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EX05
箱根・日光・鬼怒川クルーズトレイン03
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『没!』と言われて、ならば!…などと、すぐに代替案が出せるはずがない。
結局、原点に立ち返って『何が面白い』のかというところから考え直すことにした。
そもそも東武特急のスペーシアが小田急線を走って何が面白い?
いくら思いつきだからと言って、それを否定したら本末転倒だろう。
だから面白い理由を探し出す。
東武100系スペーシアは、窓の天地サイズはさほど大きくない。
でもその窓は、普段ビルや畑、田んぼ、山並みくらいしか楽しめない。
ならば海が見えるルートはどうだろう。
(海と言っても、東京湾しかないよな…とすると、京葉線…かな?)
頭の中で自問自答しながら、東京湾岸の地図を眺める。
「あっ!」
京葉線は東京駅地下の京葉線ホームから新木場を通るが、都心部では他の路線との接続ができない。
武蔵野線西船橋駅や内房線の蘇我駅間しか直通はできないのだ。
そうなると最初に思いついた、東京湾を望める荒川河口橋を通過することは不可能だ。
何かいいアイディアがないか、ネットを漁りながら新しいルートの模索をする。
「あれ? 埼京線京葉線直通?」
埼京線はりんかい線新木場駅まで乗り入れてるから、正確にはりんかい線京葉線直通という意味らしい。
動画らしいその記事をクリックすると、ジョイフルトレインが埼京線からりんかい線を経由して京葉線に乗り入れるシーンが映し出された。
「おおっ! これだっ!」
りんかい線なら小田原から湘南新宿ラインを通れば、大崎に行ける。
大崎ではスイッチバックする必要があるものの、りんかい線には入線できる。
りんかい線は普通鉄道規格で建設されてるから、地下線とはいえ拡幅車体・前面非貫通型のE233系も走行可能なのだ。
この動画にあるジョイフルトレインが走行しているから、当然スペーシアも走行出来る。
問題は保安装置だが、スペーシアの106・107・108編成はJR線乗り入れのために対応済みなので、多少のカスタマイズでなんとかなるだろう。
かえって小田急線用の保安装置が、搭載できるかどうかの方が問題かもしれない。
スペーシアで東京湾眺望という、一つのテーマが現実味を帯びてきた。
その先は武蔵野線経由で大宮貨物線、大宮からは東北本線の栗橋で東武線に入るJR直通特急のルートだろう。
このコースなら小田原から4時間ほどで鬼怒川温泉駅に着くだろう。
そのあとはバスで東武ワールドスクエアを観光し、ホテルには17時くらいに入れそうだ。
3日目はバスで中禅寺湖に向かい、遊覧船で湯本。そこで昼食を摂り、バスで華厳の滝によってから日光市内に下りて、東照宮を参拝する。
時間は14時頃になるだろうから、東武日光駅から…、ん? そういえば日光にはJR線もあるな。
小田原駅のパターンと似てる。
そこまで考えて、帰路のイメージが浮かんだ。
宇都宮駅でスイッチバックになるが、いつもの東武日光駅発と違って、クラシカルな駅舎が有名なJR日光駅から戻るルートに変更した。
どうせなら、ことごとく普段通らないルートを選んでやろうと考えた。
大宮からは再び貨物線を通り、西浦和から府中本町方面に進む。
新小平から短絡線で中央線に合流。八王子駅まで進みスイッチバックして新宿に戻ることにした。
「…う~ん。まあまあかな? りんかい線やJR日光線を走れるかが課題だけど、これなら通常のツアーより楽しめるかな?」
ルート説明と大雑把な行程時間を書き込み、企画書を完成させる。
「… … …」
『とりあえず、この草案で小田急に持ち込もう』
今度はいきなり『没!』宣告は出なかったが、編集長の歯切れが悪いのが気になった。
これ以上どうしろというんだぁ?
是非は数日後に返答されることとなった。
そして5日後……。
「おい、あの企画、半分通ったぞ。
まだまだ煮詰めるところが多いが、小田急・JR・東武・箱根登山・りんかい線の5社合同企画で進める予定だ」
「そうですか! よかった。あれ? でも5社合同なのに、半分…通ったって?」
「ああ、それな。一応計画ではツアー人数は、一回200名で、コースは2種類。つまり400名募集だ」
編集長は事前会議で採用された内容を訥々と語った。
「あれ? 一回200名? それを二分するんじゃなくて… あれ? 400名?
それじゃあスペーシアの定員オーバーじゃないですか!」
「あ? 何言ってんだ? 一回は200名だぞ? 他にツアーコンダクターやタレント、招待客数名を同行させる」
「だって、さっき400名って言ったじゃないですか?」
「お前、頭悪いなぁ。1ツアーが200名で、2ツアーだから400名だろ?」
「2ツアー? なんですかそれ? 2回開催するんですか?」
実は俺もさっきから“2ツアー”という言葉に確かに引っかかってた。
「あれ? 奈美ちゃんから聞いてないのか? お前の草案じゃコンセプトは面白いものの、今ひとつインパクトに欠けたから奈美ちゃんに補完してもらったんだ」
「? なんの話ですか?」
その時の俺は間抜けな顔をしていたんだろう、きっと。
あの奈美さんが、東武命の奈美さんが、小田急線にスペーシアを走らせると聞いて、興味を持たないわけがない!
つまり、俺のアイディアに匹敵する…いや、凌駕するアイディアを思いつき、しかも編集長から直々に頼まれれば、否なはないはずだ。
「で、どういうことなんで?」
「つまりだな…」
そのあと、編集長は驚愕のツアー全体像を披露してくれた。
「…奈美さん。この状況…どういうことでしょうか?」
「すごいわね。ちょっと付け足しただけなのに、募集人員の12倍もの応募者なんて…」
プラチナチケットどころではなかった。
旅行費用2泊3日で35万円もするツアーが12倍の競争率だ。
チケットは抽選となり、ツアー初日、JR新宿駅アルプス広場はツアー客400名を、出発の様子を一目見ようとするファンや野次馬が500人ほどが取り囲んでいた。
ツアー参加者は小田急ルートと東武ルートにに分かれて、列を作っていた。
“2ツアー構成”
そう、このツアーは東武100系スペーシアに乗って小田急線を走り、箱根に向かうコースと、小田急60000系MSEに乗ってJR線・東武線を走って日光に向かうコースの2本立てなのだ。
しかも新宿駅同時発車。
なぜこんなことになったのか…。
東武スペーシアが小田急線を走るという企画は、小田急・JR・東武とも大絶賛だった。
けれど、それでは3社のバランスが悪いということになった。
ならば小田急車も日光へ走らせたらどうだろう、という追加案を出す。
もちろんその発案者は奈美さんなのだが、全く同じコースを逆にたどっても面白くないので、別ルートを提案していた。
ただし、どちらのコースもスタート及びゴールを新宿駅とするという大前提がなされた。
どちらのコースもその日の発駅・到着駅は告示されたが、ルートは一切公表されなかったのもツアーを盛り上げる作戦だ。
小田急・JR・東武の各旅行代理店が合同した企画は、宣伝効果が非常に高かったのは、このアルプス広場の人混みが証明している。
ところで、なぜ集合場所がJR新宿駅構内なのか?
それは総勢400名が混乱せずに集まれる場所がここしかなかったからだ。
広さ的には西口地下広場や東口駅前広場など数カ所あるものの、天候や他の駅利用者が通り抜けるために混乱する可能性がある。
アルプス広場ならJR職員がパーテーションで仕切ることができるため、容易に確保できる。
しかも地下なので天候には左右されず、小田急ルート参加者も小田急乗り換え口からすぐに特急ホームに移動できる利点がある。
こうして集合時刻10分前には、ほとんどの参加者が集まった。
ツアーコンダクターが簡単な説明をした後、いよいよツアーが始まった。
<続く>
結局、原点に立ち返って『何が面白い』のかというところから考え直すことにした。
そもそも東武特急のスペーシアが小田急線を走って何が面白い?
いくら思いつきだからと言って、それを否定したら本末転倒だろう。
だから面白い理由を探し出す。
東武100系スペーシアは、窓の天地サイズはさほど大きくない。
でもその窓は、普段ビルや畑、田んぼ、山並みくらいしか楽しめない。
ならば海が見えるルートはどうだろう。
(海と言っても、東京湾しかないよな…とすると、京葉線…かな?)
頭の中で自問自答しながら、東京湾岸の地図を眺める。
「あっ!」
京葉線は東京駅地下の京葉線ホームから新木場を通るが、都心部では他の路線との接続ができない。
武蔵野線西船橋駅や内房線の蘇我駅間しか直通はできないのだ。
そうなると最初に思いついた、東京湾を望める荒川河口橋を通過することは不可能だ。
何かいいアイディアがないか、ネットを漁りながら新しいルートの模索をする。
「あれ? 埼京線京葉線直通?」
埼京線はりんかい線新木場駅まで乗り入れてるから、正確にはりんかい線京葉線直通という意味らしい。
動画らしいその記事をクリックすると、ジョイフルトレインが埼京線からりんかい線を経由して京葉線に乗り入れるシーンが映し出された。
「おおっ! これだっ!」
りんかい線なら小田原から湘南新宿ラインを通れば、大崎に行ける。
大崎ではスイッチバックする必要があるものの、りんかい線には入線できる。
りんかい線は普通鉄道規格で建設されてるから、地下線とはいえ拡幅車体・前面非貫通型のE233系も走行可能なのだ。
この動画にあるジョイフルトレインが走行しているから、当然スペーシアも走行出来る。
問題は保安装置だが、スペーシアの106・107・108編成はJR線乗り入れのために対応済みなので、多少のカスタマイズでなんとかなるだろう。
かえって小田急線用の保安装置が、搭載できるかどうかの方が問題かもしれない。
スペーシアで東京湾眺望という、一つのテーマが現実味を帯びてきた。
その先は武蔵野線経由で大宮貨物線、大宮からは東北本線の栗橋で東武線に入るJR直通特急のルートだろう。
このコースなら小田原から4時間ほどで鬼怒川温泉駅に着くだろう。
そのあとはバスで東武ワールドスクエアを観光し、ホテルには17時くらいに入れそうだ。
3日目はバスで中禅寺湖に向かい、遊覧船で湯本。そこで昼食を摂り、バスで華厳の滝によってから日光市内に下りて、東照宮を参拝する。
時間は14時頃になるだろうから、東武日光駅から…、ん? そういえば日光にはJR線もあるな。
小田原駅のパターンと似てる。
そこまで考えて、帰路のイメージが浮かんだ。
宇都宮駅でスイッチバックになるが、いつもの東武日光駅発と違って、クラシカルな駅舎が有名なJR日光駅から戻るルートに変更した。
どうせなら、ことごとく普段通らないルートを選んでやろうと考えた。
大宮からは再び貨物線を通り、西浦和から府中本町方面に進む。
新小平から短絡線で中央線に合流。八王子駅まで進みスイッチバックして新宿に戻ることにした。
「…う~ん。まあまあかな? りんかい線やJR日光線を走れるかが課題だけど、これなら通常のツアーより楽しめるかな?」
ルート説明と大雑把な行程時間を書き込み、企画書を完成させる。
「… … …」
『とりあえず、この草案で小田急に持ち込もう』
今度はいきなり『没!』宣告は出なかったが、編集長の歯切れが悪いのが気になった。
これ以上どうしろというんだぁ?
是非は数日後に返答されることとなった。
そして5日後……。
「おい、あの企画、半分通ったぞ。
まだまだ煮詰めるところが多いが、小田急・JR・東武・箱根登山・りんかい線の5社合同企画で進める予定だ」
「そうですか! よかった。あれ? でも5社合同なのに、半分…通ったって?」
「ああ、それな。一応計画ではツアー人数は、一回200名で、コースは2種類。つまり400名募集だ」
編集長は事前会議で採用された内容を訥々と語った。
「あれ? 一回200名? それを二分するんじゃなくて… あれ? 400名?
それじゃあスペーシアの定員オーバーじゃないですか!」
「あ? 何言ってんだ? 一回は200名だぞ? 他にツアーコンダクターやタレント、招待客数名を同行させる」
「だって、さっき400名って言ったじゃないですか?」
「お前、頭悪いなぁ。1ツアーが200名で、2ツアーだから400名だろ?」
「2ツアー? なんですかそれ? 2回開催するんですか?」
実は俺もさっきから“2ツアー”という言葉に確かに引っかかってた。
「あれ? 奈美ちゃんから聞いてないのか? お前の草案じゃコンセプトは面白いものの、今ひとつインパクトに欠けたから奈美ちゃんに補完してもらったんだ」
「? なんの話ですか?」
その時の俺は間抜けな顔をしていたんだろう、きっと。
あの奈美さんが、東武命の奈美さんが、小田急線にスペーシアを走らせると聞いて、興味を持たないわけがない!
つまり、俺のアイディアに匹敵する…いや、凌駕するアイディアを思いつき、しかも編集長から直々に頼まれれば、否なはないはずだ。
「で、どういうことなんで?」
「つまりだな…」
そのあと、編集長は驚愕のツアー全体像を披露してくれた。
「…奈美さん。この状況…どういうことでしょうか?」
「すごいわね。ちょっと付け足しただけなのに、募集人員の12倍もの応募者なんて…」
プラチナチケットどころではなかった。
旅行費用2泊3日で35万円もするツアーが12倍の競争率だ。
チケットは抽選となり、ツアー初日、JR新宿駅アルプス広場はツアー客400名を、出発の様子を一目見ようとするファンや野次馬が500人ほどが取り囲んでいた。
ツアー参加者は小田急ルートと東武ルートにに分かれて、列を作っていた。
“2ツアー構成”
そう、このツアーは東武100系スペーシアに乗って小田急線を走り、箱根に向かうコースと、小田急60000系MSEに乗ってJR線・東武線を走って日光に向かうコースの2本立てなのだ。
しかも新宿駅同時発車。
なぜこんなことになったのか…。
東武スペーシアが小田急線を走るという企画は、小田急・JR・東武とも大絶賛だった。
けれど、それでは3社のバランスが悪いということになった。
ならば小田急車も日光へ走らせたらどうだろう、という追加案を出す。
もちろんその発案者は奈美さんなのだが、全く同じコースを逆にたどっても面白くないので、別ルートを提案していた。
ただし、どちらのコースもスタート及びゴールを新宿駅とするという大前提がなされた。
どちらのコースもその日の発駅・到着駅は告示されたが、ルートは一切公表されなかったのもツアーを盛り上げる作戦だ。
小田急・JR・東武の各旅行代理店が合同した企画は、宣伝効果が非常に高かったのは、このアルプス広場の人混みが証明している。
ところで、なぜ集合場所がJR新宿駅構内なのか?
それは総勢400名が混乱せずに集まれる場所がここしかなかったからだ。
広さ的には西口地下広場や東口駅前広場など数カ所あるものの、天候や他の駅利用者が通り抜けるために混乱する可能性がある。
アルプス広場ならJR職員がパーテーションで仕切ることができるため、容易に確保できる。
しかも地下なので天候には左右されず、小田急ルート参加者も小田急乗り換え口からすぐに特急ホームに移動できる利点がある。
こうして集合時刻10分前には、ほとんどの参加者が集まった。
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<続く>
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