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31話
しおりを挟む『それにしても可愛い子じゃのう』
ひらひらと舞い、ちほを舐め回すようにみている。
『妖精さん、やめろよ!』
『制服も良いが、体のラインがくっきりのワンピースというのがまた……ふむふむ。シートベルト。……ぐぬぬ。この胸……けしからん!!』
『ちょっ、妖精さん』
『けしからーーん!! こんな可愛い子が何故リクみたいな凡人を…………わ、わからん……わからん』
これはまずいやつだ。今朝の事がフラッシュバックする。どうにかしないと。
『わからん……。何故じゃ……』
ほんとにやばいな。仕方ない。
『ほら、意外とさ、男を見る目と言うか趣味が悪いのかもしれないよ?』
あぁ、自分で言ってて悲しくなる。なにこの自虐……。
『なるほど!!』
頭の上から電球でも出てきそうなくらい、ピカんと納得の様子だ。
なんかムカつく。でも調子を取り戻してくれたんだ。良しとしよう。
◆
ピーピーピーピー。
バックで駐車。どうやら目的地に着いたようだ。
……マンションの駐車場かな? えっ?
『もう察しはついているじゃろ。さすがは二見ちゃん。予測不能は健在じゃ』
俺たちは予測不能に慣れつつある。でもなぁ……。
──はぁ。
家に行く事は断ったはずなのに。こんなやり方ってありかよ。なしだろ!
カチャン。しゅるるる。
ちほはシートベルトを勢いよく外し、俺のシートベルトも外してくれた。
「早くこうしたかったのぉー!」
勢いよく抱きつかれぎゅうっとされる。うん。ありだな! この可愛さの前では全てがどうでもいい!
ちほの温もりに浸っていると、すぐに、
ガチャン。
もたれ掛かっていたドアが開いた。危うく倒れ込んでしまうかとヒヤッとしたが、誰かが俺の背中を押さえてくれた。……あれ?
「ほら、ちほちゃん。着いたから行こうね」
魔王サタ……いや、お父さんだった。温もりに浸っている場合ではない。しかし……。
「待って。今はりっくんを感じていたいから」
あー、もう可愛いっ!! これは仕方ないよ!!
…………。
…………。
お父さんは無言でドアの前に立ち尽くす。無言の極致。……さすがにこれはやばい。
「ほら、ちほ行くぞ!」
俺は強引にちほを抱え車から出た。お姫様抱っこだ。
「わぁ! りっくんに抱っこされちゃったぁ♡」
足をバタバタさせ喜んでいる。よし、このまま行こう。
──このマンション、何階建てだ? 30? 40はありそうだな……。
警察官ってこんないい所に住めるのか?
上を見上げマンションに見惚れていると、お父さんが口を開く。
「八ノ瀬くん。さっきは悪かったね。今日は妻が張り切って料理を作ってるから。食べってってくれ」
とても優しい口調だ。
勝手にブチ切れているのかと思った自分が恥ずかしい。
俺は笑顔で返事をした。が、お父さんの拳は強く握られていて、プルプルと震えていた。
…………。キレてます。これはキレてます。
お父さんの拳はグーになっている。腕からは強く拳を握り過ぎているせいか、血管が浮き出ている。あっ殺される……。これ死んじゃうやつだ。
抱っこがマズかったのか? それとも俺の存在が……とりあえず急いでちほを下ろした。
「えー! もう終わり? ねぇ、もう一回! 抱っこしてぇ!」
俺は頭をぽんぽんとした。
「むぅ!!」
ご機嫌斜めだ。しかし今はちほの笑顔よりも優先する事がある。ちほにはずっと笑っていてほしい。だから俺は、こんな所では死ねない!!
『ビビり過ぎ! まじうける!』
『うるさい!』
『カカカ!』
妖精さんは呑気に俺をみて笑っている。まったくもう。
俺はお父さんの前に駆け寄った。
「本当に色々とすみません」
声を大にして全力で頭を下げた。もう謝るしかない。だってこのままじゃ、殺される!!
「あはははは! これは失敬。変な気まで使わせてしまって悪いね。八ノ瀬くんに対してはむしろ感謝しているよ。でもね、娘の彼氏に対しては……」
高らかに笑い穏やかな雰囲気すら感じ取れるが〝ムキッ〟さらに腕から血管が浮き出る。この腕が本音を語っているのは言うまでもない。
──そして、矛盾……。
お父さん。娘の彼氏って言うのが俺なんですけど……。
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