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三十一話
しおりを挟む「駅前のバーガー屋でいいか? 無性にハンバーガーが食べたい気分なんだよ」
「ウン! イイネ!」
駐輪場までの道のり、ヨシオと二人でこれからの行き先を決めていた。
それはとてもおかしかった。
「よっしゃ! じゃあ行くか」
「ウン! ソウダネ!」
今、この場にまどか先輩が居ない。まどか先輩のまの字も出てこない。
危うく聞いてしまいそうになるも、グッと飲み込んだ。僕は知らないことになっているのだから。
◇◇◇
「それいくらだったの? 千円で足りるかな」
「いえ、ヨシオに奢ってもらったので」
「あぁ、そ。じゃあポテトあげる」
「ど、どうも」
まどか先輩と駅前のバーガー屋さんで駄弁っていた。二人で。そう、二人きりで。
「はぁ。なんかお腹冷えちゃった。これもあげる」
そう言うと今度はジュースをもらった。
でもこれ、完全に飲みかけ……。
餌付けされてるような気がするのは気のせいだろうか……。
「はぁ。そんなにわたしって魅力ないのかなぁ。なにも帰ることないのにね~」
テーブル席に突っ伏寝するまどか先輩は怠そうにストローの包装紙をチクチクしていた。
この駄弁ってる感じが今の僕たちの心境。
トイレと言ったきりヨシオが戻って来ない。かれこれ1時間。もう絶対戻ってこないやつだった。
「そもそも現地集合な時点でおかしいって思わなかったんですか? 普通一緒に行きますって」
「それなー」
「そ、それなーって……」
「だってしょうがないじゃん嬉しかったんだから。舞い上がっちゃったんだから。そんな細かいこと、いちいち気にする余裕ないって」
良くも悪くも真っ直ぐなんだ。
自分勝手でふざけた人だけど、恋に対する姿勢だけは見習うべきなのかもしれない。
「でも今日はまずいかなって思ってたんだよね。なつ君さ、練習中にわたしのことチラチラ見てたでしょ。休憩中なんてずっと見てたし」
「……なっ!」
「自覚なしかぁ~。ま、わたしが宇宙一可愛いってことに気付いちゃったんなら仕方ないとは思うけど~」
「なにを呑気なこと言ってるんですか!」
「事実だしぃ~。いい加減認めなさーい」
そう言うとポテトをひとつ取り、僕の口に押し込んだ。
この時はまだ、笑い話だった──。
◇◇◇
それから色々なことがあった。
僕はヨシオにまどか先輩の事が好きだと誤解されたんだ。
もう、何を言ってもヨシオは聞く耳持たずで、僕とまどか先輩がくっ付くようにあの手この手を講じた。
そのあからさまなヨシオの態度に、まどか先輩は時折、涙を浮かべる場面もあった。
問題はそれだけでは止どまらず。
心音と一緒に行った花火大会。その日、僕はゆるふわ系ロリ美少女になっていた。
心音とカキ氷をシェアして、自分が女装していることを忘れてしまうほどに楽しい時間を過ごしていた。
もう、このままの関係でもいいかな。なんて思うほどに──。
しかし、たまたま前を歩いていたヨシオにカキ氷をぶちまけてしまった。
偶然にして奇跡の出会い──。
では、無かった。
不幸にもヨシオは、僕だと気付かず女装した僕に好意を抱いた。……友達だから無下にはできない。なるべくヨシオが傷付かないようにと、必死に抗った。けれど、最終的には告白された。
当然、振った。
振るしかなかった。だって僕は男だから。
傷付けまいとする、中途半端な優しさがヨシオを余計に傷付けた。
そう思っていたのだけど──。
翌日、部活に現れたヨシオは不思議なくらいスッキリした顔をしていた。
程なくして、ヨシオの撃沈を知ったまどか先輩は〝今がチャンス〟とヨシオに告白をした。……しかし、振られた。
「だよね。知ってた」そういうまどか先輩の顔は切なさに溢れていたけど、どこか清々しさも感じられた。
そうして、僕は多くを学んだ。
うじうじとその場に流されて、保身的になるんじゃダメだ。結局それは、僕だけではなく心音のことも傷付ける。
だって僕と心音には幼馴染として過ごしたかけがえないのない時間があるのだから──。
そう。だから……。
だから……。
告白をしよう。
正直な気持ちを、ありのまま、心音に伝えよう。
振られて、前へ進むために──。
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