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EX03

エイトライナー/メトロセブン02

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 奈美さんが編集部で叫んだ日から早くも2ヶ月が過ぎた。
 その間、“エイトライナー/メトロセブン”に関する情報は全くなく、俺も他の特集記事に追われてほとんど忘れかけていた。が、
 「メトロセブンの建設が決定したわよっ!」
 再びの絶叫が編集部内に響き渡った。
 (またかぁ…)と思いつつ室内を見回すと、やっぱりみんなの視線が俺に集まっている。
 小さくため息をつき、立ち上がる。
 「奈美さん、毎回毎回入り口で絶叫しないでくださいよぉ」
 「だって、少しでも早くみんなに知らせたかったんだもん」
 まるで純真な子供のような笑顔を返してくる。
 とにかく奈美さんの部屋(本来はミーティングルームの一室なのだが…)に押し込んだ。
 「それで、何か進展があったんですか?」
 今の俺は特集のことで頭がいっぱいなので、近々の情報でない限り喰い付いてる暇はないんだけど…。
 「進展どころじゃないわよっ! 決定よ、建設が決定したのっ!」
 とは言われても、未だに状況が掴めないからテンションが上がらない。
 「ルートとかが決定したんですか? …あれ? メトロセブン?って言いましたか?」
 「そうよ。メトロセブンの建設が決定したの!」
 「エイトライナーは? 一緒じゃないんですか?」
 「そっちはまだ進んでないわ。でもね、赤羽から葛西臨海公園までのメトロセブンの区間は事業化されることになったのよ」
 奈美さんテンション高いなぁ…両方ともというならそのテンションも理解できるけど…、半分だけ…なんでしょ?
 俺は何か引っかかるものを感じてはいたが、まあ進展があったならいいかと納得した。
 「それで、建設に至る経緯を教えてくれませんか?」
 「…なんかさ、テンション低くない? …ま、いいかぁ~」
 そう言いつつ、奈美さんはショルダーバッグから、かなり分厚い封筒を取り出してテーブルに置く。
 「まずは、今までの計画で誰も気付いてなかった重大な問題点が判明したの」
 奈美さんは葛飾区と江戸川区の地図を広げた。
 「メトロセブンって、環七の直下を走らせるのが原則案なんだけど…」
 「原則と言うより、用地取得が困難だから道路下に収めなくちゃいけないんですよね」
 「わぁ~ってるわよぉ。でも河川は道路直下に通せないから、両岸の一定範囲は用地取得が必要でしょ…。あ、そんなことはどうでもいいのっ!」
 自分で解説しかけて脱線しそうになるのを強引に修正する。
 「メトロセブンの計画の主旨は知ってるわよね」
 「そりゃあ、大井町線のバイパス化計画(※)でエイトライナー/メトロセブンの勉強しましたからね」
 (※妄想ライン・妄想トレインEX 第1話 等々力ライトレール 参照※)
 「放射状に広がる都心からの各路線を環七・環八付近で接続して、短絡経路を形成するんですよね」
 特に東京東部の葛飾区や江戸川区は放射状の各路線は整備されているものの、それぞれを結ぶ路線は無いに等しい。
 しかも環七沿線の住民は、最寄りの駅に向かうためにバスを利用するしか無い。
 その環七付近は慢性的な渋滞のために、バスの定時運行はほぼ不可能な状態だ。
 環七から遠ざかれば若干は混雑も和らぐが、駅への所要時間もその分多くかかってしまう。
 環七直下に鉄道が通れば、バスの利用者は鉄道に移行することで、移動の所要時間が確実に減少できる。
 「要するにバスの代替になり、バスの本数が減れば少なくともその分は渋滞が改善できる…と?」
 「その程度じゃ渋滞に変化はないでしょうけどね。少なくとも沿線住民の足が確保できるわ」
 メトロセブンはエイトライナーよりも輸送規模は大きそうだ。
 「でね、重大な問題点っていうのは…」
 今度は東京23区の地図を出して、北区を開く。
 赤羽駅を指差し、そこからメトロセブンの計画線をなぞって行く。
 その指がまず東京メトロ南北線と交差する。
 荒川を越えて、足立区へ。
 日暮里舎人ライナーと交差すると、すぐに東武大師線の大師駅をかすめて、東武スカイツリーライン、つくばエクスプレス、東京メトロ千代田線と交差する。
 葛飾区に入り、JR常磐線、京成本線と交差して、江戸川区へ入ってすぐにJR総武線と交差。
 そのあとは都営新宿線、東京メトロ東西線と交差して最後はJR京葉線の葛西臨海公園へ。
 実に10路線と交差し、始発のJR赤羽駅と終点の葛西臨海公園を含めれば、12駅で他線とアクセスできる。
 「そこが問題だったのよっ!」
 奈美さんが突然声を荒げた。
 「実際に環七に面した駅は3駅。北綾瀬駅と一之江駅、葛西駅しかないのよ」
 「え?」
 「そして他に乗り換え駅にできそうなのは、東武スカイツリーラインの西新井駅で100mほど、JR常磐線亀有駅が200m、京成本線の青砥駅では300mの3駅。ただし、亀有駅は商店街などの密集地なので、乗換コンコースの設置はまず不可能。青砥駅の場合は駅の構造が特殊(京成本線と地下鉄直通の押上線が方向別の2層式高架線)なので、地下からのコンコースは不可能」
 「じゃあ、乗換って言っても公道を歩かなくちゃいけないじゃないですか」
 「そうね。雰囲気的には西武池袋線の秋津駅とJR武蔵野線の新秋津駅のような感じになると思うわ」
 「で、他の路線は乗り換えすらできない?」
 「そうね駅間に新駅でも作らないと無理ね」
 「となると…、地域の住民が既存の駅に向かうにしても、代わりの足にならない? と?」
 「特にJR総武線は小岩と新小岩のちょうど中間だから、両駅間が短くなっても新駅を作らざるを得ないでしょうね」
 「本来の主旨が半減…というより、ほとんど活かされませんね」
 「…ということに、気づいたのよ」
 「気付いたのよって、そんな投げやりな…。それでも建設は遂行されるんですかぁ?」
 「その問題を補完して、さらに沿線住民の足を確保するためにね」
 「は?」
 「あ、まずは規格から説明するわね」
 奈美さんはかなり強引に話を切り替える。
 しかし俺は、ここからが本題なんだな、と気付いた。

 メトロセブンは先の“エイトライナー/メトロセブン”計画から一転、独自の規格を打ち出してきた。
 車両は20m4扉、1500Vの架空電車線方式。軌間は1067mm。
 最終的には10両編成に対応できるよう、ホーム有効長は最初から210mとなり、全駅フルハイトのホームドア(天井までパーテーションで仕切られるタイプ)完備となる。
 雰囲気的は東京メトロ南北線が10両編成になったようなものだ。
 「奈美さん。これって…」
 ここまでの説明で朧げながら、奈美さんがハイテンションな理由が見えてきた。
 「ん? 東京メトロの主要路線と同じような規格になったのよね」
 「…奈美さん。そろそろ白状しませんか? この計画って、東武が絡んでますよね?」
 「あ、わかっちゃった? 実はその通りなのよっ!」
 何かおかしいと思っていたんだ。
 メトロセブンの規格変更などで、奈美さんのテンションはここまで上がらない。
 「で、何がどうなってるんですか?」
 「あのね。赤羽から常磐線や総武線へのショートカットに、北千住や錦糸町が最適だと結論づけられました。そうなると西新井から東武スカイツリーラインに乗り換えれば、北千住で常磐線に乗り換えが可能でしょ」
 「あ、確かに」
 「で、東武スカイツリーラインでそのまま半蔵門線に乗り入れれば、押上の次は錦糸町なのよ」
 「はあ」
 「一気に解決!」
 「そんな簡単に行くわけないでしょ! 運賃はどうなるんですかぁ、割高になるでしょ?」
 「まあ、JRからJRへの乗り継ぎはショートカットのルート分が高くなるけど、それも最小レベルに抑えれば需要はあるんじゃない?」
 聞いている分には合理的なシステムに聞こえるけど、実際に利用しようとしたら倍近い運賃になるんじゃないかな? これ。
 「ルートとしてはどうなんですか? 例えば赤羽から北千住じゃあ、JR日暮里乗り換えで約14km。片やメトロセブン・東武スカイツリーライン経由だと…、あれ? こっちも約14km?」
 「そうなのよ。北千住までの距離はほぼ互角なの。しかも運転速度が速ければメトロセブン・東武スカイツリーラインの方が早い可能性もあるの」
 JRルートの場合、赤羽からは京浜東北線に乗らないと日暮里での乗り換えはできない。
 所要時間は約13分で日暮里からは約8分だが、日暮里駅では長い跨線橋を渡らなくてはならないので、乗り換えに3分以上かかる。トータルで25分。
 メトロセブン・東武スカイツリーラインルートは西新井での乗り換えがあるものの、日暮里ほど時間がかからないので、トータルで15~18分くらいになるだろう。
 「へえ、そうなるとメトロセブン・東武スカイツリーラインルートの意義は、多いにあるんですね」
 「そうなのよ。でもね、これだけで話は終わらないの」
 なんかイタズラしてる子供みたいに目を輝かせる奈美さん。
 「なんすか。その悪役っぽい顔は…」
 「あ~ひどい。最新驚愕の事実を教えてあげようっていうのにっ!」
 (プイッ)とそっぽを向く。
 いけない! 拗ねると大変だ! 俺はすぐに降参した。
 「わ、ごめんなさい。分かりました教えてください」
 唇を尖らせて、白い目で睨む奈美さん。でも話したくて仕方ないから、すぐに機嫌を直して“驚愕の事実”とやらを教えてくれた。
 そして、それは確かに“驚愕な”情報だった。
    <続く>
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