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3 人生を100回やり直したとしても、決して届かない──
しおりを挟む……嘘だ。こんなの……ありえない……。壇上に居る清楚可憐な美少女がヘッドロックをカマすわけがないだろ!
ない。ない。ない!
絶対にあるわけがないんだ……!
心の中で必死に否定をするも、先ほど見た彼女の姿は紛れもなく、俺の知っている常夏だった。
ヘッドロックカマすぞバカ野郎──。懐かしいその響きが頭の中で木霊する。
違う。違う! 絶対に違う!
否定をすればするほどに、当時の記憶が駆け巡る──。
忘れたときなんて一度もなかった。ずっとお前のことばかりを考えてきた。
いつだって昨日のことのように思い出す。
今だって、頭の中はお前でいっぱいなんだよ……。
だから──記憶とリンクした時点で、どんなに否定をしても、もう──。
答えはひとつしかなかった。
☆ ☆
「────以上。四月七日、新入生代表、常夏花火」
代表挨拶が終わると、体育館は歓声と拍手に包まれた。
「我らが天界の御方……!」
「声までお美しいとは! まさしく人知を超えた存在! 天界の御方……!」
「毎日三時間、あなたの幸せを願って、祈りを捧げます。あぁ、天界の御方……!」
中には感極まって、涙を流す者までいた。
なんてことない、礼節を重んじるありきたりな言葉の羅列。退屈で退屈な、俺の大嫌いな挨拶。
なのに、俺も──。
涙を流しながら拍手をしていた。
俺はずっと、どこかでまた──。
お前に会うことだけを目標にして生きてきた。
でもそれは、叶うのと同時に絶望に変わってしまった──。
いつか常夏と再会したときのために、恥じぬ程度には勉強ができる男になっておこうって……。
それだけを励みにして、頑張ってきたんだ。
なのに……なんだよ、これ……。
夢なら、覚めてよ……。
人生を100回やり直したとしても、決して届かないであろう、高嶺過ぎる存在の彼女を前にして、涙を堪えることができなかった──。
かつての宿敵であり、戦友であり、そして初恋の相手は──雲の上の存在になってしまった。
文字通り、天界の御方に──。
☆ ☆ ☆
それから──。
あっという間に一年が過ぎた。
「またお前か。補習に付き合うこっちの身にもなってもらいたいものだな。どうして留年してくれなかったんだ? なあ、冬雪?」
小テストが返された数学の時間。
教師からの公開処刑はもはや日常と化していた。
「補欠合格の落ちこぼれがまーたやらかしてるのかよ」
「こんな無能を合格にさせたら、そりゃこうなるよね~」
「先生どーんまい!」
「「「あはははははは」」」
目標を失ってからの俺は、抜け殻のような高校生活を送っていた。
とはいえ、家庭の事情で苗字も変わり名前もありきたりな『翔太』ともなれば、常夏が俺の存在に気づくことはなかった。
ただそれだけにホッとする毎日。
最も恐れたことは、あいつが今の俺に気づいてしまうことだったから──。
そんな常夏は人気雑誌の読者モデルとして全国的にも『絶世の美少女』と知れ渡り、ますます雲の上の存在になっていった。
俺の部屋には常夏が載っている女性雑誌がところ狭しと並べられている──。
「バカヤロウが。なーにが今季のトレンドだよ。胸を強調させるような服を着るんじゃねえよ。まったくけしからん」
なんて、自分の部屋にひとり。
小言をこぼしながらも心は晴れていた。
あいつ、元気にしてるかな?
ちゃんと飯食ってるかな?
そんなことばかりを入学式の日までは考えていたから。
だから、元気なら……。それだけでいい。
こうして元気な姿を遠くから眺めているだけでいいんだ。
他にはなにも、いらねえよ。
でも──。
時折思い出してしまうのは喧嘩に明け暮れた、楽しいあの日々だった。
毎日が楽しくて、早く明日が来ないかなと遠足気分で眠りに就いていた。
今から七年前──。
それはかつて、俺がガキ大将と呼ばれていた頃の話だ。
あの頃の俺は間違えてばかりだった。
別れの日の常夏の言葉が、今も心の中に後悔として残っている。
『勝ち逃げは、許さない──』
こんなことになるのならあの日、再会なんか誓うんじゃなかった。
今となっては叶わない。遠い過去の話──。
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