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突然のピリオド④
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そんな手の込んだことをする人がいるだろうか?誰が?何のために?驚きより、戸惑いのほうが強い。
ユリの困惑に答えるように、真奈美が続けた。
「さっきの『佐藤 綾乃』は詳しいことは知らなくってぇ、ただ面白がって協力しただけだと思うんだよね。きっと、ユリちゃんが3月までこの町に住んでたこととか、ここに伝手があることとか、全然知らないの。だから、いきなり自分が突撃されるなんて、思ってなかったんだろうねぇ」
「私は、真奈美の考えは、あまりにも突飛だと思ってた。でも今は、それが真実なんじゃないかと思う」
俯きながら、志保子が言う。
「社内で有名だった『甲斐さん』を知っていたこと。ユリの新しい住所を知っていて、結婚式の直後に手紙をよこしたこと。それと今回の、ユリが出かけるタイミングを狙って、写真を撮ってること。これはね…あくまで私たちの想像でしかないんだけど…」
志保子が指を折りながら数え上げ、少し迷った後、決心したようにユリを見つめて言った。
「あの手紙の差出人は、社内の人間。そして、内藤さん…ユリのご主人の、浮気相手だと思う」
一瞬、ユリの世界から音が消えた。志保子の声も、真奈美の声も、時計の音や冷蔵庫のモーター音も、何も聞こえない。フワッと、自分の体が浮き上がったような気がした。耳は確かに今の志保子の言葉を拾ったけれど、内容が脳に届かない。不思議なものを見るように、ユリは首を傾げながら二人を交互に見つめた。
真奈美が口を開く。
「私ねぇ、ユリちゃんの旦那さんも、薄々気が付いてると思うんだぁ。だから警察に相談するの、止めたんじゃないかなぁ」
「残念だけど、私もそう思う。最初は全然分からなくって、ユリのことを疑ったりもしたんだろうけど…途中からは、絶対に気づいてたと思う」
辛そうな表情で、志保子が言う。
途中っていつ?秀夫には、3通まとめて手紙を見せた。その時、秀夫はユリを疑って…しばらくは帰宅が早くなって…でも、そのうち落ち着いてきて、残業が増えて…
「出張に行くの…秀夫さん、1か月くらい留守にするの…。でも、手紙のこと、全然心配してなかった…」
ユリがつぶやいた。誰も何も言わず、雨の音だけが静かに部屋に響いた。
夕方、雄介君が迎えに来て、真奈美は帰っていった。夕食は、近所のスーパーで買った焼き鳥と漬物を肴に、志保子はビール、ユリはチューハイを飲んだ。途中、志保子が赤ワインに切り替えた。ユリも1杯だけ付き合った。渋い赤ワインはあまり得意ではなく、普段は白ワインしか飲まないのだが、志保子のおすすめのその赤ワインは濃厚で、トロリと甘く感じた。メルローという品種で作られたワインだと教えてもらった。
付き合い始めのころ、秀夫の部屋で貰い物の赤ワインを飲んだ。人生で初めての赤ワインは渋くて、すっぱくて、ユリの口には合わなかった。秀夫は、赤ワインとはこんなものだと言いながら、ボトルの半分ほどを一人で飲んだ。あの残りのワインはどうしたんだっけ…秀夫さん、渋くない赤ワインもあるみたいだよ…
「ユリ、酔った?もう寝る?」
志保子の声に、ハッとする。
「ううん、大丈夫。少しぼうっとしてた。いろんなことがあったから」
頷きながら、志保子が冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを取り出した。コップに注ぎ、ユリに差し出しながら話し出す。
「さっきも言ったけど、私は最初、真奈美の思い付きに納得できなかったのね。あり得ない、そう思って…。そしたらね、あの子が言ったの」
真奈美の口調をまねる。
「ユリちゃんも、志保子も、内藤さん?を知ってるから、あり得ないっていうけどぉ…。私みたいに知らない人から見たら、内藤さんって結構ひどい人だよぉ。結婚式の準備だって、ユリちゃん毎週あの町まで日帰りしてたよね。普通心配じゃない?あの距離だよぉ。雄介君なら、絶対送り迎えするか、部屋をとって一緒に泊まってくれる」
そこに、愛があるなら…
ユリの困惑に答えるように、真奈美が続けた。
「さっきの『佐藤 綾乃』は詳しいことは知らなくってぇ、ただ面白がって協力しただけだと思うんだよね。きっと、ユリちゃんが3月までこの町に住んでたこととか、ここに伝手があることとか、全然知らないの。だから、いきなり自分が突撃されるなんて、思ってなかったんだろうねぇ」
「私は、真奈美の考えは、あまりにも突飛だと思ってた。でも今は、それが真実なんじゃないかと思う」
俯きながら、志保子が言う。
「社内で有名だった『甲斐さん』を知っていたこと。ユリの新しい住所を知っていて、結婚式の直後に手紙をよこしたこと。それと今回の、ユリが出かけるタイミングを狙って、写真を撮ってること。これはね…あくまで私たちの想像でしかないんだけど…」
志保子が指を折りながら数え上げ、少し迷った後、決心したようにユリを見つめて言った。
「あの手紙の差出人は、社内の人間。そして、内藤さん…ユリのご主人の、浮気相手だと思う」
一瞬、ユリの世界から音が消えた。志保子の声も、真奈美の声も、時計の音や冷蔵庫のモーター音も、何も聞こえない。フワッと、自分の体が浮き上がったような気がした。耳は確かに今の志保子の言葉を拾ったけれど、内容が脳に届かない。不思議なものを見るように、ユリは首を傾げながら二人を交互に見つめた。
真奈美が口を開く。
「私ねぇ、ユリちゃんの旦那さんも、薄々気が付いてると思うんだぁ。だから警察に相談するの、止めたんじゃないかなぁ」
「残念だけど、私もそう思う。最初は全然分からなくって、ユリのことを疑ったりもしたんだろうけど…途中からは、絶対に気づいてたと思う」
辛そうな表情で、志保子が言う。
途中っていつ?秀夫には、3通まとめて手紙を見せた。その時、秀夫はユリを疑って…しばらくは帰宅が早くなって…でも、そのうち落ち着いてきて、残業が増えて…
「出張に行くの…秀夫さん、1か月くらい留守にするの…。でも、手紙のこと、全然心配してなかった…」
ユリがつぶやいた。誰も何も言わず、雨の音だけが静かに部屋に響いた。
夕方、雄介君が迎えに来て、真奈美は帰っていった。夕食は、近所のスーパーで買った焼き鳥と漬物を肴に、志保子はビール、ユリはチューハイを飲んだ。途中、志保子が赤ワインに切り替えた。ユリも1杯だけ付き合った。渋い赤ワインはあまり得意ではなく、普段は白ワインしか飲まないのだが、志保子のおすすめのその赤ワインは濃厚で、トロリと甘く感じた。メルローという品種で作られたワインだと教えてもらった。
付き合い始めのころ、秀夫の部屋で貰い物の赤ワインを飲んだ。人生で初めての赤ワインは渋くて、すっぱくて、ユリの口には合わなかった。秀夫は、赤ワインとはこんなものだと言いながら、ボトルの半分ほどを一人で飲んだ。あの残りのワインはどうしたんだっけ…秀夫さん、渋くない赤ワインもあるみたいだよ…
「ユリ、酔った?もう寝る?」
志保子の声に、ハッとする。
「ううん、大丈夫。少しぼうっとしてた。いろんなことがあったから」
頷きながら、志保子が冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを取り出した。コップに注ぎ、ユリに差し出しながら話し出す。
「さっきも言ったけど、私は最初、真奈美の思い付きに納得できなかったのね。あり得ない、そう思って…。そしたらね、あの子が言ったの」
真奈美の口調をまねる。
「ユリちゃんも、志保子も、内藤さん?を知ってるから、あり得ないっていうけどぉ…。私みたいに知らない人から見たら、内藤さんって結構ひどい人だよぉ。結婚式の準備だって、ユリちゃん毎週あの町まで日帰りしてたよね。普通心配じゃない?あの距離だよぉ。雄介君なら、絶対送り迎えするか、部屋をとって一緒に泊まってくれる」
そこに、愛があるなら…
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