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EX03
エイトライナー/メトロセブン01
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「とうとうエイトライナー/メトロセブン計画が始動するんだって!」
編集部の扉を開けた途端に、奈美さんがいつもの如く、よく通る声で嬉々として叫んだ。
編集部員たちも一瞬は驚いたものの、奈美さんだとわかると何もなかったように、すぐに各自の仕事に戻る。
またか…という言葉が聞こえてきそうで、何人かは俺にアイコンタクトしていた。
仕方ないので、俺が代表して話を聞くことにする。
「はい? どういう意味ですか?」
「だからっ! エイトライナー/メトロセブンの建設が現実味を帯びてきたのよっ!」
じれったそうに“バン!”と机を叩きながら続ける。
「…で?」
「え~~っ! 何よ、そのテンションだだ下がりの反応はっ!」
「と、言われてもピンとこないので…」
間も無く開業とか、建設現場の報道公開とか言うならまだしも、これから計画する路線は概要が決まるまでにも二転三転することは多々ある。
場合によっては環境の保護とか、用地取得による建設費の高騰などで計画そのものが凍結される可能性もある。
実際にエイトライナー/メトロセブンも、これまで大江戸線のような小断面地下鉄で鉄輪式リニア方式や、LRTも検討されたが事業化されるまでには至っていなかった。
「大井町線のバイパス線建設の時も、エイトライナーの一部区間として前倒しで同時に建設したじゃない(※)」
※妄想ライン・妄想トレインEX 第1話 等々力ライナー参照※
「あ、そういうことじゃなくて…、あれ? じゃあ全線開業に向けた事業計画が本格的に始動したってことですか?」
「だから、そう言ってるじゃない」
「そういうことですか…」
ついに30年越しの計画が実現に向けて動き出した。
それで奈美さんは興奮して…、あれ? なんで奈美さんが興奮するんだろう?
まあ、じきに解るだろう。
「で、運行の形態というか規格の素案が出来たんですか?」
「うんうん。それそれ」
奈美さんは我が意を得たりとばかりに満面の笑顔を返してきた。
「へえ、ということは線路の規格とか直通に関する概略が決まったんですか?」
「うん。基本的には相直(相互直通運転)はしないんだってさ」
「え? 基本的? 何それ?」
相直しないの? するの? 意味がわからん。
「だから独立した路線になるってことだよ? 但し、車両規格は大江戸線と共通にして、鉄輪リニア駆動で小断面車体。デザインや設計も大江戸線と共通にしてコストダウンを図る」
「え? 大江戸線と同じ車両を使うんですか?」
「厳密に言うと専用車体で、運用管理も独立されるし、編成も8両程度になるらしいわ」
戸惑う俺に矢継ぎ早に得てきた情報を伝えてくれる。
「大井町線のバイパス線を建設する時に、前倒しでエイトライナーの構体も建設したでしょ?(※)」
※妄想ライン・妄想トレインEX 第1話 等々力ライナー参照※
「ああ、そうですね。あの時はすぐにエイトライナーも建設が始まると思ってワクワクしてました」
「その時に、行く行くは相直可能な線路配置ができるように設計されたけど、その後相直の必要性を審議して、結局は相直は行わないことに決定したらしいの」
「? なんでまた?」
まあ、相直するなら線路や車体規格だけでなく、保安装置や電車線の共通化が必要になる。
しかし、エイトライナー/メトロセブンが接続する各路線は、様々な規格が採用されていて、その全てと供用させるのはほとんど不可能だ。
「それが、意外な盲点にみんなが気付いたからなの」
「それは?」
「相直させると旅客には便利だけど、関連した路線で運行上の障害が発生すると、影響を受けるの」
「まあ人身事故でも確実に1~2時間は運転見合わせになりますが、その区間だけを不通にして折り返し運転すれば影響は少ないのでは?」
ほとんどの事業者は全線不通の事態は極力避けたいから、途中の折り返し設備のある駅間での区間運転に切り替える。
東急などはその最たるもので、事故発生から最短で10分程度で折り返し運転を開始できる線路配置を行っている。
JRの場合はその規模を利用して、並行する路線に列車を振り分けることも行われたことがあるのだ。
「でもね、全部の事業者がすぐに折り返し運転で対応できるわけじゃないのよ」
「というと?」
「例えば、西武池袋線の池袋~練馬間で障害が発生した場合、地下鉄有楽町線や副都心線は西武線に直通できなくなるの」
「ああ、そういえばよく池袋止まりに変更されてますよね。せめて小竹向原まで行ってくれればいいのにってよく思いますけどね」
「なんで?」
「だって、小竹向原まで行けばそこからは西武有楽町線になって練馬までは…あ、いかれないのか」
「その通り。地下鉄からの直通車は練馬駅の1番線に到着。逆に地下鉄へのホームは4番線。ホーム上での折り返しはできないし、折り返し線がないから最短でも石神井公園まで行かなくちゃいけない」
「あれ? そうでしたっけ?」
「しかも、池袋からの列車は2番線から内側の緩行線を走るから、直通車は練馬から先に行かれないのよ」
しかも小竹向原まで列車を運行すると、折り返しに時間がかかるために有楽町線からの列車がホームに入線できない。
そのため副都心線からの西武線直通車は池袋で旅客を降車させ、小竹向原直前のダンパー線まで回送して折り返す。ダンパー線は上下それぞれ3本あるので、そのうちの一本を折り返しに使用しても後続列車(和光市行きまたは東上線直通列車)に支障が出にくいのだ。
「池袋なら他の路線に振替輸送できるので、駅構内の混雑も最小で済むでしょ?」
「でもそれなら東上線も同じですよね? 池袋~和光市間で支障が発生したら…」
「ふふふ! それが全く違うのだよ! 明智君!!」
「誰が明智君ですか? でも全く違うっていうのは?」
「例えば上板橋あたりで支障が発生したとして、池袋発着の列車は全線で運転見合わせになります」
「全線? 折り返し運転はしないんですか?」
「まあ聞いて。で、池袋発着の列車は各駅に停車してます」
「はあ」
「そこで、和光市から東上線に直通する列車は急行を含め、内側の緩行線…今では直通線って言った方がいいわね。そこを通るので、池袋からの列車が急行線に止まっていても、志木までは運行にほとんど影響がないの」
「ふむ。でも池袋からの各駅停車は? 内側線走ってますよね? それは?」
「だから、支障があるのは池袋~成増間で志木までは走れるのよ。その先に列車が滞っていれば、志木止まりにして引き上げ線に留置できるじゃない。同じように地下鉄からの直通車も志木以遠に行かれないなら、志木折り返しにすればいいので、上り列車の運行に多少の影響があるかもしれないけど、最悪の場合は和光市の東京メトロ和光市車庫から代走させれば運行に穴が開かなくて済むのよ」
「う~ん。なんかよくわからないけど…、西武線とは違って運行に支障が出にくい?」
「そうね。これは各社の運行形態が主な原因なんだけど、東上線は基本的に池袋~成増間は区間運転の各駅停車が主体で、成増以遠に行く列車のほとんどは成増までノンストップで、しかも和光市から志木までの複々線区間は全ての線にホームがあるから、実質各駅停車になる準急も含めて急行線を走るので、地下鉄からの直通車は敢えて内側線を走る普通列車以外はほとんど影響がないのよ」
「なるほど」
「さらに、川越市までの上り列車が全て退避できていれば、地下鉄直通列車のみで川越市まで運転できるし、東上線に直通できない場合(各駅での混雑などで)も和光市止りにして地下鉄方面への折り返しもできるしね」
「ああ、そうか車庫があるし、基本的にメトロ車は和光市終点ですもんね(非直通運用に関して)」
「我が東上線は相互直通に関しても充分な対策を講じてるというわけなのよ! がはは!」
ありゃりゃ、とうとう“我が”とか言い出しちゃったよ、この女は。
「まあ、相直が運行障害に弱いのは分かりましたが、それがどうしてエイトライナー/メトロセブンの建設スタートにつながるんですか?」
「単独運行にして、定時運転に注力することを基本方針にするらしいの。接続駅では旅客の動線を研究して、乗り換えにかかる負担を最小限にする。幾つかの路線は大井町線のバイパス線のように並走して、複数の駅で同一ホーム上での乗り換えを行う計画なんだって」
「ああ、そういうことですか。まあ他社線での障害時に振替輸送を担うにも、定時運行できていれば混雑しても、多少の遅延で済むだろうから効果はありそうですね」
「さらにホーム上の事故を防止するために、ホームドアは天井まであるフルスクリーンタイプにして、線路転落防止だけじゃなく、ホーム上の環境改善のためにエアコンを完備するそうよ」
「エアコン完備? 今までもありませんでしたか?」
「南北線もエアコンがついてるけど、ホームドアの上部のガラスが抜けてて、列車風が入ってくるから、あまり効きが良くないのよね」
「そうなんですか? でもそれって換気や消防法とかで塞いでも大丈夫なんですか?」
「そりゃ非常時には解放できるでしょうけど、いつも開いてるよりいいんじゃない?」
「なるほど。確かに夏なんか微妙に暑くて、気分悪くなることがありますもんね」
ハーフハイトタイプ(高さ120~130cm)のホームドアでは、寄りかかったり荷物を立てかけたりして列車との接触事故が発生している。
さらに酔客などが頭や腕を線路側に出してもたれかかり、進入してきた列車にはねられて線路に転落した事故も発生している。
完全に転落防止を行うためには、南北線のようなフルスクリーンのホームドアが有効なのだ。
「それらを検討した結果、建設に向けての方向性が決まったんだってさ」
「へえ、でもこれから建設に向けての設計を行うなら、開通するまでには20~30年かかるんでしょうねぇ」
これだけの路線規模だと、一度に全線開通させるのはほぼ不可能だ。
先行開業を重ねても、全線が開通するまでには30年くらいはかかりそうだ。
?
あれ? そんなまだまだ概要すら決定していない計画が始動したからって、なんで奈美さんがこんなにテンション高いんだ?
「そりゃそうなんだけど、他社との併走区間は先に開通するんじゃないかな? って思うんだよね」
「? なんでですか? 併走するならかえって設計段階で時間がかかるんじゃないですか?」
「でもさ、各社でも中・長期計画に組み込まれるから、それなりの人員は確保されるだろうし、それぞれの分担箇所を厳密に区分する必要があるから、先に着手するんじゃない?」
なんか無茶苦茶な理屈だなあ。奈美さんにしてはかなり強引な言い分だと感じる。
やっぱり何かありそうだ。
奈美さんはしらばっくれてるけど、違和感からバレバレですが(汗)。
「どっちにしても公式発表はまだまだ先になりそうですね。楽しみにしてましょう」
という、俺の〆の発言は奈美さんにとっても、いい“逃げ”のきっかけになったようで、ニコニコしながら自分のデスク(打ち合わせ用のテーブル)に歩いて行った。
さて、何を“企んで…いや期待”しているのやら…、それほど遠くない未来に分かると思われた。
<続く>
編集部の扉を開けた途端に、奈美さんがいつもの如く、よく通る声で嬉々として叫んだ。
編集部員たちも一瞬は驚いたものの、奈美さんだとわかると何もなかったように、すぐに各自の仕事に戻る。
またか…という言葉が聞こえてきそうで、何人かは俺にアイコンタクトしていた。
仕方ないので、俺が代表して話を聞くことにする。
「はい? どういう意味ですか?」
「だからっ! エイトライナー/メトロセブンの建設が現実味を帯びてきたのよっ!」
じれったそうに“バン!”と机を叩きながら続ける。
「…で?」
「え~~っ! 何よ、そのテンションだだ下がりの反応はっ!」
「と、言われてもピンとこないので…」
間も無く開業とか、建設現場の報道公開とか言うならまだしも、これから計画する路線は概要が決まるまでにも二転三転することは多々ある。
場合によっては環境の保護とか、用地取得による建設費の高騰などで計画そのものが凍結される可能性もある。
実際にエイトライナー/メトロセブンも、これまで大江戸線のような小断面地下鉄で鉄輪式リニア方式や、LRTも検討されたが事業化されるまでには至っていなかった。
「大井町線のバイパス線建設の時も、エイトライナーの一部区間として前倒しで同時に建設したじゃない(※)」
※妄想ライン・妄想トレインEX 第1話 等々力ライナー参照※
「あ、そういうことじゃなくて…、あれ? じゃあ全線開業に向けた事業計画が本格的に始動したってことですか?」
「だから、そう言ってるじゃない」
「そういうことですか…」
ついに30年越しの計画が実現に向けて動き出した。
それで奈美さんは興奮して…、あれ? なんで奈美さんが興奮するんだろう?
まあ、じきに解るだろう。
「で、運行の形態というか規格の素案が出来たんですか?」
「うんうん。それそれ」
奈美さんは我が意を得たりとばかりに満面の笑顔を返してきた。
「へえ、ということは線路の規格とか直通に関する概略が決まったんですか?」
「うん。基本的には相直(相互直通運転)はしないんだってさ」
「え? 基本的? 何それ?」
相直しないの? するの? 意味がわからん。
「だから独立した路線になるってことだよ? 但し、車両規格は大江戸線と共通にして、鉄輪リニア駆動で小断面車体。デザインや設計も大江戸線と共通にしてコストダウンを図る」
「え? 大江戸線と同じ車両を使うんですか?」
「厳密に言うと専用車体で、運用管理も独立されるし、編成も8両程度になるらしいわ」
戸惑う俺に矢継ぎ早に得てきた情報を伝えてくれる。
「大井町線のバイパス線を建設する時に、前倒しでエイトライナーの構体も建設したでしょ?(※)」
※妄想ライン・妄想トレインEX 第1話 等々力ライナー参照※
「ああ、そうですね。あの時はすぐにエイトライナーも建設が始まると思ってワクワクしてました」
「その時に、行く行くは相直可能な線路配置ができるように設計されたけど、その後相直の必要性を審議して、結局は相直は行わないことに決定したらしいの」
「? なんでまた?」
まあ、相直するなら線路や車体規格だけでなく、保安装置や電車線の共通化が必要になる。
しかし、エイトライナー/メトロセブンが接続する各路線は、様々な規格が採用されていて、その全てと供用させるのはほとんど不可能だ。
「それが、意外な盲点にみんなが気付いたからなの」
「それは?」
「相直させると旅客には便利だけど、関連した路線で運行上の障害が発生すると、影響を受けるの」
「まあ人身事故でも確実に1~2時間は運転見合わせになりますが、その区間だけを不通にして折り返し運転すれば影響は少ないのでは?」
ほとんどの事業者は全線不通の事態は極力避けたいから、途中の折り返し設備のある駅間での区間運転に切り替える。
東急などはその最たるもので、事故発生から最短で10分程度で折り返し運転を開始できる線路配置を行っている。
JRの場合はその規模を利用して、並行する路線に列車を振り分けることも行われたことがあるのだ。
「でもね、全部の事業者がすぐに折り返し運転で対応できるわけじゃないのよ」
「というと?」
「例えば、西武池袋線の池袋~練馬間で障害が発生した場合、地下鉄有楽町線や副都心線は西武線に直通できなくなるの」
「ああ、そういえばよく池袋止まりに変更されてますよね。せめて小竹向原まで行ってくれればいいのにってよく思いますけどね」
「なんで?」
「だって、小竹向原まで行けばそこからは西武有楽町線になって練馬までは…あ、いかれないのか」
「その通り。地下鉄からの直通車は練馬駅の1番線に到着。逆に地下鉄へのホームは4番線。ホーム上での折り返しはできないし、折り返し線がないから最短でも石神井公園まで行かなくちゃいけない」
「あれ? そうでしたっけ?」
「しかも、池袋からの列車は2番線から内側の緩行線を走るから、直通車は練馬から先に行かれないのよ」
しかも小竹向原まで列車を運行すると、折り返しに時間がかかるために有楽町線からの列車がホームに入線できない。
そのため副都心線からの西武線直通車は池袋で旅客を降車させ、小竹向原直前のダンパー線まで回送して折り返す。ダンパー線は上下それぞれ3本あるので、そのうちの一本を折り返しに使用しても後続列車(和光市行きまたは東上線直通列車)に支障が出にくいのだ。
「池袋なら他の路線に振替輸送できるので、駅構内の混雑も最小で済むでしょ?」
「でもそれなら東上線も同じですよね? 池袋~和光市間で支障が発生したら…」
「ふふふ! それが全く違うのだよ! 明智君!!」
「誰が明智君ですか? でも全く違うっていうのは?」
「例えば上板橋あたりで支障が発生したとして、池袋発着の列車は全線で運転見合わせになります」
「全線? 折り返し運転はしないんですか?」
「まあ聞いて。で、池袋発着の列車は各駅に停車してます」
「はあ」
「そこで、和光市から東上線に直通する列車は急行を含め、内側の緩行線…今では直通線って言った方がいいわね。そこを通るので、池袋からの列車が急行線に止まっていても、志木までは運行にほとんど影響がないの」
「ふむ。でも池袋からの各駅停車は? 内側線走ってますよね? それは?」
「だから、支障があるのは池袋~成増間で志木までは走れるのよ。その先に列車が滞っていれば、志木止まりにして引き上げ線に留置できるじゃない。同じように地下鉄からの直通車も志木以遠に行かれないなら、志木折り返しにすればいいので、上り列車の運行に多少の影響があるかもしれないけど、最悪の場合は和光市の東京メトロ和光市車庫から代走させれば運行に穴が開かなくて済むのよ」
「う~ん。なんかよくわからないけど…、西武線とは違って運行に支障が出にくい?」
「そうね。これは各社の運行形態が主な原因なんだけど、東上線は基本的に池袋~成増間は区間運転の各駅停車が主体で、成増以遠に行く列車のほとんどは成増までノンストップで、しかも和光市から志木までの複々線区間は全ての線にホームがあるから、実質各駅停車になる準急も含めて急行線を走るので、地下鉄からの直通車は敢えて内側線を走る普通列車以外はほとんど影響がないのよ」
「なるほど」
「さらに、川越市までの上り列車が全て退避できていれば、地下鉄直通列車のみで川越市まで運転できるし、東上線に直通できない場合(各駅での混雑などで)も和光市止りにして地下鉄方面への折り返しもできるしね」
「ああ、そうか車庫があるし、基本的にメトロ車は和光市終点ですもんね(非直通運用に関して)」
「我が東上線は相互直通に関しても充分な対策を講じてるというわけなのよ! がはは!」
ありゃりゃ、とうとう“我が”とか言い出しちゃったよ、この女は。
「まあ、相直が運行障害に弱いのは分かりましたが、それがどうしてエイトライナー/メトロセブンの建設スタートにつながるんですか?」
「単独運行にして、定時運転に注力することを基本方針にするらしいの。接続駅では旅客の動線を研究して、乗り換えにかかる負担を最小限にする。幾つかの路線は大井町線のバイパス線のように並走して、複数の駅で同一ホーム上での乗り換えを行う計画なんだって」
「ああ、そういうことですか。まあ他社線での障害時に振替輸送を担うにも、定時運行できていれば混雑しても、多少の遅延で済むだろうから効果はありそうですね」
「さらにホーム上の事故を防止するために、ホームドアは天井まであるフルスクリーンタイプにして、線路転落防止だけじゃなく、ホーム上の環境改善のためにエアコンを完備するそうよ」
「エアコン完備? 今までもありませんでしたか?」
「南北線もエアコンがついてるけど、ホームドアの上部のガラスが抜けてて、列車風が入ってくるから、あまり効きが良くないのよね」
「そうなんですか? でもそれって換気や消防法とかで塞いでも大丈夫なんですか?」
「そりゃ非常時には解放できるでしょうけど、いつも開いてるよりいいんじゃない?」
「なるほど。確かに夏なんか微妙に暑くて、気分悪くなることがありますもんね」
ハーフハイトタイプ(高さ120~130cm)のホームドアでは、寄りかかったり荷物を立てかけたりして列車との接触事故が発生している。
さらに酔客などが頭や腕を線路側に出してもたれかかり、進入してきた列車にはねられて線路に転落した事故も発生している。
完全に転落防止を行うためには、南北線のようなフルスクリーンのホームドアが有効なのだ。
「それらを検討した結果、建設に向けての方向性が決まったんだってさ」
「へえ、でもこれから建設に向けての設計を行うなら、開通するまでには20~30年かかるんでしょうねぇ」
これだけの路線規模だと、一度に全線開通させるのはほぼ不可能だ。
先行開業を重ねても、全線が開通するまでには30年くらいはかかりそうだ。
?
あれ? そんなまだまだ概要すら決定していない計画が始動したからって、なんで奈美さんがこんなにテンション高いんだ?
「そりゃそうなんだけど、他社との併走区間は先に開通するんじゃないかな? って思うんだよね」
「? なんでですか? 併走するならかえって設計段階で時間がかかるんじゃないですか?」
「でもさ、各社でも中・長期計画に組み込まれるから、それなりの人員は確保されるだろうし、それぞれの分担箇所を厳密に区分する必要があるから、先に着手するんじゃない?」
なんか無茶苦茶な理屈だなあ。奈美さんにしてはかなり強引な言い分だと感じる。
やっぱり何かありそうだ。
奈美さんはしらばっくれてるけど、違和感からバレバレですが(汗)。
「どっちにしても公式発表はまだまだ先になりそうですね。楽しみにしてましょう」
という、俺の〆の発言は奈美さんにとっても、いい“逃げ”のきっかけになったようで、ニコニコしながら自分のデスク(打ち合わせ用のテーブル)に歩いて行った。
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