35 / 106
35話
しおりを挟むとりあえず服を着ないと。
あ……れ? 無い?!
「やったね! りっくん! パパ公認だよ!」
そう言うとちほは待ってましたと言わんばかりに抱き付いて来た。
「ちょっ、ちほ! 服着てないから今はやめろ」
「だめ! すぅぅぅぅぅ。りっくんの匂いだぁ♡」
「あー! お姉ちゃんだけずるーーい!」
またしても姉妹に抱きつかれてしまった。左にちほ、右にちずるちゃん。ソファーに座る俺は身動きが取れなくなってしまった。
と言うか、上半身裸なのですが……。俺の服はどこ?
…………。
はい。当然です。お父さんから殺意に満ちた視線を感じます。
「八ノ瀬くん。認めるとは言ったけどね、君は慎む事を知らんのかね」
「すみません……」
「それになんだね? 露出狂か? 何故脱いでいる?」
お父さんは怒りながらも手で頭を抑えている。まるで変態でも見るかのような目だ。
待ってくれ。脱がしたのはお父さん。あんただ!!
ワイシャツのボタンを外しただろう……忘れちまったのかよ?! などと言える訳も無く、俺は再度謝った。
「いいから早く服を着なさい」
「見当たらないんです……」
「はぁ?」
お父さん。俺も同じ気持ちです。〝はぁ?〟です。どこに行ったの俺の服……。
「ちほ、俺の服知らない?」
「…………。知らない」
あっ、目を逸らした!! しかも謎の間。確定した。犯人はちほだ! でも何故?
「ちほ?」
俺は少し強めに名前を呼んだ。わかってるぞと言う意味を込めて。
「はぁ。お兄ちゃん馬鹿ぁ? お姉ちゃんの気持ち察してあげなよ」
少々呆れ口調のちずるちゃん。まったくもって意味がわかりません。
ちほの気持ちを察する? …………。はい?
俺は考えた。とにかく考えた。しかし、何も思い浮かばない。
『妖精さん! 教えてくれ!』
『なんじゃ? 本当にわからないのか?』
寝っ転がりながらTVを観ていた妖精さんは顔だけこちらに向き、呆れ口調で答えた。
『わからないんだ』
『はぁ。そんなの決まっておるじゃろ。〝裸のりっくんに抱きつきたぁぁい!〟じゃろ? ええかげん学べ』
俺はポカーンとしてしまった。そんな馬鹿な話があるか! ……しかし、あながち当たっているかもしれない。いや、当たりだ。
しかしどうする? 今度好きなだけ脱いでやるから服を返してくれとでも言うのか? お父さんの目の前で?
そんな事言ったら確実に死ぬぞ!
……いや、あるじゃないか。良い方法が!
〝耳つぶ〟
「2人きりの時ならいつでも脱ぐから。今はごめんな」
俺はちほに小さな声で耳打ちした。不意打ちだったからか、ビクッと体を震わせ俺の目を見てきた。
あまっあまのトロトロとした目付きで。
ドクンッドクンッ。鼓動が脈打つ。
これは反則だ。理性が一瞬飛びそうになった。
「ごめんね。りっくんの体温を感じたかったから……。やくそくだよ?」
「あ、あぁ、約束だ」
ソファーの裏をゴソゴソすると服が出てきた。油断も隙もない。俺は急いで服を着た。
「やれば出来るじゃん!!」
何故かちずるちゃんに褒められる。きっと最適解だったのだろう。一安心。
お父さんは怒るのかと思っていたが何やら呆れた様子が見受けられる。
「八ノ瀬くん。君はもう少し男としての威厳をだね」
そう言うと何故か俺の肩をぽんぽんと二回叩いて来た。まるで諭すかのように。哀れみさえ感じ取れる。
そうか。お父さんもやられっぱなしだ。クマのTシャツを着させられ、娘たちには逆らえない。
俺は服を隠された。──同族。形は違えど立場は同じ。ひょっとしてこれは、お父さんとの距離がグッと近づいたのでは無いだろうか。
「はいはい。出来ましたよ~」
ママさんが鍋を持って来た。
──忘れていた。俺は夕食をご馳走になりに来たんだ。バーガーLサイズを食ってしまった事を果てしなく後悔した。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説


なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる
季邑 えり
恋愛
サザン帝国の魔術師、アユフィーラは、ある日とんでもない命令をされた。
「隣国に行って、優秀な魔術師と結婚して連れて来い」
常に人手不足の帝国は、ヘッドハンティングの一つとして、アユフィーラに命じた。それは、彼女の学園時代のかつての恋人が、今や隣国での優秀な魔術師として、有名になっているからだった。
シキズキ・ドース。学園では、アユフィーラに一方的に愛を囁いた彼だったが、4年前に彼女を捨てたのも、彼だった。アユフィーラは、かつての恋人に仕返しすることを思い、隣国に行くことを決めた。
だが、シキズキも秘密の命令を受けていた。お互いを想い合う二人の、絡んでほどけなくなったお話。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる