19 / 106
19話
しおりを挟むブブー。杉山からメッセージか。
《もう授業始まってんぞ!!》
「むぅ! きんし!!」
突然ちほが怒りだした。ぷんぷくりんとしている。
「はぁ?」
「一緒に居る時はダメ!! スマホきんし!!」
今にも俺からスマホを取り上げようとする勢いだ。
おいおい、冗談だろ……。とりあえず杉山に返信するか。
《すまん。大丈夫だから、気にするな!》っと。
よし。送信っ──めっちゃ俺のスマホを覗き込んでる。いや、プライバシーとか無いんですかね。ほんと。
「次、スマホ出したら許さないからねッ!!」
お、おい待てよ。覗き込んで言う事はそれか?
杉山だぞ? ダメなのか。……圧倒的経験不足。いや、しかし。これが普通なのか? 彼女が居た時のない俺にはわからない……。
怒って居たかと思えばすぐにニッコリ。どこまでが本気なのか、計算なのか。
「早くいこッ!」
俺を何処かに連れて行こうとする。小さな見た目に反してとても強引な子だ。
「行くって何処にだよ」
「わかんない! けど落ち着くとこがいいなぁ」
──ここは静かな廊下。生徒達は皆、授業を受けている。足音すら響く、静かな静かな廊下。俺たちの声は響いていたのだろう。
授業中の先生が教室から出てきあ。どこか誇らしげな顔で、こちらに向かってくる。
「そういう事なら奥の準備室を使いなさい。今日のところは大目に見るから!」
事もあろうか、このおっさんはウィンクをして来た。 そして恐らくは準備室であろう鍵をちほに渡した。
「ありがとうございます」
ウィンクこそシカトしたが、ちほが先生と言葉を交わすところを初めてみた。相変わらず冷たい様子だが……。
お礼を言われ、一瞬、停止する先生。
「……!! 今日と言わず、明日も明後日もいいんだからな! あはは!」
なんか調子に乗り始めました。
……先生の言葉は色々と引っかかる。
考える俺に追い討ちをかけるかの如く、耳打ちをしてきた。
「八ノ瀬、頼んだぞ!」
俺の肩をポンっポンっと叩きニコッとする。
意味がわからない。頼むって何を。
しかし、こうも非日常を何度も突き付けられると不思議な事に驚きも薄れる。
きっと、これが〝日常〟なんだ。と、狂気じみた錯覚を受け入れる事でしか自分を保てなくなる。
俺だけ蚊帳の外に居るのは明白だ。当事者で一番近い場所に居るはずなのに。
これは罰だな。他人に興味を持たなかった事への罰。大して知りもしないのに二見ちほと付き合った。
白石攻略の〝糧〟程度にしか思っていなかったのだから仕方がない。
……やめよう。考えてしまうと泥沼に嵌りそうだ。
「じゃ、ごゆっくり!」
またもやこの言葉だ。そう言うと先生は教室に戻って行った。
「えへへ。ごゆっくりだって! いこいこー!」
……ごゆっくりと言われて嬉しそうにするのはやめなさい。しかし彼女の笑顔を見ると、落ち着いた気分になる。
──俺は小さな手に引かれ、準備室へ向かった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる