27 / 36
二十七話
しおりを挟む家に帰ると、海乃と玄関で鉢合わせた。
手にはエコバッグ。これから夕飯の買い出しに行くようだった。
今朝、起きて来なかったことが脳裏をよぎる。
それでも、僕はお兄ちゃんだから。いつも通り元気よく挨拶をしよう!
「ただいまぁ!」
玄関を譲るため端へ寄るも、待てども待てども海乃は通らない。
それどころか僕の顔を食い入るように見てきた。
……やっぱり何かしら怒ってるのかな。なにが癇に障ったのか、思い当たる節がない。
そして突飛押しもないことを言い出した。
「どうしたの? 彼女となにかあった?」
「かの……じょ?」
聞き返す僕に対し、海乃は眉をひそめた。
「しらばっくれなくていいよ。知ってるから」
「いや、いやいや! 居ないよ?」
「別に隠すことないのに」
ひょっとして海乃が今朝起きて来なかった理由は、この謎めいた誤解のせい?
彼女ができたら妹には報告する義務がある……的な?
……絶対そうだ。
それ以外考えられない!
だったらこの誤解を解けばいい!
兄妹のキズナ修復は容易いな! と、光明を見出したときだった──。
スンスンスン。
突如として海乃が僕の首元を嗅ぎだした⁈
「ちょっちょっ、ちょぉっ! あっ──」
か、完全に嗅いでいる……!
ど、どど、どういうこと⁈
擽ったさとドキドキの狭間でどうにかなってしまいそう……だ。
ひとしきり嗅ぎ終わると「はぁっ」と若干の不機嫌を纏いつつ、鋭い視線を向けてきた。
「こんなに女の匂い染み付けて帰って来て、それでも彼女は居ないって言うの? お兄、さすがにそれは無理があるよ。それともなに、付き合ってはないけどってことなの? だったら幻滅する。もう二度と口聞かない」
その言葉を聞いて、事は思ったよりも遥かに深刻だと悟った。
……匂い。
……心音の匂い付きパンツ。
点と点が繋がり、とんでもない答えを導き出そうとしていた。
そして同時に、彼女が居るってことにしなければこの場を乗り切れないことをも意味した。
「……追い追い、落ち着いたら話すから」
その結果、僕が出した答えはステイ。
問題の先送り。第三の選択だ。
こうする他、ない。どうか折れてくれ。
彼女が居るなんて嘘だけはつきたくない。だってそれは、俺が心音と……。
考えると胸がはち切れそうになる。
そんな、藁にもすがるような思いが顔に出てしまっていたのか、海乃はため息をひとつ吐いた。
「あのさ、そんなに目腫らして帰ってきたら誰だって心配するよ? お兄は元気なのが取り柄なんだから……心配するよ。しちゃうよ」
「……海乃」
まさかにも思っていなかった。妹の口からこんな言葉が出てくるなんて。
それくらいきっと今の僕は、らしくない。
「……お兄の恋路にとやかく言うつもりはないけどさ。……そんな顔して帰って来るくらないなら、もう会わないほうがいいんじゃないかな」
正直、その通りだと思った。
いつの間にかパンツのことよりも心音のことが悩みの大半を占めていた。
会うべきじゃ、ないんだ。
「そうだな。そうするよ。そうしようかな、なんて考えてたところだったんだ。ありがとう海乃。さすが妹だ。僕のことをよく見てるんだな!」
そう言ってすぐだった。
「ちょっと……お兄……。やだ。え、なんで。待ってて、今ティッシュ持って来るから」
──涙が、止めどなく溢れて……止まらなかった。止めることができなかった。
どうしてこう、心ってやつは思い通りになってくれないのだろう。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる