上 下
10 / 36

第十話 全てはおパンツのために仕組まれた罠

しおりを挟む

 キキィーーー。ズザザザザッ!!

「はぁはぁはぁはぁ。ふぅ……到着!」

 もう脚がパンパンだ。
 止まることなくダッシュで来た!!


 ピンポーンピンポンピンポン。
 いけないこととわかりつつも焦る気持ちが僕にインターホンを三連打させてしまう。許せ心音!! 研究の成果を知りたいんだ!

 ガチャンッ。

 ドアから姿を出したのは昨日と同じ綺麗なお姉さん。
 今日も短パンにキャミ。相も変わらず無防備なけしからん格好じゃないか。

 気を確かに持つんだ。心音は幼馴染。
 クンクンするのは背を向けた時だけ。今じゃない。……よしっ。

「や、やぁ。昨日振りっ! はぁはぁはぁはぁ」
「……う……わぁ」

 ななな、なに?! なんで嫌そうな顔?!

 僕なにか悪いことしたかな……。

 とりあえず玄関へ入り靴を脱ごうとすると、

「…………コタ汗だくじゃん。勘弁してよ」

 なん……だ……って?

「こ、心音が汗だくで来いって言ったんじゃないか‼︎」
「待って。そんなこと一言もいってないし。なんかそれ色々やばくない?!」

 …………確かにそんなことは言ってなかった。少し話を盛ってしまった。反省。

「でも、着替えて来たら家入れないって言ってた! ダッシュで来いってメッセージも来てたから急いで来たんだぞ」
「そうは言ったけど……どうしてこうなっちゃったかな……もーう。コタは……」

 そう言うと心音は困り顔でため息をついた。

 僕も同じ気持ちだよ。
 どうしてこうなっちゃったかな……。

 これって僕が悪いの? などと思うも果てしなく汗だくな自分の様をみると、ぐうの音も出ない。こうしてる今も額を伝い汗が玄関のタイルへ。

 ポツンッ。

 どうしようかな。謝ろうかな。帰ろうかな。と考えていると、僕の頭をタオルが覆った。

「あぶぶぶぶぶ」

 突然のことにびっくり。

「髪までびっしょりじゃん。あー、動かないの!」

 …………なんとなく身を任せちゃってるけど今僕なにされてるんだろ。うん……心音に汗を拭き拭きされてる。

 やめろーーって声を上げる場面なのに、汗だくな事への後ろめたさが勝る。あぶぶぶぶ。

 でもタオルなんていつの間に。最初から持ってたのかな。

「うーん。お風呂入っちゃいなよ。ちょうどお風呂沸いてるし。うんっそっちのほうが早いッ」

「えっ、お風呂?」
「いーから。ほらっ。風邪引いちゃうでしょ。良い子だから入ろう、ね?」

 そう言うと諭すように頭をポンポンからの撫で撫で。

 うん。心地良い。僕はこれに弱い……。

 静かに頷くと手を引かれあっという間に脱衣所へ。

「着替えとバスタオルは今持ってくるから、入っちゃってていいよ~。脱いだ服は適当にこの辺置いといて」

 カゴを指差すと脱衣所から出て行った。戻ってくるまでに風呂入っとけよ。と、言われたような気がした。

 仕方ない。ひとっ風呂浴びるか。

 汗を流せば心音の機嫌も治るだろう。

 ジャッバァーーン。

 「ブクブクブクブクブク」

 久々の心音家のお風呂。懐かしさが漂う。
 そう言えば、ミニバスの後によくお邪魔してたなぁ。
 
 「ブクブクブクブクブク」

 でもどうしてお風呂沸いてるんだろう。まだお昼なのに。ちょうど沸いてるとか言ってたっけ。心音が入った後ならわかるけど、この水の鮮度は一番風呂。

 沸き立てホヤホヤで僕好みの熱々な湯加減。

 湯船に浸かりリラックス。

 ……何かがおかしい。なんだろう。なに……かが。
 
「コタぁ~! 着替えとタオル洗濯機の横のカゴに置いとくからね~!」
「うん。ありがとー」

 そのおかしな何かがひしひしと近づいてくる。
 あれ? 着替えって。ここ、心音ん家だぞ。

 この家に僕の着替えなんてあるわけないだろう……。

 ハッ!!

 ようやく事の次第に気付いた。
 温かいお風呂に浸かっているはずなのに背筋が凍る。身の毛もよだつとはまさにこのこと。


「それにしても、まさかこんな汗びっしょりで来るとは思わなかったよ~。Tシャツ絞ったらヤバそうじゃん……うげぇー」

「っっ?!」

 曇りガラス越しに心音が映る。たぶん僕がさっきまで着てたTシャツを摘んで「うげぇー」って言ってる。

 そして、洗濯機を開けるような仕草をを見せると、放り込んだ。

 ピッピッ、ピッ。ピーー。

「っっ?!」

 まさか、洗濯するのか?!

「ちょっ、心音?! なにしてるの?!」
「うーん? 洗濯だよぉ~」

 それは最後通告だった。汗だくと言えど、まだ衣類としての役割は果たせたはずだ。

 僕はお風呂から上がっても着る服がない。

 いや、心音の服を着るんだ……。

 しかもノーパンで……。

 待て。心音がなにかを手に掴んでる。全部洗濯機に入れたわけではないのか?
 曇りガラス越しでわからない。けど、顔に……近づけた⁈

 ワンクンカ。プハァ。
 ツークンカ。プハァ。

 そんな絵面に見えるのは気のせいだろうか。
 綺麗なお姉さんが見せるそのシルエットからは手に持つそれがパンツとは到底思えない。

「こ、心音なにしてるの?」
「うーん? 研究だよぉ~。それにしても相変わらずくさくさだねぇ。ほんと無理ぃ~!」

 スリークンカ。プハァ。
 フォークンカ。プハァ。

「くっさぁーーい!! あははっ。脱ぎたてやばぁーい」

 ファイブクンカ。プハァ。

「うけるっ。なにこれ臭すぎぃ!」

 ──はい。パンツでした。

 でも今は臭いと言われる事よりも、まだそこにパンツがあるということが、なによりも嬉しい。

 ノーパンになってたまるかぁ!!

「心音‼︎ そのパンツまた履くから研究終わったら置いといて!!」
「ダメだよ。これはもうわたしのパンツだから」
「な、なに言ってんだよ?! このままじゃ僕ノーパンになっちゃうだろ?!」

 まただ。わたしのパンツってなんだよ。
 それは僕のパンツだから!!

「あー、そっか。じゃあ昨日のパンツ置いとくよ。もうこれいらないから」
「おぉ、さすが心音!! ありがとう!!」

 言い方が少し刺々しいのはなぜだろう。でもこれでノーパンは回避できる!

「ちなみに、昨日のパンツにはわたしの匂い付けておいたから。読み通りなら海乃ちゃんにまた変化があるはずっ! ちゃ~んとお家帰ったら洗濯機に入れるんだぞぉ~?」

 その言葉は立派な研究者のソレだった。

 この様子から察するに研究成果は確実にあがってる。

 ほんと、僕は自分のことばかり。心音は臭いと言いながらもパンツを嗅いで研究してくれているのに。

 ごめんね心音……。心の中で精一杯の謝罪をした。


「コタの好きなレモンを砂糖に漬けたやつ用意してあるから、早くお風呂上がりなよぉ~!」

「うん!!」


 ──そうして、お風呂から出た僕は絶句する。

 バスタオルと一緒にスカートが置いてあるんだ。
 それはもう綺麗に畳まれていて、履いてもらうのを待っているかのように。

 …………なにかの間違いだよね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

白い結婚はそちらが言い出したことですわ

来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

処理中です...