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22話
しおりを挟む廊下が騒がしい。この気配は……昼休みだな。
学校生活が長くなると、これくらいの事は容易にわかる。タイムリープの恩恵とも言うべきだろうか。
「う~ん。昼休みかなぁ?」
はい。誰でもわかる事でした。
「そうだな」
「じゃあご飯食べよー!! お弁当取って来る!!」
「あ、俺──」
タタタタタタッ!
「ちょッ!!」
カチャ。ガチャン。
早ッ! ちょっと早過ぎませんかね。呼び止める間も無かった。
俺、学食なんだけど。……とりあえず待つか。
…………。
ガチャン。カチャ。
「はぁはぁ。ただいまぁ!」
早ッ! 戻って来るのも早い。そんなに急いでどうした。もうね、一つ一つの行動がとても可愛くて、ホッコリするよ。
「ただぁーいま♡」
俺の横にくっつくように座った。しかし次第にむぅっとし出す。なにごと?
「ただいま!!」
に、2回目? いや3回目だ。……ただいまと言われたら……そうか! おかえりか!
「お、おかえり!!」
やべっ、噛んじまった。
「えへへ~ただいまぁ♡」
「おかえり」
「ただぁーいまぁ!!」
「おかえり」
いやいやいや、なんなのこれ。
……でも可愛い。ほんと、いちいち可愛いやつだな。
満足したのか、バッグをごそごそしだした。出て来たのは可愛いらしいお弁当箱が一つと可愛いらしい水筒。
俺はハッとする。やべっ学食!
「俺、ちょっと学食行って来るわ!」
「だめー! りっくんのお弁当はこれなの!!」
「えっ、俺の?」
「うんっ! 上手く出来てるかわからないけど……食べてくれる?」
恥ずかしそうに喋るちほをみて、照れくさい気持ちになる。俺は静かにうなずいた。
この様子は手作りって事だろう。昨日の今日だぞ。この準備の良さはなんだ?
可愛いらしいお弁当箱の蓋が開く。卵焼きにトマト、野菜が多めだ。
「明日からはちゃんと作って来るから、今日はこれで我慢してね!」
そう言うと卵焼きをお箸でつかみ俺の口に運ぶ。
〝明日からは〟えっ、毎日? と、思う俺をよそに卵焼きは俺の口元に到着した。
「はい、あーん♡」
これはいわゆる、〝あーん〟ってやつだ。……恥ずかしい。甘くも優しい笑みで真っ直ぐ見てくる彼女の瞳が恥ずかしさを際立てる。
「あーん!!」
早く口を開けろと追撃をされてしまった。はい。開きます。くぅ、恥ずかしい。
口の中に卵焼きが入って来る。不思議なくらい甘くてお砂糖たっぷりだった。まるで彼女が卵焼きになったのでは無いかと思うくらい甘甘のあまっあまだ。
……めっちゃ美味しい。本当にこれ卵焼きか?
「めっちゃ美味しい!!」
「あはっ! ほんとに? 嬉しいッ」
他の料理もどんどん口に運ばれて来る。恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだが、嬉しそうにする彼女を見ると、口の中と同じくらい心も満たされていくようだった。
〝あーん♡〟とするたび、嬉しそうにはしゃぐ彼女をみて俺はようやく気付く。
この子はこれがしたかったんだ! 一連の行動の答えを見つけた。
そして、もう一つ、重大な事に気付いた。
お弁当箱は一つしかない。あれ? ちほのお弁当は……?
恐らく聞いても知らんぷりをするだろう。学食に行くと言えばむぅっとするのも想像がつく。
恐らくこのまま俺が食べきって、何にも触れないのが彼女の望みだ。
でも、それではダメな事はわかる。じゃあ……?
最適解かどうかはわからない。なんせ俺だ。でも、これしか思い浮かばない。
……ボロ雑巾計画。付き合った先に未来は無いのだから〝矛盾〟はしている。けど、この子を大切にしたい。今の素直な気持ち。
よしっ! やるぞ!
「次はちほの番な!」
俺はちほからお箸を取り上げ、トマトを口に運んだ。
「えっ、あ……」
驚いた様子だが、次第に恥じらいながらも瞳を閉じて口を開いた。……ほんと、可愛いな。
「じゃあ、次はりっくんの番!」
「次はちほの番」
「次はりっくんの!」
…………………。いや、ほんと。何してるんですかね。恥ずかしい。
お箸越しのそれは〝ファースト間接キス〟に他ならない。
また一つ、初めてを失った。いや、卒業と言うのが正しいのだろうか。
──気付いたらお弁当箱は空になっていた。
お腹いっぱいかと言われれば答えには悩むが、心は満たされていた。
「半分こしちゃったねッ」
満面の笑みだ。お腹いっぱいになったかな? とも思うが、この笑顔を見ればひとまずは安心だろう。
──食べたら不思議と眠くなる。人間というのはわかりやすい。気付いたら俺は眠っていた。
授業をサボってお昼寝。たまにはいいよね。
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