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38話

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 泣き止んでからもちほは〝トントン〟としてくれた。

 涙の理由を聞かれる事も無く、温かい食卓を囲んだ。



「もう、こんな時間か。リクくん、家まで送るよ」

 気付いたら21時をまわっていた。

「すみません。ありがとうございます」

 遠慮はいらんよとお父さんは立ち上がる。俺も立ち上がろうとしたのだが……

「ねぇ泊まらないの?」
 隣に座って居たちほにぎゅうっと腕を掴まれ、立ち上がれなくなってしまった。

「そーだよ! お兄ちゃん泊まってっちゃえ!」
「あら、パジャマ用意しないとね」
 ちずるちゃんからの援護射撃は想定内だが、ママさん?!

「…………。」

 お父さんから無言の圧力が。目が全てを物語っている。泊まったら命はない。確実に、死ぬ!!

「今日は帰ります。またの機会にお願いします」
 ママさんに対して丁重にお断りをし、ちほにはまた今度なと、ちずるちゃんには頭を下げた。

 よし、これでオッケーだろう。

「…………今度だと?」

 ひぃ……。失敗した失敗した失敗した……。

「お父さん、これは、その……言葉のあやと言いますか……」
「ガハハハ! 冗談だよ。君は少し私を誤解しているようだな!」

 えーー?!

「ねぇねぇりっくん。じゃあお風呂一緒に入ろっ? 今日のところはそれで我慢するから……」

 何言い出しちゃってるの、この子!

「まぁ、落とし所としては申し分ないね!」
「あら、じゃあお風呂沸かさないとね!」
 ちずるちゃんはわかる。わかるよ。でもママさん?!

「…………。」
 お父さんから禍々しいオーラが感じ取れる。さっきの言葉はなんだったのか。拳まで握っているじゃないか。
 これ死んじゃうやつだ。死んじゃうよ……。

 …………。

 俺は言葉を失い沈黙してしまった。

「がっはっはっはっは!! 冗談に決まってるだろ! リクくん!! 俺をなんだと思っているのかね!」
 突然高らかに笑い出すお父さん。良かった。からかわれていただけか。


「あら、お父さんから許しが出たわね」
「やるじゃんパパ!」
 ん? お母さん、ちずるちゃん?!

 ていうか、あれ? そういう事になるの? これからちほと……お風呂に入るのか?!


「いや、今のはそういう意味では無いのだが……。ちほちゃんも冗談で言ってるんだよな?」
 お父さんは少々慌て気味だ。俺も同じ気持ちです。


「ねぇ、りっくん。わたしは本気だよ? 一緒にお風呂……入りたい」


 「「えっ?」」
 俺とお父さんは声が合う。……そして目も合う。

 お父さんは二度うなずき、ギロっと睨み付けてきた。
 俺はわかっていますとうなずいた。

「ちほ、お風呂はまた今度な」
「えー、りっくんのけちー」
 渋々だが、納得してくれたようだ。

「お兄ちゃんって意外とチキンなの?」
 ちずるちゃん。もうやめようね。これ以上はやめようね。
 そんな意味合いを込め、目で訴えかけたら、舌を斜め上に出して笑顔が返ってきた。……さすがはちほの妹。


「リクくん。気持ちはわかる。とりあえず〝今度〟と言っているのだろう?」
「はい。そうです!」
「ならいいんだ」

 お父さんは疲れてしまったのか、5分だけ休むと言い居なくなってしまった。

 お父さんの苦労が垣間見えた気がした。結局の所、俺とお父さんをからかっていたのだろう。

 

「あーあ、情けないなー。パパは過保護過ぎるんだよー」
「しょうがないわよ。父親ってそういうものよ」

 ママさん。わかっているのなら何故……。やはりちほの母親。原点はここだったか。


「八ノ瀬くん、あの人が出張で留守の時は泊まりに来ても良いのよ」
「そーだよお兄ちゃん! パパが居ない日は泊まりにおいで!!」
「りっくん。一緒にねんねしようね♡」



 ──あぁ、もうダメだ。俺も5分だけ休みたい……。

 お父さんとは色んな意味で仲良くなれそうだ……。
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