優しさだけでは付き合う事が叶わなかったので、別の方法で口説く事にしました♪

おひるね

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35話

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 とりあえず服を着ないと。
 あ……れ? 無い?!

「やったね! りっくん! パパ公認だよ!」
 そう言うとちほは待ってましたと言わんばかりに抱き付いて来た。

「ちょっ、ちほ! 服着てないから今はやめろ」
「だめ! すぅぅぅぅぅ。りっくんの匂いだぁ♡」
「あー! お姉ちゃんだけずるーーい!」
 またしても姉妹に抱きつかれてしまった。左にちほ、右にちずるちゃん。ソファーに座る俺は身動きが取れなくなってしまった。
 と言うか、上半身裸なのですが……。俺の服はどこ?

 …………。

 はい。当然です。お父さんから殺意に満ちた視線を感じます。

「八ノ瀬くん。認めるとは言ったけどね、君はつつしむ事を知らんのかね」
「すみません……」
「それになんだね? 露出狂か? 何故脱いでいる?」
 お父さんは怒りながらも手で頭を抑えている。まるで変態でも見るかのような目だ。

 待ってくれ。脱がしたのはお父さん。あんただ!!
 ワイシャツのボタンを外しただろう……忘れちまったのかよ?! などと言える訳も無く、俺は再度謝った。

「いいから早く服を着なさい」
「見当たらないんです……」
「はぁ?」
 お父さん。俺も同じ気持ちです。〝はぁ?〟です。どこに行ったの俺の服……。

「ちほ、俺の服知らない?」
「…………。知らない」
 あっ、目を逸らした!! しかも謎の間。確定した。犯人はちほだ! でも何故?

「ちほ?」
 俺は少し強めに名前を呼んだ。わかってるぞと言う意味を込めて。

「はぁ。お兄ちゃん馬鹿ぁ? お姉ちゃんの気持ち察してあげなよ」
 少々呆れ口調のちずるちゃん。まったくもって意味がわかりません。

 ちほの気持ちを察する? …………。はい?


 俺は考えた。とにかく考えた。しかし、何も思い浮かばない。

『妖精さん! 教えてくれ!』
『なんじゃ? 本当にわからないのか?』
 寝っ転がりながらTVを観ていた妖精さんは顔だけこちらに向き、呆れ口調で答えた。

『わからないんだ』
『はぁ。そんなの決まっておるじゃろ。〝裸のりっくんに抱きつきたぁぁい!〟じゃろ? ええかげん学べ』

 俺はポカーンとしてしまった。そんな馬鹿な話があるか! ……しかし、あながち当たっているかもしれない。いや、当たりだ。

 しかしどうする? 今度好きなだけ脱いでやるから服を返してくれとでも言うのか? お父さんの目の前で?
 そんな事言ったら確実に死ぬぞ!

 ……いや、あるじゃないか。良い方法が!

 〝耳つぶ〟

「2人きりの時ならいつでも脱ぐから。今はごめんな」
 俺はちほに小さな声で耳打ちした。不意打ちだったからか、ビクッと体を震わせ俺の目を見てきた。
 あまっあまのトロトロとした目付きで。

 ドクンッドクンッ。鼓動が脈打つ。
 これは反則だ。理性が一瞬飛びそうになった。


「ごめんね。りっくんの体温を感じたかったから……。やくそくだよ?」
「あ、あぁ、約束だ」
 ソファーの裏をゴソゴソすると服が出てきた。油断も隙もない。俺は急いで服を着た。


「やれば出来るじゃん!!」
 何故かちずるちゃんに褒められる。きっと最適解だったのだろう。一安心。


 お父さんは怒るのかと思っていたが何やら呆れた様子が見受けられる。

「八ノ瀬くん。君はもう少し男としての威厳をだね」
 そう言うと何故か俺の肩をぽんぽんと二回叩いて来た。まるで諭すかのように。哀れみさえ感じ取れる。

 そうか。お父さんもやられっぱなしだ。クマのTシャツを着させられ、娘たちには逆らえない。
 俺は服を隠された。──同族。形は違えど立場は同じ。ひょっとしてこれは、お父さんとの距離がグッと近づいたのでは無いだろうか。
 
 

「はいはい。出来ましたよ~」
 ママさんが鍋を持って来た。


 ──忘れていた。俺は夕食をご馳走になりに来たんだ。バーガーLサイズを食ってしまった事を果てしなく後悔した。
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