上 下
32 / 106

32話

しおりを挟む

「パパ~、この手は何?」
 お父さんに近付き、拳を握る手をぽんぽんと叩く。ムゥっと怒っている。

「ちほちゃん、これはね、筋トレだよ!」
「ふーん。じゃあ、娘の彼氏には──の続きは?」
「…………。もっと仲良くなりたいなぁと思って」
 拳を握る手は徐々に和らぎ、浮き出ていた血管は消え、普通に戻った。しかし、お父さんは少し後ずさっている。


 ──なんか嫌な空気だな。原因は俺だし……。

 …………。

 暫しの沈黙の後、圧力をかけるようにちほが口を開いた。
「あー、そうなんだ。信じるよ?」
「もちろんだよ! パパを信じなさい!」
「わかった。じゃあ指きり!!」
「え……」
「指きりしよ!!」
 ちほが指きりをしようと手を取るが、お父さんは何故か拒む。足を一歩、また一歩と後退させる。しかし、ちほは一歩、さらに一歩と前進する。

 これは何? 指きりって指きりげんまんだよな。それともあっちの指きりなのですか……。小指……?


『妖精さん、これは平気なの?』
『うーん。なんというけしからん体じゃ。このワンピースは反則じゃ!!』
 妖精さんは相変わらずちほの体をチェックしていた。もうダメだ。



 指きりを拒まられ、ちほは少し呆れ顔になっていた。

「はぁ。嘘つき。パパきらーい」
「あーー、ちほちゃん指きりしようね! ごめんね!」
 嫌いが効いたのか、お父さんの顔付きが変わる。覚悟が垣間見える。そして小指を突き出した。


「「指きりげーんまーん♪ 嘘吐いたぁーら」」

 なんだ。普通の指きりじゃないか!!

 「私とりっくんに温泉旅行をプレゼントするー♪」

「「指切った!」」
 笑顔のちほに反し苦渋の顔をするお父さん。

 
 この指きりは何かがおかしい。俺がそう思っているとちほが抱き付いてきた。

「やったね!! パパが温泉旅行プレゼントしてくれるって!!」
 いや、まだ嘘吐いてないでしょ。と、言うかこの指きりはなに! 二見家の指きりなのだろうか。

「お父さんはまだ約束破ってないだろ?」
「そうだね! りっくんと2人で旅行~楽しみぃ」
 あ、もう破るの前提なんだ。やはり、頭は切れる。ちほは馬鹿じゃない。頭の回転が速く出来る子なんだ。つまり、甘々でくっ付いてくるこれも演技なのか……?

「2人っきりで旅行だよぉ? えへへ~♡」
 あーもう! 可愛い!! なんだって良いじゃないか!!


「ほら、お母さんが待ってるから。行こうね」
 あからさまに元気を喪失しているお父さん。親と言うのは大変なんだな。と、思った。

 ◆

 当然のオートロック、幻想的なエントランス。
 そして42階建。一般家庭がこんな高級マンションに住めるのか。お父さんの仕事ってやっぱり……。
 色々と考えながらエレベーターを待っていると、ちほが耳打ちしてきた。

「りっくん、あれ見て」
 ちほが指差す方向をみる。それはお父さんの拳だった。少しづつ少しづつ、力が入っている……。

「温泉旅行♡ 何処にしよっか?」
 あまぁ~い声での耳打ち。理性が吹っ飛びそうになる。が、この拳はやばい。


 ──仲良し親子だということはわかった。だからこそ、俺が原因で亀裂が入る事は避けたい。

 さて、どうしようか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...