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45話

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 俺はいま、ちほのスマホをポケットの中で握りしめている。

 もちろん取り出す為にだ。しかし、直前で躊躇ためらってしまった。本当にいいのか? プライバシーは……。自尊心が唸りをあげて襲ってくる。

 手汗が、やばい。……これ以上は危険だ。

 授業中。一限目が始まり10分と経っていない。それでこのざまだ。このままでは汗で水没してしまう……。

 かと言って離す事もできない。本音は……言わずもがな。


 〝ブブーッ〟

 俺の手を伝いスマホが震える。うぉぉぉ! サイレントじゃないんかぁぁい!!

 ドクンドクンドクンドクン。もはや、スマホのバイブより俺の心臓のほうが震えているのではないだろうか。

 このままでは、心臓がもたない……。死ぬ!!

 じゃあ、見る? 見ちゃう?
 指紋認証は登録済みだよ? 


 だ、だめだ……。

 僅かに残るちっぽけな自尊心との戦い。


 ──どうして、こんな事になっちゃったんだろう……。


 答えは至って簡単。シンプル。
 毎週水曜日はスマホ交換dayと定められているからだ。俺とちほの〝恋愛七ヶ条〟に。


 カップルならみんなやってるよぉ。と、ちほは言った。ふむふむ。なるほど。

 ……本当に? 嘘か本当かなど、この際問題ではない。問題があるとすれば、ちほがスマホを交換したいと思い立った事だ。

 ──そして今日が初めての水曜日。


 葛藤していると、俺の席から二時の方角に三列挟んだ席に座る杉山が視界に入る。

 俺を見ながら笑っている。何事?

 おまえってやつわぁ!! そんな様子だ。
 授業中って事もあり隠しているせいか、この位置からではよく見えない。が、スマホを弄っている?!

 …………。ハッ! まさか?!


 ちほが俺のスマホで何かを送ったに違いない。ちっぽけな自尊心とはここで別れを告げる。


 シャキーン! 自分に色んな言い訳をしてスマホを取り出した。

 画面にまず映ったのは、自分からのお知らせだった。

 ──りっくん♡からメッセージ

 当然、差出人はちほ。
 当たり前のようにロックは解除されてしまう。親指を触れるだけ。あら簡単。まぁ不思議‼︎

 ドクンドクンドクンドクン。心臓がオーバーヒートを起こしてしまいそうだ。


 《りっくぅぅぅん♡》

 自分のスマホから自分の名前を呼ばれる違和感。半端ないなこれ。非日常だ……。


《わぁ!! 既読がついたぁぁぁ♡ りっくんがわたしのスマホを触ってる!!!! やったぁ♡》

 ぐぬぬ。自尊心の大波が押し寄せる。
 そう、ちほのスマホを触っているのだ、まさに今。
 
 プライバシーが詰まりに詰まったスマートフォンを……。

 あ、手が震えてきた。。

 ど、ど、ど、ど、どうしよう……。
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