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39話
しおりを挟むガールズトークの渦中に取り残された俺。さすがは親子。息も呼吸もぴったり。加えてLJCとSJK。俺のライフはあっとういう間にゼロに……。
ガチャン
あ、お父さんが戻って来た!! あれ?
「あー‼︎ どうして着替えちゃったの?!」
すぐにちほが駆け寄り、お父さんはドアの向こうに押し出されてしまった。
ガチャン
「あらやだ。八ノ瀬くん、今のは見なかった事にしてね。根は優しい人だから」
ママさんはウィンクをしてきた。お美しい。何処と無くちほに似てるからか、優しく声を掛けられる度に見惚れてしまう。
に、しても……アウトロー。
俺はクマのTシャツに騙されていたんだ。隠しきれてはなかったけど、笑顔のクマさんが常にこちらを見つめているもんだから、見誤っていたんだ。
クマとアウトローが絶妙なセッションを奏でていた。俺はその事に、今更ながらに気付いた。そのおかげで多少なりとも打ち解ける事ができたんだ。
──ありがとうクマさん。あぁ、最高の感謝をクマさんに……!!
ドアの向こうから声が響く。
「早く着替えて来て」
「ちほちゃん……そんな事言わないでくれよ~」
「ダメ。絶対ダメ。二度と口聞かないよ?」
「汗掻いちゃったから、もう着たく無いんだよぉ」
「それならパンダがあるじゃん」
「そ、それだけは勘弁してくれ」
「ダメ。パンダに着替えないなら、二度と口聞かない」
パンダとはいったい。パンダって言ったよな。何が始まるんだ……。
唖然と立ち尽くす俺に気付いてか、ちずるちゃんが呆れ口調ながらも、諭してきた。
「パパはあれで喜んでるから、気にしなくていいよ~」
「喜んでるようには見えないけど……」
「お兄ちゃんはまだわからないかぁー!」
喜ぶって、嘘だろうが! 俺はママさんのほうを見た。そうよっという意味を込めてかニコッと笑ってきた。
まじかよ。奥が深過ぎるだろ!!
『リクも父親になればわかるぞ』
『聞いてたのかよ妖精さん!』
『食ったら眠くなってきたのう。もう食えん』
いつの間に食ってたんだ……油断も隙もない。
なるほど。満場一致で確定だな。そうか、これこそが父と娘のコミュニケーション。
可愛いキャラTを着させる。嫌がって見せはするが、大好きな娘に洋服をコーディネートされてるわけだもんな。
つまりはクマのTシャツを脱いで着替えて来たのもわざと。パンダにジョブチェンジする為の演出。
うん。深いなぁ。
父と娘のコミュニケーションについて考えていると、
ガチャン。ジョブチェンジしたお父さんが戻って来た。
…………。俺は言葉を失った。
どう見てもサイズの合ってないTシャツ。ぱっつんぱっつんのぴちぴちだ。
加えて、パンダが前のめりにダブルピースをしているもんだから、今にも飛び出して来そうなのだ。
これがコミュニケーションか? ちほ。やり過ぎではなかろうか……。
「もう! なに恥ずかしがってるの!!」
ちははドアの入り口で立ち止まっているお父さんの手を引いた。
もうやめてあげて。見てられないよ……。
「ちほちゃん。これは流石にねぇ……。」
「そんな事ないよ!! パンダさん可愛い!!」
ちほはパンダさんに顔をぎゅーっとする。つまりはお父さんの胸板。ーーその姿を見て俺はなんとも言えない気持ちになる。たぶん、嫉妬……。
ちずるちゃんも駆け寄る。
「まぁ、ありかなしかって言うとこれはありだよね! クマよりこっちの方がちずるは好き!」
もしかしたら、女性目線だとありなのか? ちょいかわアウトロー的な? いやいや、でも、ちほもちずるちゃんも嘘をついているようには見えない。
お父さんはまんざらでもない感じだ。いや、むしろ幸せそうな顔をしている。
俺はまた一つ、お父さんを理解出来た気がした。
──そしてもう1つ。
お父さんに抱きつくちほを見て〝嫉妬心〟を抱いた事。きっと、お父さんも同じ気持ちだったのだろう。
悪い事をしてしまったなと後悔をした。
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