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25話

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『妖精さん。俺は二見ちほの事が好きだ』
 この気持ち、正直に言うしかない。下手な芝居は通用しない。何よりも失礼だ。ずっと一緒にタイムリープをしてきたんだ。一瞬でも隠そうとしてごめんな。

『な、なんじゃと?』
 妖精さんはポカーンとしてしまい、言葉の意味を理解出来ていない様子だ。

『ちほの事が好きなんだ。好きになっちゃったんだよ』
『秋月ちゃんは?!』
『好きだ』
『どっちが好きなんじゃ』
『…………。』
 どちらが好きとかわからないし、選べない。ただ、好きな気持ちは本当だ。でも、言葉にならない。なんて言えばいいんだよ。


『何があった? 全部話すのじゃ!!』
 妖精さんは驚いている。当然だ。今まで何十年と時を過ごして来たが、秋月さん以外の女子の事はモブだのミジンコと言ってきたのだから。俺自身、驚いている訳だし。


 俺は話した。とは言っても、キスした事やギュッギュッした事は照れくさくて言えなかった。


『なるほどな。だからタイムリープはしたくない。もう少しこの世界に居たい。とな』
『うん』
 怒ったり呆れたりするかと思ったが、妖精さんは至って普通の様子だ。

『ええよ。リクがそれを望むなら。じゃがな、二見ちゃんとの先に未来は無い。わかっておるな?』
『わかってる』
『ならええ。白石ちゃんの情報収集だけは忘れずにする事。それだけじゃ!』
 反対されるかと思った。けど、妖精さんは余裕。と言うかまるで何かを悟っているような口調だった。何故だろう。


 ──ピコン。ちぃちゃん♡からメッセージ。

《もうだめ。りっくんが足らないよぉ……ぎゅーーってしてちゅうしたぁぁい》
 ……クマが泣いてる。


『おっ! なんじゃ。どれどれ』
 スマホ画面を覗き込む。そして……

『ぐはっ!!!! な、な、なんじゃこりゃぁぁ?! お、おいリク?! まさか?!』
 今日一番の驚き来ました。未読スルーしてたはずなのに、またメッセージが来た事に俺も驚いてますけど。

『うん。これ日常』
『なんじゃと……。情けない!!! この阿呆が!!』
 急に切れ出す妖精さん。キスした事に驚いてるのかと思ったけど、何やら違う様子だ。

『行くぞ!! 舐められとる。うちのリクを舐めおって!!』
『行くって何処に? 急にどうしたんだよ』
『はぁ? ギュッてしてチュ。リクがするならええ。でも違うじゃろ!! いつから受け身になったんじゃ!! 阿呆が!! 行くぞ!!』
 あー、言いたい事はわかった。でもそんなに怒る事か。

 ーーピコン。ちぃちゃん♡からメッセージ。

《うー、既読つかなぁぁぁぁい。会いたい会いたい会いたーい。ぎゅーってしたぁぁぁい。》
 ……クマが泣いてる。

『ほれみろ! 〝されたい〟ではなく〝したい〟って言っておるぞ! こういうのはな、大きなしこりを残すんじゃ!!』
 いけしゃあしゃあと語る妖精さん。確かに受け身だった。でもそれはちほが強引なだけで、さして問題ないのでは。

 それよりも、既読を付ければ既読無視と。未読なら既読がつかないとメッセージが来る。俺はこっちのほうが問題だと思うのですが…………。


 ……でも何故? 俺はこんなにも好かれているんだ?

 した事と言えば壁ドンと耳つぶ。だけ。

 朝、妖精さんは頭を抱えて驚き、予想が外れた事に絶望していた。そうなんだよ。俺は壁ドンと耳つぶしかしていない。それ以外に接点も無ければ話した事もない……まさか、俺の壁ドンには不思議な力でも宿っているのか?!

 ──お、俺の壁ドンってもしかして?!
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