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第1話 超絶可愛い義理の妹から彼女になってあげると言われたら……!
しおりを挟む「はぁ。彼女ほしーなぁ」
日曜の昼下がり。昼食を済ませリビングでなんとなくTVを見ていた俺は、こんな言葉をこぼした。
俺は夢崎恋夜。恋をするために生まれてきたような名前からは程遠い、非モテな青春を送っている。
完全に名前負けした人生だったな。
そう。俺はもう全てを諦めている。
高校二年生にもなれば、この先なにもないことなんて察しがつくわけで──。
『彼ピッピがね、ホワイトデーにマフィンを手作りしてくれたのぉ!』
あぁ、やばいね。なんだこのテレビ番組。
カップル特集とかいってラブラブな男女を垂れ流す番組だった。
リア充たちよ、闇の炎に抱かれて爆発してしまえって思ったのなら、そりゃこんな小言のひとつもこぼれますわ、と。
で、ガチ真顔でTVを見ている。そこに一切の笑顔はない。
なぜこんなクソみたいなチャンネルを見ているのかは家庭内あるある。
推しのVTuberの配信を見てたほうが圧倒的に幸せだったりするが、まあ食後のひとときは観るんですわ。
だって、TV付いてるし。
仕方ないじゃん? 見るしかないじゃん?
リビングでの過ごし方っていうのはこんなもので、とっとと自分の部屋に戻れば済む話ではあるが……。
「暗い! 暗い暗い! 完全に根暗じゃん」
と、まあ、ツッコんでくれる妹が居るわけで。俺はここに居るわけで。そんなわけで……。
「うるせぇ。とっとと洗い物してこーい」
まあ、これが俺の日常的な風景──。
◇
俺は一個下の義妹、夏恋と二人で暮らしている。
家事は当番制で割と幸せな毎日を送っていたりもする。愚痴をこぼして突っ込まれることに、なんとなくイイナなんて思えるくらいには。
なんせ、子供の頃からずっと一人で家事をしてきたからな。父ちゃんはだらしなかったし。
男でひとつで育てて来た! なんて言った日には、間違いなく秒速でグーパン入れられるくらいにはだらしない男だった。
そんな父ちゃんは再婚して急な転勤が決まって、さてはてどうするかとなった俺たち連れ子はふたり暮らしを選択した。
再婚に息巻いて無理な住宅ローン組んで建て替えちゃったんだから、住まないわけにはいかないでしょう。
新築5LDK! 立派な城だ!
恨むなら無慈悲な父ちゃんの会社を恨んでくれ。ってことで、ここに残った。
とまあ、そんなこんなで、義理の妹とのふたり暮らしで心に余裕が生まれた途端にこれもんで。彼女欲しいなぁとここ一年は口癖のようになってしまった。
もう高校二年生。そろそろ春が来てもいい頃。来ないとわかっていても、望んでしまうのは男のサガ。
「あのねぇ、お兄には無理! 絶対無理!」
先ほどの返答に対して薄ら笑いで返したらこんな言葉が返ってきた。
「うるせぇー。とっととやることやれー。洗い物しろー」
んで、今日は俺の当番じゃないから、リビングのソファーでゴロ寝は割と有意義だったりする。
でも今日は、少し様子が違った。
訂正。この瞬間から俺の人生は大きく変わる──。
「ふぅん。さすがにここまで拗らせるとみてられないよね。じゃあさっ、こういうのはどう? お兄が洗い物をする。そしたらわたしはお兄の今後のために色々教えてあげる」
「色々ってなんだよ? どうせお前、また良からぬことを企んでるんだろ? むりむり! 騙されねえよ!」
妹(仮)が変なことを言い出した。
仮というのは、こいつがある日突然できた義理の妹だから、仮としている。
「その態度がだめ! そんなんじゃ彼女できないよ?」
「態度ってなぁ、お前相手だからな。なにを今更」
こいつは元々、後輩だった。
非モテな俺をからかってくる悪魔じみた腹黒のそれはもう、ひっどい後輩だった。
中学の頃、家庭科部で知り合ったという。男で家庭科部ってなんだよってのはさておき──。
「予行練習。しよっ? 今日からお兄の彼女になったげる!」
「……へ?」
頭の中が真っ白になった。
妹を自称する、偽物ならぬ義理の妹が意味のわからないことを言ってきたからだ。
「とりあえず洗い物をしなさい!」
「お、おう」
なんだ。これはいったいなんなんだ。
でも心の中の全俺が洗い物をしてこいと満場一致で可決している。
聞き間違いなんかじゃない。
確かに聞こえた。
“今日からお兄の彼女になったげる”
……え?!
いや、こいつは妹だが妹じゃない。
どうしようもなく妹じゃない。年下の超絶美少女なんだよ。
言うなれば清楚系ショトカ美少女。……おっと訂正。
清楚系巨乳ショトカ美少女!
大切なところがひとつ抜けていた。
とまぁ、黙ってれば万物が口を揃えてこう言うだろう。「超絶ッ! カッワイイー!」ってな。
でもこうやって一緒に住むと、生意気な態度で俺を小馬鹿にしてくるわけで。いつしか出会った頃の恋愛感情など、薄れるというわけで。
詰まるところ、ある日突然、親父に告げられた「今日からお前の新しいお母さんと妹だ」ってパターンのやつで、しかも初対面じゃなくて同じ中学の後輩で!
それが二年前の話で! ってやつ。
で、その形だけ妹なこいつから、とんでもない言葉が飛び出して来たわけだから、これはもう従うしかない。
だって、“超絶ッカッワイイー!” なんだから。
「ほらお兄。ちゃぁんと洗い物して」
「お、おうよ。で、なんでお前、ここに居るの?」
洗い物をする俺の背中に緩く抱きついてきている。
これだけでこの数年、こいつに小馬鹿にされてきた時間の全てがチャラになる。
ましゅまろ。背中に当たってマス!
「ねぇ~。早くぅ~」
な、なにが?!
もう始まってるの?!
ひょっとしてさっきのあれ、スタートしちゃった?!
「お、おう。ちょっと待ってろ」
何を待ってろなのか、言っててわからないことだらけだけど、もう既に何かを期待している俺は兄として失格なのかもしれない。
◇ ◇
洗い物が終わると夏恋は「たいへんよくできました」と小馬鹿にするような雰囲気で俺をイラッとさせた。でも──。
「じゃあ契約成立ってことで! さっそく今日は~夕飯の買い物でも一緒に行こっか!」
「なっ! お前! そうやって言ってなぁなぁにする気だな! まあいいけどな」
今日の買い物当番は夏恋だ。俺が一緒に行く理由。そんなのは荷物持ちに決まってる。
……はぁ。何を期待していたのか。
というか期待しちゃだめだろ。
(仮)とは言え、今やこいつは妹なんだから。
「これで信じてくれる? 本気だよ?」
あれ。……え?
「お、おう。信じる。お兄ちゃんマジホンキ」
「なんだしそれ。うける」
マジガチホールドされちゃった。
こいつと知り合って三年か四年か? 家族になって二年。二人だけで暮らし始めて一年半。
今までただの一度もなかった現象に頭の中はクラッシュ寸前だった。
ウィーン。ウィーン。
身体がカクカクにしか動かない。
なにこれ現実? 夢? オレロボット?
「まぁ待ちなさい。おめかししてくるから、お兄も着替えてシャキッとしてくる! 予行練習。するよ?」
「お、おう」
これから何が始まるのか。
というかこれ、だめなんじゃね?
などと思いながらも、俺は着替えて髪をセットして玄関で妹が来るのを待った。
……………………………。
………………………………………。
三十分経っても夏恋は戻ってこない。
あれ。ひょっとしてからかわれた? 俺、また騙されちゃった?
なんて思いながら妹の部屋をノック!
「どしたのー?」
え。なにその返答。やっぱりからかわれたのか?!
ふざけやがって! と思い勢い良くドアを開けると驚くべき光景が広がっていた。
「開けていいとも入っていいとも言ってないけど?」
「わ、悪い」
「まー、別にいいけど」
大きな鏡をテーブルの上に置き、化粧をしていた。
ベッドの上にはこれから着る服を選んだのか、コーデされたように並べられている。
「おめかしするって言ったじゃん。そりゃ時間掛かるよ。まだ二時だし夕飯の買い出ししてカフェ寄るくらいの時間はあるでしょ」
「お、おう……!」
そもそもとして、夏恋がおめかしに時間をかけるなんて珍しい。そしてなにより、二人で買い物はたまにあるけど、カフェなんて寄るのは初めてだ。
それはまるで、デートのようで俺は心が踊った。
「じゃあ玄関で待ってるからな!」
「はいはぁーい」
ここから始まる!
俺の想像を遥かに超える予行練習の数々が──!
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