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 カリンは「ちょっと待ってて」と言い残し、リビングへと走った。

 玄関に戻ってくると手にはチョコ菓子の箱がひとつ。

 それはカリンのために買い置いてるお菓子だった。頑なに今までひとつも食べなかったお菓子を何故いま……?

「あ、これね。菓子折りのひとつでも持って行かないと誠意とは言えないから。口でならなんとでも言えるし。いいよね?」

 いったいどこでそんなことを覚えて来るのか。

 間違ってはないけど……。違うだろと思った。

 これはカリンがずっとずっと食べるのを我慢してきた大切なお菓子だ。新しいのを買えば済むとか、そんな単純な話じゃない。

 “ごめんなさい”をしろとは言ったけど、少し重く捉えてしまったのかな……。
 
「なぁカリン。もう少し気楽な感じでいいんだぞ? 言ってもお隣さんだ。音霧さんとはお友達みたいなものだろ?」

「それとこれとは別。わたしはご近所の掟を破った。だからその償いはしなくちゃならない。じゃないと“聖剣”に立てた誓いに背くことにもなる。たとえ、相手がサキュバスだとしてもね」

 あぁ……そうか。カリンは勇者だから。勇者道に背く行いってことなのかな。

 これも厨二病設定の一環なのだろう。
 本当に、色々と変わってしまった。……でも、真っ直ぐな目をしている。澄んだ瞳の先に確かな意思を感じる。

 良い意味で成長をしているんだ。大人の階段を登っているんだ。

 なら!

 兄として、応援しないでどうする!
 妹の成長を喜ばずしてなんとする!

「そうだな。カリンの気持ちはよくわかった。じゃあ行こうか。大丈夫だぞ、万が一サキュバスが襲って来たらお兄ちゃんがカリンの盾になるからな!」

「……バカ。サキュバスを甘く見過ぎ。籠絡されちゃうよ。……それに、お兄ちゃんを守るくらいの力は今のわたしにだってあるから」

「それは頼もしいな。俺たち二人なら魔王だって倒せるさ!」

「またお兄ちゃんは適当なこと言ってる。魔王さんとは仲間だよ。すごい良くしてもらったんだから」

「あ。そうなの。ごめん」

 少し調子に乗り過ぎてしまった。

 色々とおかしいカリンの空想上の異世界。
 魔王さんとは仲良し。あとでメモしとこ。

 それにしても魔王を“さん”付けって。大丈夫なのか、カリンの異世界は……。
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