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56話
しおりを挟む履歴書作成完了、常識問題完了、制服サイズ測定完了。
よし! やっと帰れる!! かれこれ一時間は経っている。現在時刻は八時半。すっかり夜だ。
「お疲れ、いちごちゃん!」
「はい! 色々とありがとうございました」
「いいえー。あとはこちらで処理……あー、履歴書の写真を忘れていたな」
店長は「待っててね」と言い、隅にあるロッカーをガサガサし出した。この位置からだとロッカーの中が丸見えなのですが。ここに居るの、俺で良かったてすね!!
パワフルなパワハラでアレがアレな感じかと思ったけど、普通に良い人だった。第一印象じゃ人はわからない!
ボーッとロッカーを眺めていると、振り向きざまに目が合った。
何も言わず、目も背けず。10秒ほどそのまま時間が流れた。……嫌な予感しかしない。
「なんだ君は。わたしには興味ない癖に、乙女のロッカーには興味があるのか?」
冗談など微塵も感じさせない、真顔のどっ直球でその言葉は放たれた。
「意味わからないですって!」
「こっちに来なさい」
手招きしている。行くわけないでしょ!
あっ、近付いてくる。これ絶対やばいやつだ。
「いいから来るんだ」
華奢な体で俺を強引に引っ張ってくる。振り払う事は容易だが、何故かそれが出来ない。
俺はあっという間に店長のロッカーの前に立たされてしまった。背中に圧力を感じる……。
「さぁ、入るんだ。興味があるんだろ?」
背中をぎゅっぎゅっと押してくる。
「物理的に無理ですよ。入れません」
「体を縮こませれば入れるだろう?」
「色々と踏んじゃいますから。無理ですって」
「遠慮はいらん!」
店長の甘い香りが、これがいわゆる乙女のロッカーってやつなのだろうか。まったくもって興味はないが、性癖を誤解されているようで小っ恥ずかしい気持ちになる。
暫しの戦闘を経て、店長さんはようやく諦めてくれた。
「ふーん。いちごちゃんはこういう事は恥ずかしがっちゃうんだぁ。へ~」
ニヤニヤ、ふむふむと不気味な笑みを浮かべている。
しかし、徐々にゆっくりと次第に……あっ、完全に真顔になった。
──なにごと?!
「いちごちゃん。君は、変わってるね」
おーーい! 店長、おまえが言うなーー!!
「年頃の男子高校生だ。致し方ないとは思うが、今後は控えるようにな。立場上、見過ごす事は出来ないんだ」
こ、この野郎……。
「うちは女性クルーが多いから。どうしても開けたくなったらわたしの所に来なさい。立会いの下だが、このロッカーなら好きにして良い」
肩をぽんぽんと二度叩き、首を横に二度振り、最後に大きく頷いた。──なぁに大丈夫。二人だけの秘密さ。こんな意図が読み取れる。
おい! ふざけんな!! どうして俺が他人のロッカーを開ける前提なんだよ!!
──前言撤回。この人はやっぱりパワハラだ。
そしてもう1つ。見てはイケナイモノを見てしまったんだ。妖精さんがロッカーの中でお菓子を食べている姿を。
もぐもぐもぐもぐもぐ。みなかった事にしよう。
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