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EX03
エイトライナー/メトロセブン06
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報道関係者を乗せた17000系6両編成は、赤羽線用に新設された綾瀬検車区の地下留置線へ最徐行で入線して行く。
本線から分岐してすぐの地上に上がる連絡線を避けて、さらに奥に進む。
「なんかやけに明るいわね」
奈美さんの指摘で窓外に目を向ける。
「本当だ。まるで屋外のような明るさですね」
留置線はLEDライトの白っぽい光で煌々と照らされている。
しかも他のどこの地下留置線と違って、線路の間隔がかなり広く、影になるところが少ないために余計に明るく見えるのだろう。
「報道公開だから写真を撮りやすくしてくれてるとしても、かなり明るいわ」
試乗車が留置線に停車し、参加者は最後尾(留置線の入り口方)の側扉から線路際にある昇降台を使って構内に降り立った。
“みなさんお気付きのことと思いますが、この留置線はとても明るく、広く作られています。これは和光市まで延伸し、車両の留置が2箇所に分散できることになったため、当留置線に入線する編成数が半減しました。予備線としておくこともできましたが、労働環境改善の一環として、留置線のピッチを広げて照明も強化し、始業点検等における見落としなどのヒューマンエラーを減少する試みを行ないました”
構内の通路を歩きながら、係員が説明を始める。
今回の試乗会で一番の見せ場のようだ。
確かに明るいことは、それだけで意識の覚醒を促し、早朝の始業点検など緊張感を持って行えるだろう。
しかも線路間の広い通路はとても歩きやすかった。
この試みは、最近頻発している金属疲労が原因の台車の破断や、SIVなどの床下機器の故障による事故を事前に発見できる機会を増やすことらしい。
それ以外にも構内の照明を強化することで、乗務員のモチベーションを維持する効果があると判断されたからだ。
「なんだか精神論っぽいわね…」
「た、確かに…」
しかし、このメンタル的な配慮が意外と重要なのだそうだ。
その後、研修室内では、赤羽線の今後のスケジュールを再度説明された。
まず来月暫定開業する区間は、北綾瀬駅~一色駅間で変更はない。
使用される車両は、有楽町/副都心線と共通の17000系だが、しばらくの間はそのうちの3編成を6両編成に短縮して充当される。
赤羽線の車両は全て和光検車区所属となるので、3編成は出向扱いとなり、綾瀬検車区に一時的に留置されることになるそうだ。
暫定開業区間は4駅なので、朝夕ラッシュ時以外は1編成のみの往復運用になる。
その他の区間の開業は、赤羽駅~北綾瀬駅、一色駅~葛西臨海公園駅が2年後、そして平和台駅~赤羽駅はそのさらに2年後ということだった。
「当初計画区間の赤羽~葛西臨海公園間が2年後というのはわかりますが、赤羽~平和台間がやけに早くないですか? まだ全然着工はしてないはずですよね?」
「う~ん。事情はわからないけど、今から4年後と考えれば可能なのかもね」
「でも、エイトライナーの躯体も建設するんですよね? 工事は他の区間より大掛かりになると思うんですけど…」
「なら、後の質疑応答の時に質問してみたら?」
「そうですね」
そして、その回答は…、
“エイトライナーとの共用区間はブロック工法で建設します。シールド工法も並行いたしますが、開削可能な区間は極力外部で組み上げたユニットを利用することで、工期短縮を可能にいたしました”
つまり地下でシールドブロックを組んで行くより、大きなユニットを埋め込んだ方が早いということだ。そのためのブロックは当然工事現場至近で作られるが、その作業を行うスペースが確保出来るなら、その手段は有効だろう。
「そうなるとエイトライナーも早期に開通するってことなんですかね?」
「そっちは都交通局との調整があるからわからないけど、共用区間が長いから事業化も近いかもね」
今回はさすがにその回答は得られなかったが、エイトライナーとしての整備は進められている様子だった。
開業までの間は特に情報らしい情報はなかった。
開業当日は予想どおり大した混雑もなく、式典が終わると潮が引くように人々が去っていった。
理由は一般客は写真が撮りにくいこと(全線地下区間の上、駅はフルハイトのホームドアで完全防護されているため)が、主な原因のようだ。
報道関係者は開業の様子を取材することが目的なので、車両よりコンコースや地上出入り口周辺の取材を行っていた。
やはり本格的に注目されるのは赤羽まで開通した時だろう。
それまでは大した情報がないように思われた。
しかし…、
「やったわよっ! ついに東武の新型通勤車が発表されたわっ!」
またしても編集部の入り口で奈美さんが叫んだ。
編集長が生やさしい目で俺を見つめる。
諦めて立ち上がり、奈美さんをミーティングルームに押し込んだ。
「奈美さん、何度も言うように編集部に入るなり叫ぶのはやめてくださいよ」
「なんでよ。いいじゃない活気が出て」
全く悪気がないのが痛い…。
「ハァ…、で? なんで発表まで黙ってたんですか? 奈美さんのことだから企画段階で情報を得られていたんじゃないですか?」
「な、何言ってんのよ。そんなこと当たり前の守秘義務じゃない」
「え? 守秘義務?」
「うん。だって、私も開発スタッフの一人だもん」
何かとんでもないこととを聞いたような…、
「ええっー!? 開発スタッフぅ?」
「そだよ。といっても外部スタッフとして、インテリアデザインの検討などの担当だけどね」
「それでも凄いじゃないですか。いつの間にそんなことになってたんですか?」
「だから、そういうことも守秘義務があるんだってば」
笑いながら両手を顔の前で振り回す。
「あ、そうだ。その新型車って?」
「うん。80000系だよ。70000系と8000系を足したようなデザインなの」
… … ? 全く解らん。
「え~と、想像つかないので、デザイン画かCGとかないんですか?」
「え~とね。これこれ」
そう言って、奈美さんはMacBookProでCGを表示させた。
「おお! 凄い。これはアルミ車なんですか?」
「そうだよ。今までの50000系列や70000系で問題になった車外の汚れ対策で、全塗装車になったの」
アルミ車体は静電気などで、平滑な表面に流れる空気に含まれるススなどを吸着してしまう。
特に押出成形によって精度が高い表面を持つ、東武50000系列は目に見えるほど黒ずんでいることが多い。
運用上、東武車は一度直通先に入線すると走行距離の平均化のため、なかなか自社線に戻ってこられない。しかも、入庫できる回数が少ないために洗車もままならないのだ。
同じようにアルミ車を使用している東京メトロ10000系や、8000系はラッシュ後の入庫時にこまめに洗車されているため、汚れがひどくなる前に対応できている。
ステンレス車も汚れが付着するが、車体の構造や表面の静電気量が小さいためにススが付きにくいらしい。
東武の場合は洗車のサイクルを短くしようにも、洗車設備があるのは森林公園や南栗橋検車区などかなりの郊外になる。
都心に近い東京スカイツリー留置線は優等列車が優先だし、下板橋は東上線地上用ばかりだ。
「その対策に全塗装車ですか? なんだか時代に逆行してるような気がしますけど…」
「何言ってんのよ。JRの特急車だって、ずっと塗装してるじゃない。ステンレス車は別だけどね」
「? JRもアルミ車に塗装? 新幹線じゃないですよね?」
「違うわよ。E653系(元特急ひたち)とかE353系(現特急あずさ)のことよ」
「ああ、そうか。アルミ車でしたね。塗装されてるとつい普通鋼だと思ってました」
「今のJR新型車はステンレスかアルミしかないわよ」
「総合車両製作所でもアルミ車作ってるんですか?」
「っていうか、なんであなたがそんなこと知らないの? 製作関連に友達がいるのに…」
「いやぁ、日立以外はステンレス車しか作ってないと思ってました」
「…なんでよ。JTREC(総合車両製作所)の横浜だったら、アルミ車のラインも普通鋼のラインも残ってるのよ?」
「普通鋼も? なんで今も?」
「それは改造も請け負ってるからよ。例えば…ちょっと前だけど、東武の634型スカイツリートレインもここで改造されたのよ。普通鋼の加工や車体製作にも対応してないと受注できないでしょ?」
「ああ、確かに」
JTREC横浜は京急金沢文庫付近にあり、元々“東急車輌”だったところだ。
東急のステンレス車を始め、JRのダブルデッカーや特急用アルミ車、京急車など、様々な事業者向け車両を製作してきた。
JR傘下になり、JTRECになってからも新津では大量製作をメインで行い、ダブルデッカーや製作両数の少ない車両は横浜で対応してきた。
最近では新津にも少数製作のラインが整備され、拠点が2箇所になったため請け負う車両も増えてきている。
「で、話が逸れたけど、塗装することでアルミボディの表面にパテとサーフェイサーと塗料の膜が出来て、静電気で吸着される汚れは激減するの。さらにどうせ塗装するなら塗り分けも工夫しようということになって、東武8000系の現行塗装を模したデザインになったのよ」
「東武8000系の現行塗装? っていうことは、白地にブルーの濃淡2色ってことですか?」
「うん。でもいずれホームドアが完備されたら、窓下のラインは見えないから、70000系のような戸袋部分にブロックパターンで表すことになったのよ」
「それでこのデザインなんですか。なかなかポップですね」
東武80000系のデザインは50000系の様に大きな前面窓と助士側に目一杯寄せた非常扉が印象的だ。
ただ、前面パネルはボルト締結ではなく、60000系の様にアルミ削りだしのパーツを溶接する方法になった。
50000系で、前面窓下のオレンジに塗装されていた部分は、側面と一体になったために車体色となり、ライトケースから側面に回り込む様にコーポレートカラーのフィーチャーブルーの短い帯が乗務員扉後ろまで続く。
ここまでは全車共通仕様で、その他の部分は使用線区及び型式ごとに異なったカラーリングになるそうだ。
「このデザインは東武大師線・半蔵門線直通用なの。この他には東上線用にも増備されるらしいけど、まだ塗色デザインは決まってないの」
今後この80000系は様々な仕様が登場する予定だそうだ。
最短の2両編成から10両編成まで、使用線区に合わせた仕様に対応するということだ。
「登場するのは3ヶ月後なんですね。開通までまだ1年以上あるのに…」
「東武はいつも先行して試作車を走らせて、走行テストするからね。9000系の時なんか約半年も試運転してたんだってさ。その後に営業運用されて、量産車が出たのは試作車から6年後で、有楽町線との直通運転が始まるまでに6編成が増備されたのよ」
「へえ、じゃあ今回のように1年前というのは、東武にしてはギリギリのスケジュールなんですか?」
「そんなことないわ。何しろ50000系から70000系までのシステムの改良型だから、試作車を作る必要がなかったってことよ。それでも、増備分の5編成が出そろったら、他線区用にシステムの見直しはするでしょうね」
「なるほど。で、奈美さんは今後何をするんですか?」
「本業(カメラ)に決まってるじゃない(笑)、私は広報用の写真を撮りまくるわ」
「あ、そうか。こっちにも良いの(写真)回してくださいね。折込でも使いたいから…」
「そういうのは広報部に申し込んでくださいね」
そう言って、奈美さんは楽しそうに笑った。
暫定開業時と異なり、赤羽までの開通、東武大師線の延伸開業時はさぞハッチャケるんだろうなぁ…。
今から覚悟を決めておく必要がありそうだった。
<続く>
本線から分岐してすぐの地上に上がる連絡線を避けて、さらに奥に進む。
「なんかやけに明るいわね」
奈美さんの指摘で窓外に目を向ける。
「本当だ。まるで屋外のような明るさですね」
留置線はLEDライトの白っぽい光で煌々と照らされている。
しかも他のどこの地下留置線と違って、線路の間隔がかなり広く、影になるところが少ないために余計に明るく見えるのだろう。
「報道公開だから写真を撮りやすくしてくれてるとしても、かなり明るいわ」
試乗車が留置線に停車し、参加者は最後尾(留置線の入り口方)の側扉から線路際にある昇降台を使って構内に降り立った。
“みなさんお気付きのことと思いますが、この留置線はとても明るく、広く作られています。これは和光市まで延伸し、車両の留置が2箇所に分散できることになったため、当留置線に入線する編成数が半減しました。予備線としておくこともできましたが、労働環境改善の一環として、留置線のピッチを広げて照明も強化し、始業点検等における見落としなどのヒューマンエラーを減少する試みを行ないました”
構内の通路を歩きながら、係員が説明を始める。
今回の試乗会で一番の見せ場のようだ。
確かに明るいことは、それだけで意識の覚醒を促し、早朝の始業点検など緊張感を持って行えるだろう。
しかも線路間の広い通路はとても歩きやすかった。
この試みは、最近頻発している金属疲労が原因の台車の破断や、SIVなどの床下機器の故障による事故を事前に発見できる機会を増やすことらしい。
それ以外にも構内の照明を強化することで、乗務員のモチベーションを維持する効果があると判断されたからだ。
「なんだか精神論っぽいわね…」
「た、確かに…」
しかし、このメンタル的な配慮が意外と重要なのだそうだ。
その後、研修室内では、赤羽線の今後のスケジュールを再度説明された。
まず来月暫定開業する区間は、北綾瀬駅~一色駅間で変更はない。
使用される車両は、有楽町/副都心線と共通の17000系だが、しばらくの間はそのうちの3編成を6両編成に短縮して充当される。
赤羽線の車両は全て和光検車区所属となるので、3編成は出向扱いとなり、綾瀬検車区に一時的に留置されることになるそうだ。
暫定開業区間は4駅なので、朝夕ラッシュ時以外は1編成のみの往復運用になる。
その他の区間の開業は、赤羽駅~北綾瀬駅、一色駅~葛西臨海公園駅が2年後、そして平和台駅~赤羽駅はそのさらに2年後ということだった。
「当初計画区間の赤羽~葛西臨海公園間が2年後というのはわかりますが、赤羽~平和台間がやけに早くないですか? まだ全然着工はしてないはずですよね?」
「う~ん。事情はわからないけど、今から4年後と考えれば可能なのかもね」
「でも、エイトライナーの躯体も建設するんですよね? 工事は他の区間より大掛かりになると思うんですけど…」
「なら、後の質疑応答の時に質問してみたら?」
「そうですね」
そして、その回答は…、
“エイトライナーとの共用区間はブロック工法で建設します。シールド工法も並行いたしますが、開削可能な区間は極力外部で組み上げたユニットを利用することで、工期短縮を可能にいたしました”
つまり地下でシールドブロックを組んで行くより、大きなユニットを埋め込んだ方が早いということだ。そのためのブロックは当然工事現場至近で作られるが、その作業を行うスペースが確保出来るなら、その手段は有効だろう。
「そうなるとエイトライナーも早期に開通するってことなんですかね?」
「そっちは都交通局との調整があるからわからないけど、共用区間が長いから事業化も近いかもね」
今回はさすがにその回答は得られなかったが、エイトライナーとしての整備は進められている様子だった。
開業までの間は特に情報らしい情報はなかった。
開業当日は予想どおり大した混雑もなく、式典が終わると潮が引くように人々が去っていった。
理由は一般客は写真が撮りにくいこと(全線地下区間の上、駅はフルハイトのホームドアで完全防護されているため)が、主な原因のようだ。
報道関係者は開業の様子を取材することが目的なので、車両よりコンコースや地上出入り口周辺の取材を行っていた。
やはり本格的に注目されるのは赤羽まで開通した時だろう。
それまでは大した情報がないように思われた。
しかし…、
「やったわよっ! ついに東武の新型通勤車が発表されたわっ!」
またしても編集部の入り口で奈美さんが叫んだ。
編集長が生やさしい目で俺を見つめる。
諦めて立ち上がり、奈美さんをミーティングルームに押し込んだ。
「奈美さん、何度も言うように編集部に入るなり叫ぶのはやめてくださいよ」
「なんでよ。いいじゃない活気が出て」
全く悪気がないのが痛い…。
「ハァ…、で? なんで発表まで黙ってたんですか? 奈美さんのことだから企画段階で情報を得られていたんじゃないですか?」
「な、何言ってんのよ。そんなこと当たり前の守秘義務じゃない」
「え? 守秘義務?」
「うん。だって、私も開発スタッフの一人だもん」
何かとんでもないこととを聞いたような…、
「ええっー!? 開発スタッフぅ?」
「そだよ。といっても外部スタッフとして、インテリアデザインの検討などの担当だけどね」
「それでも凄いじゃないですか。いつの間にそんなことになってたんですか?」
「だから、そういうことも守秘義務があるんだってば」
笑いながら両手を顔の前で振り回す。
「あ、そうだ。その新型車って?」
「うん。80000系だよ。70000系と8000系を足したようなデザインなの」
… … ? 全く解らん。
「え~と、想像つかないので、デザイン画かCGとかないんですか?」
「え~とね。これこれ」
そう言って、奈美さんはMacBookProでCGを表示させた。
「おお! 凄い。これはアルミ車なんですか?」
「そうだよ。今までの50000系列や70000系で問題になった車外の汚れ対策で、全塗装車になったの」
アルミ車体は静電気などで、平滑な表面に流れる空気に含まれるススなどを吸着してしまう。
特に押出成形によって精度が高い表面を持つ、東武50000系列は目に見えるほど黒ずんでいることが多い。
運用上、東武車は一度直通先に入線すると走行距離の平均化のため、なかなか自社線に戻ってこられない。しかも、入庫できる回数が少ないために洗車もままならないのだ。
同じようにアルミ車を使用している東京メトロ10000系や、8000系はラッシュ後の入庫時にこまめに洗車されているため、汚れがひどくなる前に対応できている。
ステンレス車も汚れが付着するが、車体の構造や表面の静電気量が小さいためにススが付きにくいらしい。
東武の場合は洗車のサイクルを短くしようにも、洗車設備があるのは森林公園や南栗橋検車区などかなりの郊外になる。
都心に近い東京スカイツリー留置線は優等列車が優先だし、下板橋は東上線地上用ばかりだ。
「その対策に全塗装車ですか? なんだか時代に逆行してるような気がしますけど…」
「何言ってんのよ。JRの特急車だって、ずっと塗装してるじゃない。ステンレス車は別だけどね」
「? JRもアルミ車に塗装? 新幹線じゃないですよね?」
「違うわよ。E653系(元特急ひたち)とかE353系(現特急あずさ)のことよ」
「ああ、そうか。アルミ車でしたね。塗装されてるとつい普通鋼だと思ってました」
「今のJR新型車はステンレスかアルミしかないわよ」
「総合車両製作所でもアルミ車作ってるんですか?」
「っていうか、なんであなたがそんなこと知らないの? 製作関連に友達がいるのに…」
「いやぁ、日立以外はステンレス車しか作ってないと思ってました」
「…なんでよ。JTREC(総合車両製作所)の横浜だったら、アルミ車のラインも普通鋼のラインも残ってるのよ?」
「普通鋼も? なんで今も?」
「それは改造も請け負ってるからよ。例えば…ちょっと前だけど、東武の634型スカイツリートレインもここで改造されたのよ。普通鋼の加工や車体製作にも対応してないと受注できないでしょ?」
「ああ、確かに」
JTREC横浜は京急金沢文庫付近にあり、元々“東急車輌”だったところだ。
東急のステンレス車を始め、JRのダブルデッカーや特急用アルミ車、京急車など、様々な事業者向け車両を製作してきた。
JR傘下になり、JTRECになってからも新津では大量製作をメインで行い、ダブルデッカーや製作両数の少ない車両は横浜で対応してきた。
最近では新津にも少数製作のラインが整備され、拠点が2箇所になったため請け負う車両も増えてきている。
「で、話が逸れたけど、塗装することでアルミボディの表面にパテとサーフェイサーと塗料の膜が出来て、静電気で吸着される汚れは激減するの。さらにどうせ塗装するなら塗り分けも工夫しようということになって、東武8000系の現行塗装を模したデザインになったのよ」
「東武8000系の現行塗装? っていうことは、白地にブルーの濃淡2色ってことですか?」
「うん。でもいずれホームドアが完備されたら、窓下のラインは見えないから、70000系のような戸袋部分にブロックパターンで表すことになったのよ」
「それでこのデザインなんですか。なかなかポップですね」
東武80000系のデザインは50000系の様に大きな前面窓と助士側に目一杯寄せた非常扉が印象的だ。
ただ、前面パネルはボルト締結ではなく、60000系の様にアルミ削りだしのパーツを溶接する方法になった。
50000系で、前面窓下のオレンジに塗装されていた部分は、側面と一体になったために車体色となり、ライトケースから側面に回り込む様にコーポレートカラーのフィーチャーブルーの短い帯が乗務員扉後ろまで続く。
ここまでは全車共通仕様で、その他の部分は使用線区及び型式ごとに異なったカラーリングになるそうだ。
「このデザインは東武大師線・半蔵門線直通用なの。この他には東上線用にも増備されるらしいけど、まだ塗色デザインは決まってないの」
今後この80000系は様々な仕様が登場する予定だそうだ。
最短の2両編成から10両編成まで、使用線区に合わせた仕様に対応するということだ。
「登場するのは3ヶ月後なんですね。開通までまだ1年以上あるのに…」
「東武はいつも先行して試作車を走らせて、走行テストするからね。9000系の時なんか約半年も試運転してたんだってさ。その後に営業運用されて、量産車が出たのは試作車から6年後で、有楽町線との直通運転が始まるまでに6編成が増備されたのよ」
「へえ、じゃあ今回のように1年前というのは、東武にしてはギリギリのスケジュールなんですか?」
「そんなことないわ。何しろ50000系から70000系までのシステムの改良型だから、試作車を作る必要がなかったってことよ。それでも、増備分の5編成が出そろったら、他線区用にシステムの見直しはするでしょうね」
「なるほど。で、奈美さんは今後何をするんですか?」
「本業(カメラ)に決まってるじゃない(笑)、私は広報用の写真を撮りまくるわ」
「あ、そうか。こっちにも良いの(写真)回してくださいね。折込でも使いたいから…」
「そういうのは広報部に申し込んでくださいね」
そう言って、奈美さんは楽しそうに笑った。
暫定開業時と異なり、赤羽までの開通、東武大師線の延伸開業時はさぞハッチャケるんだろうなぁ…。
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<続く>
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