優しさだけでは付き合う事が叶わなかったので、別の方法で口説く事にしました♪

おひるね

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58話

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「濡れる日もあれば濡れない日もある。今日のいちごちゃんは濡れる日だっただけだ。わかるな?」
「わかります、けどぉー」
 優しい顔でなだめる店長、それにうなずく最側さいかわ

 なぜ、納得している。
 なぜ、ジュースが溢れただけだと言わない。


「せーんぱい。これは貸しにしておきますね♪」
「…………」

 人差し指を顎に当て、少し挑発的な目付き。
 可愛いと思ってやっているのだろうか。腹の立つ奴だ。


「まぁ、冗談はこの辺で。今日は二人の顔合わせと今後について話をしておきたくてな」
「はいはぁい! わかってますよぉ~!」

 じょ、冗談?! 俺はまたからかわれてしまったのか。最側も〝でしょうね〟と納得している。

 ねぇ、このままじゃ、何も信じられなくなるよ?!


「え~、もしかして先輩……本気にしてた感じですかぁ?……きしょ」

 小さな声で「きしょ」と聞こえた。

「おい、おまえ今ーー」
「あっ、はっきしょん。くしゃみでちゃいましたぁ!」

 てへっ♪っと首を傾げ頭をコツン、そして舌まで出してきた。
 待て待て、それで誤魔化したつもりか?! なんかこの子はアレだ。アレ! 疲れちゃうやつだ。


「まったくもう。そういうところだぞ~?」
「うー、店長ぉごめんなさぁーい」
 最側に優しくげんこつをくれる店長さん。ぶりっ子全開で謝る最側。

「でもでもぉー、店長みたいな草原の美女と、こいつ……先輩がだなんて、万に一つ……億に一つも無いじゃ無いですかぁ!」

 ツッコミどころが多過ぎませんか。
 しかも草原の美女ってなんだ? 妖精さんも言ってたよな。そんなジャンル存在するの?!

 色々と濃過ぎてパニックを起こしそうだ。妖精さん、どこ行っちゃったの。早く出てきて……。


「いや~、いちごちゃんは逸材だぞ? 目の前に美女が居ると言うのに眉ひとつ動かさない。今、最も欲して居る人材。即戦力だ!」
「その点に関しては、賛同しますけどぉー」

 どうしてこう、ぶっ飛んだ話になるんだ。俺にもわかるように説明してくれよ。二人でうなずきながら会話を進めないで!!


「それでだ、最側。いちごちゃん投入でシフトに融通がきくようになる」

 店長はデスクに座り、俺と最側を手招きした。
 画面上に映し出されているのはシフト表。

「いちごちゃんは予定なんかないだろ?」
「いやいや、店長ぉ!!」

 俺が「いやいや」と言おうとしたら、何故か最側が否定してくれた。あれ? もしかしていい奴?

 「ちょっといいですかぁ?」と店長の耳に近づきコソコソ話を始めた。

 コソコソコソコソコソコソコソコソ。

 「えっ?」
 店長は驚いた顔で俺を見てくる。

 コソコソコソコソコソコソコソコソ。

 「ええっ?!」

 さっきよりもさらに驚いた顔で見てくる。

 さすがにこの距離でそれをやられるのは、辛いんですけど。


「ごほん。まぁ、そういう事ならシフトは二人で決めなさい。希望としては平日は毎日出てもらいたいのだが」
「はいはぁい!」

 二人で決める? 俺と最側で?

「と、その前に研修だったか。チッ」
 険しい顔から見た目に反する舌打ち。えっ、店長……それはよくないでしょう。

 しかし徐々に不気味な笑みを浮かべて、うんうんと納得する。優しい笑みまで溢れだした。
 なんと言うか、悪巧みをしてそうな笑みに見えるのは気のせいだろうか?

 どうか、気のせいであってくれ……。
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