優しさだけでは付き合う事が叶わなかったので、別の方法で口説く事にしました♪

おひるね

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95話

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「あー、そっか。そういうことか」

 最側は小さな声でボソッと悲しそうに遠い目をしながら溢した。

 掛ける言葉が出てこない。もう、全てが手遅れなような。そんな気が……した。

 あーで何かに気付き、
 そっかで何かを悟り、
 そういうことかで確信に至る

 連なる単調な言葉。意味もない、吐いて捨てるような言葉。なのに、最側の心境が痛いほどに伝わる。


 俺はずっと最側を騙してきた。学校をサボる振りして、毎日会いに行った。その度に怒られた。

 それでも顔を合わせると笑ってくれるから、一緒に居ると楽しいから……嘘をついて会い続けた。


 ”学校は行かなきゃダメですよ”
 ”もう、明日は来ないください”

 またね。と言われることは一度も無かった。それでも昨日だけは“また明日”と言ってくれた。

 もう、学校をサボらないと約束したから。

 目的は最側の望む世界を聞き出すこと。ただ、それだけだった……はずなのに。

 想い出を望んでしまった。

 そうしてついた嘘は、言い逃れのできない、欲望の為だけの自分勝手な嘘になった。

 最側とプラネタリウムを観に行っても、停学中の俺は学校へは行けないのだから。


 失敗したのならやり直せばいい。簡単なこと。
 なのに、どうしてだろう。それは最側をまた裏切ることのような気がする。

 今まで散々タイムリープしてきたくせに……。


 ──二番線に電車が到着いたします~危ないですから~黄色い線の内側に~

 無言のまま、アナウンスが流れる。陽気な音楽とともに電車が近付いてくる。

 きっと、最側は電車には乗らない。このまま帰る。どうにかできないのかと考えてる間に、最側はゆっくりとベンチから立ち上がった。

 俺は思わず手を掴んでしまった。このまま行かせてしまったらあの時と同じだ。七夕の時と。

 やり直せば……いい。だけなのに、あの時とは違うのに。今、この瞬間の最側を離したくない。

 
「えっ、なんですか?」

 それは拍子の抜けたような驚いた声だった。

「あっ、いや……」
「んー? 電車来ましたよ? 乗らないんですかぁー?」

 耳を疑った。思わず目を見開いてしまった。
 俺と龍王寺の会話が聞こえていなかった訳がない。まさか、難聴ヒロインを演じてくれるのか?

 ──プシュー。到着~到着~お足元に気をつけて~


「何してるんですか? 乗らないと電車行っちゃいますよ?」

 帰らせない為に掴んだはずのその手は、逆に引っ張られ、ベンチから立ち上がるとくるりと後ろへ。そのまま背中を押されるように電車の中へと入った。

 あぁ、俺だけ電車に乗せてここでお別れってことかな。もう、顔も見たくないと。電車ってこんな使い方もあったんだな。あははっ。

 諦めるには十分過ぎるシチュエーションだった。


 あ……れ?

 ──閉まるドアにご注意下さい~ガシャン。


「あっ、座れるっ! ほら先輩こっち」

 グイグイと勢いよく手を引かれる。
 それは、いつも通りの最側だった。


 難聴……ヒロイン?
 聞かなかったことにしてくれたのか?


 このままじゃいけないとわかりつつも……俺はどうすることもできなかった。
 
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