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EX04

Tsukijiライナー01

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 「本当に2年で開通しましたね」
 編集部に届いた東京都交通局からの“新線開業及び報道公開について”という書類を見て、俺は呟いた。
 「そうね。日暮里舎人(とねり)ライナーの時もかなり短い工期だったけど、ここまでくるとミラクルね」
 昭和の野球チームの監督のようなセリフを返してきたのは、我が“鉄道ライフ”編集部ほぼ専属のカメラマン、榊原奈美さんだ。
 すっかりマイデスクと化したミーティング用の丸テーブルに、自前のMacBookProで今日も写真データの整理に余念がない。
 …ほぼ、というのは、最近我が社が創刊した“エアロクラフト”誌から熱いオファーがあって、航空機写真にも手を伸ばし始めたのだ。
 まぁ、それは置いといて…、
 今、俺たちが話題にしているのは、来月末に開業する“Tsukijiライナー”だ。
 元々は旧築地市場をテーマパーク化し、有楽町や新橋からのアクセス用に“BRT(バスラピッドトランジット)”が計画された。
 しかし、コース選定や交差点での一般車との車線交差など、問題点が多い。
 専用道の建設も考案されたが、そこまでしてBRT化しても効果が期待できないことが判明した。
 一向に方向性が定まらない都に対し、業を煮やした中央区は、独自に新交通システムによる新川・晴海・月島地区の交通インフラ整備に乗り出した。
 それが中央区が運用していたコミュニティバスの“江戸バス”と被るために“江戸ライナー(仮称)”として、免許の申請を行った。
 東京都のBRTとは勝どき付近しか被らないので、国交省は認可を下ろそうとしたが、都交通局が待ったをかける。
 やがてBRTでの計画を白紙撤回し、中央区の新交通システムを引き上げる形で、合併することを決定した。
 最終的には東京駅八重洲口前から八丁堀・新川・晴海・勝どき・築地市場・新橋というルートに落ち着いたが、中央区が計画していた八重洲口前から築地市場までは用地確保がなされていたため、即時着工となった。
 計画では着工から2年後に開通。築地市場から新橋は未定となっている。

 “Tsukijiライナー”は、東京駅八重洲口前、八重洲通り上に起点となる東京駅八重洲口前駅が地上5階に造られた。
 JR東京駅のグランルーフからはその全貌が景観できるが、見上げるような角度の駅舎は両側にそびえるビル群に、負けず劣らずの存在感があった。
 「なんだか凄いことになってたんですね」
 待ち合わせのグランルーフに奈美さんがやってくるなり、俺は驚きの感想を述べた。
 「その口ぶりだと、最近東京駅周辺には来てなかったようね」
 クスクス笑いながら、奈美さんは早速ファインダーを覗き、シャッターを切り始めた。
 “Tsukijiライナー”の駅までは、グランルーフからペデストリアンデッキを通じて直接行かれる。
 「それにしても随分とホームの位置が高いんですね」
 「そぉ? あれでもゆりかもめの新橋駅と同じ高さよ?」
 「え? そうなんですか?」
 八重洲口付近は近年まで建築物の高さ制限があったので、皆同じ高さのビルが並んでいる。
 そのため、今まで広々としていた八重洲通りも、その上空に“Tsukijiライナー”が建設されたことで、かなりの圧迫感がある。
 比べて、ゆりかもめの新橋駅周辺は汐留の高層ビル群が間近に迫っているので、高さを感じさせないのだろう。
 もっとも地上から階段でホーム階まで上がったら、その高さを充分に実感できる。
 「まあ、駅部分は建設にかなりがかかったけどね。その分、駅間は橋桁工法によって、今までの半分くらいで完成したそうよ?」
 「橋桁? ここ地上ですよ? それなのに橋にしたんですか?」
 「橋脚の間隔を広く取りたかったんじゃない? 下の道路になるべく影響が出ないように…」
 「あ、そうか。ただでさえ渋滞の激しいところですからねぇ。何本もの橋脚を工事するとそれなりに車線を塞いだり、中央の駐車場の出入り口も変更しなくちゃいけないし…」
 思いつくことを口にしてみたが、どうやら全くの的外れではなかったようだ。
 その証拠に奈美さんは微笑んでいる。
 「色々な理由があるけど、もっとも重視したのはやっぱり工期短縮だそうよ?」
 桁構造で、近隣の工区から深夜に搬送・設置を行ったらしいが、設置する桁は半完成状態で、設置後は軌道部分の微調整と電設等の接続で済んだそうだ。
 「色々な工法があるんですね」
 「そうね。でもどれも安全第一が大前提だから、段取りする人は大変だったでしょうね」
 そう言いながら、駅へ向かって歩き出した。
 グランルーフから繋がれたペデストリアンデッキで、“Tsukijiライナー”の東京駅八重洲口前駅に向かうと、正面に改札口、その左横に券売機が見えてきた。
 デッキ中央部は緩やかに左右に分かれ、そこには地上からのエスカレーターが4機並んでいた。
 「結構、近未来的な優雅なデザインですね」
 「そう…か…な? 私、最近飛行機も撮ってるからよく空港に行くんだけど、空港のデザインはもっと凄いわよ?」
 「凄い?」
 「なんていうのかな、柱の数がすごく少ないから開放的で、機能的。人の動線を重視して設計されているから、迷わずに済むの」
 「俺も空港へは何度も行ってますけど、そこまで気にしたことなかったなぁ。着いたらすぐに搭乗手続きして、そのまま搭乗口に向かっちゃいますから…」
 「でも、それって飛行機に乗るまで迷ってないってことよね?」
 「あ、そうか。大抵は次にどっちに行けばいいのか案内出てますもんね」
 「そうそう。で、何が言いたいかというと…」
 そう言いつつ、奈美さんはバッグから一つのフリーペーパーを取り出した。
 「これはJRが大きな駅で配布してる“fromSTAION”っていう案内ブックなんだけど。例えばここ、東京駅の見取り図を見ると…」
 一枚めくったところには東京駅近隣の詳細な地図が載り、2ページ目にその東京駅構内の見取り図があった。
 「これ見てすぐに自分の乗る路線のホームがわかる人って、何人くらいいると思う?」
 「…、…駅構内をよく知っててもすぐには…、わからない? と思う」
 「そうなのよ。なぜだと思う?」
 「え? 細かすぎ…る…から?」
 「近いけど、根本的には人の動線が設定できないからなの」
 「?」
 「乗る人と降りる人、駅構内のショップを利用する人やトイレを探す人等など、ごちゃごちゃになってるでしょ? そうなると、まず歩きにくい。自分がどこにいるのか解りにくい」
 「そうですね」
 「駅の特性でもあるけど、スペースの問題があるから一方通行にはなかなかできないのよ」
 「なるほど」
 「でも空港は、搭乗手続きから一連の流れがあるし、到着客はバゲージの受け取りから出口までの行程は決まってるから、動線の設定はしやすいの」
 「同じようにこの東京駅八重洲口前駅は、乗車と降車の人の流れが明確に分かれてるの」
 と言いつつ、奈美さんは改札口から見える表示を指さした。
 そこには入場専用改札口と書かれていた。
 「あれ? じゃあ降車は?」
 「中央の有人改札口の向こう側よ」
 「え? あ、ほんとだ」
 少し奥まったところに自動改札機が並んでいて、一方通行出口の表示が大きく描かれていた。
 「なんでまた…」
 「ん~、これはモラルの問題でもあるんだけど。双方向対応の自改機って結構トラブルが多いのよ」
 「トラブル? どういうことですか?」
 「反対側から人が来ていても強引に入ったり、複数台あるのに一方からの客が独占して通るから、反対側の人が自改機の前で立ち往生してぶつかり合うことが多いのよ。譲り合って通るっていうマナーもモラルも既に壊滅してるのね」
 「ああ、確かに俺もしょっちゅう反対側から来た人に強引に通られたことがありますよ」
 「だから、そういう問題を根本的に回避するなら、完全に動線を分ける必要があると思ったんじゃない? 私に言わせたら“やっと?”って思うんだけどね」
 久々に奈美さんが毒吐くとこ見ました。
 「だからというわけじゃないけど、こういうデザインになっても近未来的だとは思えないのよ」
 「ふむふむ。まだまだ鉄道システムは問題点が多いですね」
 「システムが進化しても、それを使う人のモラルが向上しなければ意味ないけどね」
 「ま、まあそうですね」
 この話題はこの辺で切り上げた方が良さそうなので、強引に話題を変えることにした。

 ホームに上がると、予想以上にホーム幅が確保されているのが目に止まった。
 「結構幅広いホームですね。ゆりかもめの倍以上ありませんか? これなら多少混雑しても入場制限とかしなくて済みそうですね」
 「甘いわねぇ~。ここをどこだと思ってるの? 東京駅八重洲口よ? しかも“Tsukijiライナー”は1両に50人前後しか乗れないから、1編成6両で約300人。これは山手線や京浜東北線の約2両分…、上野東京ラインや常磐線も含めたら、ピストン輸送しても団体客じゃなくても対応しきれないでしょうね」
 「まあ、その全部が一度に“Tsukijiライナー”に乗るとは思えませんけど…ね(汗)」
 「そりゃそうだけど、でもイベントなんかがあったらすぐに溢れかえるでしょうね(笑)」
 “Tsukijiライナー”の仕様はほぼゆりかもめと同じ。1両が約9m、2扉で車内はロングシートで座席定員が19名前後。6両編成で全自動運転。
 お台場でイベントがあれば、必ず溢れかえっていることを考えると、この“Tsukijiライナー”も決して万全とは言えないだろう。
 「あ、もうじき発車するみたいよ?」
 「じゃあ乗り込みましょう」
 他の報道関係者に続いて車内に入ると、アナウンスの後、扉が閉まり、“Tsukijiライナー”は東京駅八重洲口前駅を発車した。
    <続く>
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