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②
しおりを挟むそれは出口に戻るか先に進むか。
その違いしかないのかもしれない。
そして、先に進んだ。
幸か不幸か、誰か入って来ても一発アウトの状態だけは免れた。
宙ぶらりんのフリースペースより鍵を掛けられる奥の個室のほうが安全。
自分だけの自由空間。それが個室。
……本当にそうなのかな?
そんな疑問を抱きながらも、目の前のまどか先輩は呑気なもので次第に状況に呑み込まれていく──。
◇◇
まどか先輩は「はぁっ」とため息を漏らすと、まるで椅子にでも座るかのようにアレに座った。
そして脚を組むとご立腹な表情で立ち竦む僕のことを見上げてきた。
「さっきからわがまま言い過ぎ。時間ないんだから早く済ませちゃうよ」
「な、なにを済ませるって言うんですか!」
「作戦会議だけど、なに?」
その言葉を聞いてとてつもなくドキッとした。
恐らくなんてことないただの言葉。なのに無性にドキッとした。
着崩された制服。Yシャツは第二ボタンまで開いている。それを上から見下ろすと、先に広がる光景は……二つのおっきなお山の攻防戦。
ハッ!
僕はいったい何を……!
プイッと斜め45度に視線を落として「は、はい」とだけ返事をした。
「あぁね~。ここ数日でなにがあったか知らないけど。ま、いいや。都合いいし」
僕の様子に気付いてか意味深なことをこぼした。
「そ、それってどういう!」
「はい騒がない。声大きいからね」
「す、すみません……」
嫌な予感がした。とても、とても嫌な予感。
そんな僕の心境などお構いなしに、まどか先輩は作戦について話し始めた。
「駅前のハンバーガー屋さんわかるでしょ? 今日のランチはそこね。それで必ず二階のボックス席に座ること」
「いいですけど、お昼はあの店混んでるじゃないですか。部活帰りには絶対行かないお店No1ですよ……。それにたぶん、席空いてないです」
「うん。だから行くの。それで座るの。わかった? 待ってればいずれは座れるから。間違ってもカウンター席には座らないこと」
差し出される手。……お手。
なにを企んでいるのか、わかった気がする。相席だ。間違いない。でも、それって……。
「ヨシオが別の店がいいって言ったら──」
「そこはなつ君次第でしょ? どうしてもハンバーガーが食べたいって駄々こねるくらいのことはしてよ」
「……わかりました」
「ちゃんとお礼はするからそんな顔しないの」
──ドクンッ。
なにか胸にとんでもないものが支えている。
僕はまどか先輩相手にいったいなにを……。
「お、お礼なんていらないですよ! 言われたことをやるだけですから!」
そう。僕の心はこうあるべき。
これ意外は、まやかしだ。
「ふぅん。そっかぁ。へぇ~」
「な、なんですか!」
まるで心を見透かされているような雰囲気。
な、なにも焦る必要はない。だって僕の心にはやましいことなんて、なにも!
「べっつに~。まっとにかく、そんな感じでお願いできるかな。これはなつ君にしかできないことだから」
僕は返事はためらってしまった。
だってその作戦は、あまりにも杜撰過ぎたから。
まどか先輩はもう少し打算的で頭の切れる、悪女のような人だと思っていた。
それがいったいどうして、こんな作戦になる。
相席を提案するところまでは恐らく託ける。
でもその先だ。そこでヨシオが嫌だって言ったらどうする。たぶん、言うよ……。いや、絶対言うよ。
まどか先輩のことは好きじゃない。嫌いだ。
でも、わかっていてこのまま見過ごしていいのだろうか……。
……それにしても暑いな。真夏日にこんな狭い個室に二人で入るって、人口密度的に……。
──ドクンッ!
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