81 / 106
81話
しおりを挟む「もう早く食べちゃってください。一口食べたんですから、二口も三口も同じです。今回だけ特別に見逃してあげますから」
何故だ。何故そうなる?!
これじゃ、まるで俺が……間接キスを欲してるみたいじゃないか。
残モンブランは三分の一ほど。
間接キス。〝する〟のか〝されるのか〟
俺が食べるのか最側が食べるのか。
もはや、この状況では自らの手でモンブランを口に運ぶのは無理だ。間接キスを欲してると証明するようなもの。
テーブルに置かれるモンブランに罪はない。
誰かが食べなきゃいけないんだよ。誰かが! 俺かおまえか!
最側! おまえが食うんだっ!!
「ほら、最側。バイト仲間だろ?」
モンブランを一口分のせたフォークを最側の口元に近付ける。「口を開けろと」少し強引めに。
「ちょ、ちょっと先輩っ! 落ち着いて下さい。ば、バイト仲間だからってこれは……ダメです。いけませんっ」
「俺は食ったんだ。まさかおまえ、俺の食べかけは汚いとでも言うのか?」
そっくりそのまま返してやるよ!! 断れるもんなら断ってみろっ! 少しは俺の気持ちを理解しやがれ!
「思ってないですけど……バイト仲間ですし……でも」
「じゃあ食べれるよな? バイト仲間なんだし」
──あれ、どうして俺はこんな意地になってるんだ。
あ……れ?
「うっ……」と何か言いたげだったが息を飲みコクリと小さくと頷いた。
唇をぷるぷるさせながらゆっくりと口が開く。最側の小さな口が……。
もう引くに引けないとこまで来てしまった。考えても仕方ない。やるしかないんだよ。
ドクンッ。近い、近過ぎる。
どうしておまえ、目瞑るんだよ。
ドクンッドクンッドクンッ。
鼓動がやばい。最側の口にフォークを運ぶだけ。簡単なこと。
だと、思ってたのに……。
「せ、せんぱい……ば、バイト仲間……ですからね?」
「お、おう。ほ、ほほらよ」
震える手。極力、優しくフォークを最側の口の中へ……、
パクッ。よ、よしっ。フォーク越しに伝わる僅かな動き。モンブランは無事、最側の口の中に到着した。
リリースフォーク。
ゆっくりとフォークを引く……ゆっくりと……。
『よしきたっ!! さぁ、舐めるのじゃ! ペロッと!! 間接キッスがもっとしたいと意思表示をするのじゃ!』
バカヤロウ! 今日何度目かわからないこの言葉を心の中で叫ぶ。
そうだった。妖精さんは誤解したままだ。
違うと言っても信じてくれない。色々と問題は山積みだな。
モグモグモグモグ。ゴクリッ。
「うーー、やっぱり限定100個ですねっ。美味しいーっ」
「お、おうっ。良かったな。ほら続けるぞ。口を開けろ」
再度、フォークを最側の口元へ。
プイッ。えっ? プイッてされた?!
「いいえ、次は先輩の番ですッ」
うそ……だろ?
「お、俺はいいよ」
「何を今更っ。バイト仲間なんですからッ!! まさかわたしの食べかけは汚いとでも?」
振りかざしたはずの魔法の言葉がそっくりそのまま返ってきてしまった。
強引にフォークを取られると「ほらぁっ! せーんぱいっ!」と、あっという間にモンブランが口元に。
最側はなんていうか、ムキになってる。
間違いが間違いを起こし間違い続け、連鎖的に間違いを量産する。どこまでも間違ったまま間違ったことだけが起こり続ける。
もうダメだ。自分で蒔いた種とは言え身がもたない。降参だよ。
過去に戻るしかない。
『よ、妖精さん?!』
『ふむふむ。あー、そうそう、そうじゃ! 妖精さんはな、ちぃーとばかし用事があったんじゃあ! きょうはしばらくかえってこないとおもうなぁー』
ササッ、スゥゥゥゥゥゥポンッ!
ちょっ、あっ?! えぇっ? 妖精さん?! 最後、不自然にカタコトだったけど?!
──万事休す。な、なんという要らぬ気遣いを……。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる