、6輌編成までは問題なく対応できる。
 しかし、東武線側は栗橋駅の北西に本線上で合流する。しかも上り本線上でのスイッチバックとなるため、営業時間内での授受は不可能(※)となる。
 ※特殊事情により本線上で停車することは可能だが、逆走しての入線や本線上での進行方向の切り替えには、相応の時間がかかる上、牽引車の交換が必要となるので、保安装置などの設定切り替えが複雑になる。
 1区間だけを切り離すことができないので、営業運転終了後に行われるのだ。
 「栗橋駅の構内配線を変更すれば効率的な授受もできるようになるだろうけど、少ない甲種輸送のためにそこまで費用はかけられないでしょ?」
 「ああ、確かに…」
 「でも、それも短絡線があっての話よね」
 奈美さんが苦笑する。
 「JRと東武の特急列車直通のための設備が役立った好例よね。しかも栗橋なら納車検査する南栗橋車両管区のすぐ隣だし、回送も時間がかからないから以前より搬入しやすくなったとも言えるしね」
 「なるほど。でもそれなら他の民鉄はどうしてるんでしょう?」
 基本的に甲種回送という形で至近の貨物ターミナルから送り込まれるが、線路が繋がっていない場合はトラック牽引による道路輸送となる。また、軌間が異なる場合はほとんどがこの方法となる。
 他にも船舶輸送により港から道路輸送される場合もある。
 しかし、夜間とはいえ道路輸送の場合は1両単位で行われるので、時間や人件費がかさむ。
 よって大手民鉄は線路を有効に使う手段を好む。
 例えば東京メトロの場合は軌間の異なる銀座線と丸ノ内線を除いて、各検修区への送りこみはほとんど甲種輸送となっている。
 東西線や千代田線は、JR線と相互直通運転してるために直接搬入できるが、日比谷線・有楽町/副都心線・半蔵門線は少し複雑な搬入となる。
 日比谷線13000系は熊谷貨物ターミナルから秩父鉄道経由で羽生へ送り、東武線を回送して竹ノ塚検車区に搬入された。また、有楽町/副都心線の17000系は千代田線と同様に綾瀬検車区に搬入され、納車チェック後に桜田門の短絡線を通して有楽町線新木場検車区に回送された。
 半蔵門線18000系は少々手が懸かるが、JR八王子駅構内で5両単位に分けられ、2日間に渡って長津田駅構内の受け渡し用連絡線を使用して東急田園都市線を介して鷺沼検車区に送り込まれた。
 つまりこの3車種のうち、本来の“短絡線”を介しているのは日比谷線用の13000系のみであり、有楽町/副都心線用17000系は自社線内の短絡線を使用して配置路線に、半蔵門線用の18000系については長津田駅構内のJR/東急連絡線による搬入となっている。
 「そうかぁ。やはり短絡線は重要な役割を果たしているんですね」
 「そりゃそうよ。自社線内のみではなく、他の鉄道事業者との連携には不可欠なものだもの。相互直通してない場合は特にね」
 「そこで現在気になっている箇所があるんですが…」
 「気になる? どこ?」
 「東急田園都市線の梶が谷駅南方にある引き込み線です」
 「? !ああ、あそこね。本線の間にあって先端部がトンネルになっているところね?」
 「さすが! 奈美さん。あそこはなぜあんな線形なのか不思議で色々調べているんですが、なかなか…」
 1929(昭和4)年に大井町線として大井町~二子玉川が全線開通した。
 その後1943(昭和18)年に軌道線だった玉川線が溝の口まで延伸され、1963(昭和38)年に田園都市線に改称された。
 やがて東急多摩田園都市の開発に合わせて、1966(昭和41)年に溝の口~長津田間が開業した。
 開通当時、梶が谷駅南側には折り返しのための引き上げ線が設けられた。上下本線間に作られたものの、その長さは4両編成分程度だったため先端部分は、本線のようにトンネルになっていなかった。
 田園都市線は最終的に中央林間まで延伸されるが、その都度運行車両は増結されて最終的に10両編成となった。
 梶が谷駅南部の引き上げ線では有効長が足りなくなり、トンネルのように掘り進んで対応した。
 「戦前戦中に梶が谷射撃場があったので、それに関係してるのかと思ってましたが全く関係なかったので、少しガッカリしました」
 「何でもかんでも理屈付けるのは良くないけど、調べるのはいいことよね」
 「そうなんです。思わぬところにヒントが見つかることってありますよね」
 「その言い方だと何か見つけたのね?」
 奈美さんは興味深そうに聞き返してきた。
 「武蔵野線です」
 「え?」
 「武蔵野南線という貨物線が至近の地下を通っています」
 「なるほどね。ただ、短絡線を作るには離れすぎてない?」
 「しかし、さっきの引き上げ線のトンネルから掘り進み、国道246号線沿いに南に行けば約3キロで梶が谷貨物ターミナルにつながります」
 「でも需要は? ただ単に線路をつなげても、建設費に見合った利益が出せないと意味がないわよ?」
 奈美さんはいつもながらに指摘が鋭い。
 「ですよね。だから最初は甲種輸送だけでなく、直通するイベント列車や将来的に定期運用できる可能性を考えてみました」
 「おおっ。だいぶ成長したわね」
 「まず、現状では東急の車両は新車の甲種回送も改造などの大工事の多くは、京急線の金沢文庫にある総合車両製作所で行われます。京急逗子から横須賀線を経由して八王子で最大5両に分割。2日かけて八王子から横浜線の長津田で受け渡しが行われます」
 「そうよね。引き込みできるのが最大6両までだから、八王子で分割しなきゃいけないのよね」
 「そこで梶が谷貨物ターミナルからなら10両編成でも逗子から直接送りこめるかな? と」
 「なるほど。でも月に数本のために建設するわけにはいかないもんね。イベント列車などは?」
 「東急では子会社の伊豆急行でThe Royalってクルーズトレインを運行してますが、昔は横浜発着だったのを渋谷発着にして、梶が谷から武蔵野南線・品鶴線経由で伊豆急下田まで。梶が谷貨物ターミナルでスイッチバックすることも可能なら武蔵野線経由で東武日光・鬼怒川までのスペーシアも可能だと思いますし、中央線経由で長野方面にも走らせることができるでしょう」
 「スペーシアはすごく魅力的だけど、じゃあ渋谷から? となると、今まで通り新宿の定期特急でいいんじゃない?」
 「まあそうですが、クルーズトレイン的に可能性が広がるかと?」
 「でもそれじゃあ、建設費を回収できないと思うな。もっと有効利用できる価値がないと…」
 奈美さんはよく突飛なアイディアを披露するが、それは細心な思案の末なので、確かな根拠がないとなかなか賛同してくれない。
 「難しいですね。新たな短絡線を作るというのは…。でも有楽町線の分岐線は開業できましたよね? それだけ有効な活用方法だったんでしょうか?」
 「ああ、住吉線(※)ね。実はあれ、短絡線じゃないのよ」
 「ええっ?」
 ※住吉線は、有楽町線豊洲駅から分岐して半蔵門線住吉駅に接続する路線で、そのまま半蔵門線押上まで線路を共用して押上からさらに延伸。四ツ木あたりで分離して半蔵門線は松戸方面へ、有楽町線は亀有を経由して野田方面を目指す。
 「なるほど約20年前の延伸計画の一部なんですね」
 「そういうこと。だから短絡線とは根本的に違うの」
 「なるほど。じゃあ純粋に短絡線と言えるのはどういうものですか?」
 「う~ん。色々あるけど、有名なところでは有楽町線の桜田門駅西から千代田線霞ケ関駅西の間とかは、車両の点検などで綾瀬検車区への入出場目的で作られた純粋な短絡線ね」
 「別々の駅ですよね。同じ駅の中では単に連絡線とでも言えばいいんですかね?」
 「ま、厳密な定義はされていないから、異なる会社間や路線間なら短絡線と呼んでもいいんじゃないかしら?」
 「そうなんですかね? 確かに単に車両の授受のために、駅構内に設けられた配線は連絡線と呼ばれる方が多いですね」
 「東武も栗橋駅構内の配線でもJR東武連絡線と言ってるしね」
 はっきりした規定がないのは、戦後に国鉄・私鉄間での効率がいい物資輸送のための積み替え作業を省くために、貨車を直通させる方法を確立させたためだ。
 貨車自体は無動力なので線路さえ同軌間なら授受できる。操車は当初、蒸気機関車なので架線などを張る必要がない。
 のちに非電化線であるがために、入れ換えは小型のディーゼル機関車に変わった。
 と、そこまではいいのだが、年々減る一方の貨物需要では直通させる2軸貨車の運用管理が困難となる。
 一つは貨車の老朽化。
 もう一つは操車コストだ。
 操車とは全国から集まった貨車を目的地に向かわせるための組み替え、つまり貨物列車の編成変えだ。
 貨車単位での組み替えのために単線ではもちろん不可能なので、大掛かりな操車場が必要不可欠となる。
 その設備の運用管理コストが賄えなくなり、貨物列車の廃止が増えた。
 そうなると末端の国鉄~各私鉄との貨車の直通も減り、貨物輸送そのものが消滅していった。
 当然、それまで使用していた連絡線は不要となるため、線路を撤去して他の目的で使用されることとなるのだ。
 「そういえば東急も昔、菊名に貨車が直通した連絡線があったそうよ?」
 「菊名に? どの辺だろう? あんな密集したところに連絡線なんて作れたんですかね?」
 「よくわからないけど、横浜の方から八王子の方に抜けてたみたいよ。資料が乏しくてよくわかんないんだけどね」
 「桜木町のあたりから貨物列車が出ていたのかな?」
 「まあ、どっちにしても昔は“連絡線”というのは、珍しくなかったのかもね」
 「? あれ? じゃあ“連絡線”と“短絡線”の違いって何ですか?」
 「そのままじゃない? 他の路線と直通するために設けられたのは“連絡線”、利便性を重視して新たに2点間を結ぶ線路敷設したものが“短絡線”なんじゃない?」
 「… … なるほど… ってそのままじゃないですかっ!」
 奈美さんはキョトンとした表情で『当たり前じゃない』と答えた。

 さて、こうなってくるとこの特集の落とし所が難しくなってきた。
 仮に梶が谷の引き込み線からJRの梶が谷操車場まで短絡線を作っても、その有用な目的が思いつかない。
 「何もそこだけに限らず、他社の短絡線の状況を見てみたら?」
 「他社の短絡線? 他にどこか目立ったところありましたっけ?」
 「ぉぃぉぃ、短絡線の特集を企画してる本人がそれじゃ先行き不安だよ? 例えばJR武蔵野線の新秋津と西武線の所沢間の短絡線だって有名じゃない。あそこは今では主に西武車の搬入に使われるだけになっちゃったけど、昔は秩父からの石灰輸送にも使われていたんだよ?」
 「石灰? それって東飯能で八高線を経由してませんでしたっけ?」
 「ルート上の問題で、ごく一部だけど新秋津でも貨車の授受が行われていたそうよ?」
 「あ、定期列車じゃないんですか?」
 「そうだけど、短絡線があることで柔軟に対応できたことは確かでしょ?」
 「なるほど。選択の余地があるからできることですね」
 貨物輸送そのものが廃止された現代では、維持費の方がかかるため廃止されてしまった路線が多い。
 新車搬入や検査のための甲種輸送に必要なところは残されているが、わざわざ新規に敷設する例はごくわずかなのだ。
 「あ、そういえば小田急って、新松田の短絡線を使って御殿場線経由で新車等の搬入をしてるんですね」
 「そうね。単に御殿場線直通の特急富士山のためだけじゃないのよね」
 「小田急? そうかっ!」
 「何よいきなりっ! びっくりしたじゃない!」
 奈美さんは口を尖らせて顔を近づけてきた。
 俺は思わず引いてしまったが、そのままにしてたら唇がくっついたかも…なんて、ちょっと期待するもののそんな場合ではなかった。
 「奈美さん! そうですよ小田急です!」
 「はい?」
 奈美さんは複雑な表情で仰け反った。
 「貨物線として開通した武蔵野南線ですが、現在は運行上かなりゆとりがあります。その一部を旅客化して、活用すれば田園都市線と小田急線を結びつけることができるんじゃないですか?」
 「(-_-)? どういうこと?」
 「武蔵野貨物線を経由して、小田急に乗り入れて新松田からJR御殿場線の御殿場まで直通特急を走らせるんですよ!」
 「はい? 『走らせるんですよ』って、目的は?」
 「現在、田園都市線の二子玉川から高速バスが出てますが、その中に御殿場のアウトレットモールに行く便があるんです。それが割と乗車率がいいので増便することもあるんだとか」
 「え~、それってバスだからコストがかからずに直行便が設定できるんでしょ? 短絡線作って、各社の調整や協力を得て実現しても採算取れるの?」
 「だからです! 現在、東急線から他社線に直通して観光地に向かう列車はありません」
 「ま、そもそも東急には伊豆急の『The Royal Express』しか特急車はないしね。でもそうなると特急車も必要になるんじゃない?」
 「JRの四季島や瑞風のような高級車にする必要はないとしても、257系5000番台あたりのクオリティーは必要でしょうね」
 「波動用としても無謀すぎない? 他社乗り入れを前提にした新型特急なんて」
 奈美さんは困ったような表情で、『まあ、妄想するのは自由だしね』などと言いながら、編集長の方に歩いて行った。
 う~ん。もう少し煮詰めてから企画書を作ってみようかな? などと本気で決意してみた。
 ただ、特集のテーマとは別にすべき…だろうな。と反省した。
    <続く>
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