優しさだけでは付き合う事が叶わなかったので、別の方法で口説く事にしました♪

おひるね

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62話

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 殿下とのお茶会当日――――

 フィーリアは普段着ない色のドレスを身に付けていた。
 普段は王族の婚約者であり大公家の令嬢という地位に見合った気品あるドレスを選んで着るように心がけていたが、今日のお茶会は普段とは違う事をコンセプトに挑む為、普段のフィーリアなら選ばない淡いレモン色のドレスを選んだ。

 シフォン素材の軽やかなドレスは、袖口と裾にレースとフリルが施してあり、甘い砂糖菓子のような令嬢が着るようなドレスである。
 しかし、首回りは露出が大きくなっており、フィーリアの細い鎖骨は勿論のこと、胸元ギリギリの見えそうで見えない部分まで開いていた。
 前日にそのドレスをフィーリアが選んだ事を知った出来る侍女達がコレはけしからんと鎖骨より下の部分に薄いレース地の布を縫い付けたのだが、それがまたフィーリアの豊かな部分に艶めかしさを添えていた。
 可憐で甘い黄色いドレスに艶めかしいフィーリア。

 侍女達は目線で語り合う。
『これって外に出していいフィーリア様じゃない気がするわ』と。
 普段は露出が殆どなく、公の場では首元まで詰まった襟のドレスを着ることもある。
 それはそれで禁欲的な姿に妄想を捻らす殿方の注目の的であるのだが。
 体に沿ったドレスを着ない為、フィーリアのメリハリのある体型は外部に漏れていないが、実は――――なフィーリア。

「フィーリア様、今日ドレスにはこの純白のレースのショールがお似合いですわ。」
 侍女はフィーリアの肩に繊細な総レースのショールをかける。
「ありがとう。」
 フィーリアはにっこり微笑んで侍女のアドバイスを受け入れた。

 侍女は、フィーリアの艶めかしさが少し薄らぎホッと息を吐いた。
 色んな噂を訊くが、最近になって女遊びを覚えたらしい殿下が婚姻前に何かやらかしても困るのだ。
 自衛といえる自衛でもないが、しないよりマシである。

 今日は愛らしさ満載のフィーリア様である。
 艶やかな髪を緩く編み込み左側に流し、右耳には殿下から送られた藤の花を模したイヤリングが見えるように右側をスッキリとさせている。
 その右側に申し訳程度に後れ毛を残しているのだが、その後れ毛が首筋を滑る様が何とも……
 フィーリア様の美貌は有名で、指摘しようとすればアレコレとなるので、侍女たちはこれ以上は言うまいと口を閉じた。

「では、いってくるわね」

 フィーリア様は送り出しに現れた使用人たちに笑顔を向け、淑やかな仕草で馬車に乗り込んで王宮へ向かった。





「フィーリアは……来てくれるだろうか。」
 フィーリアとのお茶の時間を少しでも長く捻出する為に、シリウスはせっせと書類を捌いていく。
 それでも時々ポツリと独り言を口にしていた。

「あー、どうですかねー、こないかもしれませんねー」
 朝から両手の指では数えきれない程に独り言を訊く羽目になっているルークは段々と受け答えが雑になってきている。
 とうとう「こないかもしれませんねー」と嫌味も言いたくなるほど。

「なっ!? お前、不吉な事を言うな!」
 カッと目を見開いてこちらを凝視するシリウス。
 美貌の男がそんな顔をするとちょっと怖い。

「朝から何度目ですか殿下。フィーリア様からは楽しみにしていると了承のお返事を頂いたのでしょう? いくら殿下の日頃の行いが悪いからといって一度了承したものを撤回なさるような方ではないでしょうに。」

「うう……」
 側近のルークの容赦ない攻撃にシリウスは胸を押さえる。

「悪手だと申し上げましたでしょう。何度も。嫉妬されたいが為と他の令嬢と仲良くする姿を見て男として好きになって貰えるとかどうやったら思えるのですか。
 殿下の美貌と地位と名誉に群がる令嬢と違うんですよ、フィーリア様は。
 あのように高潔な方に今までのような振る舞いを見せ続けていれば、むしろ嫌われて然るべきかと思います。」

「……そうだよな。」

 ズーーンと暗く堕ちていくシリウスを見遣り「あ、やべ、言い過ぎた」と気付くルーク。あまりにもバカに振り切れた振る舞いをフィーリアにしているのを見続けていた鬱憤が漏れ過ぎてしまったと反省した。
 幾度も幾度も強く諫めても聞き入れて貰えなかった八つ当たりも。

「それでも、まぁ……手遅れかもしれませんが、今、気付いてどうにかしようとしているのですから。まだ挽回できる余地はほんの少しあります。
 今日のお茶会で素直になることです。
 まずは謝罪、そして、気持ちを打ち明けるんですよ?
 あ、その重たい愛すべてを話したら逃げられますからね?
 一般的な量の愛をお伝えくださいね。」

 ぐっと何かを堪えるように口を引き結ぶシリウス。
 重たい愛の自覚はあるようだ。

「しっかり謝罪はする。
 愚かな私の振る舞いを反省し、平身低頭で謝罪する。
 赦して貰えるかは分からないが、罵られてもいいから婚約だけは続けて貰えるよう請うつもりだ。」

「最近、不穏な噂が出てますからね……。
 侯爵の動きも何となく怖いですし。
 救いがあるとしたら、あれだけいちゃいちゃしていた令嬢たちとは肉体関係がないというだけですね。
 口付けもしてないですよね?」

「肉体関係がある訳ないだろう! 私にはフィーリアがいるんだぞ!!
 他の女と口づけもするものか! フィーリアともしてないのに!」

「…………いやしてなくて良かったですけど。
 フィーリア様としてたら他の方ともしてるってことですか?」

「はぁ!? しない、絶対に、しない!
 私の初めては全てフィーリアに捧げると決めているんだ。
 閨教育ですら実地は拒否した。
 では見るだけでもと勧められたのを拒否したのもお前なら訊いていただろう?」

「ああー、まあ、はい。」
 あの時はシリウスが大騒ぎして面倒くさい感じになったのを覚えている。
 王妃様が呆れて、陛下が怒って見るだけてもって強制的にしようとしたら、殿下は胃にあるもの全て嘔吐したという。
 それも、実地に呼び出した娼婦と男娼が裸になる前の状態で吐いていた。
 騒然とした現場には当然のこと箝口令が敷かれ、殿下は講義と書物で異例の閨教育を済ませたのだった。

「フィーリア様に万が一婚約破棄されたら、国の一大事になることだけは分かっていますよ。殿下、死ぬ気で頑張って下さいね。」

「……ああ。」

 シリウスは苦悶に満ちた顔で頷く。
 そこまで分かっていて、何であんな馬鹿な振る舞いを試してみようと思ったんだろうなぁ。
 ホントにこいつフィーリア様関連になるとポンコツ過ぎだわ……と幼馴染であり側近であるルークは思うのだった。


 扉がノックされ入室を許可された侍従が執務室に入って来る。

「レイゼンベルグ大公令嬢が到着致しました。今、庭園にご案内中です。」

「ああ、今向かう!……ぐっ」
 ガンッと強かに机に脚を打ち付けたシリウス。
 フィーリアの到着に嬉しさに飛び上がるように立ったせいである。
 その姿にため息を零すルーク。

 侍従が不安そうにルークとシリウスを交互に見つめている。
 退室のタイミングを失したようだ。
 ルークは侍従に無言で行っていいと指先で扉を指してやる。

 侍従は不安気になっていた表情をパっと明るくして、コクコクと頷き退室した。

「殿下、痛みが引いたら参りましょうね。」

 手のかかるシリウスに冷静に告げるルークであった。
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