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17話

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「おいこら!! クソガキ!!」
 先輩はマウントを取りノリノリだ。


 危ない。行くな。俺は震えながらに思うも声は出ない。
 タイムリープのツケかな。都合が悪くなれば〝パチンッ〟〝パチンッ〟何度でもやり直してきたのだから。情けない。


  「やめてください」

 冷たい目でマウントを取る先輩に向かって言った。


「あぁ? なんだてめぇ? ──あ、二見ちゃん。いや、これは、その……」
 意気揚々だった先輩の手が止まった。

「〝彼氏〟が嫌がってるので、やめてください」
 あいも変わらずとても冷たい目をしている。先ほどまで〝だいしゅき〟などと言っていた面影はない。


 彼氏。そう思うと尚更情けなくなり、やりきれない思いが押し寄せてくる。彼氏になってまだ1時間程度、それでこのざまだ。
 この女の事は好きでもなんでもない。……はずなのに。

 ……俺が好きなのはただ1人。秋月さんだけだ。


「ご、ごめんね!! やめるやめる!! いやぁ、冗談だよな!!」
 マウントを取っていた先輩は立ち上がり龍王寺に手を差し出した。その手を取り立ち上がる。

 そして2人は肩を組み
「俺たち仲良しなんだよ!!」
 などと言い出した。なんだこの茶番。

「先輩! まじ、迫力ぱねぇーす!!」
「ははは! 悪かったな! えっと名前は」
「龍王寺っす!!」
「そーそー! 龍王寺くん!!」
 2人は握手を交わし、他の先輩達は廊下に倒れこんだせいで埃まみれになった龍王寺の服を払っていた。

「まじで悪かったな。二見ちゃんもああ言ってる事だし仲良くしような?」
「先輩。こちらこそっす」
 見繕う訳でもなく、本当に仲良くなっているようにみえる。


「じゃ、俺らは行くわ!! 二見ちゃんほんとごめんね!!」
 そういうと先輩達は去って行った。



「二見さん、ほんとごめん。騒がしくしちゃって」

「いえ、気を使っていただきありがとうございました」
 ちほは丁寧に頭を下げた。そこにはぎゅーだのちゅーだの言ってる彼女の姿はなく、とてもクールにみえた。

 龍王寺は足を一歩二歩と後ろへ下げ壁にぶつかってしまった。頬を少し赤くして。

「あ、いや、ほんと、ほんとごめんなさい!」
 龍王寺は走ってその場を去ってしまった。


 目の前で起こる光景を何1つ理解出来ないでいた。
 ちほの冷めた目、とても人を見るような目ではない。声のトーンも事務的だった。
 そして、喧嘩が一瞬にして止まった事。

 何故……?

 ポカーンとしていると、廊下で倒れる俺にちほが乗ってきた。
 小さな手で俺の頬を両手で触り、一言「バカ」と言い放った。切なげで不安そうな声で尚且つ、少し怒っているようにも感じ取れる。

 そのまま一直線に迷いなく、ちほの唇が……。

 ──俺はまた……キスをされた。
 

 さっきまで震えていたはずなのに、

 不思議と落ち着く。心地が良い…………。


 ドクン。「!?」

 ドクンドクンドクンドクンドクン。

 鼓動が早くなるのを感じる。

 両手で頬を触られたまま、今も尚、キスをされている。
 たったこれだけの事。なんて事ない。好きでもなんでもない女だ。

 なのになんだ。これはなんだ。〝わかってる。〟いや、わからない。わかりたくもない。知らない。知りたくもない。考えたくもない。やめろ、やめろ、やめろ。


 秋月さん……。妖精さん……。


 鼓動とは裏腹に不思議と満たされる。温かい。
 身体から力は抜け、受け入れる事しか出来ない。




 〝ダメだ!!いけない!!〟

 込み上げてくる感情を必死に打ち消す。
 嘘だ嘘だ嘘だ。違う違う違う。




 気付けば俺は……

 ──涙を流していた。
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