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四通目①
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連休が終わり、5月も半ばを過ぎた。
新しい職場にも慣れ、同僚とは新しくできた店でランチをしたり、終業後にお茶をしておしゃべりをしたりするくらいには親しくなった。
秀夫の気持ちも落ち着いたらしく、最近は以前のように残業で帰りが遅い日も増えてきた。
週末は、相変わらず趣味の集まりで飲み会になることが多い。
夏には少し長い休みを取って、先延ばしにした新婚旅行に行こうと思う。ユリはヨーロッパに興味があるのだが、秀夫はハワイかオーストラリアがいいらしい。次の休みには、旅行会社に行ってパンフレットを集めてこよう。
ユリは、この町での生活になじみ始めていた。
6月の最初の土曜日、いつものようにフットサルに出かけた秀夫が、めずらしく昼過ぎに帰ってきた。
「おかえりなさい、早かったね。お昼、食べる?」
軽く驚きながら質問する。ユリ自身は、さっきピザトーストを食べたが、秀夫の分は用意していなかった。
「いや、先輩と飯は食べてきた。ユリ、ちょっと話があるんだけど」
ダイニングテーブルの定位置に座りながら、秀夫がまじめな表情で話しかけてきた。
彼にブラックコーヒーを差し出し、自分のためにカフェオレを準備して、ユリは秀夫の向かいの椅子に座った。
「実は、うちの会社でタイに支店を出すことになったんだ。準備のために、1か月ほど、出張することになった」
秀夫は今、経営企画部に在籍している。仕事内容は、たとえ夫婦でも言えないことも多いだろうと、ユリはあまり尋ねたことがない。最近増えた残業は、その準備のためだったのだろうか?
「いつから?」
「今月末には、出発することになりそうなんだ。7月一杯は、向こうに居ることになると思う」
少し申し訳なさそうに、秀夫が答える。つまり、夏の旅行は無理ということだろう。
「ずいぶん急だね。一人で行くの?」
「いや、先輩と。先行して4月から向こうに行ってる人もいるから、交代する格好かな」
それならもう少し、早く話してくれればいいのに。ユリは、不満げにため息をついた。秀夫が必死で弁解する。
「俺もさ、ちょっと悩んだんだよ。部長には、新婚だし、家族と相談しろって言われてさ。先輩に話したら、これは滅多にないスキルアップのチャンスだって。俺もそう思う。な、ユリ、わかってくれるだろ?」
「ちょっと待って」
秀夫の言葉に引っかかるものがあった。
「家族と相談しろって言われたんだよね?どうして、一番に相談してくれないの?」
「だから、今、相談してるだろ?」
違う。これは相談じゃない。決定事項の伝達だ。
「秀夫さんは、私が反対すると思ったの?新婚旅行どうするのって、怒り出すとでも?」
「そういうわけじゃないけど…」
秀夫がそっぽを向く。結局この人は、いつもこうなのだ。ユリのことを、一人前と認めていない。大切なことは、信頼する別の誰かに相談する。
なんだか急に、馬鹿馬鹿しくなってきた。
「勝手にすれば」
ユリは乱暴に立ち上がり、一人リビングのソファーに座ってテレビのスイッチをいれた。
新しい職場にも慣れ、同僚とは新しくできた店でランチをしたり、終業後にお茶をしておしゃべりをしたりするくらいには親しくなった。
秀夫の気持ちも落ち着いたらしく、最近は以前のように残業で帰りが遅い日も増えてきた。
週末は、相変わらず趣味の集まりで飲み会になることが多い。
夏には少し長い休みを取って、先延ばしにした新婚旅行に行こうと思う。ユリはヨーロッパに興味があるのだが、秀夫はハワイかオーストラリアがいいらしい。次の休みには、旅行会社に行ってパンフレットを集めてこよう。
ユリは、この町での生活になじみ始めていた。
6月の最初の土曜日、いつものようにフットサルに出かけた秀夫が、めずらしく昼過ぎに帰ってきた。
「おかえりなさい、早かったね。お昼、食べる?」
軽く驚きながら質問する。ユリ自身は、さっきピザトーストを食べたが、秀夫の分は用意していなかった。
「いや、先輩と飯は食べてきた。ユリ、ちょっと話があるんだけど」
ダイニングテーブルの定位置に座りながら、秀夫がまじめな表情で話しかけてきた。
彼にブラックコーヒーを差し出し、自分のためにカフェオレを準備して、ユリは秀夫の向かいの椅子に座った。
「実は、うちの会社でタイに支店を出すことになったんだ。準備のために、1か月ほど、出張することになった」
秀夫は今、経営企画部に在籍している。仕事内容は、たとえ夫婦でも言えないことも多いだろうと、ユリはあまり尋ねたことがない。最近増えた残業は、その準備のためだったのだろうか?
「いつから?」
「今月末には、出発することになりそうなんだ。7月一杯は、向こうに居ることになると思う」
少し申し訳なさそうに、秀夫が答える。つまり、夏の旅行は無理ということだろう。
「ずいぶん急だね。一人で行くの?」
「いや、先輩と。先行して4月から向こうに行ってる人もいるから、交代する格好かな」
それならもう少し、早く話してくれればいいのに。ユリは、不満げにため息をついた。秀夫が必死で弁解する。
「俺もさ、ちょっと悩んだんだよ。部長には、新婚だし、家族と相談しろって言われてさ。先輩に話したら、これは滅多にないスキルアップのチャンスだって。俺もそう思う。な、ユリ、わかってくれるだろ?」
「ちょっと待って」
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「家族と相談しろって言われたんだよね?どうして、一番に相談してくれないの?」
「だから、今、相談してるだろ?」
違う。これは相談じゃない。決定事項の伝達だ。
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「そういうわけじゃないけど…」
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なんだか急に、馬鹿馬鹿しくなってきた。
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ユリは乱暴に立ち上がり、一人リビングのソファーに座ってテレビのスイッチをいれた。
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