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43話

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「……くん。リクくん?」
「すみません」
「答えたくない事は無理して答えなくてもいい。でもね、あんな事があった手前、親としては心配になってしまうんだよ」

 あんな事。椅子や机が無くなったって言うあれかな。

『後で教えてやる。今は知らない方がええ』
『妖精さん。俺、もう色々とキツイよ……』

 妖精さんは俺の肩に座った。そして真っ直ぐお父さんを見つめた。
 大丈夫、一緒だぞ! と言っているようだった。──いつもありがとう。


 

「……やはり、あの事を知らないのだな。だからこそ、君だったのだろうか」


 だからこそ……。とは? その言葉の意味を聞こうとした時、

「すまん。今のは忘れてくれ」

 チャンスを逃してしまった……。

「ははは。悪いね」

 お父さんは笑いながらも新しいタバコを取り出し、またしてもチェーンスモーク。
 この場所に来るまで一本たりとも吸っていない。にも関わらず立て続けに吸う三本のタバコ。


 ──無言のまま時が流れる。

 チェーンスモークは五本目に突入していた。



『こごまでじゃな。戻るぞリク!』

 戻ってどうなる。遅かれ早かれお父さんと話すは日は訪れる。

『いいよ。このままで』
『あほ。嘘をつく事しか出来ないんじゃぞ? 苦しいだけじゃ』

 でも、いずれはつかなければならない。

『早いか遅いかだけの差だ。それなら今がいい』
『収穫はあった。もう十分。あとは、終わりの日まで避ければいいだけじゃ』

 妖精さんは指パッチンのポーズに入る。

『待ってくれ。何か……違う気がする』
『リク、自分を追い詰めるな。逃げてもいいんだ。それが嫌なら他の方法を探してやる。いや、一緒に探そう』

 妖精さんは拳を突き出した。〝空手ポーズ〟だ。


 ──キツイなぁ。秋月さんの十八番じゃないか。

 きっと、これは意思表示。俺を試しているのだろう。

 わかってるよ。大丈夫。
 俺は笑顔で拳を突き出した。妖精さんも笑顔だ。


 目の前のお父さんがキョトンとしているのは言うまでもないだろう。

「リクくん。何をしてるんだ? 舐めとるのか?」


『ほーら! いくぞリクーー!! パッパがキレる前にーー!!』

 〝パチンッ〟


 俺たちは過去に戻った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 二見家、玄関前。


「ちずるもいくーー! あー‼︎ カラオケいこーー!」
 お父さんは手を引っ張られ、おろおろしている。


 なるほど、ここからスタートするのか。

『暗いんじゃよ~、リクは! 元気ハツラツからのスタートで調子を取り戻せ!』

 今日、何度目かわからない。俺は妖精さんにありがとうをした。「カカカ」と笑って返され、もう一度ありがとうと言いたくなったが、グッと堪えた。



「ねぇ、りっくん! 大変な事に気付いちゃった!!」

 あぁ。可愛いなぁ。このシーンは何度目かわからない。けど、癒される。

「大変なの!! もう今日はバイバイなんだよ⁈ どうしよう……」
 シュンと切なげに、俺の袖を引っ張る。

 愛おしい。ただただ、愛おしい。
 俺は、気付いたらちほを抱きしめていた。



 ──自分から抱きしめるのは、これが初めてだった。
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