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33話
しおりを挟む「箱根? 江ノ島? んー、りっくんとならどこでもいいやぁ♡」
頭の中は温泉旅行でいっぱいのようです。
──ピンポン。
エレベーターが到着した。
「ほら、早く乗りなさい」
「あっ、すみません」
お父さんが開くを押して待っててくれた。
あ……。拳を握ったまま押してる。いや、ほんとどうしろって言うんだ……。
「パパ。この手は何?」
「いや、これはその……」
また始まってしまった。
しかし仲が良いからこそだろう。ちほから本気で怒っている様子は感じ取れない。お父さんも、うん。まんざらでもない感じだ。
下手に割り込まないほうがいいな。
俺は空気に徹しよう。これが最適解だ。
押してあるボタンは42階。おいおい、本当に一般家庭かよ……。最上階ってなんだよ……。
──ピンポン。
「ほら、出なさい」
お父さんの手は拳を、うん。握っていない。一安心。
──そしてついに。二見家のドアの前まで来た。ここまで長かった。俺はドッと押し寄せる疲れを感じた。
しかし、ここからが本番。今までのは序章に過ぎない。
カチャカチャガチャン。
お父さんが鍵を開けた。
ほら、りっくん! と、ちほに手を引かれ、二見家の玄関に足を……踏み入れた!!
タタタタタタッ
長い廊下を走る足音が聞こえる。すごい速度だ! なんだ?!
「おっかえりぃー!!」
目の前に現れる小っちゃな女の子。誰?
「へー、これがお姉ちゃんの彼氏かぁ。うんうん」
突然、ことわりもなく俺の体を触ってきた。腕、太もも、ふくらはぎ。くすぐったいんだが。
お姉ちゃん……なるほど。妹ちゃんか。
「ちずる!!」
ちほが大きな声を出した。やめなさいと言っているようだ。
「うんうん。筋肉はあるね! うーん、顔も悪くない。お姉ちゃんやったじゃん!!」
「こら、ちずるちゃん!! 八ノ瀬くんに失礼だろ!!」
「ダサっ!! 何そのクマのTシャツ」
「こ、これはちほちゃんが……」
妹に認められたからか、少し照れくさそうにするちほ。
お父さんはグサりと心を抉られたような顔をしている……。天国と地獄を二人の表情が物語る。
「お兄ちゃんいこっ!!」
腕に抱きつかれそのまま強引に引っ張られた。お兄ちゃん……悪くない響きだな。しかしこの強引なところ、流石は姉妹。
「だめっ!!」
ちほがもう片方の腕に抱きついてくる。これはいったい……。
「えー、いいじゃん。こっちの腕は私、そっちの腕はお姉ちゃん」
「…………。しょうがないなぁ。今日だけだよ?」
どうやら俺の意思など関係ないらしい。姉妹で落とし所を見つけたようだ。いや、ほんとなに?
ちほとちずるちゃんに引っ張られ、リビングに入る。大きなTVにソファー、テーブル、椅子。一般的なリビングだが、その一つ一つが高価そうな雰囲気を漂わせている。お父さん、ご職業はなんですか? 俺は心底疑問に思った。
「まったくこの子達は。八ノ瀬くんいらっしゃい!」
綺麗な女性、この人はママさんだな。ちほも大人になったら……などと思っていると妖精さんが視界に入る。
蔑んだ目でママさんの後ろから俺を見ている。
『妖精さん? その白石みたいな目はなに?!』
『べっつにー。お兄ちゃんには関係ないでしょ!』
ちずるちゃんの真似をしているのだろうか……。とりあえず、馬鹿にされている事はわかる。馬鹿にしたい気持ちもわかる。俺だってこの状況、どうにかしたいよ……。
ママさんにゆっくり挨拶する間も無く、ソファーに連れてかれてしまった。
左にちほ、右にちずるちゃん。これなんて言うプレイ?
「ねぇ、無理な筋トレしてるでしょ? この上腕二頭筋。うーん」
そんな事までわかるのか。に、してもちずるちゃん。触り過ぎではないか……。ちほからの視線も怖いし。
「りっくん! こっち!!」
「ごめんごめん。小学生なのにすごい詳しいからさ!」
「ぷぷっ」
ちほが笑い出す。こんな風に笑うちほは初めてみる。でも、あれ、俺なんか不味い事言っちゃった?
「お兄ちゃんの馬鹿ぁぁぁ!!」
ちずるちゃんは激おこだ。あー、不味い事言っちゃったんだな。……戻りたい。
『妖精さん、ほんの少しだけ戻りたいんだけど?』
『えー、ダメだよぉ~お兄ちゃぁん!!』
クッ。妖精さんは変わらず妹風な喋り口調で小馬鹿にしてくる。
──この世界のコンセプトは休憩だからな。妖精さんが楽しくやってくれてるならそれでいい。いいんだ。……だが、ムカつくな!!
さてさて、踏んでしまった地雷。どうするか。きっと小学生では無かったのだろう。中学一年生とかそういう落ちだとは思うが。うーん……。
謝るしかないのか。いや、でもこれはお父さんに謝るのはとは訳が違う。
難易度高過ぎだろ……。最適解が思い浮かばない。
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