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9 少しだけでも、素直になれたのなら……①
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「……どこに居るのよ。レオンのバカ」
途方に暮れ、橋の上にひとり。川を眺めていた。
銀翼の皆に盛大に見送られたのはいったいなんだったのか。どうしょうもなく、ひとりよがりな現実を目の当たりにしていた。
陽は落ち、あたりはすっかり暗くなっている。
仕事なら帰ってきてもいい時間。それなのにアジトにも家にもいない。
レオンはお酒も飲まないし煙もやらない。……そういう男。
「なら……。夜だって言うのにどこほっつき歩いてるのよ‼︎」
……わかってる。
わたしにはこんなこと言う資格はない。
レオンにはレオンの人生がある。今後どうするのか、それはレオンが決めること。
あれから一ヶ月が経つんだ。
今後の身の振り方を決めるには十分過ぎる時間。
「嫌だよ……レオン。そんなのやだ……」
よくないことで頭の中がいっぱいになる。
レオンはひとりじゃ戦えない。
良き理解者のリリィちゃんもレイラさんも居ない。
〝じゃあ、レオンは今……どうしてるの?〟
考えると俯き加減になった。
橋の手すりに頬枝をつき、流れる川をただ眺める。
後悔しても、もう遅い。
レオンは新しい女・・・・とよろしくやってるんだ。
考えてみれば当たり前のことだった。
啖呵を切ってパーティーを脱退したのはわたしだ。
そのわたしがこうやってレオンに会いに来るなんて都合が良過ぎる。
あの日、わたしとレオンの関係は終わったんだ。
そのことに、今更ながら気付いた。
どうして、気付かなかったんだろう。
どうして、考えなかったんだろう。
「…………どうして」
本当にバカだ。わたしは。
手すりにもたれ掛かり、必死に涙を堪えていると、橋の下に人影が見えた。
ここからだと暗くてよく見えない。
けど、そのシルエットはとても懐かしくわたしの心を一瞬で温めるに足るものだった。
急いで橋の下へと駆け下りると、居た。……レオン見つけちゃった!
でもそれは、先ほどまで悩んでいたのはいったいなんだったのかと、拍子抜けするほどの再会だった。
ジョッキを大切そうに抱えて茂みの上で仰向けに寝ているんだ。
仕事帰りで疲れて眠っているのかと言われればそう見えなくもない、けど……これは違う。
レオンのことはずっとみてきたから、そういう雰囲気じゃないことくらいわかる。
少し痩せたかな……?
髪の毛もボサボサだし、服もしわくしゃ。おまけに髭も処理されてない。
ほのかに漂ったのはお日様の香りではなくお酒の匂い。
その姿はとても、だらしなかった。
まさかにも他の女とよろしくやってるようには見えない。
元々めんどくさがりなところはあったけど、そっか。こんなことになっちゃってたんだ。
レオンがどういう状況にあるのかを察するには十分だった。
「そうだよね。こうなるよね……」
こんなことならまだ、他の女とよろしくやっててくれてたほうが良かった。そっちのほうがレオンは幸せだもん。
それでも、他の女とよろしくやってなくて良かったと思う自分がいる。
結局わたしは、どこまでも自分勝手な人間だ──。
「ごめん。ごめんねレオン……」
「ふぁ~あ。むにゃむにゃ。酒くれぇ……。飲ませろぉ~。金なら、あるぞぉ」
「っっ?!」
び、びっくりした。ただの寝言ね。
うん。大丈夫。
レオンは魔術の適性ないから魔法干渉には疎い。
自分の首元に手をやる。
認識阻害の首飾り。
これがある限りは大丈夫。
街を歩いてみてわかったけど、風景の一部に溶け込んでしまうかのような強力な効果。
ウィングさんの言う通りわたしの光魔法とは相性がいい。
レオンのスキルとも相性いいかも。
もしわたしがレオンのことを認識できなくなったとしたら、スカートの中を見られても……。
って、そうじゃないよ。そういう問題じゃない! レオンのことを認識できなくなっちゃうなんて、絶対にいや。
って、そういう問題でもなーい!
あーもぉ。スカートの中は窮地の時だけ。
仕方のない時だけしか見せないんだから。
それに結局のところ、このアイテムは微量ながらに魔力を必要とする。だからレオンには使えない。
なにより!
下民出のわたしたちには過ぎた物。これはあとでウィングさんに返そう。必ず!
「う、うん。ってことで。いいよね」
何もいいことなんてないけど、もう……我慢できない。だって、久しぶりのレオンだもん。我慢なんてできないよ…………。
安眠魔法を掛けて膝枕。
聖女の加護を右手に宿して頭を撫でる。
起きてるときにやる勇気はないけど、レオンが疲れて寝てるときにはこうしてコッソリよくやってた。
「わたしはやっぱり、この場所が一番落ち着く。…………好き。大好きぃ」
過去にも何度こうして耳元で囁いたのかはわからない。安眠魔法を掛けている以上、レオンの耳に届くことは絶対にないから、こそ!
唯一、素直になれる時間。
「すきぃ。レオンのこと大好きぃ」
絶対に起きないことがわかってるから言えること。
「ねえレオン。気づいてよ……大好きだよ。返事してよ」
返事なんてあるわけない。
でも、こうしている時間が何よりも幸せだった。
「…………すきぃ」
◇ ◇
そんな幸せな時間は長くは続かない。
やがてレオンは起き上がると大急ぎで走りだした。
「はっ! エール飲まないと」って真に迫る表情をして──。
見失いそうになりながらも追いかけ辿りついた先は、酒場だった。
わかっていたんだ。
だらしない格好でジョッキを大切そうに抱えて眠っていたのだから。寝言で「酒くれえ」って言ってたもんね。
今のレオンはただの飲んだくれなんだ。
大好きな男のそんな姿をみて、心が揺らいだ。
途方に暮れ、橋の上にひとり。川を眺めていた。
銀翼の皆に盛大に見送られたのはいったいなんだったのか。どうしょうもなく、ひとりよがりな現実を目の当たりにしていた。
陽は落ち、あたりはすっかり暗くなっている。
仕事なら帰ってきてもいい時間。それなのにアジトにも家にもいない。
レオンはお酒も飲まないし煙もやらない。……そういう男。
「なら……。夜だって言うのにどこほっつき歩いてるのよ‼︎」
……わかってる。
わたしにはこんなこと言う資格はない。
レオンにはレオンの人生がある。今後どうするのか、それはレオンが決めること。
あれから一ヶ月が経つんだ。
今後の身の振り方を決めるには十分過ぎる時間。
「嫌だよ……レオン。そんなのやだ……」
よくないことで頭の中がいっぱいになる。
レオンはひとりじゃ戦えない。
良き理解者のリリィちゃんもレイラさんも居ない。
〝じゃあ、レオンは今……どうしてるの?〟
考えると俯き加減になった。
橋の手すりに頬枝をつき、流れる川をただ眺める。
後悔しても、もう遅い。
レオンは新しい女・・・・とよろしくやってるんだ。
考えてみれば当たり前のことだった。
啖呵を切ってパーティーを脱退したのはわたしだ。
そのわたしがこうやってレオンに会いに来るなんて都合が良過ぎる。
あの日、わたしとレオンの関係は終わったんだ。
そのことに、今更ながら気付いた。
どうして、気付かなかったんだろう。
どうして、考えなかったんだろう。
「…………どうして」
本当にバカだ。わたしは。
手すりにもたれ掛かり、必死に涙を堪えていると、橋の下に人影が見えた。
ここからだと暗くてよく見えない。
けど、そのシルエットはとても懐かしくわたしの心を一瞬で温めるに足るものだった。
急いで橋の下へと駆け下りると、居た。……レオン見つけちゃった!
でもそれは、先ほどまで悩んでいたのはいったいなんだったのかと、拍子抜けするほどの再会だった。
ジョッキを大切そうに抱えて茂みの上で仰向けに寝ているんだ。
仕事帰りで疲れて眠っているのかと言われればそう見えなくもない、けど……これは違う。
レオンのことはずっとみてきたから、そういう雰囲気じゃないことくらいわかる。
少し痩せたかな……?
髪の毛もボサボサだし、服もしわくしゃ。おまけに髭も処理されてない。
ほのかに漂ったのはお日様の香りではなくお酒の匂い。
その姿はとても、だらしなかった。
まさかにも他の女とよろしくやってるようには見えない。
元々めんどくさがりなところはあったけど、そっか。こんなことになっちゃってたんだ。
レオンがどういう状況にあるのかを察するには十分だった。
「そうだよね。こうなるよね……」
こんなことならまだ、他の女とよろしくやっててくれてたほうが良かった。そっちのほうがレオンは幸せだもん。
それでも、他の女とよろしくやってなくて良かったと思う自分がいる。
結局わたしは、どこまでも自分勝手な人間だ──。
「ごめん。ごめんねレオン……」
「ふぁ~あ。むにゃむにゃ。酒くれぇ……。飲ませろぉ~。金なら、あるぞぉ」
「っっ?!」
び、びっくりした。ただの寝言ね。
うん。大丈夫。
レオンは魔術の適性ないから魔法干渉には疎い。
自分の首元に手をやる。
認識阻害の首飾り。
これがある限りは大丈夫。
街を歩いてみてわかったけど、風景の一部に溶け込んでしまうかのような強力な効果。
ウィングさんの言う通りわたしの光魔法とは相性がいい。
レオンのスキルとも相性いいかも。
もしわたしがレオンのことを認識できなくなったとしたら、スカートの中を見られても……。
って、そうじゃないよ。そういう問題じゃない! レオンのことを認識できなくなっちゃうなんて、絶対にいや。
って、そういう問題でもなーい!
あーもぉ。スカートの中は窮地の時だけ。
仕方のない時だけしか見せないんだから。
それに結局のところ、このアイテムは微量ながらに魔力を必要とする。だからレオンには使えない。
なにより!
下民出のわたしたちには過ぎた物。これはあとでウィングさんに返そう。必ず!
「う、うん。ってことで。いいよね」
何もいいことなんてないけど、もう……我慢できない。だって、久しぶりのレオンだもん。我慢なんてできないよ…………。
安眠魔法を掛けて膝枕。
聖女の加護を右手に宿して頭を撫でる。
起きてるときにやる勇気はないけど、レオンが疲れて寝てるときにはこうしてコッソリよくやってた。
「わたしはやっぱり、この場所が一番落ち着く。…………好き。大好きぃ」
過去にも何度こうして耳元で囁いたのかはわからない。安眠魔法を掛けている以上、レオンの耳に届くことは絶対にないから、こそ!
唯一、素直になれる時間。
「すきぃ。レオンのこと大好きぃ」
絶対に起きないことがわかってるから言えること。
「ねえレオン。気づいてよ……大好きだよ。返事してよ」
返事なんてあるわけない。
でも、こうしている時間が何よりも幸せだった。
「…………すきぃ」
◇ ◇
そんな幸せな時間は長くは続かない。
やがてレオンは起き上がると大急ぎで走りだした。
「はっ! エール飲まないと」って真に迫る表情をして──。
見失いそうになりながらも追いかけ辿りついた先は、酒場だった。
わかっていたんだ。
だらしない格好でジョッキを大切そうに抱えて眠っていたのだから。寝言で「酒くれえ」って言ってたもんね。
今のレオンはただの飲んだくれなんだ。
大好きな男のそんな姿をみて、心が揺らいだ。
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