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20話
しおりを挟む「あ、ここだ!!」
カチャカチャカチャンッ。
「えへへ、開いちゃった!」
嬉しそうな顔するのはやめなさい。みんな授業中ですよ。
に、しても、この様子。準備室にこうやって来るのは初めてなのか? 強引に手を引くもんだから慣れてるのかと思ったが、違うのだろうか。
まさか俺が初めての彼氏でもあるまいし。
ドアを開き、ちほは当たり前のように中に入った。
俺は、この一歩に重さを感じた。入っていいのだろうか。入ってしまったら……。
「どしたの? えいっ!」
手を引かれ、一歩を……簡単に跨いでしまった。
必死に守って来た何かが……やめよう。抗うだけ無駄だ。
ドアを背に準備室を見渡す。物は多いが整理されている。少し薄暗いがカーテンから溢れる日差しが、普段使われて居ないであろう教室を漂わせる。
まぁ、電気は付けようか。えっと。俺はスイッチに手を掛けた。
「ダメッ!! つけなくいいのぉ!!」
むぅっとした表情で手を抑えられた。あの、何故でしょうか……。
「いや、暗いだろ」
「いいの! う~ん。あそこ!!」
どうやら好きな場所を見つけたようで、俺の手を引く。が、何やら思い立った様子で引き返す。
忙しい子だな……。
ガチャンッ
えっ?! ドアの鍵を閉めた。……いや、まぁ閉めるか。鍵ついてるんだし。うん。普通普通。……って、おい! 一体何が始まるって言うんだ!?
これって、つまりはあれだろ。あれ。
密室……。
そんな事を思う俺をよそに彼女はグイグイ手を引っ張る。
隅の日陰。ちほは壁に合わせるようにハンカチを敷き、ここに座れと言っているようだった。
「いや、汚れちゃうだろ?」
「いーの!! 早くッはーやーく!!」
いや、ほんと。何が始まるんですか。
ハンカチ……確か内ポケットに……良かったあった!!
まさかこんな使い方をするとはな。
なんだこれ! ダサッ! 爺さんが使ってそうなハンカチ……。でも、ハンカチに変わりはない。出した以上は……。
「俺の使えよ」
「だめーー! 汚れちゃうもん!!」
おいおい。自分のハンカチはOKで俺のはダメってか。
はぁ。妖精さん。いい加減にしてくれ。このままじゃ、俺……戻れなくなる。
「俺のハンカチを使えよ」
…………。
「それは本音なのぉ?」
「当たり前だろ」
ん、本音? なんだ。この違和感。
「わかった! じゃ、二つ敷くぅ!!」
俺のハンカチを床に敷き、満面の笑みで俺を見上げてくる。
強引に俺を座らせ、太ももを背に抱き抱えるような体制だ。彼女の小さい体はスッポリ収まってしまった。
「えへへ。幸せ~」
なんだよこれ。かわい……、いや。
こういう時はどうしたらいいのだろうか。
ダメだ。わからない。付き合った先の事は完全にノープラン。
おい、待て。やり直すんじゃなかったのか。元よりやり直せばその時間は〝無〟になる。今、この時間も。
この世界は捨てるつもりだったはずだ。
妖精さんが正気に戻り次第、戻る気でいたはずだ。いつからだ? いつから……。
まさか俺は……。
──色々と考えていると、ちほが口を開く。不意打ちだった。
「ゆっくりでいいからね。ゆっくりでいいから……あたしの事好きになってね」
少し切なげな声で言い、そっと俺の手を握りしめギュッとしてきた。
……なんだ、この違和感。
どうしてちほからそんな言葉が出る? 告白もしたし、好きとも言ったはずだ。
なんて答えたら良いんだよ……。わからない。
──俺はちほの手をギュッと握り返した。
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