21 / 106
21話
しおりを挟むちほは笑顔で俺を見上げてくる。目が合う。
これはなに? 少し切なげな顔……してたよね。俺はその顔の理由を聞きたい。さっきの言葉の意味も。
しかし……謎を残したまま二見ちほ、彼女は俺の心にどんどん入ってくる。
〝ギュッギュッ〟
はい? 何故かまた手をギュッと、さらにギュッとされた。
………………。なにこれ? 2ギュッ?
あれ、笑顔が次第に……切なげに、と思ったらプイッとした!
なにこれ? 怒っちゃった?
と、とりあえず2ギュッしとくか。
ギュッギュッ。
あ、めっちゃ笑顔になった。なんだよこれ。なんなのこれ?
ギュッギュッギュッ
はい。3ギュッ頂きましたッ! なるほどな。そういうことでしたか。
ギュッギュッギュッ
めっちゃ笑顔だぁ。体をバタバタさせて喜んでる。
ギュッギュッ
2ギュッに減った!! ここは2ギュッだ!! って、何やってんだ俺。あほかよ。
「えへへっ♡」
…………。
〝か、可愛い……‼︎〟
あー、ついに俺はハッキリと〝可愛い〟と思ってしまった。
心の中で張り巡らせていた糸が切れるのを感じた。朝から2時間と経っていないというのに。
──このあとも、謎のギュッギュッは暫く続いた。ギュッとする度に彼女は笑い、甘くも嬉しそうにはしゃぐ。不思議と俺も……。
彼女の笑顔を見ている内に〝好きになってね〟の言葉の意味を聞く事は諦めた。
知ったところで、どうすることも出来ないのだから。
結論はステイ。
何も聞けないし、踏み込む事も出来ない。
……もういっそ全てを話してしまうか?
何の為のタイムリープだ? 失敗したのならやり直せばいい。簡単な話。
できない。
彼女の悲しむ顔をみたくない。
今、幸せに流れる時間を壊したくない。
……もう、戻れない。
タイムリープを幾度となく繰り返し、幾万の世界を捨てて来たはずなのに。この関係を捨てたくない……。
目の前で笑う彼女を可愛いと、愛おしいと思う。けれども、秋月さんへの思いは変わらない。
──矛盾。
今はただ、……今を楽しもう。難しいことを考えると、ダメになってしまいそうだから。
◆◇◆
どれくらいの時間が経ったのだろうか。チャイムは何度鳴った? 予鈴は? ここから時計は見えない。そして、スマホは禁止。
くだらない話をたくさんした。意味など何も持たない、たわいもない話。少しづつ、確実に惹かれていった。
本当に聞きたい事は何一つ聞かず、確信には触れず。
それでも楽しくも幸せな時間が、当たり前のように流れる。
これが、彼女……なのだろうか?
繰り返し同じ時間を何度も何度もやり直した。もしかしたら還暦を迎えているのかもしれない。
俺は高校生であって高校生じゃない。
──初めて経験する〝彼女〟という存在。もしかしたら、遅過ぎたのかもしれない。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる
季邑 えり
恋愛
サザン帝国の魔術師、アユフィーラは、ある日とんでもない命令をされた。
「隣国に行って、優秀な魔術師と結婚して連れて来い」
常に人手不足の帝国は、ヘッドハンティングの一つとして、アユフィーラに命じた。それは、彼女の学園時代のかつての恋人が、今や隣国での優秀な魔術師として、有名になっているからだった。
シキズキ・ドース。学園では、アユフィーラに一方的に愛を囁いた彼だったが、4年前に彼女を捨てたのも、彼だった。アユフィーラは、かつての恋人に仕返しすることを思い、隣国に行くことを決めた。
だが、シキズキも秘密の命令を受けていた。お互いを想い合う二人の、絡んでほどけなくなったお話。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる