上 下
31 / 36

しおりを挟む

 それは出口に戻るか先に進むか。
 その違いしかないのかもしれない。

 そして、先に進んだ。

 幸か不幸か、誰か入って来ても一発アウトの状態だけは免れた。
 宙ぶらりんのフリースペースより鍵を掛けられる奥の個室のほうが安全。

 自分だけの自由空間。それが個室。

 ……本当にそうなのかな?

 そんな疑問を抱きながらも、目の前のまどか先輩は呑気なもので次第に状況に呑み込まれていく──。

 ◇◇
 まどか先輩は「はぁっ」とため息を漏らすと、まるで椅子にでも座るかのようにアレに座った。

 そして脚を組むとご立腹な表情で立ち竦む僕のことを見上げてきた。

「さっきからわがまま言い過ぎ。時間ないんだから早く済ませちゃうよ」

「な、なにを済ませるって言うんですか!」

「作戦会議だけど、なに?」
 
 その言葉を聞いてとてつもなくドキッとした。

 恐らくなんてことないただの言葉。なのに無性にドキッとした。

 着崩された制服。Yシャツは第二ボタンまで開いている。それを上から見下ろすと、先に広がる光景は……二つのおっきなお山の攻防戦。

 ハッ!
 僕はいったい何を……!

 プイッと斜め45度に視線を落として「は、はい」とだけ返事をした。

「あぁね~。ここ数日でなにがあったか知らないけど。ま、いいや。都合いいし」

 僕の様子に気付いてか意味深なことをこぼした。

「そ、それってどういう!」
「はい騒がない。声大きいからね」

「す、すみません……」

 嫌な予感がした。とても、とても嫌な予感。
 そんな僕の心境などお構いなしに、まどか先輩は作戦について話し始めた。

「駅前のハンバーガー屋さんわかるでしょ? 今日のランチはそこね。それで必ず二階のボックス席に座ること」

「いいですけど、お昼はあの店混んでるじゃないですか。部活帰りには絶対行かないお店No1ですよ……。それにたぶん、席空いてないです」

「うん。だから行くの。それで座るの。わかった? 待ってればいずれは座れるから。間違ってもカウンター席には座らないこと」

 差し出される手。……お手。

 なにを企んでいるのか、わかった気がする。相席だ。間違いない。でも、それって……。

「ヨシオが別の店がいいって言ったら──」
「そこはなつ君次第でしょ? どうしてもハンバーガーが食べたいって駄々こねるくらいのことはしてよ」

「……わかりました」

「ちゃんとお礼はするからそんな顔しないの」

 ──ドクンッ。

 なにか胸にとんでもないものが支えている。
 僕はまどか先輩相手にいったいなにを……。

「お、お礼なんていらないですよ! 言われたことをやるだけですから!」

 そう。僕の心はこうあるべき。
 これ意外は、まやかしだ。

「ふぅん。そっかぁ。へぇ~」
「な、なんですか!」

 まるで心を見透かされているような雰囲気。
 な、なにも焦る必要はない。だって僕の心にはやましいことなんて、なにも!

「べっつに~。まっとにかく、そんな感じでお願いできるかな。これはなつ君にしかできないことだから」

 僕は返事はためらってしまった。

 だってその作戦は、あまりにも杜撰ずさん過ぎたから。
 まどか先輩はもう少し打算的で頭の切れる、悪女のような人だと思っていた。

 それがいったいどうして、こんな作戦になる。

 相席を提案するところまでは恐らく託ける。
 でもその先だ。そこでヨシオが嫌だって言ったらどうする。たぶん、言うよ……。いや、絶対言うよ。

 まどか先輩のことは好きじゃない。嫌いだ。

 でも、わかっていてこのまま見過ごしていいのだろうか……。

 ……それにしても暑いな。真夏日にこんな狭い個室に二人で入るって、人口密度的に……。

 ──ドクンッ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

来世にご期待下さい!〜前世の許嫁が今世ではエリート社長になっていて私に対して冷たい……と思っていたのに、実は溺愛されていました!?〜

百崎千鶴
恋愛
「結婚してください……」 「……はい?」 「……あっ!?」  主人公の小日向恋幸(こひなたこゆき)は、23歳でプロデビューを果たした恋愛小説家である。  そんな彼女はある日、行きつけの喫茶店で偶然出会った32歳の男性・裕一郎(ゆういちろう)を一眼見た瞬間、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。  ――……その裕一郎こそが、前世で結婚を誓った許嫁の生まれ変わりだったのだ。  初対面逆プロポーズから始まる2人の関係。  前世の記憶を持つ恋幸とは対照的に、裕一郎は前世について何も覚えておらず更には彼女に塩対応で、熱い想いは恋幸の一方通行……かと思いきや。  なんと裕一郎は、冷たい態度とは裏腹に恋幸を溺愛していた。その理由は、 「……貴女に夢の中で出会って、一目惚れしました。と、言ったら……気持ち悪いと、思いますか?」  そして、裕一郎がなかなか恋幸に手を出そうとしなかった驚きの『とある要因』とは――……?  これは、ハイスペックなスパダリの裕一郎と共に、少しずれた思考の恋幸が前世の『願望』を叶えるため奮闘するお話である。 (🌸だいたい1〜3日おきに1話更新中です) (🌸『※』マーク=年齢制限表現があります) ※2人の関係性・信頼の深め方重視のため、R-15〜18表現が入るまで話数と時間がかかります。

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...