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81話

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「もう早く食べちゃってください。一口食べたんですから、二口も三口も同じです。今回だけ特別に見逃してあげますから」

 何故だ。何故そうなる?!
 これじゃ、まるで俺が……間接キスを欲してるみたいじゃないか。

 残モンブランは三分の一ほど。

 間接キス。〝する〟のか〝されるのか〟
 俺が食べるのか最側が食べるのか。

 もはや、この状況では自らの手でモンブランを口に運ぶのは無理だ。間接キスを欲してると証明するようなもの。

 テーブルに置かれるモンブランに罪はない。
 誰かが食べなきゃいけないんだよ。誰かが! 俺かおまえか!

 最側! おまえが食うんだっ!!


「ほら、最側。バイト仲間だろ?」
 モンブランを一口分のせたフォークを最側の口元に近付ける。「口を開けろと」少し強引めに。


「ちょ、ちょっと先輩っ! 落ち着いて下さい。ば、バイト仲間だからってこれは……ダメです。いけませんっ」
「俺は食ったんだ。まさかおまえ、俺の食べかけは汚いとでも言うのか?」

 そっくりそのまま返してやるよ!! 断れるもんなら断ってみろっ! 少しは俺の気持ちを理解しやがれ!

「思ってないですけど……バイト仲間ですし……でも」
「じゃあ食べれるよな? バイト仲間なんだし」


 ──あれ、どうして俺はこんな意地になってるんだ。

 あ……れ? 


 「うっ……」と何か言いたげだったが息を飲みコクリと小さくと頷いた。

 唇をぷるぷるさせながらゆっくりと口が開く。最側の小さな口が……。

 もう引くに引けないとこまで来てしまった。考えても仕方ない。やるしかないんだよ。


 ドクンッ。近い、近過ぎる。
 どうしておまえ、目瞑るんだよ。


 ドクンッドクンッドクンッ。


 鼓動がやばい。最側の口にフォークを運ぶだけ。簡単なこと。

 だと、思ってたのに……。


「せ、せんぱい……ば、バイト仲間……ですからね?」
「お、おう。ほ、ほほらよ」

 震える手。極力、優しくフォークを最側の口の中へ……、

 パクッ。よ、よしっ。フォーク越しに伝わる僅かな動き。モンブランは無事、最側の口の中に到着した。

 リリースフォーク。
 ゆっくりとフォークを引く……ゆっくりと……。

『よしきたっ!! さぁ、舐めるのじゃ! ペロッと!! 間接キッスがもっとしたいと意思表示をするのじゃ!』

 バカヤロウ! 今日何度目かわからないこの言葉を心の中で叫ぶ。

 そうだった。妖精さんは誤解したままだ。
 違うと言っても信じてくれない。色々と問題は山積みだな。


 モグモグモグモグ。ゴクリッ。
「うーー、やっぱり限定100個ですねっ。美味しいーっ」
「お、おうっ。良かったな。ほら続けるぞ。口を開けろ」

 再度、フォークを最側の口元へ。
 プイッ。えっ? プイッてされた?!

「いいえ、次は先輩の番ですッ」

 うそ……だろ?

「お、俺はいいよ」
「何を今更っ。バイト仲間なんですからッ!! まさかわたしの食べかけは汚いとでも?」

 振りかざしたはずの魔法の言葉がそっくりそのまま返ってきてしまった。

 強引にフォークを取られると「ほらぁっ! せーんぱいっ!」と、あっという間にモンブランが口元に。

 最側はなんていうか、ムキになってる。



 間違いが間違いを起こし間違い続け、連鎖的に間違いを量産する。どこまでも間違ったまま間違ったことだけが起こり続ける。

 もうダメだ。自分で蒔いた種とは言え身がもたない。降参だよ。
 過去に戻るしかない。

『よ、妖精さん?!』

『ふむふむ。あー、そうそう、そうじゃ! 妖精さんはな、ちぃーとばかし用事があったんじゃあ! きょうはしばらくかえってこないとおもうなぁー』

 ササッ、スゥゥゥゥゥゥポンッ!

 ちょっ、あっ?! えぇっ? 妖精さん?! 最後、不自然にカタコトだったけど?!


 ──万事休す。な、なんという要らぬ気遣いを……。
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