上 下
3 / 36

第三話 クンクンクンッ!

しおりを挟む
 
 ピンポーン。

 僕は部活帰りに幼馴染の秋ノ森  心音あきのもり ここねの家を訪ねた。

 親父が再婚する前は家も近く家族のような付き合いをしていた。同い年だけど姉貴みたいな存在だ。

 別々の高校そして新居への引っ越し。
 加えて親父の転勤など。親同士の付き合いが無くなると不思議と会う機会も少なくなり、……今日は一年ぶりの再会だ。

 ここに来た目的はもちろん僕が抱えるパンツ事情の相談。

 もう、僕一人の頭では海乃の行動は理解できないんだ。

 僕に足らないのはきっと女心。この問題はたぶん、男ではわからない事。そもそも嫌いな男のパンツを何に使うのか。

 破ってむしって庭で焼き払うのならわかる。
 喧嘩の最中に凶器として投げつけるのもいいだろう。
 それこそ不幸の手紙に添えてしまうのもありだ。

 でも、フィッシュアンドリリース。日帰り旅行で戻って来てしまう。

 これはもう女の子に相談するしかない。

 縋るような思いで、僕は此処に来た!

 きっと、心音が正解へと導いてくる!


 ──ガチャン。
 勝利の女神の登場だ! 出でよ、バスケット少女!!

 あ……れ? 誰だこの綺麗なお姉さんは。透き通るような茶色い髪に緩くふわりと巻かれた毛先。そして厚めの前髪。

 心音はどこ……?

「ア、スミマセン。シンブンノカンユウデス」

 何言ってんの僕。何言い出しちゃってるの?!

「んんー? ……あー、はいはい。なるほどぉ。用事ってそういうことね。どうしよっかなぁ~。大変・・なら契約してあげてもいいよ?」

 う……そ? 大変なことになってしまった。たったいま大変・・なことになってしまったよ?

 契約なんてしないで。できないからっ!!

 どどどどど、どーしよ……。

「なぁにキョトンと突っ立ってるの? 早く入りなよ。契約してあげるから」

 お姉さんはぐいーっとドアを開くと優しい笑顔で手招きをしてきた。

 入れるわけがない。たぶん、ここで入ってしまったら犯罪。だって僕、新聞勧誘員じゃ……ない!

「す、すみません。実は僕、普通の高校生なんです。友達の家と間違って呼び鈴鳴らしちゃって。ほ、本当にすみません……でした──」

「えっ、どうしたのコタ? 頭でも打った?」

 ……コタ? それはどこか懐かしい呼ばれ方だった。

「も、もしかして、心音なのか?」

「はい? なに当たり前のこと言ってるの。暑いから早く入りなって。入らないなら閉めちゃうぞ~」

 この意地の悪そうな雰囲気。やっぱり心音だ!

「あっ、入ります。すみません」
「なんで敬語なの? ははっうけるんだけど」

 玄関に入ると笑いながらもスリッパを用意してくれた。

「あ、ども。すみません」
「だからなんで敬語なのぉ?」

「あははぁ……ど、どうしてですかね……」

 なんでもどうしてもあるか。綺麗なお姉さんだからだろ!!

「ねぇどした? 久々だから緊張でもしてるのかな?」

 そう言うと頭をポンポンしてきた。

 近い。近いよ近い‼︎ 昔みたいなノリのボディタッチはやめて‼︎

 すごい良い匂いするし。甘くて溶けちゃいそうなお姉さんの匂い。胸もでかくなってるし……もう誰! この人誰レベルだよ!!

 見れば見るほどに誰だかわからなくなる。目の前に居るのが心音? 一年でこうも人は変わるものなのか。

 女って……凄い。僕、わからなくなっちゃったよ。

 ──たぶん、舐め回すように見てしまったんだと思う。目の前に居るお姉さんが心音だという非現実を受け入れる為に、類似点を模索していたんだ。


「ねー、おかーさーん! コタがえっちぃ目でみてくるー。助けてー。襲われちゃうかもーー」

 突然リビングの方を向いて大声を出した。こ、こいつ!

「ちょっ、おまっ!」
「うそ~、今日はお母さん居ないよぉ! びっくりした?」

 プイッ。昔からこういうやつだった。でも、なんだろ。思い出したよ。そうだ。そうだよ。

 綺麗なお姉さんがなんだ! 僕と心音は幼馴染! 外見なんてなんのその!!

「バカヤロウ! ほんとお前は変わらないな!!」
「えへへ~、コタも相変わらずバスケット少年だぁ。いいじゃん!」

「少年言うな‼︎」

「あははっ。あー、良かった! 敬語じゃなくなったね。頭のネジ千本くらい抜けちゃったのかと思って心配したよ~」

 こ、こいつぅ!! 紛れもなく心音だ。なんだ、その……ちょっと成長しちゃっただけだ。色々と。

 一年って短いと思ってたけど、そうじゃないんだなぁ。

 と、なんとなく浸っていると、

 スンスンスン。僕のことをスンスンしだした。

「コタ汗臭いんだけど」
「……部活帰りだからね」
「げぇー。まじかぁ」

 ほんと容赦ないやつ! 腹立たしい!

 で、でも。僕とは違って心音のやつ……ほんと良い匂いするな……。

 クンクンクン。クンクンクン。

 僕は、吸い放題の空気を悟られぬよう、クンクンしまくった。中身は変わらなくても、やっぱり心音は綺麗なお姉さんになってしまったんだ。

 嬉しいような、切ないような。なんだかよくわからない気持ちになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

来世にご期待下さい!〜前世の許嫁が今世ではエリート社長になっていて私に対して冷たい……と思っていたのに、実は溺愛されていました!?〜

百崎千鶴
恋愛
「結婚してください……」 「……はい?」 「……あっ!?」  主人公の小日向恋幸(こひなたこゆき)は、23歳でプロデビューを果たした恋愛小説家である。  そんな彼女はある日、行きつけの喫茶店で偶然出会った32歳の男性・裕一郎(ゆういちろう)を一眼見た瞬間、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。  ――……その裕一郎こそが、前世で結婚を誓った許嫁の生まれ変わりだったのだ。  初対面逆プロポーズから始まる2人の関係。  前世の記憶を持つ恋幸とは対照的に、裕一郎は前世について何も覚えておらず更には彼女に塩対応で、熱い想いは恋幸の一方通行……かと思いきや。  なんと裕一郎は、冷たい態度とは裏腹に恋幸を溺愛していた。その理由は、 「……貴女に夢の中で出会って、一目惚れしました。と、言ったら……気持ち悪いと、思いますか?」  そして、裕一郎がなかなか恋幸に手を出そうとしなかった驚きの『とある要因』とは――……?  これは、ハイスペックなスパダリの裕一郎と共に、少しずれた思考の恋幸が前世の『願望』を叶えるため奮闘するお話である。 (🌸だいたい1〜3日おきに1話更新中です) (🌸『※』マーク=年齢制限表現があります) ※2人の関係性・信頼の深め方重視のため、R-15〜18表現が入るまで話数と時間がかかります。

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...