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第7話ー②
しおりを挟むハッ!
時間を確認するとちょうどお昼休みになるところだった。あまりにも心地よく眠れたせいか、起きたら夜でした! なんて不安が過り、ちょっぴり焦った。
そして、ほとんど鳴らないスマホに新着メッセージが一件。
バイト先の店長からだった。
『夢崎くんごめぇーん! 今日バイトこれなぁーい? 手当は弾むから……! ねっ? 五時シフトじゃなくて、終わったらすぐに来てほしいな、なぁんて♡ 店長からのささやかな、お・ね・が・い♡』
店長の権田さん。
小綺麗なおじさんでとっても親しみやすい人だ。
バイトの面接を受けた際も、特殊な家庭事情を知ったからなのかその場で採用にしてくれた。
とっても温かい人でもある。
疲れたときは不意に肩もみをしてくれたり、気遣いにも長けている。
寝れたし元気回復したから、いっか!
店長困ってるみたいだし!
ついでに葉月にもメッセージを送ろうとしたのだが、葉月とは長らくメッセージのやり取りをしていないためか、指が止まる。
最後にメッセージを交わしたのはいつだ?
上へ上へとスクロールしまくる。
けれども出てくるのは『あと五分! 鍵開けといた!』のみ。
ぜんぜんわからん。メッセージしてって言われたけど。なんだ。なんか話すことあるか?
夏恋に送ろ!!
『秘技、突っ伏寝炸裂! 元気復活!』
向こうもちょうど昼休みだからな。
十秒待たずに既読がつく。うんやっぱりな。
『うわっ。最低じゃん。今夜はしっかり温もり提供しますっ! ねーむれねむれせーんぱいあーんみーん!』
『お手柔らかにお願いします……。それと今日な、急遽バイト入っちゃったから帰り少し遅くなる! それでその、夕飯の当番なんだけど……』
『はぁい。お風呂湧かして、ご飯用意して待ってまーす! だ・ん・な・さ・ま!』
『誰が旦那様だ! バカヤロウ!』
『せんぱぁ~い! 予行練習ですよぉ~?』
ぐぬぬ!
予行練習はメッセージにまで影響するのか!
なんだよこれ。超からかわれちゃってるじゃん……!
ついついニヤけてしまう俺は、やっぱりお兄ちゃん失格だった──。
で、葉月か……。
うーん。スタンプでいいか。久々だしな。
クマがそぉーっと電柱から覗いてるやつにしよ。
よし終わり!
◇ ◇
と、一息ついたところで──。
「このサボりん坊め! スマホで遊ぶとはいい度胸だなぁ~!」
陽菜ちゃん先生がカーテンをバサッと開けた。
「そ、それを先生が言うんですか!」
「先生はいーの! ……ていうかさっきは取り乱しちゃってごめんっ。この通りっ」
「全然気にしてませんよ! 見なかったことにしました。もう記憶の片隅にもありません!」
「大変よくできた生徒だぁ! 先生は嬉しいよ~しくしく。ってことで、サボりは許しません。夜ふかしはだめだぞ~?」
「いや、先生が寝ろって言ったんじゃないですか!」
「だよね。ごめん。調子狂っちゃうな~」
遠い目しちゃったよ。
陽菜ちゃん先生はこの親しみやすさが売りだからな。これで意外と一番厳しいのでは? とも思う。けど、さっきの振り向きざま後方ジャンプからの壁におののく姿は……ちょっともう、忘れられそうにない……。
「でもね、今日はこのまま保健室に居なさい。荷物は持ってきてあるから。もし学食ならお使い頼まれてあげるよ?」
「この通り、元気ピンピンなんで! 大丈夫ですよ!」
「そうじゃなくて、校内をかけ巡るビッグニュースがちょっとね……」
俺が的を得ない表情をすると、陽菜ちゃん先生はそのまま続けた。
「真白色さんは問題ないとして、夢崎くんの場合はどうかなぁ~と思って。これに関しては職員会議も開かれました」
「そんな大事になっているんですか?」
「当たり前でしょう? 夢崎くんは真白色さんのことをなんだと思っているの?」
「S級お嬢様……ですか?」
「わかってるならよし!」
教師も恐れるような存在だもんな。
テンパる陽菜ちゃん先生。尻餅ついて逃げ出した数学の中村先生。あれを見ればどういう関係なのかは大体わかる。
三軍ベンチにして一般庶民の俺にはそれ以上はわからないけど。とにかくS級なんだ! S級はトニカクすごいんだ!
トントン。「失礼します」
それは真白色さんの声だった──。
扉が開くと、その美貌に目を奪われる。……噂のS級お嬢様、襲来!!
「ま、真白色ひゃん……?! ご、ゴホン。そうよね。彼氏の様子くらい見にくるわよね。ひ、昼休みですもの!」
陽菜ちゃん先生、落ち着いて!
ゴホンゴホンとさらに何度か咳払いをして、調子を取り戻したようだった。同じ過ちは繰り返さない。という覚悟の見えるカックィー顔をしている!
さすが陽菜ちゃん先生!!
その様子をみたからなのか、真白色さんの表情からも柔らかなものを感じた。
「先生の評判は叔母からも聞いております。少しお話がしてみたいなと、思っておりましたので、普通にしていただけると嬉しいです」
「が、がくえんちょ先生が?! わ、わたひの話を?! で、ま、まっ、真白色さんが私とお近づきになりたいって?! も、も、もちろん! 先生嬉しいわ!」
陽菜ちゃん先生! 落ち着いて!! 落ち着いて!! 落ち着いて!!
カックィー確かな覚悟は何処へと。足早にお手洗いと言い残し、去っていった。
真白色さんはため息を吐くと、俺が眠るベッド横の椅子に腰を掛けた。
「だめそうね。いつもこんなのばかりよ」
なんだか少しだけ、わかったような気がした。
「そんなことないと思いますよ! 何度か話せばきっと、あの先生となら打ち解けられます! なんなら手伝いますし!」
「そうね。ありがとう!」
優しげに微笑むと真白色さんは思い出したかのように話し始めた。
「そういえば、さっそく二人から交際を申し込まれたわ。前途多難ねぇ」
な、なんだってー?
偽装カップルの目的がさっそく崩壊してるのか?
「一人は涼風さんからで、正直驚いてしまったわ」
はて?
涼風さんと言ったら、この学園のNo2!
絶対的マドンナが真白色さんだとしたら、絶対的美少女が涼風さん。
その涼風さんが、なんだって?
「涼風さんがどうかしたんですか?」
「交際の申し込みをされたって話をしているのよ?」
「で、ででで、ですよね!」
「驚くわよね」
驚くもなにも、だってそれ!!
「そんな重要な話、俺が聞いちゃって良かったんですか? もちろん誰にも話しませんが!」
「もちろんよ。偽とは言っても彼氏なわけだし。校内での情報共有は必要だと思うの。それにあの子、少し危なそうだったから気をつけて。もしなにかされたらすぐに私に言うこと。いい?」
「はい。でも危なそうって……? どんな感じにですか?」
「あの男……絶対許さない。とか、なんかそんな感じのことを言ってたわね」
「そ、そ、それ! やばいやつじゃないですか!!」
「そうかしら? 涼風さんはとっても良い子よ」
そりゃ真白色さんにとってはそうかもしれないけど!! ……でも!
「な、な、なら! 安心ですね!」
これ以上、真白色さんに無駄な心配はかけさせない。三軍ベンチの意地!
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死ねばいいのに! いただきました!
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呆気に取られるを俺を他所に真白さんは続けた。
「俺のほうが君を幸せにできる。とか言っていたわね。さすがに死ねと言ってやったわ。二度と話し掛けるなともね」
な、なな! なっ──!
もはや言葉を失い驚き唖然とする俺をみて、真白色さんは少し切なげに首を傾げた。
「……少しでいいから、腹を立てて欲しいと思うのは、さすがに……わがままよね」
そ、そっか。俺は嘘でも彼氏だ。
彼女が取られそうになったんだ。
恋愛未経験だからと言えば、それまでだが。わからないこと、気づけないことが多すぎる……。
じゃあ俺は……廊下で生徒会長とすれ違ったら死ねと言えばいいのか。……い、言えるかな……。言っちゃっていいのかな?
本当にこれ、前途多難だ!
「がんばります! いつか生徒会長に死ねって言えるような男になるために!!」
えっ? っと驚いたような表情を見せたかと思えばクスッと笑った。
「それは私が言っておいたから、いいのよ? そうね、睨みつけるくらいならしてもいいんじゃない?」
難易度がグッと下がった。これなら、やってやれないことはない!
「わかりました! やってやりますよ! 真白色さんの彼氏として、俺の女取るなー! ってやつですよね!」
「うーそ! 冗談よ! あなたはなにもしなくていいの。むしろなにかされたら、すぐに私に報告すること!」
「は、はい!」
なんだかよくわからないけど、真白色さんの楽しそうな笑顔を見ると、不思議と俺も笑顔になった──。
◇ ◇
そうして真白色さんと保健室で過ごす昼休み。
お弁当箱を開けて驚愕する。
夏恋が彩り豊かなお弁当を作ってくれたのだけど、海苔で形どられる文字……。
《おにぃちゃん、すきぃー!》
予行練習は、お弁当でも行われていた──!
真白色さんは「お兄ちゃん好きな妹さんなのね」なんて言って笑ってくれたけど……とっても恥ずかしい。
それでも、こんなふざけたことをされて嬉しいと思ってしまうのだから、気持ちというのはどうにも素直なものだなと、嫌気が差した──。
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