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第二十三話 ソノおパンツは全てを知っていた(上)

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「ほら、じっとしてて」
「う、うん……」

 大変なことになってしまった。

 心音の部屋に二人きり。
 対面し床に座っている。

 ──これから僕は、お化粧をされる。

 女装癖があるという誤解を否定できなかった。
 否定した先の言葉を持ち合わせていないから。

 選択肢はあってないようなもの。

 だから僕は、これから女の子になる。
 なあに、いいんだ。これがきっと最善の選択。

 心音を好きな気持ちを隠す、唯一の……選択。

「うーん。どうしようかな」

 心音はあごに手を当て、僕の顔をじろじろと食い入るように見てきた。
 これから行われる顔面工事の算段を立てているようだ。

 こんなにまじまじと見られるのは初めてのことで、小っ恥ずかしい気持ちになる。

「あーもう。だから動いちゃダメだって。ちゃんと顔見せて」
「ごめん……」
「いい子だからじっとしてようね」

 パチンッ。
 前髪をお花のついたパッチンで止められ、僕のおでこは露見した。
 なにを躊躇うこともなく、当たり前に可愛らしい女物のパッチンを使われた事で……急に現実味を帯びてくる。

 そ、それにしても近いな。
 視線を落とすと、キャミソール越しから大きなお山がi字を描いていた。左右のお山は激しく主張しあい、中央は譲らないぞと押し合っている。

 一歩も引かぬ攻防。谷間戦線、i字の乱。

 ゴクリ……。
 
「やっぱり気になる?」
「な、なにが⁈」

 えっ⁈ んん⁈
 谷間戦線とか頭で考えてる最中だったからか、今日一驚いてしまった。

 ふぅ。

 なぁに大丈夫。バレるわけがない。
 心音はそういうのに疎い子だからな。言われるならとっくに言われてるはずさ!

「おっぱい。じーって見てたでしょ?」
「み、み、みぃ‼︎ ぶはっ。みみみ、みてないよ‼︎」

 僕の目をじっとみつめ、首を傾げてきた。

 おっ、おっ、およよよ⁈
 僕の目は泳ぎ回り、思考はパンク寸前。

「嘘つかなくていいから。なぁんか最近、じろじろ見てくるなーってずっと思ってたの。なんて言うか、えっちぃ目で?」

「…………」

 終わった。
 僕はなにも見えていなかったのか。

 いや、おっぱいは見えていた。結局、おっぱいか。

 もう、誤魔化しは利かない。
 諦めの悟りを開くしかない。

「……ごめん……なさい」

「もうっ、謝らないでよ! 怒ってるわけじゃないんだから。全部わかってるって言ったでしょ? コタは女の子の体に興味があるんだよね。可愛くなりたいんだもんね。そりゃ、気になってとーぜんだよ」

 ……へ? 頭の中に浮かぶ、たったひとつの大きなクエスチョンマーク。

 まさかこれは……つまり、そういうことなの?

「ウンッ。ソウナンダヨ! サスガココネ!」
「はぁ。幼馴染なんだから当たり前でしょぉ~。だからね、そんなチラチラ遠慮しがちに見なくてもいいんだよってこと!」

「ア、アリガトウ。オキヅカイカンシャ!」

 いいのか。これは許されるのか。
 そう思うもやっぱり選択肢がない。

 否定した先にあるのは心音への恋心。

「あと、鼻息! わたしの匂いを嗅いでるような感じっていうのかな。女の子の匂いにも興味があるんだよね?」
 
「……ウ、ウン!」
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