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37話

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 俺はちほの胸に顔を埋めるように抱かれ、泣いた。
 よしよしと頭を撫でられ、とても心地が良い。落ち着きを取り戻すのに時間は掛からなかった。

『なぁ、リク。告白する前の一昨日に戻らないか? もう無理じゃろ。このままじゃ身が持たんて』
『それはダメだ。頼むよ妖精さん……』
『はぁ。たった1日でこのザマじゃぞ? 明日はもっと好きになる。明後日はもっともっと好きになる。来週、来月もずっとじゃ。……その先になにがある?』
『お願いだよ……。妖精さん……』

 妖精さんからはドッと深い溜息が漏れる。

『……はぁ。こりゃもう手遅れじゃな』
『ごめん』

 …………。暫しの沈黙の後、

『ええよ。パイナップル&いちごバーガー3日分で手を打とう!』
『ははっ。なんだよそれ。そんなんでいいのかよ』
『ぐぬぬ。じゃあ1週間分!!』

 妖精さんにまた気を使わせてしまった。本当にバーガーを食べたいのかはわからない。けど、今は妖精さんの優しさに、気遣いに甘える。──ありがとう。


〝パチンッ〟

 俺たちは泣き出す直前に戻った。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「……っくん? りっくーーん?!」
「あ、ごめん」
 ちほが心配そうに俺の顔を覗き込む。よしよしされたままタイムリープしたからか、ボーッとしてしまった。

「あらやだ。お口に合わなかったかしら?」
「いえ! めちゃくちゃ美味しいです!!」

「ほら、リクくん! もっと食べなさい!」
「お兄ちゃん、あーん! ほら!」
「ちずるダメ! それはわたしがするの! ほらりっくん!!」

 笑顔が溢れる。2回目だけど、幸せな時間が流れる。


 
 …………。あれ、まただ。また涙が……。


  『笑えぇぇぇーリク!!』

 妖精さんの叫び声……。そうだ。とりあえず笑おう。笑うんだ。とにかく笑うんだ。

「え……、りっくんどうしたの?」
 ちほは心配そうな顔をして、涙を拭ってくれた。
「ごめん。めちゃくちゃ美味しくて」
 俺は笑顔で、満面の笑みで涙を流しながら答えた。

 ちほは異変を悟ってか、それ以上は何も言わず
 俺の太ももに手を置き、トントンとしてくれた。


「泣く奴があるか!! ほらもっと食べなさい! おかわり自由だぞ!」
「……ぷぷっ、お兄ちゃんうけるー!」
 鍋奉行のお父さん。何かに勘付いてそうなちずるちゃん。ママさんは優しい笑顔で俺を見ていてくれた。

 今日会ったばかりなのにみんな優しい。優しいからこそ、切なくなる。


 次第に落ち着きを取り戻し、涙は止まっていた。


 ──俺が泣き止んだのを確認してか、妖精さんが口を開く。

『どうする? もう一回戻るか?』
『大丈夫。どうせまた次も泣いちゃうと思うから』

 妖精さんは深く深く溜息をつく。

『リク、無意識に流れてしまう涙は最もタチが悪い。とりあえず笑っておけ。いいな』
『わかった。ありがとう妖精さん』

 妖精さんには助けられてばかりだ。この場に妖精さんが居なかったらどうなっていたんだろう。本当にありがとう妖精さん。


 ──俺が感謝の念に浸っていると、

『まぁ、甘えん坊の泣き虫坊やだからのう。二見ちゃんの胸に埋まってぐすぐすと!』
『……う、うるさい!!』
『カカカ! その調子じゃ!』

 嫌味たっぷりの顔つきだが、励ましてくれてるのがわかる。でも……〝甘えん坊の泣き虫坊や〟と暫くネタにされそうで、少し不安になった。
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