優しさだけでは付き合う事が叶わなかったので、別の方法で口説く事にしました♪

おひるね

文字の大きさ
上 下
22 / 106

22話

しおりを挟む

 廊下が騒がしい。この気配は……昼休みだな。
 学校生活が長くなると、これくらいの事は容易にわかる。タイムリープの恩恵とも言うべきだろうか。

「う~ん。昼休みかなぁ?」
 はい。誰でもわかる事でした。

「そうだな」
「じゃあご飯食べよー!! お弁当取って来る!!」
「あ、俺──」

 タタタタタタッ! 

「ちょッ!!」

 カチャ。ガチャン。



 早ッ! ちょっと早過ぎませんかね。呼び止める間も無かった。

 俺、学食なんだけど。……とりあえず待つか。

 …………。


 ガチャン。カチャ。

「はぁはぁ。ただいまぁ!」
 早ッ! 戻って来るのも早い。そんなに急いでどうした。もうね、一つ一つの行動がとても可愛くて、ホッコリするよ。

「ただぁーいま♡」
 俺の横にくっつくように座った。しかし次第にむぅっとし出す。なにごと?

「ただいま!!」
 に、2回目? いや3回目だ。……ただいまと言われたら……そうか! おかえりか! 

「お、おかえり!!」
 やべっ、噛んじまった。

「えへへ~ただいまぁ♡」
「おかえり」
「ただぁーいまぁ!!」
「おかえり」
 いやいやいや、なんなのこれ。
 ……でも可愛い。ほんと、いちいち可愛いやつだな。

 満足したのか、バッグをごそごそしだした。出て来たのは可愛いらしいお弁当箱が一つと可愛いらしい水筒。

 俺はハッとする。やべっ学食!

「俺、ちょっと学食行って来るわ!」
「だめー! りっくんのお弁当はこれなの!!」
「えっ、俺の?」
「うんっ! 上手く出来てるかわからないけど……食べてくれる?」
 恥ずかしそうに喋るちほをみて、照れくさい気持ちになる。俺は静かにうなずいた。

 この様子は手作りって事だろう。昨日の今日だぞ。この準備の良さはなんだ?


 可愛いらしいお弁当箱の蓋が開く。卵焼きにトマト、野菜が多めだ。

「明日からはちゃんと作って来るから、今日はこれで我慢してね!」
 そう言うと卵焼きをお箸でつかみ俺の口に運ぶ。
 〝明日からは〟えっ、毎日? と、思う俺をよそに卵焼きは俺の口元に到着した。

「はい、あーん♡」
 これはいわゆる、〝あーん〟ってやつだ。……恥ずかしい。甘くも優しい笑みで真っ直ぐ見てくる彼女の瞳が恥ずかしさを際立てる。

「あーん!!」
 早く口を開けろと追撃をされてしまった。はい。開きます。くぅ、恥ずかしい。

 口の中に卵焼きが入って来る。不思議なくらい甘くてお砂糖たっぷりだった。まるで彼女が卵焼きになったのでは無いかと思うくらい甘甘のあまっあまだ。

 ……めっちゃ美味しい。本当にこれ卵焼きか?

「めっちゃ美味しい!!」
「あはっ! ほんとに? 嬉しいッ」

 他の料理もどんどん口に運ばれて来る。恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだが、嬉しそうにする彼女を見ると、口の中と同じくらい心も満たされていくようだった。


 〝あーん♡〟とするたび、嬉しそうにはしゃぐ彼女をみて俺はようやく気付く。

 この子はこれがしたかったんだ! 一連の行動の答えを見つけた。

 そして、もう一つ、重大な事に気付いた。
 お弁当箱は一つしかない。あれ? ちほのお弁当は……? 

 恐らく聞いても知らんぷりをするだろう。学食に行くと言えばむぅっとするのも想像がつく。

 恐らくこのまま俺が食べきって、何にも触れないのが彼女の望みだ。

 でも、それではダメな事はわかる。じゃあ……? 
 最適解かどうかはわからない。なんせ俺だ。でも、これしか思い浮かばない。

 ……ボロ雑巾計画。付き合った先に未来は無いのだから〝矛盾〟はしている。けど、この子を大切にしたい。今の素直な気持ち。


 よしっ! やるぞ!


「次はちほの番な!」
 俺はちほからお箸を取り上げ、トマトを口に運んだ。
「えっ、あ……」
 驚いた様子だが、次第に恥じらいながらも瞳を閉じて口を開いた。……ほんと、可愛いな。


「じゃあ、次はりっくんの番!」

「次はちほの番」
「次はりっくんの!」


 …………………。いや、ほんと。何してるんですかね。恥ずかしい。



 お箸越しのそれは〝ファースト間接キス〟に他ならない。
 また一つ、初めてを失った。いや、卒業と言うのが正しいのだろうか。


 ──気付いたらお弁当箱は空になっていた。
 お腹いっぱいかと言われれば答えには悩むが、心は満たされていた。


「半分こしちゃったねッ」
 満面の笑みだ。お腹いっぱいになったかな? とも思うが、この笑顔を見ればひとまずは安心だろう。




 ──食べたら不思議と眠くなる。人間というのはわかりやすい。気付いたら俺は眠っていた。

 授業をサボってお昼寝。たまにはいいよね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

季邑 えり
恋愛
 サザン帝国の魔術師、アユフィーラは、ある日とんでもない命令をされた。 「隣国に行って、優秀な魔術師と結婚して連れて来い」  常に人手不足の帝国は、ヘッドハンティングの一つとして、アユフィーラに命じた。それは、彼女の学園時代のかつての恋人が、今や隣国での優秀な魔術師として、有名になっているからだった。  シキズキ・ドース。学園では、アユフィーラに一方的に愛を囁いた彼だったが、4年前に彼女を捨てたのも、彼だった。アユフィーラは、かつての恋人に仕返しすることを思い、隣国に行くことを決めた。  だが、シキズキも秘密の命令を受けていた。お互いを想い合う二人の、絡んでほどけなくなったお話。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

処理中です...