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「お兄ちゃーん」

 その声にハッとし目が覚める。
 時計の針は七時を回っていた。
 夢だと思いたい気持ちが、俺を夢の中へと旅立たせてしまったらしい。

 つまりはやらかした。二度寝だ……。

 本来なら焦って起き出す場面。
 だが、それ以上に違和感があった。……今、カリンの声がしたような?

「…………」

 部屋を見渡すもカリンの姿はなし。

 当然だった。学校に行かないカリンがこんな朝早くに起きて来るわけがないんだ。

「……はぁ」

 ほんの少し、何かを期待してしまった。
 雫ちゃんとの通話が堪えているのかもしれない。モーニングコール、か。

 カリンと顔を合わせることのない朝には慣れてきたはずなのに、やっぱりちょっと寂しい。

 こうやって寝坊した日はカリンが起こしに来たりしたもんだ。俺の上に跨ってジャンプしたり、それはもう騒がしい寝覚めで……。

 本当、静かになったよなぁ。

 ……いかんいかん。しんみりしてる時間はない。
 カリンのご飯だけは作り置きしないと。朝と昼の二食分。
 たとえ学校に遅刻することになったとしても、これだけは譲れない。最優先事項だ!

「よしっ」と頬を二度パンッパンッ。
 気合を入れ勢いよくベッドから立ち上がると、俺の部屋のドアが開いた──。

「あ、起きたんだね。おはよ」

「…………え?」

 カリンが俺の部屋に入ってき……た‼︎

「か、カリン‼︎」
「うん」

「カリン‼︎」
「あ、うん。わたしだけど。なに?」
 
 思わず二度呼んでしまった。
 寝坊した俺を心配して起こしに来た。違う! 問題はそこじゃない!

 学校に行かないはずのカリンが起きているわけがないんだ。俺が寝坊したことに気付いたことにこそ答えがある。

 これってもう、つまりはそういうことだろう!

 かぁぁぁーッ!
 こんな日に限って寝坊かますとか俺、どんだけ間が悪いんだよ‼︎
 
「学校だな! よぉし待ってろ、すぐ朝飯作るからな! 大丈夫。まだ間に合う! カリンの久々の登校だ! 兄ちゃんな、腕によりをかけてチョッ早でオムライス作るからな‼︎」

「いやいや。何言ってるの? 学校に行くのはお兄ちゃんでしょ。寝惚けるのも大概にしてくれないかな?」

 そう言うとカリンは俺の部屋のカーテンをバサっと開けた。

 ……う、わぁ。……ま、眩しい。

 差し込む朝日とともに厳しい現実をお知らせする。……学校に行くのは俺だけ、と。

 そんな、落ち込む様子に気付いたのかカリンは儚げに困り顔をして見せた。……その瞬間、やってしまったと思った。

 学校に行くと勘違いして喜んで、違うとわかったら残念がる。

 まったく。なにしてんだよ俺は……。

 変にプレッシャーを感じて、無理して学校に行くとか言い出したらどうする。

 雫ちゃんと陽菜ちゃんに会ったことで、学校に行ってもらいたいという気持ちが強くなっているのかもしれない。

 ──そんな独りよがりはあってはならない。大切な妹。家族だからこそ絶対にしてはいけないんだ。

 大切なのは、カリンの気持ちなのだから。

「騒がしくしてごめんな。カリンの言う通り少し寝惚けてるのかもしれん。……学校なんて行かなくていいからな。無理して行く必要なんてこれっぽっちもないんだからな!」

「うん。わかってるから大丈夫だよ。行くつもりないから安心して」

「お、おう。それは良かった。安心だ」

 とりあえず今はこれでいい。
 学校に行けと言うだけなら誰にでもできるのだから。

 でもだとすると、どうしてカリンはこんなにも早起きして俺の部屋に来たのだろう。

 普段なら寝ているはずなのに。
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