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EX03
エイトライナー/メトロセブン07
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暫定開業後、しばらくは赤羽線に関する目ぼしい情報はなかった。
工事の進捗は順調で、予定通りに赤羽~葛西臨海公園間の開業を迎えられそうだ。
同時に開業する新・東武大師線の方も佳境を迎え、西新井駅は既存ホームの改良も行われているため、全てが工事現場のようだった。
新しい大師線が開業すると車両の所要数が増えるために、東武では増備が必要になるが、残存している旧世代の通勤車8000系の置き換えも必要なので、新しい標準車としての80000系の開発を決定した。
地下鉄直通車から地上線用、末端路線用まで東武のすべての路線で走行可能な仕様とするため、70000系で初導入した操舵軸台車を基本とすることになった。
全電動車となるが、動軸は一台車一軸のため0.5Mとなる。
地下鉄に直通しない編成も、動力系統の機器を供用するために操舵機構は省略されているものの、一台車一動軸となっている。
編成は最短2両から最長10両まで自在に組むことができる。
奈美さんが開発に参加したのは、主にデザイン面だ。
エクステリアに関しては正面デザインとカラーリングだそうだ。
正面デザインは設計前から8000系更新車や6050系のイメージを盛り込み、非常扉が50000系列のように向かって左端に配置されているものの、運転台窓下の部分をボディと同色のジャスミンホワイトにすることを提案したそうだ。
そう、80000系のボディは全塗装となるのだ。
合わせて、運転台窓ガラス以外の部分を少し押し出し、3面折妻風にして8000系を連想できるデザインとなった。
ライトケースからサイドに伸びる太めのラインは、東武のコーポレートカラーであるフューチャーブルーで乗務員扉の後ろまで伸びる。
運転台窓下には使用線区に合わせて、それぞれのカラーのラインが編成全体を貫く。
戸袋部分にも使用線区ごとにデザインされたブロックパターンで、差別化を図り誤乗防止に役立てる。
いずれはホームドアが完備されるため、側窓より上の部分で車両の特徴を出す方法だ。
また、70000系で好評の車端部肩部のユニバーサルサインも採用された…らしい。
… … …
…らしい…と言うのは、ここ2ヶ月ほど奈美さんはほとんど編集部に顔を出していないからだ。
だから、挨拶程度の会話時間では、以上のことを聞き出すのが精一杯だった。
「奈美さんは今日も来てないんですか?」
編集長に尋ねると…
「ああ、昨日から札幌に新幹線の取材に行ってもらってる。帰ってくるのは…明後日だな」
「え~、一人で行かせたんですか?」
恨めしい顔で編集長を睨む。
「お前なぁ、いつでも奈美さんと組んで取材に行かせてもらえると思うなよ。北海道ともなれば、出張費の申請が通しにくいんだよ」
「とは言っても、取材の担当は俺じゃないんですか?」
奈美さんは契約しているとはいえ、れっきとしたフリーのカメラマン。
取材契約となるために一括しての支払いになる(旅費を含めた契約だからだ)。
俺が出張で旅費を請求するのとは、会社内での扱いが全く異なる。
逆に契約金の申請が通り、奈美さんがOKさえすれば、即時取材に行かれるから編集長も頼みやすいのだ。
「それにお前は今週中に2号通しの特集をまとめなくちゃいけないだろ。まず自分の仕事を片付けてから文句を言えよ」
…しまった。藪蛇だった(汗)…。
そのあとはとにかく忙しくて、相変わらず赤羽線の情報も無かったために、気付けば既に開業予定まで一年を切っていた。
そんなある日、奈美さんが開発に参加した東武80000系の報道公開に関する案内が送られてきた。
「へえ、最近の車両にしては大人しめのデザインだなぁ」
案内状の写真を見た時の俺の第一印象だ。
以前公式ホームページで公開されていたCGとほとんど変わらない。
むしろ写真の方がより大人しめに感じるのだ。
「あ、奈美さんはこの取材に行かれるんですか?」
「今回は無理らしいぞ」
編集長は即答した。
「一応開発スタッフだし、他線区用の開発はまだ継続中なので守秘義務もあって自粛するそうだ」
続けてあまり嬉しくない情報もいただきました。
「じゃあカメラはどうするんですか?」
まあ、記事の取材は俺が担当するにしても、誰かカメラマンがいないと、撮影ができない。
「ああ、お前がやれ」
無下な一言で片づけられた。
「そ、そんな無茶な」
「いつも万全の体制で挑めるほど、こちらも人材が揃っていないんだよ」
編集長が右手の親指と人差し指で円を作って俺に手を振る。
もちろん“OK”という意味ではない。
暗に“金がない”と言っているのだ。
「テーマを決めて、数日かけて取材する記事じゃないんですから一人じゃ無理ですよ」
「スナップ程度でいいんだ。お前だけで充分だよ」
とはいえ、報道公開などは数時間で終了するから、会見中にカメラマンが掲載する写真を撮っていることが多い。
一人では会見場から出ることすらままならないのだ。
「掲載する写真は心配しなくていいぞ。奈美ちゃんから掲載用の写真データはみんなに配布するから、現場では撮影する必要がないと聞いてるからな」
…、なんか聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。
“掲載用の写真データ?”
「ということは、使える写真は指定されたものだけ?」
「そんなことはないだろうけど、当日は写真を撮っても多分使えないと思うって言ってたな」
? どういう意味だろう。
報道公開会見に奈美さんが何かを仕込んだのかもしれない。
意外なサプライズも期待できそうだ。
納得はできないものの、当日俺は集合場所の東武日光線南栗橋駅改札横の集合場所に赴いた。
今回の報道公開は直接検修区に集合するのではなく、最寄駅から集団で移動するらしい。
それがバスなのか入庫する回送電車なのかは判らない。ただ、新型車の公開なので試乗を兼ねて検修区まで移動できる可能性もあるから、皆そわそわしていた。
が、果たしてやってきたのは以前日比谷線直通に使用されていた20430型4両編成だった。
以前は両先頭車が5扉車だったが、2番目と4番目のドアが埋められ、そこにシートが設置されている編成だ。
報道陣を乗せた20430型は、南栗橋駅1番線から南栗橋検修区に進んで行く。
ポイントを右に右に進んで行き、南栗橋工場に入る。
やがて工場建屋のすぐ右隣の収容線で停車した。
すぐ隣はSL検修庫だ。
案内係の指示に従い、ヘルメットを装着して車外に降りる。
すぐ横の工場建屋に入り、総合検査線に案内されて東武80000系と対面した。
“美しい…”
誰もが息を飲んだ。
事前に公開されたCGとほとんど変わらない。
けれど実物は、CGでは到底表現できない迫力に満ち溢れていた。
それは車体の塗装だ。
今まで見たこともない、まるで白磁器のような光沢。
そして深みを感じる白。
近づくと自分が写りこむほどの平滑な表面。まるで鏡のようだ。
光沢具合はJR東日本のE655系のような磨き込まれた高級感を上回り、白は九州新幹線N700系8000番台ほど青味はない、いわゆる“スノーホワイト”と言える純白だ。
そのボディに東武のフューチャーブルーと半蔵門線のラインカラーである明るめのパープルラインが絶妙なアクセントになっている。
“本日皆様にお披露目いたします80000系電車です。通常なら屋外の留置線での公開となりますが、この電車はただいまご覧のようにその塗装に特徴があり、その仕上がりをご堪能いただくためには、庫内でライティングすべきだろうと判断いたしました”
庫内のスピーカーから係員の解説が聞こえてきた。
確かに天井のLEDライトによって、屋外のような光が降り注いで80000系のボディを輝かせている。
これなら晴天でなくても最大の効果が得られる。
一通り車体の周りを見学して、研修室に向かった。
お約束の開発コンセプトや諸元を解説後、紙面掲載に関わる各種資料と提供写真が収められてるCD-ROMが配布された。
CD-ROMについての注意事項の後、使用許諾の誓約書にサインをしてお開きになった。
画像データは新車ニュース等の記事以外に使用する際は、再度使用認可を受ける必要があるとのことだ。
添付されていたサムネールプリントを見ると、形式写真以外にイメージ画像が多く収録されているようだ。
この写真はどうやら、全て奈美さんの手によるものだと直感した。
それだけ特徴ある画像が多いのだ。
帰社して自分で撮影した画像をPCで開く。
案の定、あの輝くような迫力ある白さはほとんど再現できていない。
屋内展示した状態でもこの程度だった。
次に奈美さん…もとい、東武から提供された画像を開く。
「な、なんだこりゃ!」
思わず叫び声をあげてしまった。
「どうした? 何かドジったか?」
編集長は最初から俺がしくじったと決めてかかっている。
「いや、東武から提供された新型車の画像が…、すごいんです」
「おお、これは確かに」
車体には景色が写り込んでいて、それが車体の白さを強調しているのに車体のディテールがきちんと再現されている。
白さは純白なのにハレーションも起こしていない。
「こりゃぁ、奈美ちゃんだな。こんな写真はそうそう取れるもんじゃないよ」
「俺が撮ってきたのは見事にハレーション起してましたよ」
光の強いところは白く潰れてしまうことが多い。
しかし、提供写真はしっかりと濃淡がつき、形がはっきり見えるのだ。
「しかし…、これ誌面で再現できるんですかね?」
通常の印刷物はオフセット印刷が主流だ。これは色を4色のインクで印刷するが、濃淡は網点の大きさで再現する。それを4色のインクで掛け合わせて約100万色(理論上、墨は他の3色とダブるため)で表す。
元のデータがどんなに高精細であっても、印刷時の細かさ(線数)以上は単にオーバースペックでしかない。
「まあ、奈美ちゃんならそのあたりも考えてると思うぞ。そもそも配布されたデータはJPEGなんだろ? 拡大しない限りは大丈夫なんじゃないか?」
とりあえずは奈美さん…もとい、東武提供画像を中心にページングするしかないようだ。
東武80000系は半年ほど各種試験を行い、新・大師線開業とともに営業運用にデビューするとのことだ。
奈美さんは相変わらず東武の仕事にかかりきりで、もう3ヶ月以上顔を合わせていない。
寂しさに耐え切れず、それとなくメールするが通り一遍の返事しか返ってこなかった。
そして新・大師線及び東京メトロ赤羽線赤羽~葛西臨海公園間開業時も、奈美さんは我が“鉄道ライフ”の取材は受けられなかった。
さらに約2年後、東京メトロ赤羽線全線開業及び約20年ぶりに東上線の新駅開業を迎えた。
元を辿れば、奈美さんが西板線リメイクの西練線を提案したほぼそのままのルートでの開業だ。もっとも東武車は通らないため、当初の“本線東上線間連絡線”としての機能はないのだが…。
東武でも新駅開業セレモニーを大々的に行った。
が、
その日、東京メトロ赤羽線沿線にも東武東上線にも…
奈美さんの姿はなかった。
<第3話 完>
工事の進捗は順調で、予定通りに赤羽~葛西臨海公園間の開業を迎えられそうだ。
同時に開業する新・東武大師線の方も佳境を迎え、西新井駅は既存ホームの改良も行われているため、全てが工事現場のようだった。
新しい大師線が開業すると車両の所要数が増えるために、東武では増備が必要になるが、残存している旧世代の通勤車8000系の置き換えも必要なので、新しい標準車としての80000系の開発を決定した。
地下鉄直通車から地上線用、末端路線用まで東武のすべての路線で走行可能な仕様とするため、70000系で初導入した操舵軸台車を基本とすることになった。
全電動車となるが、動軸は一台車一軸のため0.5Mとなる。
地下鉄に直通しない編成も、動力系統の機器を供用するために操舵機構は省略されているものの、一台車一動軸となっている。
編成は最短2両から最長10両まで自在に組むことができる。
奈美さんが開発に参加したのは、主にデザイン面だ。
エクステリアに関しては正面デザインとカラーリングだそうだ。
正面デザインは設計前から8000系更新車や6050系のイメージを盛り込み、非常扉が50000系列のように向かって左端に配置されているものの、運転台窓下の部分をボディと同色のジャスミンホワイトにすることを提案したそうだ。
そう、80000系のボディは全塗装となるのだ。
合わせて、運転台窓ガラス以外の部分を少し押し出し、3面折妻風にして8000系を連想できるデザインとなった。
ライトケースからサイドに伸びる太めのラインは、東武のコーポレートカラーであるフューチャーブルーで乗務員扉の後ろまで伸びる。
運転台窓下には使用線区に合わせて、それぞれのカラーのラインが編成全体を貫く。
戸袋部分にも使用線区ごとにデザインされたブロックパターンで、差別化を図り誤乗防止に役立てる。
いずれはホームドアが完備されるため、側窓より上の部分で車両の特徴を出す方法だ。
また、70000系で好評の車端部肩部のユニバーサルサインも採用された…らしい。
… … …
…らしい…と言うのは、ここ2ヶ月ほど奈美さんはほとんど編集部に顔を出していないからだ。
だから、挨拶程度の会話時間では、以上のことを聞き出すのが精一杯だった。
「奈美さんは今日も来てないんですか?」
編集長に尋ねると…
「ああ、昨日から札幌に新幹線の取材に行ってもらってる。帰ってくるのは…明後日だな」
「え~、一人で行かせたんですか?」
恨めしい顔で編集長を睨む。
「お前なぁ、いつでも奈美さんと組んで取材に行かせてもらえると思うなよ。北海道ともなれば、出張費の申請が通しにくいんだよ」
「とは言っても、取材の担当は俺じゃないんですか?」
奈美さんは契約しているとはいえ、れっきとしたフリーのカメラマン。
取材契約となるために一括しての支払いになる(旅費を含めた契約だからだ)。
俺が出張で旅費を請求するのとは、会社内での扱いが全く異なる。
逆に契約金の申請が通り、奈美さんがOKさえすれば、即時取材に行かれるから編集長も頼みやすいのだ。
「それにお前は今週中に2号通しの特集をまとめなくちゃいけないだろ。まず自分の仕事を片付けてから文句を言えよ」
…しまった。藪蛇だった(汗)…。
そのあとはとにかく忙しくて、相変わらず赤羽線の情報も無かったために、気付けば既に開業予定まで一年を切っていた。
そんなある日、奈美さんが開発に参加した東武80000系の報道公開に関する案内が送られてきた。
「へえ、最近の車両にしては大人しめのデザインだなぁ」
案内状の写真を見た時の俺の第一印象だ。
以前公式ホームページで公開されていたCGとほとんど変わらない。
むしろ写真の方がより大人しめに感じるのだ。
「あ、奈美さんはこの取材に行かれるんですか?」
「今回は無理らしいぞ」
編集長は即答した。
「一応開発スタッフだし、他線区用の開発はまだ継続中なので守秘義務もあって自粛するそうだ」
続けてあまり嬉しくない情報もいただきました。
「じゃあカメラはどうするんですか?」
まあ、記事の取材は俺が担当するにしても、誰かカメラマンがいないと、撮影ができない。
「ああ、お前がやれ」
無下な一言で片づけられた。
「そ、そんな無茶な」
「いつも万全の体制で挑めるほど、こちらも人材が揃っていないんだよ」
編集長が右手の親指と人差し指で円を作って俺に手を振る。
もちろん“OK”という意味ではない。
暗に“金がない”と言っているのだ。
「テーマを決めて、数日かけて取材する記事じゃないんですから一人じゃ無理ですよ」
「スナップ程度でいいんだ。お前だけで充分だよ」
とはいえ、報道公開などは数時間で終了するから、会見中にカメラマンが掲載する写真を撮っていることが多い。
一人では会見場から出ることすらままならないのだ。
「掲載する写真は心配しなくていいぞ。奈美ちゃんから掲載用の写真データはみんなに配布するから、現場では撮影する必要がないと聞いてるからな」
…、なんか聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。
“掲載用の写真データ?”
「ということは、使える写真は指定されたものだけ?」
「そんなことはないだろうけど、当日は写真を撮っても多分使えないと思うって言ってたな」
? どういう意味だろう。
報道公開会見に奈美さんが何かを仕込んだのかもしれない。
意外なサプライズも期待できそうだ。
納得はできないものの、当日俺は集合場所の東武日光線南栗橋駅改札横の集合場所に赴いた。
今回の報道公開は直接検修区に集合するのではなく、最寄駅から集団で移動するらしい。
それがバスなのか入庫する回送電車なのかは判らない。ただ、新型車の公開なので試乗を兼ねて検修区まで移動できる可能性もあるから、皆そわそわしていた。
が、果たしてやってきたのは以前日比谷線直通に使用されていた20430型4両編成だった。
以前は両先頭車が5扉車だったが、2番目と4番目のドアが埋められ、そこにシートが設置されている編成だ。
報道陣を乗せた20430型は、南栗橋駅1番線から南栗橋検修区に進んで行く。
ポイントを右に右に進んで行き、南栗橋工場に入る。
やがて工場建屋のすぐ右隣の収容線で停車した。
すぐ隣はSL検修庫だ。
案内係の指示に従い、ヘルメットを装着して車外に降りる。
すぐ横の工場建屋に入り、総合検査線に案内されて東武80000系と対面した。
“美しい…”
誰もが息を飲んだ。
事前に公開されたCGとほとんど変わらない。
けれど実物は、CGでは到底表現できない迫力に満ち溢れていた。
それは車体の塗装だ。
今まで見たこともない、まるで白磁器のような光沢。
そして深みを感じる白。
近づくと自分が写りこむほどの平滑な表面。まるで鏡のようだ。
光沢具合はJR東日本のE655系のような磨き込まれた高級感を上回り、白は九州新幹線N700系8000番台ほど青味はない、いわゆる“スノーホワイト”と言える純白だ。
そのボディに東武のフューチャーブルーと半蔵門線のラインカラーである明るめのパープルラインが絶妙なアクセントになっている。
“本日皆様にお披露目いたします80000系電車です。通常なら屋外の留置線での公開となりますが、この電車はただいまご覧のようにその塗装に特徴があり、その仕上がりをご堪能いただくためには、庫内でライティングすべきだろうと判断いたしました”
庫内のスピーカーから係員の解説が聞こえてきた。
確かに天井のLEDライトによって、屋外のような光が降り注いで80000系のボディを輝かせている。
これなら晴天でなくても最大の効果が得られる。
一通り車体の周りを見学して、研修室に向かった。
お約束の開発コンセプトや諸元を解説後、紙面掲載に関わる各種資料と提供写真が収められてるCD-ROMが配布された。
CD-ROMについての注意事項の後、使用許諾の誓約書にサインをしてお開きになった。
画像データは新車ニュース等の記事以外に使用する際は、再度使用認可を受ける必要があるとのことだ。
添付されていたサムネールプリントを見ると、形式写真以外にイメージ画像が多く収録されているようだ。
この写真はどうやら、全て奈美さんの手によるものだと直感した。
それだけ特徴ある画像が多いのだ。
帰社して自分で撮影した画像をPCで開く。
案の定、あの輝くような迫力ある白さはほとんど再現できていない。
屋内展示した状態でもこの程度だった。
次に奈美さん…もとい、東武から提供された画像を開く。
「な、なんだこりゃ!」
思わず叫び声をあげてしまった。
「どうした? 何かドジったか?」
編集長は最初から俺がしくじったと決めてかかっている。
「いや、東武から提供された新型車の画像が…、すごいんです」
「おお、これは確かに」
車体には景色が写り込んでいて、それが車体の白さを強調しているのに車体のディテールがきちんと再現されている。
白さは純白なのにハレーションも起こしていない。
「こりゃぁ、奈美ちゃんだな。こんな写真はそうそう取れるもんじゃないよ」
「俺が撮ってきたのは見事にハレーション起してましたよ」
光の強いところは白く潰れてしまうことが多い。
しかし、提供写真はしっかりと濃淡がつき、形がはっきり見えるのだ。
「しかし…、これ誌面で再現できるんですかね?」
通常の印刷物はオフセット印刷が主流だ。これは色を4色のインクで印刷するが、濃淡は網点の大きさで再現する。それを4色のインクで掛け合わせて約100万色(理論上、墨は他の3色とダブるため)で表す。
元のデータがどんなに高精細であっても、印刷時の細かさ(線数)以上は単にオーバースペックでしかない。
「まあ、奈美ちゃんならそのあたりも考えてると思うぞ。そもそも配布されたデータはJPEGなんだろ? 拡大しない限りは大丈夫なんじゃないか?」
とりあえずは奈美さん…もとい、東武提供画像を中心にページングするしかないようだ。
東武80000系は半年ほど各種試験を行い、新・大師線開業とともに営業運用にデビューするとのことだ。
奈美さんは相変わらず東武の仕事にかかりきりで、もう3ヶ月以上顔を合わせていない。
寂しさに耐え切れず、それとなくメールするが通り一遍の返事しか返ってこなかった。
そして新・大師線及び東京メトロ赤羽線赤羽~葛西臨海公園間開業時も、奈美さんは我が“鉄道ライフ”の取材は受けられなかった。
さらに約2年後、東京メトロ赤羽線全線開業及び約20年ぶりに東上線の新駅開業を迎えた。
元を辿れば、奈美さんが西板線リメイクの西練線を提案したほぼそのままのルートでの開業だ。もっとも東武車は通らないため、当初の“本線東上線間連絡線”としての機能はないのだが…。
東武でも新駅開業セレモニーを大々的に行った。
が、
その日、東京メトロ赤羽線沿線にも東武東上線にも…
奈美さんの姿はなかった。
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