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第1話 これは復讐ではない。わからせだ!

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「ごめーん。勘違いしちゃったよね! ほんっとにごめんっ!」

 彼女のあまりにも軽過ぎる態度を前にして、俺は言葉を失った。

 両手を合わせながらする、ごめんのポーズが軽さを引き立たせていた。


 高二の春。桜散る四月──。
 俺は意を決して幼馴染の花純かすみに告白をした。

 放課後。公園に立ち寄り、震える声を振り絞りながら告白したんだ。

 それなのに……。なんだよ、これ……。

「まっ! 今までどーりってことで、今後ともよろしく頼むよ~しょーちゃん!」

 だんまりする俺の肩をぽんぽんと二度叩いてきた。

 ……いや、ちょっと待て。待ってくれよ。

 おかしいだろ。こんなの……。
 変わらず幼馴染でよろしくってか? それこそありえないだろ……。

「……ふざけるのも大概にしろよ」

「あーあー! 怒っちゃだめだよ~! もぉ、仕方ないから今日だけ特別にアイスを買ってあげましょー! 60円のじゃなくて100円の奢ったげるから! それでチャラってことで! ねっ? 大奮発だよ~!」

 公園の向かいにあるコンビニを指差すと、笑顔を見せてきた。

 おいおい待てよ。本当に待ってくれ。冗談じゃない。

 おまっ、アイスって……。なんだよ、それ……。しかも100円って……。

 ふっざけんな!

「300円の高級カップアイスを買ってやる価値はないってか? お前は俺のことをずっと、その程度に思ってたのかよ」

「さ、300円?! むりむり! それはむりっ! しょーちゃんさ、あんまり調子に乗らなーい! 今度はわたしが怒るターン来ちゃうよ? そんなの嫌だよね? ほら、早くごめんなさいしとこ? 今なら許してあげるからさ!」

 だ、だめだこの女。どうしようもなくだめだ。
 どうして俺は今までこいつと幼馴染なんてやってきたんだ。

 あまつさえ、告白なんてしちまったんだよ。
 

 ……まぁ確かに。無邪気で愛嬌があって、一緒に居ると笑顔が絶えなくて楽しいけどな。

 平々凡々な俺とは違ってS級美少女ってやつだし。
 俺たちが通う高校の学園三大美女のひとりとして、数えられているくらいだ。
 
 幼さ残る顔立ちに前下がりのボブヘアが絶妙にマッチしていて、おまけに出るところは大っきく出ている。
 去年、Fカップになったと言っていた。その時よりも確実に大きくなっているから、おそらく現在はGカップ。

 言うなればパーフェクトガールだ。俺はこいつのことを世界一可愛いと思っている。

 幼馴染でなければ、俺なんかでは挨拶することすら叶わない高嶺の存在。


 でも──。
 そういう話じゃないだろ。こいつには絶望的に欠けているものがある。

 思いやりだよ。振った男に対する態度じゃない。振り方からその後の対応まですべてにおいてクソ&クソのフェスティバル。

 無邪気で愛嬌があると言えば聞こえはいいが、自分勝手なふざけた奴とも言い換えられる。

 可愛い外見と性格を前にして、盲目していた。

 まさかここまで舐め腐った奴だとは思わなかったよ。

 こんな大切なことに、告白をもってして気付かされるとはな。……末だな。

「もういい。お前の気持ちはよくわかった。ここでサヨナラだ。今後、外で会っても他人のフリしろよ。つーかもう、今この瞬間から他人だ。二度と話しかけてくんな」

「あらら。こりゃまいったなぁ~。うーん……。わかったわかった。はいはいわかりましたぁ~。300円のアイス買えばいいんでしょお? 今回だけ特別の特別だよ?」

「いや、お前っ……!」
「ほらいくよ~? れっつごー! コ・ン・ビ・ニ!」

 当たり前に俺の手を握ると、コンビニに向かって歩き出してしまった。

 勘弁してくれ。振った男の手を握るなよ……。

 どうしてこんなにもズレているのだろうか。
 どうしてこいつは、こんなにも……。

 どうして……。

 腸が煮えくり返る思いだった。

 そもそも俺が告白に踏み切ったのだって、好き好きオーラ全開でアピールされまくったからだ。
 『髪型変えようかなーって思うんだけど、しょーちゃんはどんな髪型が好み?』って聞かれたり、
 『ねえねえ、しょーちゃんは彼女作ったりしないの? ここにフリーな女の子がひとり居るんだけどな~』ってチラチラ見て来たり。猿でも勘違いするようなモーションをたくさんかけられたんだ。

 それを勘違いとひと蹴りして、軽いトーンで「めんごめんご」みたいなノリで振りやがって。

 勘違いって思っている時点で、わかってたってことだろ。なんなんだよ、まじで……。なにがしたいんだよ、お前……。

 こんなん、純情を弄んだとしか思えないだろ。他に理由付けできないだろうが……。

 そう思うと、このまま絶縁を突き付けてサヨナラってのは生温いような気がしてくる。
 綺麗サッパリ縁を切ったからどうなる? それで俺の気持ちは晴れるのか?

 答えはNOだ。

 ……こいつには、わからせる必要がある。

「しゃーねーな! じゃあ今回はそれで手打ちにしてやるよ。これに懲りたら二度と、思わせぶりな態度するんじゃねえぞ?」

「うっ……。思わせぶりじゃないもん!」

 ありがとう。お前の一切ブレない態度に感謝するよ。

 この期に及んでまだ、今までと同じ態度で接しようとするんだもんな。
 まるで何事もなかったかのように。これからも態度を改める気はない、とな。

 ……あぁ、いいぜ!

 そっちがその気なら遠慮なく、わからせてやれるってもんだ!

「あぁ、そうかよ。そういうことにしといてやるよ。ほらっ、とっとと300円の高級アイス食わせろ! チャラにしたいんだろ?」

「うわっ! しょーちゃん偉そうでムカつくし! もぉ。今日だけなんだからね? 特別の特別なんだからね!」

「へいへーい。ごちになりまーす」

 フッ。せいぜい、俺を飼いならしているつもりになればいいさ。最後に笑うのは俺だからな。

 じっくりと苦痛に苛まれる顔を拝ませてもらおうじゃないか。

 さしずめ今日は『300円アイスDAY1』ってところだな。

 明日も告白してやるよ。そんで振られて、高級アイスをせがんでやる!

 DAY2、DAY3とお前が耐えられなくなる、その日まで続けてやるよ!

 果たして何日耐えられるかな?

 せいぜい三日ってところか? ははは!
 バイトをしていないこいつのお財布事情はよく知っているからな。

 もう、幼馴染ではいられないんだよ。
 たかだか高級アイスで繋ぎ止められる安い関係だと思うなよ!

 

 ☆ ☆

 しかし──。
 コンビニのアイスコーナーの前まで着くと、この女はまたしてもふざけたことを言い出した。

「ねえ、100円のふたつじゃだめ? 量的にもお得感あるよ? それにさ、300円のは小さいじゃん? 半分こしたらすぐに無くなっちゃうよ?」

 こ、こいつ……。奢るとか言っといて、半分もらう腹でいたのかよ。

 末恐ろしい女だ。その傲慢さには感服するよ。

「なぁ花純。半分こしてもらえると本気で思っているのか?」
「えっ。しないの? だってわたしとしょーちゃんの仲だよ? しないわけなくない? なに言い出しちゃってるの? うっけるー!」


 こんの野郎がァァ!!

 …………待て。待て待て。落ち着けよ、俺。

 熱くなったら負けだろ。わからせるって決めたばかりだろ。だからここは冷静になるんだ。

 いちいち腹を立ててたら、手のひらで転がせないからな。冷静に。とにかく冷静になろう。

 ──よしっ。

 
「しないぞ? なんてったって高級アイスだからな。風呂上がりに優雅に食わせてもらうよ。だからお前の分はない。わかったか?」

「なるほどなるほど~! じゃあ先にわたしが半分食べるねっ! 残りをしょーちゃんにあげる!  ふふーん! 名案ひらいめいたり!」

 本当にだめだこいつ。いや、平常運転なのか。
 振った以前と以後で、なにひとつ変わっていないだけなんだよな。

 まぁ、いいだろう。こいつの財布から300円無くなる事実に変わりはない。

 これでこいつはかなりの食いしん坊だからな。ここでアイスを取り合ったりしたら元も子もないし。


「わかったよ。もうそれでいいからとっとと会計してこい」

 そして一秒でも早く家に帰りたい。
 こいつと一緒に居ると胸糞悪くて敵わねえからな。

「ほーんと今日のしょーちゃん偉そうでムカつくなぁ。まっ。そんな横暴な態度を許すのは今日だけだからね? そのつもりでいてよぉ~!」

「あぁ。わかったよ」

 ったく。お気楽な奴だな。
 だからこそ、わからせ甲斐があるってもんだ。

 明日も明後日も、俺の態度は変わらない。
 今日みたいに告白をして、高級アイスをせがみ続けてやる。お前がギブアップしたそのときがサヨナラの時間だ。

 俺の純情を弄んだツケはきっちり払ってもらうからな。

 覚悟しとけよ、花純!
 
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